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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第4章 王立ルミナス学院 3年目

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32/64

1. 王立ルミナス学院生徒会

前回のあらすじ

・なんかすごい持ち上げられてる

・事実がねじ曲がっている

クラリスにとって、3年目の春。


「去年は……本当に大変だったな」

クラリスは、窓辺に立ち、春の風に揺れるチューリップを見つめながら、静かに呟いた。


演習での負傷、制度の象徴としての重圧、すべてが、彼女を試す一年だった。

制服の襟を整え、銀髪を丁寧に編み込み、胸元の懐中時計をそっと指先でなぞる。


春の風が王立ルミナス学院の石畳を優しく撫でていた。

新学期の始まりを告げる鐘が鳴り響き、校舎の窓には柔らかな陽光が差し込んでいる。


クラリスは、特別選抜クラスの教室に足を踏み入れた。

教室にはすでに数人が集まっていた。


ゼノは窓際で静かに本を読み、カイとルークは談笑している。

ミレーユは鏡で髪を整えながら、クラリスに気づいて微笑んだ。


「春ね。新しいって感じで、ちょっと好きだわ」

ミレーユが言うと、クラリスは軽く微笑み返した。


そのとき、教室の扉が開き、学院の使者が姿を現した。


黒衣に銀の紋章をつけた生徒が、静かに一礼する。

「特別選抜クラスの諸君。生徒会室へ。全員、今すぐお越しください」


教室が一瞬静まり返る。


「生徒会室?俺たちが?」

ルークが眉をひそめる。


「何かしら。この時期だと、学院祭関連かしら」

ミレーユが肩をすくめる。


「呼ばれたなら、向かうまでだ」

レオニス・グランフェルドが静かに立ち上がる。


クラリスも立ち上がる。

(生徒会からの呼び出し……ただの呼び出しではないかも)


それぞれ立ち上がり、学院の最上階へと向かっていった。


*


生徒会室。


白と金を基調とした重厚な扉が、静かに開かれる。


クラリスたち6人が足を踏み入れると、そこには現生徒会の5人が整然と並んでいた。

彼らの制服には、学院の紋章と生徒会章が刺繍され、空気は一瞬で引き締まる。


中央に立つのは、生徒会長――アリステア・フォルド。

17歳、運命力92。王国南部の名門貴族出身で、冷静沈着な眼差しを持つ青年だった。


「ようこそ、特別選抜クラスのみんな。忙しいところ、来てくれてありがとう」

アリステアの声は落ち着いていたが、どこか試すような響きがあった。


その隣に立つ副会長、リュシア・フェンローズが一歩前に出る。

「直接顔を合わせるのは初めてですね。お会いできて光栄です」


「お世辞は結構だ」

ルークが腕を組んで言う。

「で、俺たちを呼び出した理由は?まさか、くだらない話じゃないだろうな」


「ルーク、少しは黙って」

ミレーユがため息をつきながら、彼の腕を軽く小突く。


「いえ、問題ないですよ」

リュシアは微笑んだまま続けた。

「実は、今年は3年に一度の学院祭の年。王族、貴族、学院OB、そして多くの人々が学院を訪れます。生徒会を中心にその準備を行っていますが、いささか人手不足でして、あなた方の力をお借りしたいのです」


「学院祭……」

クラリスは小さく呟いた。

(制度の象徴として、より多くの人の前に立つことになるのね)


「それだけではない」

外部交流担当のセドリック・ハインツが口を開く。

「来年度以降、生徒会は学院の要請により、君たち6人に引き継がれる予定です。

これは、王国と学院の意向でもあります」


「つまり、俺たちが次の生徒会ってことか」

カイが静かに言った。

「それは……面白いですね。王国の縮図を、ここで再現するわけだ」


「学院の運営に関わるってこと?」

クラリスが問いかけると、会計のグレンが頷いた。


「予算管理、行事の企画、外部との連携、卒業後の進路支援……生徒会の仕事は多岐に渡ります。ただ、従来の生徒会とは、少し違う形になるでしょう」


「ふーん、面倒くさそうだな」

ルークがぼやく。

「俺は机に座っているのは性に合わないんだけど」


「でも、制度を支えるって、そういうことじゃない?」

ミレーユが涼しい顔で言う。

「数字が高いだけじゃ、務まらないのよ。そうでしょ、クラリスさん?」


クラリスは少しだけ微笑んだ。

「ええ。その通りです」


ゼノは黙っていたが、クラリスの言葉にわずかに頷いた。


「学院祭では、君たち一人ひとりに役割を割り振る予定です」

広報のエリナが資料を手渡しながら言った。


「どう振る舞うか。王族、貴族、そしてこの国のみんながこの学院に注目している」

アリステアが最後に言った。

「これは、君たちの“お披露目”でもあるそうです。期待していますよ」


「……必ず、果たしてみせます」

クラリスの声は、静かに、しかし確かに響いた。


*


生徒会室を後にしたクラリスたち6人は、学院の回廊を静かに歩いていた。


誰も口を開かないまま、しばらくの沈黙が続いた。


最初に言葉を発したのは、ルークだった。

「……生徒会、か。俺には向いてねぇな。机に座って書類とにらめっこなんて、性に合わねぇ」

彼は腕を組み、少し苛立ったように歩を速める。


「でも、王族や貴族の前で剣を振るう見せ場もあるんじゃない?」

ミレーユが涼しい顔で言う。

「演武とか、模擬戦とか。あなたには、ちょうどいい舞台じゃない?」


「……それなら、少しはマシかもしれないな」

ルークはぼそりと答えた。


カイは、資料を見ながら静かに言葉を継ぐ。

「学院祭はあくまで通過点だ。重要なのは、その先――来年以降、僕たちが学院を運営にもかかわることになる。生徒会として制度を支え、学院を導く。それは、将来王国を支えるための試金石になる」


彼は視線を上げ、クラリスに向けて言葉を続けた。

「だからこそ、ここで試しておきたい。制度が、本当に最適なのかどうかを」


「制度を見直すってこと?」

クラリスが問いかける。


「いや。制度はおそらく問題ない。でも、それをよりうまく活用できなければ、いずれ歪みが生まれる。それを避けるために色々改良するということだ」


カイの言葉に、クラリスは少し驚いたように目を見開いた。

ゼノは、窓の外を見つめたまま、静かに言った。

「……誰かがやらなきゃならないなら、俺は黙ってやるだけだ」


その言葉に、クラリスはわずかに微笑んだ。

ゼノの不器用な誠実さが、彼女には少しだけ心強く感じられた。


「私は……それが、私に課された責務なら――私は、逃げない」


レオニスは、クラリスの言葉を聞きながら、静かに頷いた。

「君にその覚悟があるのなら、問題ない。制度の未来は、僕たちの手にかかっている」


クラリスは、彼の瞳を見つめながら答えた。

「ええ、殿下。私は、数字だけではなく、行動でもふさわしい者になります」


春の風が、学院の回廊を吹き抜ける。

読んでくださりありがとうございます。


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