1. 王立ルミナス学院生徒会
前回のあらすじ
・なんかすごい持ち上げられてる
・事実がねじ曲がっている
クラリスにとって、3年目の春。
「去年は……本当に大変だったな」
クラリスは、窓辺に立ち、春の風に揺れるチューリップを見つめながら、静かに呟いた。
演習での負傷、制度の象徴としての重圧、すべてが、彼女を試す一年だった。
制服の襟を整え、銀髪を丁寧に編み込み、胸元の懐中時計をそっと指先でなぞる。
春の風が王立ルミナス学院の石畳を優しく撫でていた。
新学期の始まりを告げる鐘が鳴り響き、校舎の窓には柔らかな陽光が差し込んでいる。
クラリスは、特別選抜クラスの教室に足を踏み入れた。
教室にはすでに数人が集まっていた。
ゼノは窓際で静かに本を読み、カイとルークは談笑している。
ミレーユは鏡で髪を整えながら、クラリスに気づいて微笑んだ。
「春ね。新しいって感じで、ちょっと好きだわ」
ミレーユが言うと、クラリスは軽く微笑み返した。
そのとき、教室の扉が開き、学院の使者が姿を現した。
黒衣に銀の紋章をつけた生徒が、静かに一礼する。
「特別選抜クラスの諸君。生徒会室へ。全員、今すぐお越しください」
教室が一瞬静まり返る。
「生徒会室?俺たちが?」
ルークが眉をひそめる。
「何かしら。この時期だと、学院祭関連かしら」
ミレーユが肩をすくめる。
「呼ばれたなら、向かうまでだ」
レオニス・グランフェルドが静かに立ち上がる。
クラリスも立ち上がる。
(生徒会からの呼び出し……ただの呼び出しではないかも)
それぞれ立ち上がり、学院の最上階へと向かっていった。
*
生徒会室。
白と金を基調とした重厚な扉が、静かに開かれる。
クラリスたち6人が足を踏み入れると、そこには現生徒会の5人が整然と並んでいた。
彼らの制服には、学院の紋章と生徒会章が刺繍され、空気は一瞬で引き締まる。
中央に立つのは、生徒会長――アリステア・フォルド。
17歳、運命力92。王国南部の名門貴族出身で、冷静沈着な眼差しを持つ青年だった。
「ようこそ、特別選抜クラスのみんな。忙しいところ、来てくれてありがとう」
アリステアの声は落ち着いていたが、どこか試すような響きがあった。
その隣に立つ副会長、リュシア・フェンローズが一歩前に出る。
「直接顔を合わせるのは初めてですね。お会いできて光栄です」
「お世辞は結構だ」
ルークが腕を組んで言う。
「で、俺たちを呼び出した理由は?まさか、くだらない話じゃないだろうな」
「ルーク、少しは黙って」
ミレーユがため息をつきながら、彼の腕を軽く小突く。
「いえ、問題ないですよ」
リュシアは微笑んだまま続けた。
「実は、今年は3年に一度の学院祭の年。王族、貴族、学院OB、そして多くの人々が学院を訪れます。生徒会を中心にその準備を行っていますが、いささか人手不足でして、あなた方の力をお借りしたいのです」
「学院祭……」
クラリスは小さく呟いた。
(制度の象徴として、より多くの人の前に立つことになるのね)
「それだけではない」
外部交流担当のセドリック・ハインツが口を開く。
「来年度以降、生徒会は学院の要請により、君たち6人に引き継がれる予定です。
これは、王国と学院の意向でもあります」
「つまり、俺たちが次の生徒会ってことか」
カイが静かに言った。
「それは……面白いですね。王国の縮図を、ここで再現するわけだ」
「学院の運営に関わるってこと?」
クラリスが問いかけると、会計のグレンが頷いた。
「予算管理、行事の企画、外部との連携、卒業後の進路支援……生徒会の仕事は多岐に渡ります。ただ、従来の生徒会とは、少し違う形になるでしょう」
「ふーん、面倒くさそうだな」
ルークがぼやく。
「俺は机に座っているのは性に合わないんだけど」
「でも、制度を支えるって、そういうことじゃない?」
ミレーユが涼しい顔で言う。
「数字が高いだけじゃ、務まらないのよ。そうでしょ、クラリスさん?」
クラリスは少しだけ微笑んだ。
「ええ。その通りです」
ゼノは黙っていたが、クラリスの言葉にわずかに頷いた。
「学院祭では、君たち一人ひとりに役割を割り振る予定です」
広報のエリナが資料を手渡しながら言った。
「どう振る舞うか。王族、貴族、そしてこの国のみんながこの学院に注目している」
アリステアが最後に言った。
「これは、君たちの“お披露目”でもあるそうです。期待していますよ」
「……必ず、果たしてみせます」
クラリスの声は、静かに、しかし確かに響いた。
*
生徒会室を後にしたクラリスたち6人は、学院の回廊を静かに歩いていた。
誰も口を開かないまま、しばらくの沈黙が続いた。
最初に言葉を発したのは、ルークだった。
「……生徒会、か。俺には向いてねぇな。机に座って書類とにらめっこなんて、性に合わねぇ」
彼は腕を組み、少し苛立ったように歩を速める。
「でも、王族や貴族の前で剣を振るう見せ場もあるんじゃない?」
ミレーユが涼しい顔で言う。
「演武とか、模擬戦とか。あなたには、ちょうどいい舞台じゃない?」
「……それなら、少しはマシかもしれないな」
ルークはぼそりと答えた。
カイは、資料を見ながら静かに言葉を継ぐ。
「学院祭はあくまで通過点だ。重要なのは、その先――来年以降、僕たちが学院を運営にもかかわることになる。生徒会として制度を支え、学院を導く。それは、将来王国を支えるための試金石になる」
彼は視線を上げ、クラリスに向けて言葉を続けた。
「だからこそ、ここで試しておきたい。制度が、本当に最適なのかどうかを」
「制度を見直すってこと?」
クラリスが問いかける。
「いや。制度はおそらく問題ない。でも、それをよりうまく活用できなければ、いずれ歪みが生まれる。それを避けるために色々改良するということだ」
カイの言葉に、クラリスは少し驚いたように目を見開いた。
ゼノは、窓の外を見つめたまま、静かに言った。
「……誰かがやらなきゃならないなら、俺は黙ってやるだけだ」
その言葉に、クラリスはわずかに微笑んだ。
ゼノの不器用な誠実さが、彼女には少しだけ心強く感じられた。
「私は……それが、私に課された責務なら――私は、逃げない」
レオニスは、クラリスの言葉を聞きながら、静かに頷いた。
「君にその覚悟があるのなら、問題ない。制度の未来は、僕たちの手にかかっている」
クラリスは、彼の瞳を見つめながら答えた。
「ええ、殿下。私は、数字だけではなく、行動でもふさわしい者になります」
春の風が、学院の回廊を吹き抜ける。
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