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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第3章 王立ルミナス学院 2年目

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10. 運命の剣

前回のあらすじ

・無事合流

・無事帰還

次の日。


クラリスは、ノクターンの背に揺られながら、学院の中庭を静かに見渡していた。


制服の袖には包帯が隠されており、マントの下にはまだ痛みの残る傷がある。


学院に着くまでは、何も感じなかった痛みも、到着し、妹の顔を見たときに緊張が解けたからなのか、急に痛みが増し、保健室に担ぎ込まれていたのだった。


だが、彼女の姿勢は崩れず、表情には一切の弱さを見せていなかった。


その姿に、周囲の生徒たちがざわめき始めた。


「クラリス様が危険な獣を討伐したって、本当なの?」

「制度の象徴って、お飾りじゃなかったんだな……」

「王子より頼れるって、みんな言ってるよ」


クラリスは、無言のまま馬から降りた。


ノクターンは彼女の隣に並び、誇らしげに鼻を鳴らす。


そのとき、学院の掲示板に新たな紙が貼り出された。


《速報:クラリス・ヴェルディア嬢、演習にて獣討伐し仲間を救う活躍。王国に希望の光》

《“運命の剣”、今後の活躍に期待》


クラリスはその見出しを見つめながら、眉をわずかに動かした。


(……私が倒したわけじゃないのに)


その瞬間、ロジーナ・エルスが駆け寄ってきた。

「クラリス様!見ましたか?新聞にも載ってましたよ!王都中がクラリス様の話題で持ちきりです!」


クラリスは微笑みながら、ロジーナの言葉に頷いた。

「そう……でも、少し騒ぎすぎだわ。大したことしてないのに…」

ロジーナは首を傾げる。

「でも、クラリス様は本当にみんなを守ったじゃないですか。あの場にいた私たちは、ちゃんと知ってます」


クラリスは、ロジーナの瞳を見つめながら、静かに言った。

「ありがとう。でも、実は……少し違うの」


その言葉に、ロジーナは目を見開いた。

「え……?」


「私は、制度の象徴として見られている。そうあるべきだと、望まれている。でも、私はただの人間よ。誰かが私を守ってくれた。だからこそ、私は生きて今ここにいるの」


ロジーナは、何かを言いかけて、そっと口を閉じた。

クラリスの言葉の重みが、彼女の胸に静かに落ちていった。


そのとき、学院の鐘が鳴り響いた。

演習の評価発表が、まもなく始まるらしい。


クラリスは、静かに言った。

「行きましょう。評価がどうであれ、私が選ぶべき道は、もう決まっているから」

そして、クラリスは学院の講堂へと歩き出した。


*


夜の王立ルミナス学院は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。


クラリスは、剣術場の裏手にある控え室の扉の前に立っていた。


その手には、包帯が巻かれている。

だが、彼女の瞳は揺れていなかった。


「……先生、いらっしゃいますか?」

控えめなノックの音に、扉の向こうから静かな声が返ってきた。


「入りなさい」

レイナの声だった。


クラリスが扉を開けると、レイナは剣を磨いていた。

銀の刃が月光を受けて、静かに輝いている。


「どうしたの?こんな時間に」

レイナは手を止めずに尋ねる。


クラリスは、ゆっくりと歩み寄り、剣の前に立った。

「先生……私、お聞きしたいことがあります」


レイナは剣を置き、クラリスの目を見つめた。


「……あの獣を倒したのは、私じゃありません。誰かが、私を助けてくれた。それに……その人の剣は、先生の剣と…その…似ていました」


レイナは、しばらく沈黙した。


そして、静かに頷いた。

「ええ。彼は、私の兄弟子。かつて王国騎士団の特務部隊に所属していた人よ。」


クラリスは、拳を握りしめた。

「どうして、私が倒したことになっているんですか…。皆が、私を英雄だと言う。

でも、それは……正しくない」


レイナは、クラリスの言葉を静かに受け止めながら言った。

「あなたが立ち向かったから、彼の助けが間に合ったのよ。全員逃げていたら、彼は現れなかった…、いえ、全員やられていたわ。あなたが“選ばれた者”として、恐れずに前に出たからこそ、彼が助けることができたのよ」


「私は、このまま制度の象徴として振る舞っていていいのでしょうか。それとも、本当のことを語るべきなのでしょうか」


レイナは、クラリスの肩に手を置いた。

その手は、温かく、そして重かった。

「今は十分に悩みなさい。クラリス。制度の中で生きるか、自分の信じる道を歩むか。

どちらも、正しい。でも、どちらも、代償を伴う」


クラリスは、目を閉じた。そして、静かに。

「私は……」


レイナは微笑んだ。

「それが、あなたに必要な覚悟よ。でも忘れないで。制度の中にいてもあなたはあなたよ、クラリス」


*


王宮では、王妃エレオノーラが静かにグラスを傾けていた。

その隣には、第一王子レオニス、そして宰相ヴィクトル・ハインツが控えている。


窓の外には、王都の灯りが広がっていた。

その光の下で、クラリス・ヴェルディアの名が、英雄として語られている。


「ふふ……随分と持ち上げられているわね、あの子」

エレオノーラは冷笑を浮かべながら呟いた。


「制度の象徴としては、申し分ない活躍です」

ヴィクトルが淡々と答える。

「ですが、あまりに注目を集めすぎるのは、王家の立場としては……いささか問題かと」


レオニスは無言だった。

ただ、その瞳には、冷静な光と、わずかな焦燥が混ざっていた。


「彼女は、制度の“顔”としては優秀だ。だが……」

レオニスは小さく呟く。


「制度の中心に立つのは、僕でなければならない」


エレオノーラは、グラスを机に置きながら言った。

「クラリスは、確かに数字も行動も申し分ない。でもやっぱり、あの子は“従順”にはならない。扱いづらいわ」


ヴィクトルは頷く。

「確かに。彼女は自我が強く、王族の意向に沿わない可能性があります。

制度の安定を考えるなら、より制御しやすい者が望ましいかと」


エレオノーラは、窓の外を見つめながら、静かに言った。

「セレナ・ヴェルディア。妹の方が、ずっと素直で、扱いやすい。数字も十分に高い。もしクラリスがこのままなら――そうね、代わってもらいましょうか、妹のほうに」


その言葉に、ヴィクトルは一切の感情を見せずに答えた。

「かしこまりました。そのように、準備を進めておきます」


レオニスは何も言わなかった。

ただ、クラリスの名が王都で語られるたびに、自分の立場が揺らいでいくのを感じていた。


そして、王宮の静かな選別は、誰にも知られぬまま、静かに進んでいた。


読んでくださりありがとうございます。


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また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

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