表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第3章 王立ルミナス学院 2年目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/68

8. 想定外の演習2日目

前回のあらすじ

・拠点探し

・役割分担

・拠点完成

朝霧がフォルセの森を包み込んでいた。

木々の間を抜ける冷たい風が、落ち葉をさらいながら静かに流れていく。


クラリスは、焚き火の残り火を見つめている。

「今日が本番ね……」


第6班の面々は、まだ眠気の残る顔でテントから出てきた。

ロジーナは軽く伸びをしながら、クラリスに微笑みかける。

「おはようございます、クラリス様。今日も頑張りましょうね」


「ええ。今日は模擬戦。油断は禁物よ」


その時、森の入口のほうから学院の伝令が現れた。

制服の袖に王立ルミナス学院の紋章が光っている。


「第6班、演習内容の通達です。内容は“遭遇戦対応”。北側区域にて敵班との接触を想定し、戦術的撤退と再編成を行うこと。開始は一時間後。準備を整え、指定地点へ向かってください」

伝令はそれだけ告げると、すぐに馬を返して去っていった。


クラリスは地図を広げ、班員たちに指示を出す。

「北側は丘があるわ。視界が悪くなる前に、偵察と配置を済ませましょう。ナディア、先行偵察。トーマスは前衛。ロジーナは連絡係。エミールは戦術支援をお願い」


「了解だ」トーマスが短く答え、剣を背負って歩き出す。


「偵察、任せてください!」ナディアは元気よく手を振り、森の奥へと駆けていった。


「地形図は頭に入っています。戦術的な配置は私が調整します」エミールは冷静に地図を確認しながら言う。


「連絡係、がんばります!」ロジーナは少し緊張しながらも、クラリスの隣に立った。


クラリスは、ノクターンのたてがみに手を添えながら、静かに呟いた。

「さあ、行きましょう。今日こそ、私が頑張らないといけない日よ」


森の奥へと進む第6班。

木々のざわめきが、まるで何かを警告するように風に乗って揺れていた。


*


森の北側――演習指定区域の奥深く。


第6班は、丘の斜面に沿って慎重に進んでいた。


「視界が悪くなってきましたね」

ロジーナが不安げに呟く。


「丘の上に敵班がいる可能性がある。警戒を怠るな」

エミールが地図を確認しながら、冷静に指示を出す。


クラリスはノクターンの背に乗り、周囲を見渡していた。

風が止み、鳥の声も消えている。森の空気が、どこかおかしい。


――その時だった。


「……止まって」

クラリスが低く言った瞬間、森の奥から地を揺るがすような咆哮が響いた。


「な、何!?」

ナディアが叫ぶ。

木々がざわめき、黒く巨大な影が姿を現す。


それは――


巨大な黒いイノシシだった。

体長は人間の背丈を超え、片目を失い、背には古びた矢が突き刺さっている。

明らかに人間に傷つけられ、怒りと恐怖に満ちた目で突進してくる。


「獰猛化個体!? なんでこんな場所に……!」

トーマスが剣を抜くが、間に合わない。


「全員、撤退!南へ!緊急時の避難場所へ!」

クラリスは即座に叫んだ。


「クラリス様は!?」

ロジーナが振り返る。


「私は囮になる!ノクターン、行くわよ!」

クラリスはノクターンに手綱を引き、目の前の脅威に立ちはだかった。

「みんな、行って!早く安全なところに!」


*


班員たちは混乱の中、森を南へと逃げる。


「くそっ……」

トーマスが歯を食いしばる。


「クラリス様が……」

ロジーナが震える声で呟く。


*


一方、クラリスはノクターンと共に獰猛化したイノシシを引きつけながら、剣を構えていた。


「みんなのほうには行かせない……!」

イノシシが突進してくる。


クラリスは剣を振るうが、相手は重く、速い。

一撃で吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。


ノクターンが咆哮を上げ、クラリスの前に立ちはだかる。

だが、イノシシは止まらない。牙をむき出しにして迫ってくる。


クラリスは、朦朧とした意識の中で剣を握り直す。

(まだ……)


その瞬間――


「下がれ」


静かな声が森に響いた。

木々の間から、一人の剣士が現れる。


フードを深く被り、顔は見えない。

だが、その剣の動きは、クラリスが見覚えのあるものだった。

――レイナと同じ剣。

いや、それよりも洗練され、鋭く、無駄がない。


剣士は一太刀でイノシシの動きを止め、次の瞬間にはその脚を斬り、動きを封じた。

イノシシは呻き声を上げ、地に伏す。


クラリスは、意識が朦朧とする中でその姿を見つめていた。

「あなたは……誰……?」


そして、クラリスの意識は途切れた。


森の静寂を切り裂いた騒動のあと、空気は再び沈黙に包まれていた。


倒れたイノシシの息遣いはすでに消え、ただ風が木々を揺らす音だけが残っていた。

クラリスは、意識を失ったまま地面に横たわっている。


その傍らで、剣士は静かに手当てをしていた。

傷口に薬草を当て、布で丁寧に巻いていく。


「……まだ若いのに、よくここまで踏ん張ったな」

剣士はそう呟きながら、クラリスの剣を一瞥する。


その柄の握り方、踏み込みの跡、そして剣筋の残り香――すべてが、彼の記憶にある“ある流派”の面影を宿していた。

「レイナの知り合いか?」


*


数分後、森の奥から複数の足音が近づいてきた。


先頭に立っていたのは、王国騎士団副団長――レイナ・ヴァルシュタイン。


「クラリス!」

レイナは駆け寄り、地面に倒れた少女の姿を見て目を見開いた。


「手当ては済んでいる。命に別状はない」

低く、静かな声がレイナの耳に届く。


レイナはその声に、ゆっくりと顔を上げた。

「……その声、まさか……」


フードを被った剣士が、ゆっくりと顔を少しだけ見せる。

その輪郭、瞳の鋭さ、そして背中の剣――


「なぜここに……」

レイナの声は震えていた。


「久しいな、レイナ。あの時以来か…」

「なぜこんな森の奥に……どうして……」


剣士は、クラリスの剣をもう一度見つめる。

「この森でこの国の重大な秘密を守っている」


レイナは息を呑んだ。

「それは……師匠に関係しているの?」


剣士は答えなかった。

ただ、クラリスの顔を見つめながら、静かに言った。

「この子の剣……君の剣とそっくりだった。それに…いや、何でもない」


そして、剣士はフードを深く被り直し、森の奥へと歩き出した。


「待って……!」

レイナが呼び止めようとしたが、剣士は振り返らず、木々の間に姿を消した。


*


クラリスは、焚き火のそばで目を覚ました。

頭に包帯が巻かれ、ノクターンが静かに彼女のそばに座っている。


「……私、どうして……」


「あなたは、みんなを守ったのよ」

レイナが静かに言った。


クラリスは、剣士の姿を思い出す。

「……誰かに助けてもらったような気がする。先生の剣と似てる人に」


レイナは少しだけ目を伏せてから答えた。

「私の兄弟子。かつて同じ部隊にいた人よ。だけど、ある任務を境に姿を消した。こんなところにいたなんて…」


「先生はあの人に剣を教えてもらったの?」


レイナは微笑んだ。

「ええ。私たちの剣は、彼と同じ流派。もっとも、私は少し自分に合うように変えているわ。でもあなたなら、彼と同じ剣にたどり着けると思う」


「先生がダメだったのに、どうして?」


「それは、あなたは彼と同じ剣の心得を持っているから」


こうして、演習2日目の夜は静かに更けていった。



読んでくださりありがとうございます。


もし続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります!


また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

そちらでも見ていただけると投稿の励みになります。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ