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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第3章 王立ルミナス学院 2年目

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7. 演習1日目

前回のあらすじ

・演習に出発

・馬で移動


王都を離れて数時間。


馬車と騎乗による移動の末、一行は、演習地――王都北部のフォルセの森へと到着した。


秋の風が木々を揺らし、紅葉が舞い落ちる。

森の入り口には、石造りの標柱が立ち、「王立ルミナス学院演習地」と刻まれている。


クラリスはノクターンの背から降り、地面に足をつけた。

「ここが……演習地か」


トーマス・ベルクが腕を組みながら周囲を見渡す。

「思ったより広いな。森の奥まで使うのか?」


「地図によれば、南側に小川、北側に丘があります」

エミール・グランツが資料を広げながら淡々と答える。

「拠点構築には、南側が適しているかと」


「うわぁ、空気が美味しい~!」

ナディア・ローレンは馬から飛び降りるようにして地面に転がり、落ち葉を手に取る。

「こういう場所、好きかも。キャンプって感じ!」


クラリスは班員の様子を見渡しながら、静かに言葉を発した。

「まずは、拠点を作りましょう。南側の小川付近に設営します。水の確保が一番大事よ」


「了解です、クラリス様」

ロジーナが頷き、荷物を整え始める。


トーマスは少しだけ眉をひそめながらも、無言で荷物を持ち上げた。


エミールは地図を見ながら先導し、ナディアは「テント張るの楽しみ~」と笑っている。


そして、第6班は、演習地の奥へと歩みを進めていった。


*


第6班は選んだ拠点候補地、森の南側に流れる小川のほとりにたどり着いた。

水源が近く、地面は比較的平坦。木々に囲まれ、風も穏やかで、野営には理想的な場所だった。


クラリスはノクターンの背から降り、地面に足をつけると、班員たちに向き直った。

「ここを拠点とします。まずは、テントの設営と焚き火の準備。次に、周囲の地形把握と資源の調査。役割を分担しましょう」


エミールがすぐに手を挙げる。

「私は周囲の探索をします。地図と測定器を持っていますので。効率的に進めましょう」


「じゃあ、私は木を集めてくるよ。焚き火係ってことで!」

ナディアは元気よく手を振り、森の奥へと走っていった。


「俺はテント設営だな。力仕事は任せとけ」

トーマスは腕をまくり、荷物を肩に担ぐ。


「クラリス様、私は調理と物資整理を担当しますね」

ロジーナは微笑みながら、食料袋を開き始めた。


クラリスは頷きながら、班員たちの動きを見守る。

(私が何も言わなくても、それぞれが自分の役割を見つけて自分から行動している。いい感じね……)


だが、数分後――


「おい、ナディア!その木、湿ってるぞ。これじゃあ火がつかねぇぞ」

トーマスが焚き火用の木材を見て、苛立ちながら声を上げる。


「えー?だって、いい形じゃん。いかにも焚火で使う木って感じだよ?」

ナディアは悪びれずに笑う。


「見た目じゃなくて、ちゃんと乾燥していて火が付くかだろ。こんなの常識だぞ」

トーマスがため息をつく。


クラリスは二人の間に歩み寄り、静かに言った。

「ナディア、次は木の皮が剥がれやすくて軽いものを選んでね。トーマスも、言ってくれて助かるわ。でも、言い方はもう少し優しくね」


トーマスは少しだけ目を細めたが、何も言わずに頷いた。


*


夕方には、テントが並び、焚き火が静かに燃え始めていた。


小川の水は澄んでいて、ロジーナが煮沸用の鍋を準備している。

クラリスは、ノクターンのたてがみを撫でながら、班員たちの様子を見渡した。


そのとき、エミールが地図を持って戻ってきた。

「周囲の探索をしてきました。北側に小高い丘、東に獣道があります。夜間の警戒は必要かと」


「ありがとう。夜の見張りは交代制にしましょう。最初は私が担当します」


ロジーナが驚いたように言う。

「クラリス様が……?でも、疲れていませんか?」


クラリスは微笑んだ。

「大丈夫よ。みんなは今日たくさん動いてくれたでしょう?だから今日は私がやるわ」


*


夜が近づき、焚き火の炎が揺れる中、クラリスは班員たちと並んで夕食を囲んでいた。

「今日は、お疲れさま。明日からは、本格的に演習が始まると思う。でも、私は皆さんと一緒ならできると信じています」


その言葉に、ロジーナは頷き、ナディアは「うん、楽しかった!」と笑い、トーマスは無言のまま、少しだけ焚き火を見つめた。


*


夜が深まり、森の静けさが拠点を包み込んでいた。

焚き火の炎は、ぱちぱちと音を立てながら赤く揺れ、クラリスの横顔を淡く照らしていた。


テントの中からは班員たちの寝息が微かに聞こえる。


クラリスは、見張りとして、焚き火のそばに座っていた。

制服の上にマントを羽織り、冷たい夜風をしのぎながら、静かに懐中時計の蓋を開く。


秒針の音が、夜の静寂に溶けていく。


「……私、うまくやれているかしら」

誰に向けた言葉でもない。


ただ、焚き火の音とノクターンの静かな息遣いだけが、彼女の言葉に耳を傾けていた。

「数字だけで選ばれた私が、みんなに本当に認めてもらうには、もっと頑張らないといけないわ」


ノクターンが、そっと鼻を鳴らす。


クラリスは微笑みながら、彼の首元に手を添えた。

「あなたは、いつも私のそばにいてくれる。言葉がなくても、ちゃんと伝わってくる。……人も、そうだったらいいのにね」


クラリスは、班員たちのテントを見渡す。


ロジーナは穏やかな寝息を立てている。

ナディアは寝袋から足を出して、無防備に眠っていた。

トーマスは腕を枕にして、焚き火の方を向いたまま寝ている。

エミールは資料を抱えたまま、静かに目を閉じていた。


「みんな、ちゃんと自分のできることをしっかりやっていた。私も負けていられない」

クラリスは、懐中時計の蓋を静かに閉じる。

その音が、夜の空気に小さく響いた。


「明日は、もっと大変かもしれない。でも……私は、指揮官だから。みんなを導かなくちゃ」


ノクターンが、そっとクラリスの肩に頭を寄せる。

その温もりに、クラリスは目を閉じた。


「ありがとう。あなたがいてくれて、よかった」

クラリスは再び目を開け、夜空を見上げると、星々が静かに瞬いていた。


その光は、遠くて冷たいけれど――確かに、そこにあった。


こうして、課外演習の一日目は、静かに幕を下ろした。




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