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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第3章 王立ルミナス学院 2年目

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5. 隣に立てる人に

前回のあらすじ

・剣の心得

・妹の勉強を見る姉

廊下の窓から見える空は、少し霞んでいたが、確かに光が差し込んでいた。

寮の窓から差し込む陽光が白いカーテンを揺らし、部屋を明るくしている。


セレナは制服の襟を直し、鏡の前で髪を編んでいた。

彼女は数回深呼吸をした後、机の上の手紙に目を向ける。


それはクラリスから届いたものであった。

“セレナへ 明日はあなたの最初の試験ね。緊張するかもしれないけれど、あなたはちゃんと準備してきたわ。大切なのは、誰かと比べることじゃなくて、自分の言葉で答えること。あなたは、あなたのままでいいのよ。――クラリスより”


セレナは手紙を畳み、胸元にしまう。姉からの言葉だった。


窓の外では、中庭のチューリップが風によって揺れている。


扉の外から同級生が集合時間を知らせる。

「セレナさん、もうすぐ集合時間ですよ。行きましょう?」

「うん、ありがとう。……行こう」


セレナは制服を整え、筆記用具を鞄に入れて立ち上がる。


廊下の窓から見える空は少し霞んでいるが、光が差し込んでいた。


*


今日の教室は初夏の日差しが差し込む静かな場所であり、室内には緊張した雰囲気が漂っている。


セレナは筆記用紙の前で鉛筆を持ち、王国紋章入りの試験用紙を確認する。

出題内容は「運命力制度の誕生とその意義について自身の考えを述べよ」である。


他の生徒たちは答案作成を進めており、紙とペンの音が響いている。


セレナは問題文を見て思案し、過去の講堂で回答する姉の姿や、試験で高い成績を収める姉について考える。


その後、ユリウスから過去に受け取った言葉を思い出し、呼吸を整えて答案を書き始める。


「私は、制度があることは重要だと考えます。しかし、数値だけで人の価値を判断する点には慎重さが必要です。姉は高い運命力を有していますが、努力や人柄も評価すべきです。私は数字以外にも心を重視する姿勢を持ちたいと考えています。」


答案を書き終えた後、セレナは静かに鉛筆を置き、試験官の指示で用紙を提出して席を離れた。


*


試験が終わったその午後、セレナは長椅子にぐったりと座り込んでいた。


窓の外には初夏の陽射しが差し込み、ふわりとカーテンが揺れる。

「終わった…」

セレナから思わず小さくため息が漏れた。


緊張から解放されて肩の力が抜ける一方で、不思議と心は静かだった。


(あんな答案で良かったのかななんて不安もあるけど、自分の気持ちはちゃんと書けた気がする。)

そんなことをセレナが考えていると、扉がそっと開いた。


「セレナさん、少しよろしいですか?」

入ってきたのは王国史担当のエレナ先生だ。


彼女は微笑みながら、セレナの答案用紙を手にしていた。

「制度の意義について、『誰かの隣に立てる人になりたい』と書いた生徒は今までいませんでした。とても印象的でしたよ」


思わぬ言葉に、セレナの頬がほんのり赤くなる。

「あ、ありがとうございます……」


エレナ先生は優しくうなずいて部屋を出て行った。

ほっとしたのも束の間、今度は華やかな足音が響き、ユリウスが現れる。


「先生から聞いたよ。『誰かの隣に立てる人になりたい』って――素敵じゃないか」


突然の誉め言葉に、セレナは驚きつつモジモジと返事をした。

「私、中心に立つのは向いていないと思うんです。でも、誰かを支えたいという気持ちは本当で……」


ユリウスは柔らかく微笑む。

「国は、貴族だけでは成り立たない。側で支える人がいてこそ、国は動くものだよ」


その言葉が胸にじんわり染みて、セレナの中の迷いがひとつ消えていく。


控室に流れ込む初夏の風が、セレナの銀色の髪をそっと揺らした。


*


午後の講堂は、特別選抜クラスの生徒たちだけが集められ、静かに張り詰めた空気に包まれていた。


窓から差し込む初夏の光が、石造りの床に淡く広がっている。

クラリスは、前列の席に座りながら、手元の資料に目を通していた。


その表紙には、金の文字でこう記されている。

《課外演習班編成・指揮官任命通知》


壇上には、副学院長マティルダ・クローネと、新任教師エリオ・シュタインが並んでいた。


エリオは、冷静な口調で話し始める。

「皆さま、課外演習における班編成を発表いたします。各班には、特別選抜クラスの皆さまが指揮官として任命されます。班の構成は、能力・相性・制度的意義を考慮して決定されました」


クラリスは、わずかに眉を動かした。

(制度的意義……?)

エリオが資料を開き、読み上げる。

エリオは続ける。

「第1班――指揮官:レオニス・グランフェルド

第2班――指揮官:ルーク・ファルマス

第3班――指揮官:ミレーユ・クローディア

第4班――指揮官:ゼノ・ヴァルハルト

第5班――指揮官:カイ・アストレア」


エリオは続ける。

「第6班――指揮官:クラリス・ヴェルディア

班員:ロジーナ・エルス、エミール・グランツ、ナディア・ローレン、トーマス・ベルク」


クラリスは、思わず目を見開いた。

(ロジーナが……?)


隣に座っていたミレーユが、ひそひそと囁く。

「へぇ、ロジーナさんが同じ班なのね。補佐役ってところかしら?」


クラリスは、資料に目を戻しながら、胸の奥に小さな安堵を感じていた。

(よかった……彼女がいてくれるなら、きっとやりやすい)


「なお、演習では各班が異なる課題を与えられます。防衛、探索、交渉、資源管理など、実践的な内容となります。指揮官は、班の統率と成果に責任を持って行動してください」


クラリスは、資料の中に記された自分の班の構成を見つめながら、静かに息を整えた。

(私が、指揮官……飾りじゃないってところを、行動で示さなきゃ)


そのとき、レオニスが隣から声をかけてきた。

「君の班、なかなか良い人選だ。ロジーナがいるのは、君にとって心強いだろう」


クラリスは頷いた。

「ええ。彼女は、とても信頼できる人です」


レオニスは、わずかに微笑んだ。

「君がどう導くか、楽しみにしているよ」


そして、班編成の発表は静かに終わった。


*


夕暮れの王立ルミナス学院。


初夏のそよ風が回廊をくぐり抜けて、色とりどりのチューリップを優しく揺らしていた。


「やっと試験も終わったし……」

セレナは、重たい心を少しだけ軽くするように寮の階段を上っていく。


姉のクラリスと雑談をするため、彼女の部屋の前でそっと扉をノックした。


ただ、静まり返った廊下に返事はない。

もう一度強めに叩いてみても、やっぱり応答はなかった。


「クラリス様なら、班編成の発表後、武術場へ行かれましたよ」

通りすがりの使用人が声をかけてくれる。


「そうなんですね。ありがとうございます。」

セレナは慌ててお礼を告げると、扉の前でほんの少しだけ立ち止まった後、中庭へ向かうことにした。


茜色に染まる空の下、中庭のベンチに腰掛けたセレナは雲の流れをじっと眺めていた。


「私も、いつか…」

静かなつぶやきと共に、彼女は階段を降りてその場を後にした。


読んでくださりありがとうございます。


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