2. 運命に愛された少女
前回のあらすじ
・『運命力』発表。
・街ざわざわ
・王族ひそひそ
・クラリスわかんない
・いざ、測定へ!
ヴェルディア邸の朝は、いつもより静かだった。
銀の燭台にはまだ火が灯されておらず、窓から差し込む光が食卓を淡く照らしていた。
クラリスは鏡の前に立ち、銀髪を丁寧に編み込んでいた。傍には、彼女がいつも大切にしている懐中時計が留められている。
時計の針が動く音が、微かに響いていた。
朝食をとるために食卓に向かうと家族が揃っていた。
父ヴァルターは、クラリスを見つめながら言った。
「今日は我が一族にとって、重要な日になる。」
その声には誇りと期待が滲んでいた。
リヴィアは微笑みながらも、どこか不安げだった。
「緊張しなくていいのよ。あなたはあなた。数値がどうであれ、それは変わらないわ」
だが、その言葉がクラリスに届いているかは分からなかった。
セレナは、明るい声で言った。
「姉様、きっとすっごい数字が出るよ」
無邪気な妹だなと思いながら、朝食をすました。
*
玄関前には、黒塗りの馬車が待っていた。
王都ルミナスの紋章が刻まれた扉が、朝の光を受けて鈍く輝いている。
ヴァルターとクラリスが馬車に乗り込む前に、クラリスは家族を振り返った。
母は静かに手を振り、妹は少しだけ唇を噛んでいた。
馬車が動き出す。
しばらくすると窓の外には、王都の街並みが広がっていた。
石畳の通り、開店準備をする店主たち、広場の掲示板には昨日の講演の見出しが貼られている。
「運命力理論、王国制度に導入か」
「本日、一部貴族が試験的に測定か」
「低運者は未来を選べるのか?」
「誰でも簡単!運命力の鍛え方」
クラリスは窓の外を見つめながら、遠くにそびえる王立ルミナス学院の塔を見つけた。その塔は、まるで運命そのもののように、空高く、そびえたっていた。
馬車の中は静かだった。静かに、確実に進んでいった。
*
王都ルミナスの中心にそびえる王立ルミナス学院。
その石造りの塔の前に、クラリスを乗せた馬車が静かに停まった。朝の光が塔の尖端に反射し、空気は張り詰めていた。
玄関前には、測定官と技術者たちが待機していた。
黒衣に銀の紋章をつけた男が、無言でクラリスに一礼する。
父ヴァルターが先に降り、クラリスの手を取って馬車から導いた。
「緊張することはない。お前は私の娘だ。」
父の声には誇りと確信が滲んでいた。
アカデミーの内部は静かだった。廊下の壁には脳波グラフと量子場の解析図が並び、空気は冷たく、無機質だった。
クラリスは測定室へと案内される。その部屋の中央には、球体型の測定装置が鎮座していた。
淡い光を放つその装置の前に、白髪を後ろに束ねた男が立っていた。
Dr.エルンスト・ヴァルム。運命力理論の提唱者であり、王族直属の科学顧問。
「ヴェルディア家の娘か」
ヴァルムはクラリスを一瞥し、無表情のまま装置に視線を戻した。
「すぐに終わる。座りなさい」
クラリスは椅子に座り、装置の中心に頭を預けた。銀髪が光に照らされ、淡く揺れる。
技術官が淡々と準備を始める。
「脳波安定。量子揺らぎ、同期開始」
無機質な声が響く。
装置が起動すると、空間に光の波が広がった。脳波と量子場が共鳴し、空気が震える。
数秒の沈黙の後、装置の上部に数値が浮かび上がる。
「運命力:94」
室内の空気が一瞬で変わった。助手がメモを取り始め、技術官がざわめく。
「94…王族は95以上でしたが、これは王族並の数値です」
「ここまでとは…」
父ヴァルターは目を見開き、クラリスの肩に手を置いた。
「見たか。やはりお前は私の自慢の娘だ」
ヴァルムは一歩前に出て、数値を見つめた。
「興味深い。ただの貴族でここまで高い数値とは。それになかなか面白い波形だな」
クラリスは周りの反応にただ呆気に取られていた。
*
その頃、測定室の上階では、速報が通信局に送られていた。
「速報:クラリス・ヴェルディア嬢、運命力94を記録」
クラリスの名前は、瞬く間に王都を駆け巡った。
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第3話は9/11(木)6時に更新予定です。
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