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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第2章 王立ルミナス学院 1年目

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19/63

13. 後期試験結果発表

前回のあらすじ

・後期試験

・耐えたクラリス

冬の風が学院の廊下を吹き抜ける午後。

講堂前の掲示板には、すでに人だかりができていた。


「出たって……後期試験の結果!」

「今回は実技も含まれてるんだよね?」

「順位、どうなったんだろ……」


クラリス・ヴェルディアは、ロジーナ・エルスと並んで歩いていた。

二人の足取りは、自然と早くなっていた。

「クラリス様……緊張しますね」

「ええ。でも、やるだけのことはやったわ」


掲示板の前に立つと、そこには大きく貼り出された紙があった。

《王立ルミナス学院・1年目後期試験結果》

名前、得点、順位が整然と並んでいる。


クラリスは目を走らせた。

第1位:レオニス・グランフェルド(700点)

第2位:カイ・アストレア(692点)

第3位:ゼノ・ヴァルハルト(690点)

第4位:クラリス・ヴェルディア(682点)

第5位:ルーク・ファルマス(680点)

第6位:ミレーユ・クローディア(678点)

第7位:ロジーナ・エルス(672点)

第8位:……


「クラリス様、4位です!すごいです!」

ロジーナが目を輝かせて言った。


クラリスは、掲示板を見つめたまま、静かに頷いた。

「ええ。前期より順位を上げたわ。でも、まだ上がいる」


そのとき、背後から声がした。

「ふふ、やるじゃない、クラリスさん。でも次は負けないわよ。私の専門は経済学だから。」

ミレーユ・クローディアが、クラリスの隣に立っていた。


栗色の髪を揺らしながら、挑戦的な笑みを浮かべている。

「正直実技はあんまり得意じゃないのよね。あなたの努力は認めるけど。」


クラリスは微笑み返した。

「楽しみにしているわ」


さらに、ゼノ・ヴァルハルトが静かに近づいてきた。

「君の努力は素晴らしいと思う。次はフェアな条件で競えることを願うよ…」

その言葉に、クラリスは少しだけ目を見開いた。

「ありがとう。私、もっと強くなるわ」


「クラリス様、どういう意味ですか?さっきのは…」

ゼノの言葉の意味が分からなかったロジーナはクラリスに尋ねた。


「きっと、剣術の試験が公平じゃないと感じているんじゃないかしら。どうやっても私には満点が採れない試験ではあったから。あとは彼なりのエールかしら」

(元々騎士の家系の彼からしたら、剣術が初心者の私との最終的な得点の差が剣術分の8点しかないことも、本人としては悔しいのかもね。言えないけど。)

ロジーナには剣術の試験がどういうものだったかを説明しながら、クラリスはそんなことを内心考えていた。


最後に現れたのは――レオニス・グランフェルド。

完璧な制服姿で、周囲の空気を一瞬で変える存在感。


「クラリス。君の努力とその成長には、とても感動したよ。特にゼノから聞いたが、剣術はとても初心者だったとは思えないような上達ぶりだったと。」

彼の声は柔らかく、しかしその瞳は冷静だった。

「でも、僕の隣に立つには、まだ足りない。数字だけではなく、すべてにおいて」


クラリスは、彼の瞳を見つめながら答えた。

「ええ、殿下。私は、数字だけではなく、実力でもふさわしい者になります」


*

放課後、クラリスはロジーナと一緒に厩舎に向かっていた。

今回の結果をノクターンに報告するためだ。


厩舎に入ると、クラリスが来たことがわかったのか、ノクターンはこちらに顔をのぞかせていた。

「ノクターン。試験結果、とてもよかったの。あなたのおかげよ」

当然だ。と言わんばかりに鼻を鳴らすノクターン。


「こんばんは…。ノクターン、クラリス様の友人のロジーナです。」

まだノクターンのことが怖いのか、クラリスの後ろからおどおどしながらロジーナが挨拶をする。


なんか自分は怖がらせるようなことをしたのかと、尋ねるような顔をクラリスに向けるノクターン。


クラリスはクスッと笑いながら、

「大丈夫よ、ロジーナ。この子、とても賢くていい子なのよ。今も、ロジーナを怖がらせて申し訳なさそうな顔をしているわ」


「そうなのですね。ノクターン様。確かに、クラリス様といるととても柔らかい雰囲気の馬のように見えます。まるで、英雄の相棒のような気品を感じます。」

クラリスの後ろからノクターンの様子を見ながらロジーナは思ったことを話す。


「そうね。時代が時代なら、確実に名馬でしょうね。それじゃあね、ノクターン。また来るわ」

そう言ったクラリスに反応するかのように鼻を鳴らすノクターンとお辞儀をするロジーナ。

そうして二人は厩舎を後にして、寮へと帰っていった。


*


王立ルミナス学院の最上階にある学院長室。


白と金を基調とした重厚な内装に、歴代学院長の肖像画が静かに並んでいる。

窓の外には、冬の王都が広がり、遠くに王宮の塔が見えていた。


学院長エルマー・グレイヴは、書類に目を通しながら、深く椅子にもたれていた。

その隣には、副学院長マティルダ・クローネが立っている。

黒のローブに銀の刺繍を施した制服は、彼女の冷静な性格を映していた。


「……後期試験、無事に終わりましたね」

マティルダが静かに口を開いた。


「そうだな。だが、これからが本番だ」

エルマーは書類を閉じ、窓の外を見つめた。


「教育方針の変更について、問い合わせが来ています。なぜ急に実技科目を導入したのかと」

マティルダの声は冷静だったが、わずかに緊張が滲んでいた。


エルマーは、机の上に置かれた一枚の報告書に手を伸ばした。

それは、王宮から送られてきた“制度強化方針”に関する通達だった。


「王族からの圧力だよ。運命力制度を“有効活用”するために、学力だけでは不十分だと判断された」


「つまり、数字だけではなく、“行動力”と“生存力”を見せろと」


「そうだ。制度の象徴となる者たちが、机上の理論だけで終わってはならない。王国は、何かをやろうとしておる」


マティルダは、窓辺に歩み寄り、遠くの王宮を見つめた。

「クラリス・ヴェルディア嬢の存在が、引き金になったのですね」


エルマーは少し考えこむ。

「彼女の数値は、王族に並ぶ。だが、それだけで大きく持ち上げる必要があったのだろうか。それこそ…」


「それは…何か裏がおありだとお考えで?」


マティルダの言葉に、エルマーは静かに目を閉じた。

「この学院は、制度の実験場となったのかもしれん。だが、私はまだ信じている。数字だけではない“人間”の力を」


「それが、教育者としての最後の誇りですか?」


「そうだ。だからこそ、私はクラリスに期待している。彼女がただの“制度の象徴”としてではなく、彼女自身が王国の未来を示す象徴となることを」


学院長室の空気は、静かに張り詰めていた。

そして、冬の光が窓辺に差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。


読んでくださりありがとうございます。


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