13. 後期試験結果発表
前回のあらすじ
・後期試験
・耐えたクラリス
冬の風が学院の廊下を吹き抜ける午後。
講堂前の掲示板には、すでに人だかりができていた。
「出たって……後期試験の結果!」
「今回は実技も含まれてるんだよね?」
「順位、どうなったんだろ……」
クラリス・ヴェルディアは、ロジーナ・エルスと並んで歩いていた。
二人の足取りは、自然と早くなっていた。
「クラリス様……緊張しますね」
「ええ。でも、やるだけのことはやったわ」
掲示板の前に立つと、そこには大きく貼り出された紙があった。
《王立ルミナス学院・1年目後期試験結果》
名前、得点、順位が整然と並んでいる。
クラリスは目を走らせた。
第1位:レオニス・グランフェルド(700点)
第2位:カイ・アストレア(692点)
第3位:ゼノ・ヴァルハルト(690点)
第4位:クラリス・ヴェルディア(682点)
第5位:ルーク・ファルマス(680点)
第6位:ミレーユ・クローディア(678点)
第7位:ロジーナ・エルス(672点)
第8位:……
「クラリス様、4位です!すごいです!」
ロジーナが目を輝かせて言った。
クラリスは、掲示板を見つめたまま、静かに頷いた。
「ええ。前期より順位を上げたわ。でも、まだ上がいる」
そのとき、背後から声がした。
「ふふ、やるじゃない、クラリスさん。でも次は負けないわよ。私の専門は経済学だから。」
ミレーユ・クローディアが、クラリスの隣に立っていた。
栗色の髪を揺らしながら、挑戦的な笑みを浮かべている。
「正直実技はあんまり得意じゃないのよね。あなたの努力は認めるけど。」
クラリスは微笑み返した。
「楽しみにしているわ」
さらに、ゼノ・ヴァルハルトが静かに近づいてきた。
「君の努力は素晴らしいと思う。次はフェアな条件で競えることを願うよ…」
その言葉に、クラリスは少しだけ目を見開いた。
「ありがとう。私、もっと強くなるわ」
「クラリス様、どういう意味ですか?さっきのは…」
ゼノの言葉の意味が分からなかったロジーナはクラリスに尋ねた。
「きっと、剣術の試験が公平じゃないと感じているんじゃないかしら。どうやっても私には満点が採れない試験ではあったから。あとは彼なりのエールかしら」
(元々騎士の家系の彼からしたら、剣術が初心者の私との最終的な得点の差が剣術分の8点しかないことも、本人としては悔しいのかもね。言えないけど。)
ロジーナには剣術の試験がどういうものだったかを説明しながら、クラリスはそんなことを内心考えていた。
最後に現れたのは――レオニス・グランフェルド。
完璧な制服姿で、周囲の空気を一瞬で変える存在感。
「クラリス。君の努力とその成長には、とても感動したよ。特にゼノから聞いたが、剣術はとても初心者だったとは思えないような上達ぶりだったと。」
彼の声は柔らかく、しかしその瞳は冷静だった。
「でも、僕の隣に立つには、まだ足りない。数字だけではなく、すべてにおいて」
クラリスは、彼の瞳を見つめながら答えた。
「ええ、殿下。私は、数字だけではなく、実力でもふさわしい者になります」
*
放課後、クラリスはロジーナと一緒に厩舎に向かっていた。
今回の結果をノクターンに報告するためだ。
厩舎に入ると、クラリスが来たことがわかったのか、ノクターンはこちらに顔をのぞかせていた。
「ノクターン。試験結果、とてもよかったの。あなたのおかげよ」
当然だ。と言わんばかりに鼻を鳴らすノクターン。
「こんばんは…。ノクターン、クラリス様の友人のロジーナです。」
まだノクターンのことが怖いのか、クラリスの後ろからおどおどしながらロジーナが挨拶をする。
なんか自分は怖がらせるようなことをしたのかと、尋ねるような顔をクラリスに向けるノクターン。
クラリスはクスッと笑いながら、
「大丈夫よ、ロジーナ。この子、とても賢くていい子なのよ。今も、ロジーナを怖がらせて申し訳なさそうな顔をしているわ」
「そうなのですね。ノクターン様。確かに、クラリス様といるととても柔らかい雰囲気の馬のように見えます。まるで、英雄の相棒のような気品を感じます。」
クラリスの後ろからノクターンの様子を見ながらロジーナは思ったことを話す。
「そうね。時代が時代なら、確実に名馬でしょうね。それじゃあね、ノクターン。また来るわ」
そう言ったクラリスに反応するかのように鼻を鳴らすノクターンとお辞儀をするロジーナ。
そうして二人は厩舎を後にして、寮へと帰っていった。
*
王立ルミナス学院の最上階にある学院長室。
白と金を基調とした重厚な内装に、歴代学院長の肖像画が静かに並んでいる。
窓の外には、冬の王都が広がり、遠くに王宮の塔が見えていた。
学院長エルマー・グレイヴは、書類に目を通しながら、深く椅子にもたれていた。
その隣には、副学院長マティルダ・クローネが立っている。
黒のローブに銀の刺繍を施した制服は、彼女の冷静な性格を映していた。
「……後期試験、無事に終わりましたね」
マティルダが静かに口を開いた。
「そうだな。だが、これからが本番だ」
エルマーは書類を閉じ、窓の外を見つめた。
「教育方針の変更について、問い合わせが来ています。なぜ急に実技科目を導入したのかと」
マティルダの声は冷静だったが、わずかに緊張が滲んでいた。
エルマーは、机の上に置かれた一枚の報告書に手を伸ばした。
それは、王宮から送られてきた“制度強化方針”に関する通達だった。
「王族からの圧力だよ。運命力制度を“有効活用”するために、学力だけでは不十分だと判断された」
「つまり、数字だけではなく、“行動力”と“生存力”を見せろと」
「そうだ。制度の象徴となる者たちが、机上の理論だけで終わってはならない。王国は、何かをやろうとしておる」
マティルダは、窓辺に歩み寄り、遠くの王宮を見つめた。
「クラリス・ヴェルディア嬢の存在が、引き金になったのですね」
エルマーは少し考えこむ。
「彼女の数値は、王族に並ぶ。だが、それだけで大きく持ち上げる必要があったのだろうか。それこそ…」
「それは…何か裏がおありだとお考えで?」
マティルダの言葉に、エルマーは静かに目を閉じた。
「この学院は、制度の実験場となったのかもしれん。だが、私はまだ信じている。数字だけではない“人間”の力を」
「それが、教育者としての最後の誇りですか?」
「そうだ。だからこそ、私はクラリスに期待している。彼女がただの“制度の象徴”としてではなく、彼女自身が王国の未来を示す象徴となることを」
学院長室の空気は、静かに張り詰めていた。
そして、冬の光が窓辺に差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。
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