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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第2章 王立ルミナス学院 1年目

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10. 気性の荒い馬

前回のあらすじ

・教育方針変更

・剣をにぎにぎ

秋の陽光が王立ルミナス学院の馬術場を柔らかく照らしていた。

芝生の広がる広場には、数頭の訓練用の馬が並び、生徒たちは緊張した面持ちで立っている。


クラリスは、乗馬服に身を包み、静かに馬術場の端に立っていた。

その姿には、他の生徒たちとは違う落ち着きがあった。

(久しぶりだけど……感覚は覚えてる)


彼女は幼い頃、ヴェルディア邸で乗馬の訓練を受けていた。

貴族の令嬢として、礼儀作法とともに馬術も教養の一つとして身につけていたのだ。


馬術場の中央に現れたのは、王国騎士団騎兵隊長、マリーネ・エストレラ。

栗色の髪を束ね、騎士団の紋章入りのマントを翻しながら、堂々とした足取りで歩いてくる。


「皆さん、静かに」

その声は柔らかくも芯があり、場の空気を一瞬で引き締めた。

「馬術は、力ではなく信頼です。馬は、あなたの心を映す鏡。恐れれば、馬も恐れます。落ち着いて、丁寧に接してください」


生徒たちに馬が割り当てられる。


クラリスに割り当てられたのは、黒い毛並みの大きな馬――ノクターン。


その名を聞いた瞬間、周囲がざわめいた。


「えっ、ノクターンって……あの気性の荒い馬?」

「去年、上級生が振り落とされたって聞いたけど……」

「なんでクラリス様に……?」


ロジーナが心配そうに言う。

「クラリス様、気をつけてください……その馬、怖いです」


クラリスは、馬の前に立ち、静かに目を合わせた。


ノクターンは、鋭い目で彼女を見つめていたが――次の瞬間、鼻を鳴らし、首を少し下げた。


クラリスは、ゆっくりと手を伸ばし、首元を撫でる。

「こんにちは。いい子ね。これからよろしくね」

馬は、まるでその言葉に応えるように、静かに目を閉じた。


マリーネが目を細めて見ていた。

「……不思議ね。ノクターンが、あんなに落ち着いているなんて」


騎乗の時間。

クラリスは、流れるような動作で鞍に足をかけ、馬の背に乗る。

ノクターンは、まるで彼女の指示を待っていたかのように、ゆっくりと歩き出す。

マリーネが声をかける。

「クラリス・ヴェルディア嬢。姿勢も手綱の扱いも申し分ない。馬との信頼も、見事です」

クラリスは軽く会釈した。

「ありがとうございます。でもこの子のおかげですわ。」


*


授業の終わり、マリーネが言った。

「馬術は、数字では測れません。ですが、あなたの心が馬に伝わるとき、初めて“騎士”の一歩を踏み出すのです」


クラリスは、馬から降りて、そっとその首元を撫でた。

「ありがとう。お疲れ様」


そう言われ、ノクターンはひとりでに厩舎へと帰っていった。


*


午後からはサバイバル術の授業があるため、クラリスたちは教室にいた。


生徒たちは、普段の筆記用具に加えて、配布された分厚い資料集を机に広げていた。

クラリスは、資料の表紙を見つめながら思った。

(“生き残る技術”……役に立つ日が来ないといいけど)


教壇に現れたのは、灰色の髪を後ろで束ねた壮年の男性――ハルド・グレイアム。

元王国辺境部隊の指揮官であり、現在は学院のサバイバル術担当講師。


「皆さん、初めまして。私はハルド・グレイアム。今日から、君たちに“生きるための知識”を教える」


その声は低く、しかしどこか温かみがあった。

「サバイバル術とは、単に野外で生き延びる技術ではない。限られた資源、予測不能な環境、そして時には仲間との協力――それらすべてを含む“判断力”の訓練だ」


*


授業は、まず「環境別の生存戦略」から始まった。

森林地帯での水源の探し方や砂漠地帯での体温管理、山岳地帯での避難所の構築方法など。


クラリスは、配布された資料に目を走らせながら、要点をノートにまとめていた。

(これは……論理的思考と応用力が試されるわね)


ハルド講師は、時折生徒に質問を投げかける。

「では、森林地帯で安全な水を確保する方法を、いくつか挙げてみよう。……クラリス・ヴェルディア嬢」


クラリスは立ち上がり、落ち着いた声で答えた。

「湧き水の確認、雨水の収集、植物の露からの採取。加えて、煮沸による殺菌処理が必要です」


「正解だ。よく訓練されているな」

ハルドは満足げに頷いた。


周囲の生徒たちは、クラリスの回答にざわめいた。


「やっぱり、頭はいいんだな」

「でも、実際はどうだろうね」

「いざってときに実践できるかだよね」


クラリスは、そんな声に耳を傾けず、ただ資料に目を戻した。


*


授業の後半では、「緊急時の判断力」についてのケーススタディが行われた。

仲間が負傷した場合の対応や食料が尽きたときの優先行動、遭難時の信号発信方法など。


クラリスは、ロジーナとペアになり、意見を交わしながらシミュレーションに取り組んだ。

「クラリス様、こういうのって、ちょっと怖いですね……」

「ええ。でも、知っていれば、いざってとき役に立つわ。だからこそ、学ぶのよ」


*


授業の終わり、ハルド講師は言った。

「君たちは、まだ机の上で学んでいるだけだ。だが、知識は命を守る盾になる。

来年の課外演習では、今日の知識が試される。忘れるな」


クラリスは、ノートの余白に一言だけ書き込んだ。

「知識は、私の武器になる」


*


その夜、クラリスは寮の部屋で資料を読み返していた。

「馬術はノクターンのおかげで感覚を取り戻せそうね。サバイバル術は、いつか役に立てばいいけど…」

そんなことをつぶやきながら、また机に向かう。


窓の外には、秋の星が静かに瞬いていた。

読んでくださりありがとうございます。


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