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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第2章 王立ルミナス学院 1年目

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5. 最初の学力試験

前回のあらすじ

・婚約者に絡まれる

・変な方針ね

・ロジーナはいい子

学院生活が始まってから数週間が経過し、もうすぐ夏を迎えようとしていた。

教室の窓から差し込む光が、机の上のノートを柔らかく照らしていた。


クラリスはいつもの席に座り、制服の袖を整えていた。

隣にはロジーナが座っており、静かに筆箱を開いている。


教室の空気は、少しだけ張り詰めていた。


入学してから数週間。生徒たちは少しずつ学院の空気に慣れてきていたが、今日は何かが違う。


扉が開き、担任のミス・カレナが入ってくる。

黒髪をきっちりとまとめた彼女は、いつも通りの冷静な表情で教壇に立った。


「皆さん、着席を。今日は大事な連絡事項があります。」

ざわめきが止まり、教室が静まり返る。


「来週、春学期の学力試験を実施します。筆記試験は二日間にわたり、王国史、運命力理論、論理的思考、一般教養の四科目です。」


クラリスは背筋を伸ばし、ノートに軽くメモを取った。

ロジーナは小さく息を飲んだ。


「この試験は、皆さんの基礎学力を測るだけでなく、進級時のクラス分けや特別講義の選抜にも関わります。例外はありません。」


その言葉に、教室の視線が自然とクラリスに集まる。

クラリスは視線を感じながらも、表情を変えずにノートを取り続けた。


「試験結果は、学院掲示板にて公開されます。順位も含めてです。」


ざわめきが広がる。


「順位って……全員分?」

「恥ずかしいな……」

「俺より順位低かったら罰ゲームな」

「勝手に決めないでくれる?」


ミス・カレナは一瞥をくれただけで、冷静に続けた。

「試験に向けて、今週から補講も始まります。希望者は申請を。以上です。」


クラリスは、ロジーナの方をちらりと見た。

ロジーナは小さく頷いた。

「クラリス様、頑張りましょうね。私、補講、受けてみようかな。」


クラリスは微笑んだ。

「ええ、私は受けるわ。実力を見せつけないといけませんから。」


その言葉に、ロジーナは嬉しそうに笑った。


*


試験勉強が始まってから、数日が経った。


学院では、試験までの一週間、午前中で授業が終わる特別日課が組まれていた。

午後は自由時間――けれど、生徒たちは誰も遊んではいなかった。


図書室、自習室、寮の個室。


それぞれが静かな場所を選び、試験に向けて勉強をしていた。


クラリスもその一人だった。


補講がある日は、ロジーナと一緒に小教室へ向かい、先生の話を真剣に聞いた。


補講には他にも数名の生徒がいたが、クラリスと同じクラスの生徒はロジーナだけだった。


他の生徒たちは、少し年上の上級生や、別の推薦枠の子たち。


クラリスは、彼らの視線に少し緊張しながらも、毎回きちんとノートを取り、質問にも答えた。


「クラリス様、今日の論理問題、すごく分かりやすかったです」

ロジーナがそう言ってくれるたび、クラリスは少しだけ照れながらも嬉しくなった。


週末には、図書室でロジーナと勉強会を開いた。

長い机にノートを広げ、静かな空気の中で、クラリスがロジーナに教える形になった。

「ここは、王国史の中でも大事なところよ。」

「わぁ、クラリス様って、ほんとに物知りですね」

「ふふ、勉強したからよ。ロジーナも、ちゃんとできているわ」


ロジーナは、クラリスの言葉にぱっと笑顔を見せた。

その笑顔が、クラリスの胸をぽっと温かくした。


図書室の窓から差し込む光が、ノートの文字を優しく照らしていた。


「試験、クラリス様のおかげでいい点数が採れるかもしれないです」

ロジーナがぽつりと呟いた。


「そうね。私も。特待生だからこそ、ちゃんと頑張ってるってところ見せなくちゃ」


その言葉に、ロジーナはまた笑った。

「クラリス様は、もう十分凄いです。でももっと凄くなりそうです。」


クラリスは、少しだけ胸を張った。

「ありがとう。ロジーナも、一緒に頑張りましょう」


こうして、クラリスの試験勉強の日々は、静かに、でも確かに充実していった。


*


試験初日の朝。


クラリスは制服の襟を整えながら、鏡の前で深呼吸をした。

「今日から、試験が始まる。」


窓の外には、春の光が差し込んでいる。


教室の中は、いつもと違う空気に包まれていた。机が整然と並び、生徒たちは静かに着席している。


試験官が歩きながら、用紙を配っていく。クラリスは、ロジーナと少し離れた席に座っていた。


隣の席には誰もいない。それが、少しだけ心細かった。

「試験開始まで、あと三分です。筆記具の確認をしてください。」


クラリスは鉛筆を並べ、消しゴムを置いた。手のひらが、少し汗ばんでいる。

「大丈夫。ちゃんと勉強したから。」


試験官の声が響く。

「では、始めてください。」


*


最初の科目は、王国史。

クラリスは、問題を見てすぐにペンを走らせた。

(第三次北方戦争の英雄は……レイモンド・カスティール。)


補講で習ったことを思い出しながら、丁寧に書き進める。文章の構成も、練習した通りに。

(制度の始まりは、戦争の中で生まれた。でも、それがすべてじゃない。人の努力も、ちゃんと残っている。)


*


次は、運命力理論。

クラリスは、少しだけ苦手だった。

「でも、ロジーナと一緒に練習したから、大丈夫。」


問題文を読み、頭の中で順番を整理する。

「もし運命力が高い人だけが選ばれるなら、低い人はどうなるの?」


クラリスは、答えを書きながら、心の中で考えていた。

“選ばれたことにも、選ばれなかったことにも、ちゃんと意味がある。

それを忘れちゃいけない。”と。


*


2日目は、論理的思考――つまりは作文。

テーマは「わたしが大切にしていること」。

クラリスは、少しだけ迷った。でも、すぐに懐中時計を見て、決めた。


“私は、数字だけじゃなくて、自分の気持ちを大切にしたい。

理由は…”


彼女は、ゆっくりと、でも確かに文章を綴っていった。


*


最後は、一般教養。

これは、入学前の3年間でみっちりやってきたことだった。

クラリスは、落ち着いて問題を解いていった。


*


試験が終わった日、クラリスは講堂を出て、ロジーナと顔を見合わせた。


「どうでした?」

ロジーナが聞く。

クラリスは、少しだけ笑った。

「ええ。ちゃんと書けたと思うわ。緊張しましたけど……。」


ロジーナも笑った。

「私もです。クラリス様が教えてくれたおかげです。」


二人は並んで歩きながら、夕暮れの中庭を通り過ぎた。

風が、チューリップを優しく揺らしていた。


「今日の私は、ちゃんと頑張ったわ。」

確かな手ごたえとともに、クラリスは試験結果が発表されるのを楽しみに待つのであった。

読んでくださりありがとうございます。


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また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

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