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五章 †危うき才能†

 † † †


 数分前、天域(てんいき)神の塔(テオンピルゴス)

「行ったか……頼むぞロットよ」

 その地下のホールで、神とその神官(シノディア)ファイブルは、下界へ繋がる門を通って戦いへ向かった神兵隊(ストラティオーティス)たちを見送っていた。

「さて、門を閉じるぞ。ファイブル、離れておれ」

「はい」

 そう言って、神は門を開くために台座に差し込んでいた杖を引き抜いた。すると杖から門へと供給されていた光が途切れ、門から放たれていた光は明滅し始める。

 その時だった。

 ホールへ繋がる階段の方から、何者かが翼を大きく広げてその門へと一目散に突っ込んできたのだ。

「な、何をしているのですか、ピレッタ!」

 高速で飛んできたピンク髪の少女──ピレッタを止めるため、即座に門の前へと移動し立ち塞がるファイブル。

「私だって、戦えるんだからーっ!!」

 ピレッタは叫びながら、目の前の神官にも臆さず、全く速度を落とさないまま低空飛行する。

「止まりなさい!」

 ファイブルは純白の翼を最大まで広げて立ちはだかるが。

 逆にピレッタは翼を閉じて足をつくと、そのまま体を前傾に倒しながら走り、華麗なスライディングで翼の下を潜り抜けた。

「待てピレッタ!もう門は閉じる!危険じゃ!」

 神もなんとか止めようと手を伸ばすも、届かず。

 ピレッタは門へと飛び込んだ。

 そして直後、門に宿っていた光が完全に消滅。


「くっ……行ってしもうたか……」

「申し訳ありません。天才だとは思っていましたが、まさかあれほどの速度を出せるとは……」

 ファイブルは(ひざまず)き頭を下げる。

「仕方あるまい。それより彼奴(あやつ)の無事を確かめねば。あんな不安定な門を通れば、別次元に飛ばされる可能性もある」

 神は杖を両手で持って床に突き立てると、杖頭(じょうとう)の部分が光り始めた。


 † † †


「はぁ……はぁ……やった……!ここが下界……私、来れたんだ……!」

 下界の雲の中に、ピレッタは現れた。

「ロットさんたちは……」

 と、遥か下に広がる街の景色を見下ろし。

「いた!」

 その直下のビルの屋上で、先に下界へ降り立ったロットたちが、魔族バレットと対峙しているのを発見した。

 無論、肉眼で見える距離ではなく──ましてこの夜の闇の中で、たとえ人を見つけてもそれが誰なのか判別することなどできるはずもないが。

 ピレッタの天使としての才覚がそれを可能にしたのだろう。

 そのまま、気配を探るようにその場で目を瞑ると。

「えっ、もう戦ってる!?しかもロットさんと互角にやり合ってる……この敵、強い……!」

 ピレッタはまるで近くで見ているかのようにその戦況を把握する。

 そこへ。


「聞こえるか、ピレッタよ」


 脳内に直接、神の声が響いた。

「うわぁ!」

 ピレッタは電流が走ったかのようにびくりと飛び上がり。

「か、神様……?」

 とその聞き覚えのある声の主を探して、キョロキョロと周囲を見回す。

「ふむ、一応無事ではあるようじゃな」

 と神は胸を撫で下ろす。

「"神の杖(ラヴドス)"で話しかけておるのじゃ。おぬしにこれを使うのは初めてじゃったかの」

「ラヴドスって、神様が持ってるあの杖ですか?」

左様(さよう)。門を開くのに杖の"天力(てんりょく)"を消耗したが、念話(ねんわ)程度ならば問題ない」

「ふぅん……」

 一呼吸置いてから、神は本題に入る。

「要するにじゃ、もう一度門を開くには天力の回復を待たねばならん。本当なら今すぐにでも連れ戻さねばならんところじゃが、早くともあと二十四時間は……」

「なんだ、そんなことですか?」

 ピレッタはあっさりと言い。

「そ、そんなことじゃと?」

「私、帰る気ないですから!私の力ならきっと魔族を追い返せる!」

 この戦いを自分が終わらせるという決意を宿した瞳で、再び街を見下ろし、その腰に差した剣の柄に手を当てる。

「魔族を甘く見るな。おぬしならもう見えておるじゃろう。あのロットたちが多対一でも苦戦を強いられておる。正直……儂やファイブルの想定をも上回る力じゃ」

「だったら尚更、私が加勢し──」

「おぬしはまだ未熟じゃ!」

 神が珍しく声を荒げ、ピレッタも思わず目を見開く。

「……すまんな……じゃが、おぬしを神兵隊(ストラティオーティス)に迎えた以上、儂にはおぬしの命を守る義務がある。まだおぬしを戦わせるわけにはいかんのじゃ。おぬしはいずれこの天域を背負(しょ)って立つ存在になると信じておる。じゃから今は、どうか堪えてくれ……ピレッタよ」

 神のその言葉が本心からくるものであることはピレッタにも理解できていた。

 しかし。

「天域を背負って立つ存在、ですか……嬉しいお言葉ですけど──今この戦いから逃げて、そんな存在になれるなんて、私には思えません!」

 ピレッタの意思は変わらない。

「ま、待てピレッ──」

 と、そこで神の声はぷつりと途絶えた。


 † † †


「ピレッタめ、天力を(はじ)いて念話を切断しおった……」

 天域にて、神は自分の力のなさを悔いるように、大きく溜め息を()く。

 その杖頭の光は点滅を繰り返し、やがて消えた。

「流石ですね。消耗しているとは言え神の杖(ラヴドス)の天力を上回るとは。初めての念話で強制切断を行える天使など、聞いたこともありませんよ」

 傍らに立っていた神官(シノディア)ファイブルは顎に手を当て、末恐ろしいものを見たという顔でピレッタの才能を高く評価するが。

「感心しとる場合か」

 と、神はあしらい、階段の方へ歩き出す。

 ファイブルも当然のようにその後ろに付いて歩く。

「鏡の()()くぞファイブル。儂らにはもはやただ信じて見守ることしかできぬが……」

「はい。直ちに"千里鏡(カフレフティス)"を繋ぎます」

 言いながら、二人は階段を上っていくのだった。


 † † †


 ──ごめんなさい、神様……でも私は……。

 ピレッタは覚悟を決めた表情で、しかし緊張を落ち着けるように、ふう、と大きく息を吐く。

 初めての下界での命を懸けた戦い、緊張しないはずなどない。心臓の鼓動は早くなり、その音が自分でも聞こえるほどだった。

 だが緊張以上に、ピレッタの胸中は使命感に溢れていた。

「あのロットさんが押されてる……──私がなんとかしなきゃ……!」

 そして今度こそ仲間たちに加勢すべく、剣を力強く握り締め、翼を折り畳み、前傾姿勢になって急降下した。



 地上ではバレットとロットたちの戦いが繰り広げられている。

 戦況は圧倒的にロットたちの劣勢だ。バレットはもはや防御姿勢すら見せることなく、ほとんどの攻撃は、十勇"シュウ・ドレッドノート"の特質である鋼の肉体によって弾き返される。

 神兵隊(ストラティオーティス)の中でも優れた力を持つロットの斬撃にだけは反応し、拳で剣の腹を弾くか、素早い身のこなしでかわしているが、それによって生まれた隙を他の天使たちが突いたところでダメージは与えられない。

「ちくしょう、かわす素振りすら無しかよ……!」

 カイザリーは自身の無力さを痛感し、吐き捨てるように言う。

「私たちの攻撃なんて警戒するに値しないってわけ!?ムカつくー!」

 フレイヤは何度攻撃しても傷一つ付けられない事実に苛立ちを見せる。

 あるいは、カイザリーが槍の回転によって竜巻を放つ技"槍嵐(ティエラ)"によって高速移動し繰り出す刺突や、ウルハムの剛腕によって振り下ろされる大斧の一撃ならば、ダメージはあったかもしれないが──カイザリーの槍はすでに砕け散り、ウルハムは遥か遠くへ投げ飛ばされて未だ戻って来ない。

「クククッ、粘るじゃねえか!だがこのままじゃ何も変わらねえぞ!どうする!?」

「くっ……」

 バレットは楽しそうに拳を振り回し、防戦一方のロットを追い込んでいく。

 ──ったく、なんつう力だよ……巨人を相手にしてるみてえだ……。

 ロットの持つ盾は(いびつ)に凹みひび割れ、その(ふち)は複数箇所が欠けている。あと数発もまともに受ければ木っ端微塵と化すだろう。

 少なくともバレットの繰り出すその一撃一撃が全て、当たれば即死級の威力であることは間違いない。上手く受け流して耐えてはいるものの、このままでは先にロットの方が力尽きることは、火を見るよりも明らかだった。


「──あ……?」


 突如。

 バレットの振り抜こうとした右腕が、斬り落とされる。

 それはまるで隕石のごとく天から降ってきた天使の、速度をそのまま威力に上乗せした剣の一撃だった。

「ぐああああっ!?」

 バレットは急激に襲ってきた痛みに叫び声を上げた。

 その鋭い切断面から、大量の鮮血が飛び散る。

「お、お前……ピレッタ……!なんでここにいる……!?」

 ロットは驚愕と動揺を顔面に貼りつけたまま、下界にいるはずのない新人天使に尋ねる。

「戦うため!!」

 ピレッタは力強く迷いなき(まなこ)で答えた。

「──……ったく、神様に逆らう新入りなんて聞いたことねえぞ。やっぱ俺にお前のお()りは荷が重いよ」

 溜め息混じりにそう言うロットの呆れ顔は、同時に安堵したような顔にも見える。

 絶体絶命のロットたちにとってそれは、まさしく天からの贈り物であった。

「……テメエ……!何なんだ……!誰なんだよテメエは……!?」

 バレットは全身に大量の脂汗を滲ませ痛みに耐えながら、目を血走らせて問う。

「私は神兵隊(ストラティオーティス)のピレッタ!あんたを、ぶっ倒しに来た!」

 ピレッタは剣の先をバレットへ向け、宣言する。

「……ククッ……ははははははは!!言うじゃねえかクソガキが!!」

「げっ、何この人……なんで腕斬り落とされて笑ってるの……」

 ピレッタは顔を引き攣らせる。

「ふむ、戦闘狂もここまで来ると清々しいな」

 と、大斧を担いでそこへ飛来したのは、吹っ飛ばされていたウルハムだ。

「ウルハムさん!無事だったか!」

「ああ。遅くなってすまない」

 カイザリーは目線だけをウルハムへ向け、無事を喜ぶ。

 他の天使たちもそれを把握すると、素早く陣形を整え、バレットの周囲を六人で囲む形になった。相変わらずキラベルは何らかの役割のため上空で待機している。

「さあ、これで七対一だぜ魔族さんよ。片腕失った状態で、まだやるかい?」

 ロットは形勢逆転とばかりに微笑を浮かべて軽口を叩く──とは言え勿論、油断などできようはずもなく、最大限に警戒はしたままだ。

「まだやるかだと!?当たり前だろ!」

「ああ、そう……」

 より狂気的な笑みを浮かべて言うバレットに対し、ロットは「だろうな」と言いたげな、呆れと疲弊の混じった表情で肩をすくめた。

「ククク、一方的になってつまらなくなってきたところだ!腕の一本ぐらい丁度いいハンデ──」


「バレット君さぁ、いつまで遊んでんの?」


「!!」

 それはあまりにも突然に現れた。

 地の底から這い上がってきたわけでも、ピレッタのようにどこからか降ってきたわけでもなく、言うなればテレポートのように。

 張り付いたような不敵な笑みを浮かべる魔族の男。右眼を隠したアシンメトリーな紫の髪に、額の左側からは一本角を生やし、淡い紫のスーツに黒のクロップトップスを合わせている。

「インフェルノ……テメエ何しに来やがった」

 その魔族の男に、バレットは不機嫌そうに問う。

「何しにってキミ、馬鹿なの?"七落閻(ドミネイトセヴン)"のキミがそんなんじゃ部下に示しつかないでしょ。ライザー様の命令忘れたの?──"天使は皆殺し"だよ」

「チッ……分かったよ。とっとと消しゃあいいんだろ」

 と。

 バレットの顔から笑みが消えた。

 これまでとは明らかに違う、感情の篭っていない純粋な殺気。

 正面で対峙していたが故にそれを真っ先に感じ取ったロットは、滝のような汗と共に、全身に鳥肌を立て。


「逃げろぉぉ!!」


 叫ぶ。

 天域の誰一人、ロットのそんな声を聞いたことなどなかった。

 異様な雰囲気はすぐに伝わり、神兵隊(ストラティオーティス)は一斉に翼を広げて四方へ飛び立つ。


 一瞬だった。

 バレットが踏み込むと同時にロットの盾はあっさりと砕け散り、拳はそのままロットの腹部をも貫通する。

 次に、フレイヤの首を掴み潰す。

 次に、ウルハムを背後から蹴り飛ばして背骨を粉砕、その体はくの字に折れ曲がる。

 次に、上空へ逃げようとするカイザリーの右足首を掴み、その隣のゲルモンに叩きつけて墜落させたところへ、サッカーボールキックで二人同時に頭部を粉砕。


「うわあああああっ!!」

 悲痛な叫び声を上げながら両手を天に掲げ、光のエネルギー体のようなものを作り出していたのは、上空で待機していたキラベル。

 恐らくは機会を窺って、その天使の力──天力による遠距離攻撃を仕掛けるという戦略だったのだろう。

 が、もはや遅すぎた。

「へえ、あれが天力か。まともに食らったら痛そうだなぁ」

 そのエネルギー体を撃ち出すより早く、魔族の男──インフェルノは、指先から赤いビームを放つ。

「そん……な……」

 心臓部を貫かれたキラベルは羽ばたく力を失い、吐血しながら落下。同時にエネルギー体は霧散する。

「あれ?あと一人は?」

「アレだ」

 すでに数百メートル離れた上空まで逃げ去っていたピレッタをバレットは指差す。

「はは、随分速いね。さすが、キミの右腕を持ってっただけある」

「チッ、うるせえよ」

「どうする?僕がやってもいいけど、キミが借りを返したいんじゃない?」

「別に。どうでもいい」

 バレットは興醒めした様子でぶっきらぼうに答える。


 ──なんで……!覚悟したはずなのに……なんで私は逃げてるの!?

 弾丸のごとく高速飛行しながら、ピレッタは自身の行動に葛藤を抱く。

 ──みんな……みんな殺された!

 すでに見えない距離まで到達していても、ピレッタの鋭敏な感知力は仲間たちの状態を全て感じ取ってしまう。

 仲間を失った悲しみか、魔族への憎しみか、はたまた力無き自分自身への怒りか、その目からはとめどなく涙が溢れ出していたが、それでも本能であの魔族たちを避けようとしているのか、飛行速度は緩めることなく飛び去っていく。

 刹那。

「やあ、どこ行くの?」

「!!」

 先程のテレポートと同じように、インフェルノがピレッタの眼前に出現した。

 ピレッタは即座に旋回し、方向を変えて飛び去るも。

「無駄だよ」

「くっ……!」

 インフェルノは再びテレポートし、その行く先に現れる。

 そして人差し指をピレッタの額に押し当てると、その指先が赤い光を宿し、キラベルにしたのと同じようにビームを放つ。

 一筋の赤い光が、ピレッタの頭部を──貫くことはなかった。

「……消えた……?」

 インフェルノは糸目を細めて困惑する。

 ビームが放たれる直前、それとは異なる別の光がどこからかピレッタの体を照らし。

 次の瞬間には、インフェルノの使用するテレポートと同じように、その姿がぷつりと消えたのだ。

「何、今の?魔力も──感じない。一瞬で感知の届かないとこまで逃げたのか。意外とやるねえ、魔力の使えない下等生物も」

「ケッ、逃がしてんじゃねえよ」

 と、ビルの屋上を飛び移りながらそこへ駆けつけたバレットは言う。

「うるさいなぁ、今頃来た人に言われたくないよ。まあいいや、これで邪魔者はいなくなった」

 二人の視線はある一点へ向けられる。

 この首都ヴァリオスの北部に位置する、小高い丘の上の、石造りの古城──ヴァリアール城。

 ヴァリオスに並ぶ数十階建ての高層ビルの高さが、ある一定の高さで打ち止めになっているのは、このヴァリアール城から街の全てを見渡せるようにするためだ。

「さあ、とっとと終わらせようか」

「ああ」


 † † †


「──え?」

 ピレッタは光に包まれて反射的に閉じた目を開けると、そこは見慣れない不思議な機械が並ぶ未来的な空間だった。

 継ぎ目のない滑らかな白い壁が淡く発光し、柔らかな光で空間全体を包み込んでいる。正面──なのかは分からないが、この空間の(あるじ)らしき人物が立って見ている壁面には、高速で移り変わっていく外の景色が映し出されている。

 ──ここは……乗り物の中……?

 全く動いている感覚はないが、その景色の流れから推測する。

「お嬢ちゃん、天使と言ったかい。遅くなってごめんよ」

 その操縦者と思われる黄緑色の短髪の男性宇宙人は、ピレッタの方を振り返って言う。

 どこか哀愁を帯びたような表情や低い声色、顎周りの無精髭から、その歳はマルテやリオよりも一回り上に見える。

 頭に装着したヘッドホンのような機械からは青白く発光するコードがいくつか伸び、天井から吊り下げられた球状の機械に接続されている。

 見回すと、バレットに殺されたマルテの遺体がカプセルのようなものの中に寝かされ、その傍らには啜り泣くリオの姿もあった。

「た、助けてくれてありがとう。あなたは……?」

 恐る恐るピレッタは尋ねる。

「僕はイラルギ・レベルス。"オルデナ"に所属するガルンビカイナ人だ。銀河の平和を守る仕事をしてる。そんでもって、ここはガルンビカイナの技術で造られた宇宙船"星船(イサルオンツィ)"の中だよ」

「……私はピレッタ。神兵隊(ストラティオーティス)の天使だよ」

「うん。リオくん──そこで泣いてる子から、大体の話は聞いたよ。さっきのヤツら、今までに戦った魔人とは格が違ったらしい。僕たちの中でも最強だったマルテくんが負けるなんてねぇ」

 イラルギは飄々と軽薄に振る舞っていたが、声は僅かに震え、悔しさが滲み出ていた。

 が、それ以上に分かりやすく沈んだ表情のピレッタは他人の機微など気に掛ける余裕もなく、焦りから前のめりに尋ねる。

「これからどうするの?」

「あの魔人がいる以上、ここはもう諦めるしかない。とりあえず別の街に着陸して、エネルギーを確保しないとね。魔獣を殲滅するためにかなり消耗しちゃったから」

「そんな!この街の人たちを見捨てるの!?」

「……僕たちガルンビカイナ人は全部機械頼りだから、エネルギーがなきゃ何の役にも立たない木偶の坊になっちゃうのさ。根性じゃどうにもならないこともある」

「…………そっか……」

 しばらくの沈黙の後。

「ピレッタくんだっけ、君も休んどきなよ。寝室ならこの部屋を出て右にあるから」

 俯いたまま立ち尽くすピレッタを見かねてイラルギが口を開く。

 すると外の景色を映している壁面とは反対方向の壁面に、扉のような形の穴が開き、通路への入り口が現れた。

「ありがとう……」

 一言礼を言うとピレッタは、とぼとぼと部屋を出て行った。

「はぁ……まったく、とんでもない任務を受けちゃったもんだねぇ……マルテくん」

 イラルギはカプセルの中のマルテを見ながら、やるせない声で小さく呟いた。



 † † †



 翌朝。

 ヴァリアール王国のテレビ全局に、同じ映像が流れていた。

「やあやあ、ヴァリアール王国の諸君」

 映し出されたのは、飄々とした顔で挨拶をするインフェルノと、面倒くさそうにそっぽを向いて立つバレット。

 周囲には、血に塗れた瓦礫と、無惨に打ち砕かれた死体がいくつも転がっている。

 その死体の中から、インフェルノは一つの首を持ち上げる。


「王は討ち取った。この国は、我々がもらう」

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