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三十七章 †聖なる竜王†

「な……テメエ……!」

 変わり果てたカイを見たサイガの顔からみるみる血の気が引いていく。

「くくっ……妾がうぬに施したのは、他を隔絶した魔力を持つ者にのみ許された特権……"悪魔の囁き(デビルズコール)"──人間を強制的に"魔人化"させる力じゃ」

 マウトは両手にバチバチと稲妻を迸らせながら、その力の正体を明かした。

「魔人化……ああ、頭が重いと思ったら、これですか」

 カイは自分のツノに気付き、その表面を指でなぞる。

「僕は貴方たちと同じ存在になったんですね……」

「左様」

 人間からツノが生えるという異様な光景、そしてそれが人為的に起こされたという事実に、周囲の娑卍那組と軍人たちは怖気立つ。

 しかし誰よりも動揺していたのは、サイガだった。

 全身を震わせながら発汗し、呼吸すらままならず、目には僅かに涙が浮かんでいる。

 恐らくはサイガ自身が思っていた以上に、カイには強い信頼を置き、心の拠り所となっていたのかもしれない。それが自分の目の前で、別人のように姿を変えられてしまった。

「何故僕にその力を……?」

 周囲の反応には目もくれず、カイは不敵な笑みを浮かべたままマウトに尋ねる。

「うぬら地上人には、どうやら"リミッター"が存在しておる。力だけではない……その"感情"にもな。魔人にはそのリミッターがない。じゃから魔人は何よりも純粋に、自分の感情に従って動く」

「……なるほど……それで僕の内に秘めた黒い感情とやらを引き出そうというわけですか……ふふ……」

 得心がいったように顎に手を当てて目を細めるカイに。

「して、どうじゃ?妾とともに来る気にはなったかの?」

 と、マウトは再び手を差し伸べる。

 カイは少しの間その手を見つめ、次に周囲を見渡す。

 二人に注目する娑卍那組と軍人たち。

 そしてこちらを見ながら過呼吸状態に陥っているサイガ。

 何を思っているのか、カイのサイガを見る目はとても冷たかった。

 そして再びマウトへ視線を戻すと。


「行きますよ」


 一言言い、その手を取った。

「くくっ、良い判断じゃ。うぬも来るか?サイガ・ジャーキス」

 マウトは横のサイガへ目を向ける。

「は……?」

 マウトと目が合ったサイガは目を見開く。

 自分の友人を魔人化させておいて一体どの口が勧誘などしているのか。魔人とはこうも身勝手なものなのか。そんな戸惑いと怒りが混じったような感情が頭を埋め尽くすのも当然だろう。

 サイガが言葉を詰まらせていると。

「うぬも戦いを求めておるのじゃろう?妾を斬りつける時、うぬの顔は恍惚としておった。分かるぞ、妾には全て分かる」

 マウトは身振り手振りを交えて楽しそうに焚きつける。

 サイガのヤクザ狩りについても水晶で見られていたのかは定かではないが、少なくともマウトの言葉は間違いと言い切れるものではない。

 サイガは徐々に考えが纏まったのか目を細め、カイの方へと目をやる。

「……何ですか?ふふ、別に僕はどちらでも構いませんよ……もし貴方が足手纏いになっても、面倒を見てあげる気はありませんがね……」

 カイは笑って告げるが、やはりその目は冷たい。

 その台詞からも察するに、この数ヶ月に渡ってサイガを介護し続けた結果、カイの心の奥底に恨みのような感情が生まれたのかもしれない。

 サイガは小さく溜め息を零してから、目を逸らし。

「……分かった。俺も行く」

 不本意げに言った。

「おお、そうか!くくくっ、これは良い収穫じゃ。うぬら二人ならば、レオザークの抜けた穴を補って余りある」

 マウトは嬉しそうに笑いつつ、仲間となった二人の肩に手を置くと。

「さあ、ともに征こうぞ!」

 そう言って、三人は蝋燭の火が消えるように姿を消した。


「き……消えやがった……」

 見ていたチウスが呆然と呟く。

 チウスだけではない。その場の全員が、嵐のように現れて去っていったマウトに呆然として動きを止めていた。

「……ほ、呆けてる場合じゃありません!」

 と、クロスは周りへ呼びかける。

「急いでください!ルプスさんが消えたということは、もうここにダイザンを抑えられる戦力はいません!ヤツが再生する前に、一刻も早く拘束を開始しましょう!」

「お、おう!」

 それから裟卍那組と軍人たちは、辺りに蔓延る魔獣にも気を付けつつ、血溜まりから少しずつ肉体を再生していくダイザンにワイヤーなどを用いて厳重な拘束を仕掛けていった。



 † † †



 大陸南・セイウス洋上空。

 (うっす)らと明るくなった空に、一筋の飛行機雲が描かれている。

 謎多き魔人マリカ・マウトが続々と仲間を集める一方で、同じく、新たに十勇"ラプラス・エトルキズ"の末裔であるアダーを仲間に加えた勇者メルト一行も、次なる仲間を求めて筋肉大膨張号Xスーパーパンプアップ・エックスに乗り込み新天地を目指していた。


「みんな起きて。もうすぐ着くわよ」

 筋肉アイドル"ハルにゃん"ことハルクスがマイクに向かって言う。

 その声が機内アナウンスとして放送されると。

「どしたぁ……?」「なに~……?」

 メルトとアダーが寝ぼけ眼を擦りながらプライベートルームの方から起きてきた。

 ハルクスはにっと笑いながら窓の外を指差す。

「んん……?」

 二人は導かれるがままに窓を覗き込んだ。

 そして外を見るや否や、二人の目が輝く。

「うおおお!これがドラガウルか!」

「すっご〜!何アレでっか〜!」

 少年たちが窓に張り付いて興奮するのも無理はない。

 そこから見えたのは、全長百メートルを超えようかという、巨大な竜を模した像だった。

 森のように摩天楼が建ち並ぶ大きな街を背に、海へ向かって吼えるように、港から飛び出した小島にその像は鎮座している。

「"聖なる竜王像"だ」

 とカガリ。

「今でこそ最強の国家とも言われるドラガウルだが、元はピラルカ王国の植民地だったんだ。独立はおよそ三百年前。"独立戦争"では、植民地化される以前から住んでた原住民がかなり活躍してな、その功績を讃えて造られたのがあの竜王像だ」

「へー、詳しいな!」

「プププッ、戦闘狂みたいなキャラのクセして頭も良いの、なんかウケる~」

 像を眺めるのに夢中でほとんど聞いてなさそうなメルトと、からかうように笑うアダー。

「うっせえ!別にこれくらい常識だ!つうかあたしはこう見えてもスーパーエリートだぞ!頭良くて当然だろ!」

 カガリは軽く怒った(のち)、臍を曲げたように腕を組みそっぽを向いた。

 実際この世界においては常識的な知識ではあったが、風船族の里で外界をほとんど知らずに生きてきたメルトと、人の目から隠れて生きてきたアダーでは、知らなくとも無理はない。

「うふふ、子守りは大変ねえカガリちゃん」

 とハルクスはカガリの肩に手を置いて、他人事のように笑う。

「うっせえよ!てかなんであたしばっかこんな役回りなんだ」

「さあ?アナタくらい隙がある方が親しみやすいんじゃない?」

 納得がいかなさそうに眉を顰めるカガリの横顔に、ハルクスは僅かな羨望の眼差しを向けていた。

「……?どうした?」

 その目に気付いたカガリは眉を顰めたまま尋ねる。

 気付かれるとは思っていなかったのかハルクスは意外そうにぴくりと眉を動かしながらも、再びいつもの余裕ある笑みに戻った。

「……うふふ……私はね、常に完璧で優雅な生き方をしてきた。やることなすこと全てが上手くいって、常にみんなの憧れの的とされる存在だったわ」

「ああ?なんだよ自慢か?」

「いえ、完璧だからこそ、アナタのその不完全さが少し羨ましいのよ」

「なんだそりゃ。だったらそんな生き方やめりゃあいいじゃねえか」

「ふふ、今更生き方を変えることなんてできないわ」

「そういうもんか?」

「そういうもんよ」

 と、話しているうちに筋膨X(パンプアップ)はドラガウルの上空へ差し掛かる。

「さあ、そろそろ到着よ。時差ボケもあるでしょうし、ホテルで少し休んでから、お昼頃に目的地へ向かいましょう」

 機体は都市部の上空をそのまま通過し、少し離れたところにあるドラヘッド空港に着陸した。



 † † †



 数時間後。

 ドラガウルの玄関口と言われる大都市ドラヘッドのホテルで各々休憩をとり、目的地への出発時刻が近付いていた。

「よっ、メルト」

 エレベーターから降りてきたメルトをロビーで待っていたのはカガリだった。

「おうカガリ」

「くくっ、三日ぶりの一人部屋は寂しかったろ?」

 と、カガリはメルトの顔を見るや、嬉しそうに駆け寄って肩に手を回す。

「へへ、何言ってんだよ。ゆっくり休めて大満足だっつうの」

 メルトは冗談っぽく返し。

 改めて、高級感のあるロビーを見回した。

「しっかし、やっぱハルにゃん凄えなぁ……当たり前みたいにこんな高級ホテルに泊まらせてくれるなんて。オレこんなとこ泊まったの初めてだ」

「あたしはあるぞ?連盟特権で好きなとこ泊まれるし」

 カガリは自慢げにしたり顔で言う。

「ずりい!……つうか、どうしたんだ?出発はまだだろ?」

 メルトはきょとんとした顔で訊く。

「ちょっと案内してやろうと思ってな。あたしも任務で何度かドラヘッドには来たことあるんだ」

「案内って、旅行じゃねえんだから……」

「良いだろちょっとくらい。どうせすぐには出れねえんだし、息抜きしようぜ」

 カガリは悪戯な笑みを浮かべると、そのままメルトの手を引いて外へ出た。

「お、おいカガリ!どこ行くんだよ!」

 メルトは狼狽しながらもカガリに身を任せてついていく。

「見たくねえか?竜の目線から見る景色」

 と、カガリが指差したのは聖なる竜王像だった。


 そんな二人の様子を少し離れたところに隠れて窺っている女──の恰好をした男が二人。

 アダーとハルクスである。

「ねえねえハルにゃん、カガリちゃんってもしかしてそういうこと?」

「そういうことみたいねぇ、うふふ……」

 二人はニヤニヤと笑いながら、メルトたちを見守っているようだ。

「こんな状況でデートに誘うなんて、ちょっと積極的すぎじゃな〜い?」

「しょうがないわよ。この戦争が終わったらメルトちゃんと会う時間もなくなるかもしれないもの。ただでさえ連盟のお仕事は忙しいのに、何十人も人員が減ってるのよ?きっと、今を大事にしたいんだと思うわ」

「にゃるほどねぇ〜。プププ、意外と乙女なんだね〜カガリちゃんってば」

 そして二人は面白がってメルトたちの尾行を始めた。


 † † †


 十数分後、メルトたちは聖なる竜王像を上っていた。

 竜王像の内部は螺旋状の階段になっており、竜の肩と頭部はそれぞれ展望台となっているのだ。

「へへ、竜の中身がこんなふうになってるとはなー」

「急がねえと出発時間過ぎちまうぞメルトっ!」

 観光気分でマイペースに上るメルトを、少し先を行くカガリが急かす。

「分かってるって!にしてもカガリちょっと速すぎ!」

「ほらほら、追いついてみろ!」

 二人は楽しそうに笑みを浮かべながら、競争のようにして駆け上がる。

 一般人にしてみれば最上段まで上るのは骨が折れる高さだが、二人にとってはいい運動のようだ。


 一方で、メルトたちを尾行していた二人は。

「アダーちゃん大丈夫?」

「はぁ……はぁ……二人とも速ぁ……ちょ、ちょっと……休憩……」

 鍛えているハルクスは当然のごとく息一つ切らしていないが、インドア派のアダーは体力の限界を迎えようとしていた。

「レッカの末裔のカガリちゃんはともかく、なんでメルトくんもあんなに速いの〜……?普通の血筋なんだよね……?」

 手すりにしがみついてゼエゼエと肩で息をしながら、眉をハの字にして言うアダー。

「うふふ、あの子は強いわよ。それもまだ成長途上。カガリちゃんに魔力の扱い方も教わり始めたみたいだし、まだまだ伸びるわ」

「ほへ~、才能の塊だねぇ……ぼくは魔力とかいいや~。ハルにゃんは魔力習わないの~?」

「私は私の筋肉を信じてるの。魔力とやらを否定するつもりはないけど、私は筋肉だけで戦う。それが私のポリシーよ」

 ハルクスは誇らしげに自身の上腕二頭筋を撫でる。

「ププッ、ハルにゃんらし~……ってメルトくんたちもうあんなとこいる!はや!」

 気付けばメルトたちは階段をほぼ上り切り、竜の頭の展望台へ入ろうとしているところだった。

「さ、私たちも行きましょ。見失っちゃうわよ」

「はぁ~い……こんなことなら時間までホテルで休んどくんだったよ~……」

 勝手に尾けておいて意気消沈するアダーにハルクスは苦笑しつつ階段を上っていき、アダーも数段遅れでそれを追った。


「うおおーっ!すげえ眺めだな!」

 展望台に着いたメルトはそこから見える景色に目を輝かせた。

 最強の国家と言うだけあり、その天を衝くような摩天楼の群れは途轍もない迫力だった。

 都市としての規模で言えばヴァリアール王国の首都ヴァリオスの方が大きいのだが、国色の違いだろうか、力を誇示するがごとく、地上百メートル以上のこの展望台からでも見上げる程の高層ビルが所狭しと乱立する光景は、ヴァリオス以上の都市感を演出している。

「ビルの森みてえだ!あ、ほらあそこ!オレたちの泊まってるホテルじゃないか!?」

 指差しながら景色を堪能するメルトを見て、カガリは笑う。

「くくっ、良かったよ喜んでもらえて。下から見るのとこっから見るのとじゃ、迫力が全然(ちげ)えだろ?」

「ああ、よくこんなとこ知ってたな!」

「……あたしが連盟に入って初めての任務がこの辺りでな、先輩に連れて来られたんだよ。その先輩、どうにも頼りなくって、任務もほとんどあたしが終わらせたんだ。それで機嫌悪くしてたら、お詫びにって案内されてよ。この景色見たら、なんかどうでも良くなったんだよな。くくっ、我ながらチョロいもんだ」

「いやあ、分かるぜ。ちっぽけなことで悩んでんのが馬鹿らしくなるよな」

「だろ!?やっぱメルトとは気が合うな!」

 カガリは嬉しそうに肩を組んでメルトを抱き寄せると、メルトも肩を組み返して楽しそうに笑った。


 少し離れた柱の影からそれを見ていたアダーは。

「おんや~?なぁんか良い雰囲気じゃない~?メルトくんももしかして脈アリな感じ~?」

 二人の様子にニヤニヤと口元を緩ませる。

「うふふ、さあどうかしらね」

「ハルにゃんずっとそういう感じなのズルいって」

 全てお見通しかのように微笑を浮かべるハルクスに、ついにアダーはジト目でツッコんだ。


 と、そこで、四人のスマホの着信音が同時に鳴り響いた。

「皆さん、出発の準備が整いました。ドラヘッド空港にお集まりください」



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