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二十八章 †解かれし封印†

 † † †



 ──ベルジェーン……俺様はお前のお陰で生き延びたぜ。いつかコイツの使い心地を伝えてやらねえとな。


 自身の左手に握った銃を見ながら、レオザークは思う。

 二日前の戦いで、恐らく今対峙しているダイザンと同格と思しき相手にあっさり勝てたのは、ムレファに託された"魔力貫通弾"があったからに他ならない。


 レオザークは壁を駆け上がってダイザンの目線と同じ高さまで到達すると、壁の凹凸をヒビが入るほどの力で掴んで体の位置を固定する。

 そしてバネを縮めるかのように両脚を曲げて体を丸め、全身に強く力を込める。

 腿の筋肉が膨張し、スーツのズボンが破れる。

 その鋭い眼光はただ一点のみ──ダイザンの右眼を狙い澄ましていた。

 レオザークの姿を見失っていたダイザンが周囲を見渡し、壁に張り付いたレオザークの姿を視界に捉えようとした瞬間。

 レオザークは溜め込んだ全エネルギーを解き放って壁を蹴った。

 猛スピードで顔面に飛び掛かったレオザークにダイザンは全く反応できず。

 レオザークは空中を進みながら左手に持った銃をダイザンの右眼に向け、引き金を引く。

 弾は当然魔力貫通弾──表面に張られた防壁もろとも眼球を貫き。

 さらに再生させる隙を与えず、そのまま全体重の乗った右手を眼球の穴へと突き立てた。

「ぐあああっ!?いでででっ!」

 レオザークの右腕は肘の辺りまで深く突き刺さり、ダイザンは悶絶する。

 すぐに顔面のレオザークを潰そうと手を近付けるが、レオザークはそれより早く、眼球に刺さった右腕を引き抜いて飛び降りる。

 いわゆる五点接地によって衝撃を分散することで高所からの落下ダメージを抑えつつ、ダイザンの追撃に備えて距離を取る。

「がっはっは!なんだ!?それだけか!?こんな攻撃いくらしたってオラにゃあ……──」

 と、ダイザンは突然何かに違和感を覚えて目を見開いた。

「……え……?なんだこの音……」

 ダイザンが聴いたのは、「ピ、ピ、ピ」というアラーム音。

 それはどうやら外からではなく、ダイザンの脳内に直接響いているようだ。


「じゃあなデカブツ」


 レオザークは静かに別れの挨拶を告げる。

 右腕を突き刺した時、その奥深くに、あらかじめ起動しておいた時限爆弾を置いてきたのだ。

「オ、オメェ何しやがったんだ、レオザークゥゥ!!」

 次の瞬間、ダイザンの頭部が内部からの爆発によって弾け飛んだ。



 † † †



 時を同じくして──クリンゴ共和国中央部・カディ山麓樹海。

 ここはクリンゴの中央に聳え立つ巨峰・カディ山の麓に広範囲に広がる樹海だ。

 その奥深くに苔むした大木(たいぼく)があった。

 そして大木の根元には、幾重にも巻かれた太い縄によってまるで罪人のごとく、古びた祠が縛り付けられている。

 その不気味な祠の前に、男と少年が佇み、神妙な顔で祠を見つめていた。

 少年はレヘン──十勇"アルケス・メガロドロン"の末裔を名乗る超能力者だ。二日前の夜、レオザークを助けワルチアの街を救った。

 そして傍らに立つのは、ボサボサの長髪と無精髭が印象的な男だ。すらっとした長身ながらしなやかな筋肉を身に付け、黒のタンクトップと、ゆったりとしたトラックパンツを着用している。

「ここがレヘンの言ってた祠か」

 男は食パン一斤を丸ごと片手に持って齧りながら言う。

「うん。どう?ハクさん。何か感じる?」

 レヘンは男に問いかける。

 この男こそがレオザークを勧誘する際に言っていたレヘンの唯一の仲間、"ハクさん"のようだ。

「いやあ、なーんも感じねえな。やっぱガセネタだったんじゃねえか?明日"四鎋戦犯(しかつせんぱん)"が復活するなんてよ」

 怪訝な顔でパンを頬張り咀嚼しながらハクは答える。

「そもそも封印を施したのが世界連盟なら、それを把握してねえはずもねえしな。復活が事実なら魔導士協会の連中がそろそろ対応に来ててもおかしくねえだろ?なのに、だーれもいねえ」

「ハクさんが言うならそうなのかなぁ……」

「ま、いいじゃねえか。復活しないならしないで。平和が一番だ」

 と、気付けばハクは三分の二ほども残っていたパンを全て食い終えていた。

 かと思えば背中のスリングバッグから剣でも抜くかのようにずるりとフランスパンを取り出して(むさぼ)り始める。

「でもハクさん、戦いたがってたじゃん!」

「まあそりゃそうだけどよ、別に今じゃなくてもいいぜ。なんたって今はそれ以上にヤバそうな魔族どもが攻めてきてんだ。戦う相手はいくらでもいる。もしかしたら俺と渡り合えるヤツだっているかもしれねえだろ?」

 フランスパンを頬張りながら言い、ハクは宥めるようにレヘンの頭を撫でる。

「そっか……それもそうだね。じゃあこれからどうする?魔族の王様のとこに殴り込みに行く?」

 レヘンの突拍子もない提案に、ハクは思わず頬張っていたフランスパンをゴクンと一気に飲み込んだ。

 咳き込み胸を叩くハクにレヘンは「だ、大丈夫!?」と声を掛けるが。

「……ぷっ、くくくくっ、やっぱお前最高だぜレヘン!」

 ハクは笑った。

「ええ!?なんで笑うのさ!僕なんか変なこと言った!?」

 レヘンは困惑する。

 たった二人で魔族の本拠地に攻め入るなど自ら死にに行くようなものだが──レヘンに限ってはそうは思っていないらしい。それだけの自信と、ハクへの信頼があるのだろう。

「くく……いやぁつくづく、俺たちは似た者同士だと思ってな。ちょうど俺もそうしようと思ってたとこさ」

 どうやらハクも考えは同じらしく、誇らかな笑みを浮かべて言う。

 二人がどれほどの関係性かは分からないが、お互いに高く評価し合っていることは確かなようだ。

「──だがその前に」

 と。

 フランスパンを食い終えたハクは、突然右手を高く突き上げた。

 次の瞬間、突き上げた手を強く握ると同時に、その拳から白い炎が勢いよく(はじ)けた。

 炎はまるで白蛇のような形となって上昇していき、大木の太い枝の一つに到達すると、その枝にぐるぐると巻き付き始める。


「そこだろ。出てきな」


 ハクが睨みを効かせながら言うとともに炎の白蛇は一気に膨張し、巻き付いていた枝を一瞬にして消し炭に変えた。

 そしてその枝の上に隠れていた何者かが炙り出され、レヘンたちの前に着地する。


「よくぞ気付いたものだ。気配は完全に消していたはず」


 それは中性的で妖艶な美貌を持つエルフ族の青年だった。

 紅い瞳は感情を微塵も感じさせず、白い長髪は流れる雲のようにふわふわと揺れる。身につけているのは緩やかな白い着流しと、それに合わせた濃灰色の袴、足元は簡素な鼻緒のついた草履だ。

 特筆すべきは腰に差した白い刀──瞬時に抜き放てるよう、その柄に手を掛けている。

「わあ!もしかしてサムライ!?初めて見た!」

 レヘンは呑気に目を輝かせる。

「くくっ……エルフのサムライねぇ……そんなヤツぁ一人しか知らねえよ。なあ、四鎋戦犯──"フウマ・ムラクモ"さんよ!」

 ハクは得意げな顔で男の正体を看破した。

「え!?どういうこと!?四鎋戦犯はまだ封印されて──」

「もう解けてたんだよ。祠から何の力も感じねえのは、そもそももぬけの殻だったんだ。日付通りなら確かに明日がその日なのかもしれねえが……九十九年なんつう長え期間の封印だ。多少のズレはあってもおかしくねえ。そうだろ?フウマさん」

 ハクの問い掛けに、男は。

「名答。拙者はフウマ・ムラクモ──四鎋戦犯の一人だ」

 と二人を観察するようにじっと見澄ましながら、静かに答えた。

「貴公、かなりの達人と見受ける」

「おう。あんたにだって負ける気はしねえぜ」

 ハクは自信に満ちた表情で対峙し、両拳を体の前に構えると、再び白い炎を灯した。

 同じくフウマも刀を鞘から抜き、自身の正中線に重なる形で縦に構える。

 そしてレヘンは数歩下がって二人の様子を見守った。

「名を訊いておこう」

「ハク・スパイラルだ」

「……ハク。その命、貰い受ける」

「やらねえよ」

 と軽い問答の(のち)、長く睨み合いが続き、木々が風に揺られて葉の擦れ合う音だけがその場を包み込んだ。

 刹那、風が止み、完全な静寂が訪れる。


 そして一羽の鳥の羽ばたきによって静寂が破られると同時に──仕掛ける。

 先手を取ったのはハクだった。

 炎を纏った右拳がフウマの顔面を打ち抜く。

「!」

 が、殴ったのは残像だった。

 ハクの背面側へかわしたフウマはそのまま流れるようにハクの脇腹へと刀を滑り込ませる。

 その瞬間ハクは脇腹と刃の間に左手を挟み込むと、凄まじい爆炎を放って刀を押し返した。

 二人は再び距離を取って構え直す。

 ──速い……!ボクでも目で追うのがやっとだ……!

 レヘンの頬に緊張の汗が伝う。

 数秒後、またも先に仕掛けたのはハクだ。

 拳を横に薙ぐように動かすことで炎の壁を作り出し、その壁は一瞬でフウマの周囲を取り囲んだ。

 フウマは即座に跳躍し、木の枝を蹴ってまた別の木へと飛び移る。

 そうして途轍もない速度で周囲を跳び回りながら、地上のハクに狙いをつける。

 当然ハクもそれを撃ち落とそうと構えたまま、目と、恐らく魔力を感知することによってフウマの位置を常に把握し続けている。

 数秒後、ハクの背後に回ったフウマが仕掛けた。

 刀を構えて突進するフウマを。

「見えてんだよ」

 ハクは完全に捉えて振り向き、その振り下ろされた刀身を指先で掴み止めた。

 しかし。

 掴んだ刀はフウマもろとも白い霧のように消滅する。

 ──霧の分身……!

 そしてハクの正面側から真のフウマが接近していた。

 低い姿勢で間合いに入ると、斜め上へと振り上げる形で斬りつける。

 が、ハクはそれをジャンプしてかわし、逆にフウマの手元を蹴り飛ばした。

「何──!」

 刀を飛ばされたフウマの右頬へ、ハクは更なる追撃の蹴りをお見舞いする。

「お、防いだか」

 フウマはその蹴りを右腕で受け、再び距離を取った。

 さらに落ちた刀の方へ右手を伸ばすと、刀は白い霧に包まれて浮き上がり手元へ戻ってくる。どうやらフウマはこの霧を手足のように自在に操る力を持っているらしい。

 両手で刀を構え直し、ハクと対峙しつつ、静かに息を整える。

「くくっ、良い反応だ。流石だぜ四鎋戦犯──と言いてえとこだが……」

 ハクは見下すような笑みを浮かべて言う。


「やっぱ"ニセモノ"じゃ俺にゃあ及ばねえか」


「!」

 フウマの表情がぴくりと動く。

「ええ!?ニセモノなの!?」

 レヘンも驚く。

「昔連盟のデータベースで見たんだがよ、"四鎋戦犯"っつう名前は封印が終わった後に付けられたんだ。そもそも"鎋"ってのは(くさび)って意味だ。各所に打たれた楔のように封印された四人の戦犯。封印前じゃそんな名前が付くはずもねえ」

「へー」

「だがコイツは自分で四鎋戦犯だと名乗った。本人ならその呼び名を知ってるわけがねえんだよ」

 すると、堪忍したようにフウマを名乗る青年は両手を小さく挙げ。


「はあ……初めから気付いてたのか……そうです。僕はフウマじゃない」


 と打ち明けた。

 古風な口調もどうやら演技だったらしい。

「ええ!?ホントに違うんだ!」

 やはりレヘンは驚く。

「くくっ、レヘンお前純粋すぎだぜ。でもだとしたら、あんた何者(なにもん)だ?」

 青年は言いづらそうに息を吐き、やがて決心をつけたように二人の方を見て、告げる。


「僕はゲンマ・ディメンザン。フウマの息子です」


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