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二十七章 †出遭いし猛者たち†

 

「がははははっ!!なーんちゃって!!」


「は!?」

 ダイザンの左眼は無傷だった。

 放たれた魔力貫通弾は間違いなく直撃していた。レオザークもその眼球に穴をこじ開けて弾が侵入する瞬間を確かに見たはずだった。

「な……何をしやがった……!」

 レオザークは狼狽する。

 眼球だけではない──気付けば耳と足首の傷までも完全に再生していたのだ。

「治しただけだべ」

 ダイザンは得意げに笑みを浮かべて言う。

「治しただと……?」

「オラは昔っから鈍臭くてなぁ…… 巨人族っつっても肉弾戦じゃあバレットさんやトマホークさんにゃあまったく敵わねんだど。動きもトロいし、魔力の扱いだって七落閻(ドミネイトセヴン)で一番下手くそだ。こんなオラが七落閻に入れたのは、死なねえからだ。オラはただひたすらに回復し続ける──"最強の回復魔法"を持ってるんだべ」

「最強の……回復魔法……!?」

 すると突如、ダイザンは自身の左眼に三本指を突っ込み、抉り出した。

「なっ!?」

「あー、気持ち(わり)いど……弾が入ったまんま治すとやっぱ違和感が凄いべ」

 言いながら、ダイザンは抉り出した眼球を引きちぎる。

 そして次の瞬間、左眼は元通りに再生していた。

「……嘘だろ……」

 裟卍那組(さばんなぐみ)の面々はその光景をただただ呆然と眺め、戦慄するしかなかった。

 ダイザンは撃たれた足首にも違和感を感じるのか、つま先を立ててぐりぐりと回し始め。

「……まあいいやこっちは。コイツら潰してからで」

 眼球と違って体内に残った弾丸を簡単には取り出せないと気付いたのだろう。絶望する裟卍那組員たちを見下ろし、まるで玩具を前にした子供のようにニタリと笑みを浮かべた。

「お前ら逃げろ!!」

 レオザークはすぐに指示を出す──が、遅すぎた。

 ダイザンは自身の眼球を投擲し、その直線上にいた数人の組員たちの体を貫いたのだ。

 頭部や心臓部を撃ち抜かれ完全に即死した者もいれば、胴体や肩の辺りを抉られ気絶した者、のたうちまわって痛みに悶える者もいた。

「がはははっ!いいなこの技!オラの新技、名付けて"眼球投げ"だべ!」

 恐らく眼球を武器として使用したのは初めてだったのだろう。その威力は本人としても意外だったようだ。

 ダイザンは再び自身のボウリング球ほどもある巨大な眼球を抉り出す。

「イ……イカれてやがる……!」

「また来るぞ!お前ら建物の影に隠れろ!潰されんぞ!」

 レオザークの舎弟の中でも古参と思しきゴールデン・レトリバーの獣人の指示に従い、組員たちはそれぞれ近くの建物や障害物の影に隠れるが。

「がはははっ!無駄だべ!」

 ダイザンは狙いをつけて振り被り。

「そこだ!」

 と勢いよく投げた眼球は、建物の壁を容易く貫いて隠れていた組員の一人を撃ち抜いた。

「なっ……!」

 さらによりによってその一撃で柱を失ったのか、建物は一気に崩壊し始め、眼球の直撃を免れた数名の組員たちも巻き込まれて潰されていった。

 レオザークにいつも付き添っていたうちの一人、ラビオも瓦礫の下敷きとなっていた。

「ラビオッ!」

 チウスが駆け寄る。

「だ、大丈夫だ……なんとか生きてる……」

 ラビオは体を震わせながら答えるが、腕と脚を負傷しており立ち上がれないようだ。

 とりあえずは一命を取り留めていたことにチウスはほっとしたが、モタモタしているとすぐに次の一撃が飛んでくるだろう。

「畜生……!何なんだ!ただの目玉がなんであんなに(かて)え!?」

「恐らく魔力です……魔力を体に纏わせて防壁を張るように、眼球に魔力を纏わせればそれだけ硬くなるってことでしょう」

 黒ネコは自身の推論を述べる。

「正解だど!まあ分かったところでオメェたちにゃあどうしようもないべよ!」

 言いながらダイザンはさらに次の"眼球投げ"を放つべく、再生したばかりの左眼を抉り取る。

 が。

「おっ?」

 発砲音とともにその眼球はぽろりと手から滑り落ちた。

 レオザークがダイザンの親指を魔力貫通弾で撃ち抜いたのだ。

「オメェか!がははははっ!レオザークとか言ったか!やっぱしオメェが一番面白そうだなぁ!」

 ダイザンは眼球とともに指の弾痕も瞬時に回復させながら、銃を構えるレオザークを見て笑う。

「来いよデカブツ」

 レオザークも挑発するようにニヤリと笑い返し、数秒の睨み合いの末──レオザークは踵を返して全力で逃走を始めた。

「あぁ!?逃げんじゃねえどコラ!」

「馬ァー鹿!この体格差で真正面から戦ってやるわけねえだろう!俺様と戦いたけりゃ捕まえてみやがれ!」

 その持ち前の足の速さには巨人の大きな歩幅でも簡単には追いつけず、距離を保ったまま組員たちから徐々に遠ざかっていく。


「あ……兄貴……!どこに……!」

「まさか俺らを逃がすために……!?」

 残された組員たちはレオザークの真意に気付き始める。

「お前ら、今のうちに瓦礫に埋もれたヤツを救出して車に乗せていけ!死体は諦めろ!すぐにこっから離れるぞ!」

 先程のゴールデン・レトリバー獣人が指示を出す。

「兄貴を見捨てるんですか!?」

「馬鹿野郎!兄貴の覚悟無駄にする気か!」

「す、すんません!」

 組員たちは急いで瓦礫をどかし、助け出した負傷者を次々と車へ運んでいく。

 ラビオを助け出したチウスは、レオザークが走っていった方角を見ながら不安げに呟く。

「レオザークの兄貴……どうか……どうかご無事で……!」


 † † †


 ──アイツら、ちゃんと俺様の考え伝わってんだろうな……。

 レオザークは全力疾走しながら舎弟たちに思いを馳せる。

 背後から投げられる巨大な目玉を蛇行することでかわしつつ、その距離を詰められないよう走り続ける。

「がはははっ!いつまで逃げる気だぁ?レオザーク!」

 しかし追ってくるダイザンに未だ疲労は見えず、レオザークの体力だけが限界に近付いていた。

 すると。

「お?」

 レオザークは足を止めてダイザンの方を振り返り、クラウチングスタートの構えをとった。

「やーっと逃げんのやめたべか!このまま踏み潰しちまうとこだったべ!」

 ダイザンはそれを見て嬉々として自身の眼球を抉り取る。

 ──馬鹿が。新技を身につけたからとそれ一辺倒になってやがる。お前の言う通り踏み潰しゃあそれで終わりだったろうが……好都合だ。

 ダイザンの反応を見ながらその体勢のままレオザークは息を整え。

 ダイザンが眼球を投げるため振り被ったその瞬間を見計らって、地面を蹴った。

 レオザークは一直線に突撃しダイザンの股下を駆け抜ける。

「うおっ!?」

 ダイザンは思わずバランスを崩す。

 その隙にレオザークはダイザンの脚に蹴られてポキリと折れた道路標識を拾い上げ、その股間に向けてぶん投げた。

「いでぇっ!!オ、オメェそりゃあ反則だど!!」

 股間への直撃を受けたダイザンは痛みに顔を歪ませつつも、レオザークを捕らえるため即座に振り返る。

「──あ?どこ行ったべ……」

 が、すでにそこにレオザークの姿はない。

 レオザークはダイザンの視界に入らないように駆け抜け、そのままの勢いでビルの外壁の凹凸に手足を掛けながら垂直に駆け上がっていた。


 ──魔人の弱点は"脳"……!脳は魔力の源だ……!


 魔族の侵略開始に伴い、世界連盟はテレビやネットなど様々なメディアを通じてこれまで秘匿されてきた魔族に関する情報を発信していた。

 当然レオザークも一度目の戦いの(のち)次なる戦いに備え、組員たちとともに情報収集を怠らなかった。

 だがこの情報に関してだけは、世界連盟によるものではない。

 そもそもダイザンのような再生能力でもない限り、脳──と言うより頭が弱点であることなど生物として至極当然の話であり、わざわざ言うまでもないことなのだ。


 では何故、レオザークはそんな知識を得るに至ったのか──。



 † † †



 五年前。

「お疲れ様です兄貴!」

「おう」

 数人の舎弟獣人たちがワンボックスカーの前で、とある大きな屋敷の門を潜って現れたレオザークを出迎える。

 レオザークは当時勢力を伸ばしていた反社組織"凶亞狗會(きょうあくかい)"の事務所にたった一人で乗り込んでいた。

 舎弟たちはその事務所前で、レオザークに何かあったときのために待機していたというわけだが、やはりただの人間ではレオザークの相手は務まらなかった。身体中に生傷を作ってはいるが一つも大きな怪我はなく、圧倒的な強さで鎮圧したようだ。

「コイツらがジャーデンの麻薬カルテルと繋がってた証拠は掴んだ。戦力も削いだし、後はサツに任しときゃいいだろう。帰るぞ」

「押忍!」

 すると舎弟頭・ヒョウが手際よくワンボックスのドアを開ける。

 その時だった。

 凶亞狗會の事務所から突如として人間が吹っ飛んできた。

 レオザークの元に飛んできたのは凶亞狗會の構成員だった男──すでに息絶えていた。

「な、なんだァ!?」

 とドーベルマン獣人の舎弟が庇うように手を広げてレオザークの前に立つ。


「オイオイオイオイ!!待てやレオザークゥ!!まぁだ俺は負けちゃいねぇぞォ!!」


 事務所から出てきたのは両手で負傷した構成員を持ち上げる、額に二本のツノの生えた男だった。

「シキトウ……!?お前……なんだそのツノ……!」

 レオザークは驚愕する。

 そのシキトウという男は凶亞狗會の幹部であり、種族は"人間"──のはずだった。

「死ねやレオザークゥ!!」

 とシキトウは手に持った構成員を再び投げつける。

 その投擲速度は尋常ではなく、ドーベルマンがまともに受ければ即死してもおかしくないと直感したレオザークはすぐに前に出て盾となった。

 が、直撃することはなかった。

 構成員は空中で見えない壁にぶつかったように止まると、ずるりと落ちる。


「ふむふむ、感知は成功と見ていいか」


 そこに現れたのは、黒いローブを羽織った女だった。

 フードによってその顔はよく見えないが、胸の辺りまで伸びた黒髪がはみ出ている。

「な、なんだテメェはァ!!」

 シキトウは怒号を上げる。

「ああ、ごめんごめん。邪魔だった?」

 口元に苦笑を浮かべて女は言う。

「助かったが……な、何をした……?何者(なにもん)だお前──」

「"強制睡眠フォールアスリープ"」

 女が唱えた瞬間、その場にいた面々は一斉に眠りに落ちた。

 普通なら立ったまま意識が途絶えれば何の受け身も取れないまま倒れて地面に打ち付けられ、多少の怪我は免れないだろうが、それも考慮していたのだろう。意識を失った者たちは"浮遊(フロート)"で浮かされ、ゆっくりとその場に寝かされた。

「なんだ……?何をしやがった……」

 唯一、レオザークを除いて。

「えぇ?なんでお前眠ってないの……?」

 女は困惑する。

「そこどけや女ァ!!どかねえならテメェごと殺されても文句言うんじゃねえぞ!!」

 とシキトウはその状況にも怯まず、拳を構えて女に突撃する。

「オルァ!!」

 そのまま女に向かって拳を振り下ろすが、やはりその拳が女に届くことはなかった。

「"甲空エアシールド"」

 先ほど投げられた構成員と同じように、見えない壁によって女の数十センチ手前で拳は阻まれている。

「あァ!?なんだこりゃ!?邪魔だァ!!」

 しかしそれでもシキトウは何度も両拳を叩きつけ、徐々に壁が削れていることに気付いた。

「ひゃははははっ!!ぶっ壊れやがれ!!」

 そして一段と力を込めた一撃が放たれ、ついに壁が貫かれる。

 女はそれでも全く動じず、恐らく壁を破られることも想定して別の防御手段をすでに準備していたものと思われたが。

「ふんッ!」

 シキトウの拳は、素早く女の前に出てきたレオザークによって受け止められた。

「レオザークゥ!死ねやぁ!」

「ぐおっ……!?なんつうパワーだこりゃあ……!どうなってやがる……そのツノといい……さっきとはまるで別人じゃねえか……!」

 レオザークはシキトウのパワーに押されて徐々に後退する。

「馬鹿、なんで出てきたんだ。生身で耐えられるもんじゃないぞそれ……」

 女は呆れたように溜め息を吐きながら言う。

 魔法の使えないただの獣人でありながら自分を庇ったその行動に対しての呆れなのか、耐えられるはずのない攻撃を耐えているタフネスに対する呆れなのかは定かではないが。

 しかしその僅かに上がった口角からは、今の状況を面白がっているようにも見える。

「うるせえな。カタギのモンに助けられっぱなしじゃ娑卍那組の名に傷がつく!それにテメエはなんか事情知ってるみてえだしな」

 そう言うとレオザークは、シキトウが次の攻撃を仕掛けるべく拳を振り上げた瞬間を見計らって素早く背後に回り込み、その腰に両手を回してクラッチすると。


「せぇー……のッ!!」


 とシキトウの体を持ち上げ、そのまま上体を反らして頭から叩き落とした。

 いわゆる、ジャーマン・スープレックスである。

「かはっ……!?」

 シキトウは白目を剥いて力なくダウンする。

「嘘でしょ……ホントに倒しちゃったよ……」

 女はその光景に驚愕のこもった笑みを浮かべた。

 レオザークは立ち上がると、息を整えてから女に詰め寄る。

「訊かせてもらおうか。あのツノは何なのか、お前は何なのか」

「……うーん、しょうがないかぁ……でも怒られるかなぁ……」

 と何かに悩みながら頭をぽりぽりと掻き。

 やがて決心したかのようにレオザークの方を見て──被っていたフードを取り、名乗る。


「私は魔導士、ムレファ・ベルジェーンだよ」


 女の正体は、マジポリア学園に勤める魔法教師にして刻銘(ネームド)魔導士、ムレファだった。

 現在より髪は短いが、目の下にくっきりと残ったクマや、やはりその不潔で不健康そうな風貌は変わっていない。

「魔導士……初めて見たぜ。本当にいたんだな」

「その割にそこまで驚いてるようには見えないけど」

「まあ、裏社会で生きてると色々知ることも多くてな。十勇の末裔ってのが実際に存在することくらいは分かってる」

「なるほど。ちなみにお前は末裔じゃないよね?」

「んなわけねえだろ。何言ってんだ」

「いやあそりゃこっちのセリフだよ……"強制睡眠(フォールアスリープ)"で眠らない精神力に、魔人を生身で倒す強さ……十勇の末裔でもなきゃあり得ないと思うんだけど……長生きはするもんだね」

 ムレファは嬉しそうにくすくすと笑う。

「それより魔人ってのは何だ。シキトウはただの人間だったはずだぞ。それもついさっきまでだ」

 先ほど事務所に単身乗り込んで暴れた際にレオザークはシキトウとも戦っており、その時には間違いなくツノなどなかった。

 つまり戦いを終えて事務所を出たレオザークを追ってくるまでのその短い間にツノが生えたということになる。


「"魔人化(まじんか)"だよ」


「魔人化?」

「順を追って説明するけど、"魔力"っていうのはどんな生き物も持ってる力だ。私たち魔導士はそれを操ることで魔法を使う。で、"魔人"っていうのは別の世界に住んでるツノの生えたヤバい連中で、コイツらも生まれながらに魔力を扱う力を持ってる。つまりその魔人に似た姿になってしまう現象が、"魔人化"ってわけだ」

「それがなんでシキトウに起こった?」

「魔力を限界以上に出力すると、魔力の発生源である脳の前頭葉から頭部周辺に作用して、結果ツノが発現するらしい。あまりにも例が少ないから、詳しいことはまだ分かってないけどね」

「あ?それじゃあツノの影響で魔力ってのが使えるようになったわけじゃなく、魔力の影響でツノが生えたみてえじゃねえか」

「だからそう言ってるんだけど」

「……いやいや、コイツは元々魔力なんざ使えねえぞ?多分」

 地面に伸びているシキトウを指しながら、レオザークは怪訝な顔で言う。

「"狂魔症(きょうましょう)"──数千万から数億人に一人が持って生まれる、原因不明の病だ。感情が極端に昂ぶった時に、魔力が暴走してしまう症状が起きる。お前への怒りがよっぽど強かったんだろうね」

「……要するに……その暴走した魔力が限界を超えてツノが生えたわけか」

「そ。狂魔症は基本的に一切の自覚症状がなくて、いつどこで発生するか分からないのが怖いところだ。数年前に私も痛い目を見た。それで開発したのがこの"狂魔症感知機"──まだ試作段階だけどね」

 とムレファは髪を右耳に掛けて、そこに着けた耳飾りのようなものを見せた。

「感知……そういやお前が出てきた時にそんなこと言ってたな」

「うん、感知機に反応があったから駆けつけたんだ。どうやら正常に動作してくれたみたいで良かったよ」

「フッ、俺様たちを助けようって気はなかったわけか。てめえで作った装置の実験をしたかったんだな」

「ちょっと!私に人の心がないみたいな言い方やめてくれない!?この装置だって狂魔症の被害を抑えるために作ってんだぞ?」

「くく、冗談だよ。それで、コイツはこれからどうなる?」

「……魔導士協会の観察部屋に連れて行かれるだろうね」

「観察部屋って……」

「お察しの通り、要は実験動物にされる。数少ない狂魔症の発症者だからね。魔導士協会でも調べたいことは山ほどあるし、それにまたいつ暴走するとも分からないヤツを野放しにはしておけないだろ?」

「治せねえのか?」

「今のところね」

「そうか……まあコイツも散々ヤベェことしてたクズだ。同情の余地はねえ」


 と、その時だった。

「……あ?俺ァ一体何を……」

 シキトウが目を覚ました。

 上体を起こしてすぐ近くに立っていたレオザークの顔を見るやいなや、その表情は急速に険しくなっていく。

「レオザークてめぇ──」

 その瞬間。

「"光縄ライトロープ"」

 ムレファは詠唱し、作り出した光の縄でシキトウの手脚を縛り付けた。

「な、なんだァこりゃ!クソッ!離せゴルァ!」

 シキトウは腕力で引きちぎろうと試みるが縄はびくともせず、そこにムレファが近付くと。

「はい、暴れないでね~」

 とそのツノに、何やら青く淡い光を放つ輪っかを掛けた。

 すると途端にシキトウは白目を剥き、再び気を失って項垂(うなだ)れた。

「なんだソイツは……?」

「"魔力吸収角輪マジックアブソープションリング"──ツノに装着することで魔力を自動的に吸収する、対魔人用の魔道具だよ。装着した瞬間に内側から針が食い込むようにしてあるから、魔力の使えない状態じゃそうそう外せない」

「魔道具……それもお前が作ったのか?」

「うん。私は魔導士である前に魔道具技師だからね。他にも色々あるよ。見たい?」

 ムレファは自慢げな笑みを浮かべながらローブの内側を見せ、そこに付いたいくつものポケットから様々な魔道具らしきものを覗かせる。

「フッ、そりゃあ山々だが……いつまでもここで話してるわけにゃいかねえよ。そろそろサツが来る頃だ」

「ああ、ヤクザだもんねぇ」

「分かったらコイツら起こしてくれよ」

 とレオザークは道端に並べられ熟睡している組員たちへ目線を向ける。

「起こす魔法は無いよ」

「あぁ?」

「まあ無いこともないけど、使うまでもない。"強制睡眠(フォールアスリープ)"は深い眠りに落とすだけの魔法だから、普通に起こせば起きる。耳元で大声でも出したらいいさ」

「そういうもんか……まあいい。それじゃあここらでお別れだ。ベルジェーンっつったか、今日は助かったぜ」

 そう言って組員たちの元へ寄る。


「あ、ちょっと待って」

「……なんだよ」

 ムレファはローブの内ポケットを漁りながらレオザークに近付き、黒い袋を取り出して見せた。

「ヤクザなら拳銃くらい持ってるだろ?これを渡しておくよ」

 袋から取り出したそれは、弾倉だった。

「銃弾……?魔導士がなんでこんなもん……」

「これも私の魔道具さ。"魔力貫通弾"──魔人が張る魔力の防壁を貫通できる代物だよ。これの凄いところはね、魔力が使えない一般人でも銃さえあれば使えるってところなんだ……理論上はね」

「理論上はってお前まさか……」

 ニヤリと笑みを浮かべるムレファを見て、レオザークはその目的を勘付いたようだ。

「うん、なかなか人に頼める機会がなくてね。お前で実験させてくれ。魔人なんてこの先いつ出てくるか分からないけど、もし戦いになるようなことがあれば役立つはずさ」

「ケッ、この俺様を実験台に使おうたあ良い度胸してやがる」

 レオザークは憎まれ口を叩きつつも、その袋を受け取った。

「お前ほどの男なら銃撃もそこそこいける口だろ?感想を期待してるよ」

「機会があればな。どこに連絡すりゃあいい?」

「……いやあ、それは教えられないね」

「なんでだよ」

「職業柄、反社組織の人間と繋がってるのは色々とまずいんだよ。まあまずくない職業の方が少ないだろうけど……なぁに、死ぬまでに一度くらいは再会する機会もあるだろうさ。その時に聞かせてくれればいい。エルフの寿命は長いんだ」

 ムレファは自身が教師をしていることを隠しつつ、連絡先の交換は避けた。

「分かったよ」

 とレオザークも納得する。ヤクザとしての活動の中で慣れっこなのだろう。


「それじゃあ私は失礼するよ。また会おうライオン君」


「誰がライオン君だ。俺様はレオザーク・キングだ。またなベルジェーン」



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