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二十六章 †無慈悲なる一撃†

 † † †



 クリンゴ共和国南部・ワルチア。

 薄暗い夕闇の中、活気ある街並みから徐々に人気(ひとけ)がなくなっていく。

 そんな風景をある小さなビルの窓から見下ろしているのは、ライオン獣人・レオザークだ。

「あれから二日か。今のところ次の攻撃が始まる気配はねえが……お前ら、夜の見回りもしっかり頼むぜ」

「押忍、兄貴!」

 数人の舎弟たちがレオザークの佇む部屋から出ていく。

「ふう……俺様ァちょっと仮眠とるぜ。ったくこの状況じゃゆっくり眠れもしねえ」

 そう言ってレオザークはベッドに腰掛ける。

 レオザークの体には未だたくさんの包帯が巻かれており、前回の侵攻によるダメージが残っているようだ。

「しっかりお休みくだせえ、レオザークの兄貴!」

「ウチで魔人に対抗できんのは兄貴だけなんスから!」

 傍らのチウスとラビオは心配そうに言い、レオザークが頷いたところを見ると、「失礼しやす!」と一礼してから部屋を後にした。

「……魔人に対抗できる、ねえ……過大評価も甚だしいぜ。敵が油断し切ってただけだ」

「でしょうね。次ヤツらが現れたら例の"魔力貫通弾"も警戒されているはず……いくらレオザークの兄貴でも一対一(サシ)じゃ勝てやしません」

 一人部屋に残った黒ネコ獣人が忌憚のない意見を述べる。

 それはレオザーク自身が一番分かっていることだろう。魔力貫通弾によってキュートと名乗る"七落閻ドミネイトセヴン"の一角を撃破したが、直接的な戦闘で勝利を掴んだわけではない。

「だからこそアイツらはウチが確保しておきたかったんですが……どうします?一応足取りは掴んでますが」

「サイガたちか……今はほっとけ。お前らもあん時ゃアイツらがいたお陰で命拾いしたんだろ」

「はい。十勇の末裔二人の戦いはそりゃあ見事なもんでしたよ」


 二日前、四方八方から襲来する魔族の大群から裟卍那組(さばんなぐみ)本部を救ったのは、この街に潜む殺人鬼サイガ・ジャーキスと、その友人カイ・ルプスだった。二人は同じ十勇"セレーネ・ディメンザン"の末裔である。

 戦いの(のち)、死屍累々だった娑卍那組の構成員たちを他所(よそ)に二人はどこかへ姿を消した──黒ネコはすでにその居場所を把握しているようだが。


「街の復興作業は進んでるみてえだが、あれもまたヤツらに攻められりゃ台無しだ。やるせねえよな」

 魔族との戦いで失われたのは人命だけではない。多くの建造物や街の設備が破壊され、インフラも一部が麻痺している状態だ。

 助けに現れたレヘンという少年とその仲間によって早めに魔族の雑兵たちが殲滅されたことで、完全にインフラが壊滅したヴァリアール王国ほどの被害には至らなかったが、それでも現代の人々の生活には大きな打撃となっている。

「ええ。しかし魔族の侵略は勢いを増しています」

 タブレットを操作しながら黒ネコは冷静に言う。

「現在降伏宣言しているのが八ヶ国……どこも軍事力の乏しい後進国です」

「対抗手段がなきゃそうせざるを得ねえだろうな」

「そして魔族による攻撃を受けている国は七十一ヶ国、都市で言えば七百以上に及びます。うち五百近くが陥落、他のほとんどの都市でもまだ戦闘が続いている状況です。明確にヤツらを退け勝利したと言えるのは、ワルチアを含めごく僅か……はっきり言って人類の勝ち目は薄いでしょう」

「世界中の戦力を結集して正面から()り合えりゃあ可能性はあるんだろうがな。どこにでも開きやがるあの穴のせいで、コッチはずっと後手後手に回らされてる」

「そうですね……世界連盟の発表によれば、ヤツらが穴を開く時の魔力を感知できる魔導士とやらもいるらしいんですが、いかんせん数が多過ぎて対応が追いついていないようです。結局ワルチアにも応援は来ませんでしたし。まあ騒動に乗じてヤクザどもを滅ぼせりゃ国や連盟としても好都合でしょうし、見捨てられたというセンもありますが……」

「ハッ、お前もそんな陰謀論じみたこと考えるんだな」

 レオザークの指摘を受けて、黒ネコは自分が口にした言葉に驚いたように目を見開き。

「……失礼しました。俺もこの状況で平静は保てていないようです」

 と小さく頭を下げた。

「いい、俺様だってそうだ。今まで色々と修羅場潜ってきたが……それがノミほど小さく見えるぐれえの大戦争──動揺するなって方が無茶な話だ」

 フゥ、と溜め息を落とし、レオザークはふと窓の外を見た。


「……あ?」


 街の遠方に見えたのは、空へ立ち昇る黒煙だ。

「火事でしょうか……」

「……ならいいんだがな」

 直後、黒ネコのスマホに連絡が入る。

「どうしました?ヒョウの兄貴」

「魔族だ!」

 やはりと言うべきか、二人の嫌な予感は的中した。

「アビッシュとモンガーがやられた!でけえ……!こりゃレオザークさんでもどうしようもねえぞ……!」

 報告の電話越しに、地響きのような轟音が聞こえる。

 そしてその震動は二人のいるビルにまで僅かに届いていた。

「まさか魔獄王とかいうヤツですか?」

「いや……だが巨人だ……!とにかく俺らは住民たちを避難させる!お前もレオザークさんと逃げてくれ!」

「了解しました。お気を付けて!」

 黒ネコは電話を切りレオザークを見ると、すでに立ち上がり上着を羽織ろうとしているところだった。

「行くぞ」

「はい!」

 黒スーツを着て覚悟の決まった表情でレオザークは勢いよくドアを開き、二人は部屋を出る。

 ドアの外で見張りをしていたシェパードの獣人二人もそれに無言で随従し、さらにビル内ですれ違う娑卍那組の獣人たちもレオザークを見るや否や続々と後ろに続いた。


 † † †


 ワルチア北東部。

 その中心部の地面には巨大な穴が穿たれていた。

 恐らく最初に魔獄王ライザー本人が開けたであろうウートゥラーの大穴ほどではないが、こちらも直径三十メートルほどはありそうだ。

 その周辺で。

「モタモタすんな!さっさと逃げろ!家ん中いたら建物ごと潰されんぞ!」

 先程の電話の相手であるヒョウ──その名の通りヒョウの獣人の男が下っ端たちと協力し、住民の避難誘導を行っていると。


「邪魔臭えぞ!どけ!」


 誘導に従って走る群衆を、十二メートルほどの巨人が一蹴りで木っ端微塵に消し飛ばした。

 縦に並んだ三本ヅノを額に生やし、ドレッドヘアーを後ろで一つに纏めた中年男──巨人族の寿命二百年から考えれば百歳は超えているだろう。体は岩のごとき筋肉に覆われ、それを見せつけるかのように上半身には服を纏わず、ボロボロのズボンを着用している。ズボンの裾の辺りは恐らく返り血によって赤黒く染まっており、これまで多くの相手をその蹴りで屠ってきただろうことが窺える。

 その足元に血煙を漂わせながら、巨人はギロリとヒョウの方を睨む。


「オラは七落閻(ドミネイトセヴン)が一人、ダイザン!!(ひら)ってくれたライザーさんに報いるために、殺しまくるぞぉ!!」


 ──七落閻……!レオザークさんが倒したっつう幹部格か……!

 自身の何倍もの高さから見下ろす巨人に足を竦ませながらも、ヒョウは退()かずに睨み返す。

「俺は娑卍那組舎弟頭、ヒョウ・メルガス!魔族ごときに消されるほど俺はヤワじゃねえぞゴルァ!」

「ほぉ、オラに立ち向かってくるたあいい度胸だべ!」

 そう言って巨人──ダイザンはヒョウの体を巨大な手で素早く掴み上げ、そのまま容赦なく握り潰した。

 全身の骨が粉砕され、鼻と口から大量の血飛沫を噴く。疑う余地もなく即死だろう。

「ヒョウさん!」「てめえよくも!」

 それを見た部下たちは拳銃を取り出し撃ち放つが。

「がっはっは!この街は生きのいいヤツがいっぱいいんだな!」

 まるで意に介さずダイザンは笑う。

「クソッ!何なんだよこのバケモンは……!」

「怯むな!撃て!撃てぇっ!」

 しかし所詮下っ端の持たされた弾数など限られており、すぐに弾切れを起こす。

 武器を失っても娑卍那組としての意地があるのか、諦めずその身一つで突撃し。

 それをダイザンは難なく蹴り飛ばしていく。

「軽い!!軽いべ!!こんなんじゃ何人いても(おんな)しだべ!キュート倒したヤツ連れて来い!」

 やはりダイザンはキュートの仇打ち──と言うべきかはともかく、幹部格を倒した実力者を警戒してこの街へと送り込まれたのだろう。

 しかしレオザークはヒョウからの連絡によってすでにこの街から逃げており、ここに来るはずなどない。


「止まれよデカブツ」


「お……?」

 そのセリフとともに背後で銃声が鳴り、ダイザンは振り返る。

「なんだぁ?オメェ」


「俺様があの小娘を始末した、娑卍那組若頭──レオザーク・キングだ」


 そこに立っていたのは、上空へ向けて空砲を放ったレオザークだった。

 その後ろには黒ネコやチウスとラビオも含めた数十人の組員たちもついている。

「レ、レオザークの兄貴!?」「逃げたはずじゃ……」「なんでここに……!」

 ヒョウの部下たちは驚愕する。

「ショックだぜまったく……俺様を可愛い弟分見捨てて逃げる腰抜けだと思ってたのか?お前ら」

 部下を安心させるようにニヤリと笑ってレオザークは言う。

「あ、兄貴ぃ!」

 と部下たちは目に涙を浮かべる。

「俺様は一人でいいから逃げろっつったんだがよ」

「兄貴見捨てて逃げるほど俺らの忠誠心は低くねえっスよ!」

 チウスが吠え、「そうスよ!」とラビオも続く。

「大体兄貴免許持ってないじゃないですか。俺らが送らなきゃ倍は時間掛かってましたよ」

 ここまで車で送り届けた黒ネコも軽口を叩いた。

「フッ、そういうわけだ。……ヒョウ……よく頑張ったな」

 ダイザンの足元に転がったヒョウの遺体を一瞥して言い、そしてダイザンへと視線を上げる。

「さあ、こっからは俺様が相手だ」

 と、目が合った瞬間。

 それが開戦の合図だとばかりにダイザンは蹴りを放った。

 まともな相手ならそれで終わっていただろうが、レオザークはその不意打ちも当然予測していたのだろう──高く跳躍しダイザンの膝の辺りに飛びついた。

「おぉ!?」

 ダイザンは驚く。

 トップスピードに乗る足先をまともに食らえばレオザークと言えども他の被害者たちのように粉砕されるだろうが、膝ならそこまでの速度は出ない。レオザークは経験からその攻略法を即座に導き出したのだ。

 鋭いツメを食い込ませてズボンにしがみつき、さらに上へとその大きな体を駆け上がっていく。

 しかし。

「がはははっ!良い度胸だべ!」

 ダイザンも当然見ているだけではない。腹の辺りまで登ってきたレオザークを右腕で振り払う。

「チッ!」

 レオザークは咄嗟にダイザンから離れ、腕をかわした。

 その一挙手一投足が、小さき人類にとっては致命傷になりうるのだ。

「よくかわしたなぁ!オメェ面白いべ!キュート殺しただけのこたぁある!この高揚感……昔を思い出すど……!」

「うるせえな……撃てお前ら!」

 レオザークはダイザンを向いたまま、背後の舎弟たちに号令をかける。

 その瞬間、構えていた銃から一斉に弾丸が放たれる──が。

「がははははっ!!無駄だべ!そんな小せえ弾でオラの体貫けるわけねえど!」

 数十発もの弾丸はダイザンの体に激突した途端にひしゃげて落ちていく。

「効いていない……やはりヤツも魔力防壁を纏っているようです!」

 黒ネコがいち早く察して組員たちに共有すると、組員たちは新たな弾倉を銃に装填し始めた。

「お?なんかしようとしてんな!?分かってんだど!オメェたちはなんか魔族に対抗できるワザ持ってるって、ポンダーさんが言ってたべ!それでキュートのヤツも殺されたってな!」

 それに気付いたダイザンは撃たせまいと、レオザークをスルーして組員たちへ飛び掛かる。

 が。

「ぐえっ!?」

 ダイザンは突然何かにぶつかったように()け反り、足を止めた。

 首元を手で確かめると、建物と建物の間にワイヤーが張られており、これが引っかかったようだ。

 その表面には特殊なペイントが施されているのかほとんど光を反射せず、離れたところからでは目視しづらくなっている。

 ──対巨人族用の合金ワイヤー……魔族じゃなくても巨人は厄介だからな。この街にゃ巨人はいねえが……念のため事務所に置いといて良かったぜ。

 レオザークの指示で、部下たちがあらかじめ辺り一帯に張り巡らせていたのだ。

「なんだぁ!?めんどくせえ!」

 とダイザンは両手でワイヤーを握ると、容易く引きちぎる。

「やっぱダメージはねえか。だが足止めにはなった」

 その隙にレオザークはダイザンの背を駆け上がり、右肩に乗ると。

 右耳たぶを両手で掴む。


「ずぉりゃあっ!!」


 雄叫びとともに、全身を使って勢いよく耳を引きちぎった。

 噴き出した鮮血が降り掛かり、レオザークの半身を真っ赤に染め上げる。

「いだだだっ!!何しやがんだオメェ!!」

 ダイザンは怒りながら、蚊でも潰すかのように手のひらをレオザークの乗った肩に叩きつけるも、レオザークは素早く首の裏に回って回避し。

 さらに髪を伝って頭頂まで登るとそのまま顔の前面へ降り、その左眼に鋭い手刀を突き刺そうと試みるが。


「ちょこまかとうざってえべ!!」


 ダイザンが叫ぶと同時に、レオザークは顔面から弾き飛ばされた。

 恐らくは魔力によるものだろう。

「くっ!」

 レオザークは体を丸めて転がり衝撃を分散させながらなんとか着地する。

 それでも十メートルの高さからアスファルトへ落とされたダメージは大きく、全身に鈍痛が迸るが、敵を前にして休んでもいられない──レオザークはすぐさま立ち上がる。

 だがダイザンはすでに落ちたレオザークを蹴り飛ばそうと右脚を後ろに大きく上げていた。

「させるかよ!」

 その瞬間ラビオの言葉とともに再び組員たちの一斉射撃が始まった。

 軸となる左脚の脚首の辺りに集中して放たれた弾丸は、魔力防壁を貫いてダイザンにダメージを与えた──魔力貫通弾である。

「ぐあああっ!?」

 バランスを崩して倒れたダイザンは、脚首を押さえて痛みに悶える。

「な、なんだぁ!?何したんだオメェら!魔力は解いてねえはずだど!」

「フッ、教えるわけねえだろう」

 レオザークは倒れたダイザンの眼前に立ち、自身の銃を向けた。

「今度こそ貰うぜ、左眼」

 ダイザンはその無慈悲な声色にいよいよ恐怖を覚えたのか、体表にじわじわと脂汗を滲ませ、絶望の表情を浮かべる。

 そしてレオザークはそんな顔も見慣れているのだろう──容赦なく銃口をその目に突きつけたまま、ゼロ距離で引き金を引いた。

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