二十一章 †歩み寄りし戦士たち†
「あのー……良い雰囲気のところ悪いんだけどさ」
と、イラルギは申し訳なさそうに三人の元へ近寄り話し掛ける。
「おう、オジさんも大丈夫だったか?」
「あ、うん。僕は平気。三人とも、助けてくれてありがとう。それで改めて訊きたいんだけど、キミたちは一体……」
「オレはメルト。風船族だ」
「私はハルクス・ジェン・フートラッド、アイドルよ。気軽にハルにゃんって呼んでね♪」
「さっきも名乗ったが、世界連盟のカガリだ。二人に協力してもらって魔族の討伐にあたってる……っつってもちょっと前に出発したばっかで、このチームとしては今のが初戦闘になるが」
「なるほど……僕は銀河機関オルデナのイラルギ・レベルスだよ。よろしく」
「おう」
お互いの自己紹介を終え、イラルギとカガリは軽く握手を交わす。
「あれ?さっきの羽生えた子は?」
メルトはキョロキョロと見回すが、姿が見えない。
「彼女ならさっき僕らの船に運んだよ。今は"治癒カプセル"の中で眠ってる」
とイラルギは星船を指差した。
「カプ……なんて?」
「治癒カプセル。簡単に言うと怪我を治す機械さ。勿論度合いによっては治せないけど、あれくらいの怪我なら五時間も眠れば完治するはずだよ」
「凄えな!宇宙の技術ってヤツか!」
メルトは興味津々で星船の方へと熱い視線を送る。
それをスルーして。
「天使なんて初めて見たぜ」
とカガリ。
「僕だってそうさ」
イラルギも苦笑する。
「だが、連盟の情報網で何度か目撃例は聞いてた。魔族が現れた時に救われたとか、そういうのがほとんどだ」
「うん。彼女──ピレッタちゃんの話じゃ、天使は"天域"っていう場所に住んでて、魔族関連以外じゃこの世界に干渉しちゃいけないルールがあるらしい」
「へえ……こんだけ魔族が暴れ回ってるってのに、天使一人だけたあ随分人手不足なんだな、その天域ってとこも」
「いやぁ、"神兵隊"っていう仲間がいたんだよ。だけど魔族の幹部にみんな殺されちゃってね……僕の仲間も一人やられた。ウチのリオちゃんも、本当はもっと明るい子なんだけど……ああ、ごめんねしんみりしちゃって」
寂しそうに言うイラルギに、カガリは神妙な面持ちになる。
「ただ、その時のことについて一つ懸念点があるんだ」
「懸念点?」
「ピレッタちゃん、その幹部の腕を斬り落としたんだよ」
「!……それってあの放送に映ってた……」
カガリは二日前に行われた宣戦布告配信を思い出していた。
出たがりな紫髪の魔族の後ろに立っていた、ヤギのようなツノを持つ隻腕の魔族。
「ああ、彼だ。名前はバレット。七落閻と呼ばれる彼らの一人に大ダメージを与えたのは勿論凄いことではあるんだけど……目を付けられちゃったのか、あれから僕たちずっと狙われてるみたいなんだよねぇ」
イラルギは後頭部を掻きながら、困り顔で苦笑して言う。
「さっきもエネルギー補給中にいきなり魔族が出たもんだから、対処せざるを得なくて参ったよ……そんなのがあれからずっと続いてるんだ。ろくに休めやしない……今までなんとか生き残ってこれたけど、今回ばかりはキミたちが来てくれなきゃホントに終わってたし……」
「なるほどな。おかしいたあ思ったんだ。既に支配下にあるヴァリアール国内をヤツらが今更襲わせる理由はねえ」
カガリは腕を組みあたかも頭脳系キャラかのように装っているが、メルト共々、ハルクスに指摘されていなければそれに自力で気付くことはなかっただろう。
「それで……これからどうするつもり?」
とハルクスが話を進める。
「もうオルデナの本部に応援要請は送ったから、応援が来るまで待機かな。とにかく一度この国を出るよ。これ以上僕らを狙って住民の方々まで危険に晒すわけにはいかない。星船のエネルギーは充分だし、すぐにでも出発できる。」
「つっても、外国は外国で今ヤツらに攻撃受けてんだろ?どこに逃げる気だよ?宇宙に帰んのか?」
「一応当てはあるよ。ここから南西に九千五百キロ──ヘワーナ国・アエーリン山脈の地下に、オルデナの秘密基地がある」
「秘密基地!?」
星船に夢中になっていたメルトが、心踊るワードに引き寄せられて戻ってくる。
「あんたらそんなもんいつの間に……許可は取ってんだろうなぁ?」
カガリは怪訝な顔をする。
秘密裏にそんなものを宇宙人に作られては、世界連盟の沽券に関わる大問題である。
「はは、そんな睨まないでよ、勝手に作ったりしないって。"ラプラス・エトルキズ"は知ってるよね?この星じゃ"未来の技術を持った宇宙の使者"と伝わってるはずだ」
「あ?そりゃ知ってるさ。十勇の一人だろ。それが?」
十勇の末裔たるカガリは勿論、一般常識として当然知っているハルクスもこくりと頷く。
メルトだけはあまりピンと来ていないようでキョロキョロと三人の顔を窺うが、それを無視して話は進められる。
「彼は僕らと同じガルンビカイナ人だった」
「……ああ、なんとなくそんな気はしてたが……」
「ラプラスがこの星で十勇に名を連ねたのは、この星で暮らしてたからなのさ。で、当時彼が使ってたのがその基地だ。オルデナはこの星での経験を元に、ガルンビカイナで彼が設立した機関だ。だから今もその土地はオルデナが保有してる」
「なるほどな」
「ん?でもアイツらっていきなり穴開けて出てくるんだろ?その基地ってのがどれくらい凄いのかは分かんねえけど……あの穴を使われたらどこに逃げ込んでも意味ないんじゃないか?」
メルトは首を傾げて言う。
「基地の強力な結界を起動すれば魔族も簡単には入ってこれないはずだよ。魔族がこの世界に現れる際に通る門は魔力で作ってるんだけど、結界はその魔力自体を遮断できるからね」
「……へえ~……」
よく分かっていなさそうな表情で、とりあえず相槌を打つメルト。
「くく、メルトはまだ魔力なんて使えねえもんな。分からなくて当然だ。あたしのこの紅蓮拳も魔力で発動してんだぜ」
とカガリは拳から小さく火花を散らせる。
「そうなのか!?じゃあカガリも魔族……!?」
「んなワケねえだろ」
肩をすくめて笑い。
「魔力なんて誰でも持ってんだよ。ただほとんどの生き物は使い方を知らねえんだ。ま、後でちょっとしたコントロールの仕方くらい教えてやるよ」
「ホントか!約束だぜ!」
「おう」
コツンと二人が軽く拳を合わせている横で、ハルクスが別の疑問を投げかける。
「でも十勇が使ってたってことは、二千年以上も前のものでしょう?そんなものが今でも使えるの?」
「……どうだろうねえ」
「おいおい……」
無精髭の生えた顎を触りながら呑気に言うイラルギに、呆れ顔のカガリ。
「僕らも行くのは初めてなんだ。でも二年に一度はオルデナの技術者が整備に来てるはずだよ。本部にも確認済み」
「二年に一度って……そんなもんでいいのか?」
「自己保全機能があるからね。人力での整備もしてるとは言えこれだけ長い間動き続けてるのは、ラプラスの技術力あってこそだ」
「流石は十勇、ってとこかしら?まあそれなら心配はいらないわね」
ハルクスは腕を組んで頷きながら、微笑を浮かべた。
「それで、キミたちはどうするの?」
「言ったろ、あたしたちはまた別の街に行って魔族を討伐する。そんで一人でも多くの人を救う。最終的にはあのライザーとかいうヤツもブッ倒す!」
カガリは拳を突き出し、自信に満ちた顔で言う。
二日前に見せたあの弱気な姿は、メルトやハルクスという仲間を得たことですっかり解消されたようだ。
「はは、頼もしいな。勿論決戦の折には僕らも参加させてもらうよ。応援が到着するまであと二日ってところだ。戦力が整い次第連絡するからさ」
イラルギがそう言うと、突然カガリのポケットから「ピピピ」と音が鳴り。
「ん?」
携帯端末を取り出し画面を開いたカガリは片眉を上げる。
そこには十二桁の番号が表示されていた。
「それ、僕らの連絡先」
とイラルギは自身の頭に装着したヘッドホンを指差す。
なるほど、とカガリは納得しつつも、一切の動作もなく一方的に端末に侵入されたことに気付き、技術力の差に驚かされるとともに、プライバシー保護の観点から若干懸念を抱いて目を細める。
「ちょっとそんな顔しないでよ……これでも僕ら銀河の平和を守る組織だよ。勝手に中身覗き見たりしないって」
「……分かってるよ」
分かってなさそうな顔で答えるカガリに、イラルギは苦笑するしかなかった。
情報交換を終え。
「それじゃそろそろ」
とイラルギは片手を挙げて別れを告げる。
「ああ」
「気を付けてな!また会おうぜ!」
そう言うメルトの無邪気な笑みに、イラルギも笑い返すと、くるりと背を向けて星船へ歩いていった。
「そんじゃオレたちも次の街へ行こうぜ!カガリ、ハルにゃん!」
「おう」「ええ」
メルトの提案に二人も頷き。
周囲の建物によって着陸できず上空に待機していた筋膨Xへと乗り込むべく、ハルクスがパチンと指を鳴らすと、機体下部の乗降口からするすると長いホイストが三人の前に降りてきた。
「いっちばーん!」
と高くジャンプしてホイストに飛び乗るメルトを、二人は優しく見守る。
末っ子を可愛がる姉と保護者のような関係性がすっかり板についてしまったらしい。
† † †
「仲間集めだ!」
飛行中の筋膨X・トレーニングルーム内で、メルトは高らかに言った。
二人はメルトに視線を向けながら、頭にハテナを浮かべる。
「宇宙人のオジさんが応援を呼んでるって聞いて、思ったんだ。オレたちにも仲間が必要だ。確かにカガリもハルにゃんもめちゃくちゃ強え!けど、魔族は数が多すぎるだろ?せっかくこんなデカいジェット機で旅してんだ。もっと仲間を増やさなきゃ損だろ!」
「うん」「そうね」
力説するメルトに対し、カガリとハルクスは冷めた表情で頷いた。
「なんだよその反応……」
と、メルトは頭にハテナを浮かべ返す。
「いや、元々そのつもりよ?」
「そうなの!?」
メルトはギャグ漫画ばりに目を飛び出させて驚く──風船族ならではの表現方法である。
「聞いてなかったのかよ。さっきの移動中に話したろ。……ってあんたずっと筋トレ器具に夢中だったもんな……悪い」
カガリは呆れて溜め息を吐きつつも、メルトの行動を思い返し反省する。
「いやあ、オレの方こそゴメン!じゃあもうどこ行くかも決まってんのか?」
メルトも謝りつつ訊く。
「当然だろ。じゃなきゃ今どこに向かってると思ってんだ」
「確かに」
「まあ本当なら連盟のヤツら招集して一気に根城攻めるのが最善なんだろうが……こうも世界中同時に攻撃されてると自由に動けねえ。一応本部に連絡は入れてみたが、実働部隊のほとんどが各地で戦闘中だそうだ。ハルクス、マップを」
「ええ」
ハルクスが指を鳴らすと、壁に設置されたトレーニングサポート用モニターの映像が切り替わった。
映し出されたのは世界地図だ。赤い点で現在地が示されている。
「私たちも一旦ヴァリアールを出るわ。敵が国内を攻撃しないなら留まっている意味もないし、今の戦力じゃヴァリオスに向かったところで返り討ちにされて全滅するのがオチでしょう」
ヴァリアールの中央部・首都ヴァリオスの位置を指しながらハルクスは言う。
「じゃあどこに?」
メルトは地図に注目しながら顎に手を当てて首を傾げる。
「ここから北西におよそ千五百キロ──」
とハルクスは地図を指で辿り、行き先を指し示す。
「弔いの国・バラサよ」




