十八章 †遥かなる旅立ち†
† † †
ヴァリアール王国・ニント村。
今日の訓練を終えたメルトたちは、またそれぞれの住居へと散り散りに帰っていく。
その帰り道。
「メ~ルトっ!」
「おわっ!」
すっかり懐いたカガリが、後ろからメルトに飛びついた。
「なあ、今日もあんたんとこ泊まっていいか?」
「え、いいけど……そんなに泊まるならカガリもホテル代出してくれよ」
「へへ、なんだよ金に困ってんのか?そんくらいお安い御用だぜ。あたしこれでも世界連盟の所属だから、まあまあいい給料貰ってんだ」
「へえ~」
「まああたしは連盟特権で宿泊手当が出るから金はかからねえんだけど」
「えー!いいなそれ!」
えっへんと胸を張るカガリに、素直に羨望の眼差しを向けるメルト。
「……てか、あんたは軍から支給してもらえねえのか?アイツらに頼まれてこの村に残ってんだろ?宿泊費ぐれえ出してもらえるだろ」
「軍の規定で無理なんだって。ヴァリアール国民じゃないからなぁオレ」
「はあ?何だそれ!そんくらい融通効かせろよ!文句言ってきてやる!」
カガリは握り拳に火花を散らして演習場へ引き返そうとするが。
「いいって!ここにいるのはオレの意思なんだから!」
とメルトは腕を掴んで引き留める。
パワーが違いすぎて全く止められないまま数メートル引きずられたが、必死にしがみつくメルトを見て少しときめいたカガリは自ら脚を止めた。
「はあ……まああんたがいいならいいけどよ。自分の意見はちゃんと言わなきゃダメだぜ」
少し顔を赤らめつつ叱るように言うカガリ。
「へへ、分かってるよ。ありがとな」
それから二人は並んで帰路についた。
「そういや、世界連盟って具体的には何するんだ?」
歩きながら、メルトは疑問を口にした。
「……あんた知らずに聞いてたのかずっと……」
カガリは呆れたようにジト目で言う。
「へへ、いやオレだって一年旅してきたから何となくは知ってんだぜ?世界中のほとんどの国が加盟してて、平和を取り持つためになんかいろいろやってるみたいな……」
「あやふやだな……まあ間違っちゃいねえ。国家間で揉め事が起きた時に、関係の悪化を防ぐための協定を提案したり、そのための国際法や条約を定める機関だ。加盟国は全九十九ヶ国中、九十七ヶ国。あんたの住んでたルーバンも加盟してる」
「へー、そうなのか」
「それも知らねえのか……」
カガリはジト目を細めつつ、話を続ける。
「平和を取り持つとは言っても、戦争が起きた時に手を出す権限まではねえから、連盟はあくまで起こらないように努力する。もし起こっちまったら双方に掛け合って、より早く終わるようにする。そうやってなんとか平和を保ってきた。完璧とは言えねえけど、このお陰で百年前の"五国大戦"以後、大きな戦争は起きてない。あと、国家間のバランスを崩しかねない"十勇の末裔"とか、"魔族"みたいな極秘事項を世間一般に知られないように情報操作すんのも連盟の仕事だな。今の状況じゃもうどうしようもねえから、担当は頭抱えてんだろうけど……」
「……なるほどなー」
目が点になっているメルトを見て、カガリのジト目はさらに細められる。
「さては理解できてねえな……ま、そんなのはもっと上層部の仕事。昨日も話したけど、あたしらみたいな実働部隊は世界中飛び回って、一国家じゃ手に負えないようなヤバい組織潰したり、魔獄からの侵入者をブッ倒すだけだ」
カガリは拳を突き出すジェスチャーをしながら言う。
「実働部隊って、みんなカガリみたいに強いのか?」
「はあ?あたしは別格に決まってんだろ!……つっても、みんなそれなりには戦えるぜ。強くなきゃやってけねえからな。十勇の末裔だらけだ」
「すげえな……」
「特にウチのスパイラル家と、シュウの末裔のドレッドノート家は連盟との結びつきが強くてな。所属メンバーの半数を占めてる」
「ふーん……メンバーって何人ぐらいいるんだ?」
「実働は五百人くらいだな。スパイラル家は百人以上が所属してる」
「すげえ、大家族じゃん!」
「いや全員兄弟ってわけじゃねえぞ?ほとんどは遠い親戚だ。実の兄弟はレイジと……一人歳の離れた兄貴がいるけど、コイツはろくでなしでな……ウチの教育が嫌で逃げ出して、世界を放浪中」
カガリはそう言って苦笑する。
「へへ、オレと同じだな」
と自嘲するようにメルトも苦笑すると、カガリはむっとして眉間に皺を寄せ。
「同じじゃねえよ!馬鹿兄貴なんかよりメルトのほうがよっぽどカッコ──ゴホン……頼りになるよ……」
「お、おう……?」
「い、いいからさっさと帰ろうぜ!」
カガリはすたすたと早足で歩き始めた。
その時。
「ちょっといいかしらお二人さん」
二人を待ち伏せていたかのように、帰路の途中の塀に体重を預けるようにして立ち、腕を組んで強者の風格を漂わせながら声を掛けてきたのは、筋肉アイドル・ハルにゃんこと、ハルクス・ジェン・フートラッドだった。
「ハルにゃん?何だよこんなところで。どうかしたのか?」
メルトが尋ねるとハルクスは掛けていたグラサンを上にずらして素顔を見せ、二人の前に仁王立ちで立ち塞がる。
「今、どう思ってる?」
「え?どうって……すげえ筋肉だと思うけど……」
「ふふ、ありがと♪でもそうじゃなくてね。訓練についてよ」
二人は質問の意味が分からず顔を見合わせる。
「訓練ならすげえ勉強になってるぜ。今日だって新しい技を習得したんだ。ハルにゃんにも見てもらいたいぜ」
「ああ。あたしもだいぶ体の調子戻ったし、すぐにでもアイツらにリベンジしてえ気分だ」
と取り敢えず訓練の成果を報告。
するとハルクスは闘志を燃やす二人の顔を見て、ニッと口角を上げた。
「いいわね……でもそうじゃない」
「じゃあ何なんだよ!はっきり言え!」
ついカガリが強めにツッコむ。
「おかしいと思わない?侵略が始まってからもう四日経つのに、一向にこの村を攻めてくる気配がない」
「そりゃまあ……アイツらもこんな田舎興味ないってことなんじゃねえのか?」
カガリは辛辣な物言いをするが、ここが国内でも屈指の田舎村であるのは間違いない。
「……それもあるでしょうけど、答えはもっと単純よ」
「え?」
「だってアイツら、この国はもう支配したと思ってるんですもの。矛先はすでに世界を向いてるの。ここで待ってたって何も始まらないわよ」
「!!」
二人ははっとして目を見開く。
「軍人さんたちの役目はこの村を守ること……だから分かってても私たちにそれを言い出したりはしない。ヤツらに狙われてない今のうちに、少しでも長くここにみんなを留まらせて戦力を強化したいのよ。だけどこうしてるうちにも他の場所で魔族は暴れてる……アナタたちネットとか疎そうだから知らないでしょうけど、SNSにもたくさん情報が上がってるわ」
と、ハルクスはスマホの画面を見せる。
そこに映っていたのは建物の中から撮影したであろう、外国と思しき場所で軍が魔族と交戦している映像だった。
恐らく戦いの中で引火したのかいくつもの家屋に火が燃え広がり、隠れることもできずに逃げ惑う住民が魔族に襲われる凄惨な光景。
「アナタたちは軍人とは違うでしょ?元々この国の住民じゃないアナタたちにとって、こんな村で訓練を積むより大事なのは、ヤツらと戦って犠牲者を少しでも減らすことなんじゃない?」
ごくり、と二人は息を呑む。
「で……でもあたしたちは──」
「行こう、カガリ」
メルトは迷いなく、言った。
「え?」
「ハルにゃんの言う通りだ。オレは戦いたい。魔族を倒そう」
「でも……──」
カガリは言いそうになった言葉を呑み込む。
──今のメルトの力じゃ魔族には勝てねえ……雑魚魔獣ならともかく、もしB2クラスの幹部に襲われでもしたら……。
「言ったろカガリ。オレはずっと逃げてきたんだ……だから、もう逃げないことにした。もし戦って死ぬことになったとしても、オレは全力を出し切りたい」
「…………!」
カガリは動揺していたが、覚悟の決まったメルトの顔を見て、ふうっと深く呼吸し。
「くく……やっぱ凄いな、メルトは」
と小さく呟く。
「え?」
「何でもねえよ。あたしも当然行くさ!こんなチビ一人で行かせられるかっての!」
燃えるような笑みを浮かべて言いながら、左手のひらに叩きつけるように燃える右拳を当てる。
メルトもそれを見て頼もしそうに笑みを浮かべた。
「うふふっ、そう言ってくれると思ったわ。勿論、私もそのつもり」
全てお見通しだと言わんばかりに、一貫して態度を崩さないままハルクスは言う。
「えっ!ハルにゃんも来てくれるのか!?そりゃ頼もしいぜ!」
メルトは素直に喜ぶが、カガリは首を傾げる。
「でもあんたはここの住民なんじゃ……」
「いえ?私もアナタたちと同じ外国人よ。これでも私、世界的大スターなの。この村にはちょっと視察に来ててね」
「視察って?」
「ウフフ、それは内緒♡」
ハルクスはアイドルらしく口に人差し指を当ててウインクする。
カガリは若干ノリが合わないらしくジト目で微妙な反応だが、ハルクスは気にも留めず話を続ける。
「……取り敢えず、行くと決まったからには準備が必要ね。今日は訓練で疲れてるでしょうからゆっくり休んで、明日朝十時、イーストニントの中央広場に来てちょうだい。そこを出発点としましょう」
「なんでイースト?別に出発なんてこっからでも……」
「アナタたち歩いて行くつもり?戦いは世界中で起きてるのよ。交通網は麻痺してるし、移動だけでもかなり時間取られるわよ?」
「あ……」
二人は全く考えていなかったようで何も言えず。
その反応すらも全て読んでいたかのように、ハルクスはニヤリと笑う。
「イーストニントにはね、私のプライベートジェットが駐めてあるの」
「プライベートジェット!?」
思わずハモる。
「そ、そんな大富豪だったのか!?ハルにゃん最初、お金が足りないみたいなこと言ってただろ!?」
「うふふ、あんなのただのリップサービスよ、周りにやる気を出させるためのね。私はあの時点でこうなることもなんとなく予測してたから、住民たちだけでこの村を守れるようになってほしかったの」
「そ、そうだったのか……!どこまで見えてるんだハルにゃん……」
二人は衝撃のあまり言葉を失った。
「ふふ……さて、もう質問はないかしら?」
ハルクスは腕を組んだまま、二人の呆然とした顔を交互に見る。
「……大丈夫そうね。それじゃあ、明日十時に落ち合いましょう」
「お……おう!」
二人は頷く。
そしてハルクスは去って行く──が、去り際、カガリの肩に手を置き。
「大丈夫よ、アナタの恋路を邪魔するつもりなんてないから♪」
耳元で囁いた。
「は、はあ!?何言ってんだあんた!アホか!」
瞬く間に顔を真っ赤にして怒るカガリに、メルトは首を傾げる。
「どうかしたのか?カガリ」
「ななな、なんでもねえよ!さっさと帰るぞっ!」
† † †
翌、魔族の侵略開始から五日目の朝。
メルトとカガリは言われた通り、イーストニントの広場に脚を運んでいた。
人口の少ない田舎の広場にしては随分と広く、陸上競技場とも遜色ないように見える。
整備も行き届いており、山に囲まれた田舎にしては雑草もほとんど伸びていない。
「何だあ?誰もいねえじゃねえか」
その広大な広場を見渡しても人っ子一人確認できず、怪訝な顔でカガリが言う。
「臆さず来たようね!!」
「!?」
二人の後ろから静かに接近していたハルクスが大声で叫び、思わず二人はびくりと跳ね上がる。
「な、何だよハルにゃん!びっくりさせんな!」
「危うく紅蓮拳ブチ込むとこだったぞてめえ!」
まんまと驚かされて喚く二人を、ハルクスは腕を組んだまましたり顔で見つめる。
「………………」
「…………いやなんか言えよ!」
「うふふ、調子は良いようね二人とも」
「おう!」「当然だ!」
メルトとカガリはそのままの勢いで答える。
「さて、それじゃ早速だけどアナタたちに紹介するわ」
と、ハルクスは右手を高く上げ。
「これがアナタたちの乗る、私のプライベートジェット」
パチン、と指を鳴らした。
「な、何だぁ!?」
するとその上空に、凄まじいエンジン音とともに、十枚の翼を持つ巨大なジェット機が現れた。
ジェット機は速度を緩め、翼の下部についた別のエンジンが作動すると、機体の内部に格納されていた大量のプロペラが展開してドローンのような姿に変形し、広場の上空でそのまま停止する。
そしてゆっくりと高度を落とし始めた。
「私がアイドル活動で稼いだ大金の全てを費やし、これまでとは別次元の肉体改造を実現させるために造らせた、空飛ぶトレーニングジム……!現代科学の最高到達点……!」
「その名も──"筋肉大膨張号X"!!」
「す……すっげぇー!!」
興奮で目を輝かせるメルトとは対照的に、隣のカガリは呆然としていた。
「い……いや、プライベートジェットってレベルじゃねえぞこれ!?最新軍用機レベルの技術じゃねえのか!?」
詳しくはなくとも世界連盟でそういった兵器の知識も少しは身につけているカガリは、流石にツッコまざるを得なかった。
「そうよ」
至って冷静に腕を組んだままハルクスは頷く。
「そうよじゃなくて!なんでこんなもの持ってんだよあんたが!」
「フッ……金持ちだからよ♪」
「説明になってねえっ!」
「そう言われてもねぇ、さっき言った通りよ。アイドル始めたての頃、天才すぎてあっという間に大金を手にした私は、あらゆる筋トレとオシャレに費やしてもお金が余りに余ってね……なんとなく、安く売ってたイーストニントの土地を半分ほど買い取ったの。で、なんとか活用できないかと思いついたのが"筋肉大膨張号"の開発。世界中から腕の良い技師を雇って、密かにここで造ってもらってたんだけど、失敗に次ぐ失敗……試作九号機までが廃棄処分となったわ。そして先日ついに出来上がったのがこの筋肉大膨張号Xってわけ」
ハルクスは得意げに語り終え、さらに「あ、Xは十号機って意味よ♪」と付け加える。
「……じゃあ……昨日言ってた視察ってのは……」
「そ、完成の知らせを受けて見に来たの。まあ安心してちょうだい。勿論許可は取ってあるし、ちゃんとプロが操縦してる。見た目は派手だし機能は満載だけど、あくまでこれはただの"プライベートジェット"よ」
「……まあ……それならいいんだけどよ……」
カガリはどこか納得いかない表情だが、言葉でハルクスには敵わないと悟ったようだ。
何より、子供のようにはしゃぐメルトを見たらどうでもよくなった──実際子供ではあるが。
そうしているうちに、筋肉大膨張号Xが広場に着陸しようとしていた。
「うおおおっ!吹き飛ばされるっ!」
ジェットエンジンとプロペラから生まれる風圧によって辺りに土煙が舞い、軽い体のメルトも飛ばされそうになったが、咄嗟にハルクスの太い腕にしがみついてなんとか耐える。
そして筋膨Xはゆっくりと、重量感のある音を立てて着陸した。
「ふい~……焦った……」
風圧から解放されたメルトは額の汗を拭い。
「それにしてもでけえな!なんでこれが飛ぶんだ!?」
と改めて目を輝かせる。
「目の前に降りてくるとよりデカく感じるな……」
カガリもその巨大さに圧倒され、つい目を丸くする。
「……つうかもしかしてこの広場の異様な広さも……」
「そうよ。筋膨Xを着陸させたくて、森だったところを開拓したの。ここも私の所有地なのよ」
「なんでもアリだなもう……」
カガリが驚愕を通り越して呆れていると、機体下部の乗降口が開き、スルスルと階段が伸びてきた。
「さ、二人とも乗って。出発するわよ」
「おう!」
我先にとメルトが嬉しそうに乗り込む。
続いてカガリがそれを見て母親のような目線で微笑みながら乗り込み、最後にハルクスがゆっくりとマイペースに乗り込んだ。
「うおっ、広えな!」
そこには見慣れた旅客機らしい座席が百席ほど並んでいた。
と言っても通常の旅客機より天井も横幅も遥かに広いため、横に連なる二十の座席が五列並ぶという縦横比の狂った座席であり、座席間の通路にもかなりゆとりがある。
「ほら、アナタたちはここ」
とハルクスは窓際の席に二人を並んで座らせ。
「離着陸の時はちゃんとベルトしないとダメなのよねぇ法律で。筋膨Xなら助走なしでも真上に飛べるし揺れもほとんど起きないんだけど、安全のためにはしょうがないわ」
言いながら二人のベルトを確認した後、自分も席に着くと、筋膨Xを広場に呼び寄せた時と同様にパチンと指を鳴らす。
「離陸いたします」
パイロットと思しき男性の声でアナウンスされ。
甲高いエンジン音──外で聞いた時ほど大きくは聞こえないが、それでも防音を貫通して機内にも響く──とともに、機体にごく僅かな揺れが起きる。
「う、浮いたっ!凄え!」
窓の外を見たメルトは興奮する。
「凄いでしょ♪」
ハルクスは得意げに笑う。
カガリも驚きつつ、本当に大丈夫なのかと不安げでもある──九度の失敗を聞かされたばかりなので然もありなん。
が、その不安とは裏腹に安定したまま高度は上がっていき。
三人を乗せた筋膨Xはニント上空を後にした。
それからしばらくして、高度が安定し三人がベルトを外すと。
「さて、それじゃ案内しましょうか」
「案内?」
ハルクスは座席の後部にあるドアへ向かい、メルトたちもその後ろをついていく。
ハルクスがそのドアを開けると。
「なんだこりゃ!?本当にジェット機の中かコレ!?」
メルトたちは驚愕する。
そこには広い空間に大量のトレーニング器具がずらりと揃っていた。
「うふふ、凄いでしょう?大手トレーニングジムも真っ青の超最新器具よ。AIを用いた特殊なカメラで使用者の状態を常にチェックしながら、その人に合った最高のトレーニングを導き出すの。この奥には気温や環境が設定できる部屋とか、あらゆるスポーツに対応するシミュレーションルームもあるわよ」
「おおっ!面白え!やってみてもいいか!?」
「勿論。でもメルトちゃん、筋トレ意味ないんじゃなかった?」
「いいんだよ!気持ちが大事なの!」
と、メルトは夢中でトレーニング器具に飛びついた。
未だ呆然としながらカガリは、恐らく誰もが思っている疑問を口にする。
「い、いや、確かに凄えけど……飛ばす意味あんのか……?」
「移動中にも筋トレできるのよ?移動中って長時間同じ姿勢が強制されるから筋肉が固まっちゃうじゃない。私たちの天敵よ。でもこれなら、その弱点がむしろプラスになるわ!」
「そ、そうか……うん……まあ、降りてすぐ魔族と戦うことになるかもしれねえし、体が鈍らないのは今は助かるか……」
「そういうこと。プライベートルームも四部屋あるから、好きなところ使ってちょうだい。あ、二人は同部屋の方が嬉しいかしら?」
にやけた顔でハルクスは言う。
「いいからそういうの!」
カガリはまたぞろ赤面して怒る。
そんなカガリの想いも知らず、勇者メルトは大はしゃぎでトレーニング器具を堪能していた。
筋肉アイドル、膨張する少年、十勇の末裔。
奇妙な三人組による世界を救う旅は、こうして始まる。




