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十七章 †招来されし巨獣†

「ベルジェーン先生の分身体を倒したのは(ぬし)か」

 現れた巨漢の魔族──トマホークに対して、学園長ノウズは確認する。

「いかにも。ワシはトマホーク。御老公が倒したこの若輩の上司に当たる」

「倒れてねえよ」

 "光縄(ライトロープ)"で縛られたマリスが不機嫌な顔でツッコむ。

 トマホークは一瞥すると、斧で縄を斬り裂きマリスを解放した。

「若い方は任せるぞ。御老公はワシがやる」

「チッ、命令すんなジジイ」

 マリスは助けてもらったくせに悪態をつきながら立ち上がると、すぐに剣を構えた。

 それを受けてノウズは、ずっと膝をついたまま休んでいるウルマロを横目で確認すると。

「サク先生、戦えるか?儂も此奴ら二人相手では少々荷が重い」

 と声を掛ける。

「勿論」

 ウルマロはそう言って不敵な笑みを浮かべた。

 すると突如、ウルマロの前の地面に、直径十メートルはあろうかという大きな魔法陣が浮かび上がった。

「これは……!」

「僕がただ休んでたとお思いですか学園長……すでに準備は整いました」

 ウルマロは両手のひらを魔法陣にかざす。

「何のつもりか分からんが、させると思うか」

 トマホークは即座にウルマロへと斧を投げ、同時にマリスも残った僅かな魔力で"鎌鼬(デスゲイル)"を放つ。

 が、二つの刃はノウズの"甲空(エアシールド)"により弾かれた。

 その隙に。


「"召喚(サモン)"」


 ウルマロが唱えると、同時に魔法陣は淡い光を放つ。

「── "光絶つ(やつ)の腕 闇刻む百の牙 黒き水底より浮上し 戯れに興じ給え 恒河沙(ごうがしゃ)の血に染まりし修羅の命脈を 喰らい尽くすまで"」

 詠唱とともに、魔法陣の光は徐々に強くなっていき。


第二の契約者(セカンドファミリア)──"ダークアーム"!!」


 次の瞬間、轟音を響かせ煙を纏いながら、魔法陣の上に巨大なタコのような怪物が出現した。

 そのドス黒い表皮はまるでそこに穴が開いているかのように光をほとんど反射せず、八本の太く長い触手をうねうねと波打たせている。

「何だこれは……」

 突如現れたライザーよりも巨大な怪物に、トマホークたちは呆気に取られる。

「握り潰せ、ダークアーム」

 ウルマロが命じると、怪物──ダークアームはその太さ二メートルはあろうかという巨大な脚を動かし、トマホークたちに襲いかかった。

 二人は咄嗟に跳び退きかわすが、自在にうねる八本の脚から逃れるのは至難の業だった。

「チッ、かわしきれねえ!」

「かわせんのならば──」

 とトマホークは斧を両手で持って大きく振りかぶり。

 横から薙ぎ払ってくる脚にタイミングを合わせて、勢いよく振り下ろした。

 脚は綺麗に斬り落とされ、白い断面が露わになる。

 が、同時にその背後から別の脚が迫り、トマホークに巻き付いた。

「くっ!……ぬおおおおおっ!!」

 トマホークは雄叫びを上げ、力尽くでその脚から抜け出す。

 しかし依然としてダークアームの猛攻を前に、二人は苦戦を強いられている。


「見事な"召喚獣(サーヴァントビースト)"じゃ、サク先生」

 その光景を見ながら、ノウズが言う。

「ありがとうございます。"召喚(サモン)"だけは昔から得意でしたから」

「残り少ない魔力でよく、これほどの召喚獣(サーヴァントビースト)を呼び寄せたものじゃな。あの魔法陣が関係しておるのかの?」

「はい、僕が開発したオリジナルの魔法陣です。見ての通り大きいので準備に時間はかかりますが、魔力をギリギリまで節約できます。ま、これでもう魔力はすっからかんになっちゃいましたけどね。……ていうか召喚獣(サーヴァントビースト)って、いつの言い方ですか学園長……今は"使い魔(ファミリア)"が主流ですよ」

「おお、そうじゃったな。……それにしても彼奴ら、しぶといのう。儂も加勢するとするか」

 そう言ってノウズは杖を携え浮上すると、上空から魔族たちへ攻撃を開始した。


 † † †


 学園北方。

 分身体の敗北を他所に、こちらのムレファは戦いを優位に進めていた。

「私の分身体が殺されるとは想定外だったよ。けど、お前はアイツほどの達人じゃない」

 ムレファは余裕の表情で白ネコ魔族──チェインの前に立ちはだかる。

 "分裂(ダブル)"の効力が切れた影響か、トマホークと戦った"もう一人の自分"の得た情報もムレファに届いているようだ。

 対するチェインは折れた右腕を左手で支えながら、息を切らしてムレファを睨む。

 愛用していた鎖鎌は無惨にも破壊され、その周囲には、ムレファが浮かせているであろう大岩がいくつも宙を漂っている。

「チッ……本当に強いわねアナタ……」

「今すぐ部下の魔獣たち連れて魔獄に帰れば命までは取らないけど、どうする?」

「帰るわけないでしょ……!」

「はあ……」

 返答を聞いたムレファは即座に"浮遊移動(フロートムーヴ)"で操った大岩を、チェインの背後から飛ばす。

「がはっ……!」

 チェインは反応できず、大岩の下敷きになる。

 すでに満身創痍の状態では無理もない。

「ごめん。殺したいわけじゃないんだけど、帰らないって言うから……」

 岩の下で呼吸をしづらそうにして踠くチェインの元へ歩み寄り、申し訳なさそうに頬を掻きながらムレファは言う。

 戦いが終わったと見て周囲に浮かせていた岩もそっと地面に下ろすと。

「なんでそこまで戦いに拘るんだ?あのトマホークっておじさんも、戦いは好きじゃなさそうだったのに。よっぽど給料がいいのか?」

 怪訝な顔でムレファは訊く。

「きゅ……給料って何よ……?」

「ん?ああ、魔獄にはお金とかないのか。じゃあなんで?」

 するとチェインは少しの沈黙の後、口を開いた。


「……恐怖よ」


「恐怖?」

「……ライザー様が……戦いから逃げる者をお許しになるはずがない……」

「えっと……ライザーって、そっちの王様だっけ?」

 とほとんど開発室に篭って情報を仕入れていなかったムレファは、ウルマロからの報告で聞いただけのうろ覚えの情報をなんとか捻り出す。

「ふーん、そんなに怖いんだ、王様。でも、死ぬより怖いことなんてある?」

「……ライザー様を知らないからそんなことが言えるのよ……でも……きっとすぐに思い知ることになるわ……あの人に逆らうなら、嫌でもね……」

 岩の下敷きになり、恐らく感覚すらないほどに潰れた胴体から流れ出す血液で血溜まりを作るとともに、滝のような汗を流しながら、振り絞るような声でチェインは言う。

 さらに続けて。

「……まあでも……アナタが今後ライザー様に会うことはないわ……ウフフ……」

 と、笑う。

「!!」

 ムレファは気付く。


 ──魔力が異常な速度で膨れ上がってる……!?この死にかけの状態で……!?これは……!


 常に冷静だったムレファは一変して慌てた表情に変わる。

 そして咄嗟に人差し指を立て、目に入った校舎の屋根の一点を指差す。


 ──さよなら、ライザー様……どうかアナタが辿り着く場所に、輝かしい未来を……──!


 チェインは願い。

 次の瞬間、チェインを中心として大爆発が巻き起こった。

 凄まじい光と爆炎が、チェインの上にあった大岩は勿論、周囲の岩塊も全て呑み込んで消し飛ばしていく。


「自爆……か」

 ムレファは先ほど指差していた校舎の屋根の上に立ち、その光景を見下ろしていた。

 "召喚(サモン)"によって移動したのだろう。

「魔族には魔力のリミッターがない……噂でしか知らなかったけど、ホントだったとはね……」

 爆発は校舎にも届き、大きく削り取られている。

 瓦礫の下には、制服を着た数人の生徒が倒れているのが見える。

「生徒も何人か巻き込まれたか……トマホークにも負けちゃったし、これは怒られるなぁ……」

 大きく溜め息を溢しながら、曇った表情で俯く。自分の不甲斐なさに珍しく反省しているらしい。

「あ、ウルマロ、聞こえる?」

 とムレファは落ち込んだ声のまま言う。

 勿論ウルマロはまだ正門前で魔族たちと対峙しているのだが、恐らく"念話"を繋いだのだろう。

「ムレファ先生……!何ですか今の音!」

 すぐにウルマロの声がムレファの脳内に返ってきた。

 どうやら正門側にまで爆発の轟音は響いていたようだ。

「実は──」

 ムレファは一部始終を簡潔に話した。

 追い詰められた魔族が自爆する可能性──これは絶対に共有しておかなければならない情報であると判断したのだろう。


「……なるほど。分かりました。学園長のお陰でこっちはなんとかなりそうなので、先生は"(ゲート)"の封鎖と魔獣の駆除をお願いします」

「はいよー」

 そこで念話は途切れた。

「……はあ……億劫だ……まあ、やるしかないな」

 呟いて、ムレファは屋根から浮遊(フロート)で静かに降りると、チェインの出てきた(ゲート)の方へと歩みを進めた。


 † † †


 学園南方・正門前。

 ダークアームの八本あった脚はトマホークの斧によってさらに斬り落とされ、五本にまで減っていた。

 しかしそれでも形勢逆転と言うには足りず、ノウズによる上空からの射撃が二人をさらに苦しめている。

「ヒャハハハッ!無様だなトマホーク!」

 ボロボロになりながらマリスは笑う。

「……まったくだ」

 同じくボロボロのトマホークは相変わらず無愛想な顔で答える。

 迫り来る脚をかわしつつ、上空のノウズに向けて斧を投擲しながら。

「あの男……動く気配がないな」

 と、トマホークは正門の傍で棒立ちしているウルマロに着目した。

「ああ、アイツはもう限界だ。お前の感知力なら分かんだろ、俺との戦いで相当消耗してる。まさかこんな隠し玉があるたあビックリだが……召喚のためにあんな煩わしい詠唱が必要なら、そりゃサシでやってる最中にゃ使えねえわな」

「限界はお前も同じだろう……奴を殺せばこのデカブツが消えるということはないか?」

「あ?俺が知るかよ。勝手に試せ」

 その視線に気付いたウルマロは。


「あー……まずいな」


 呟いて、後退りし。

 くるりと振り返るとそのまま背を向けて校舎へと走り出した。

「ヒャハハッ、逃げやがったあの野郎!どうやら正解らしいぜ?」

「ならば話は早い」

 トマホークはそれを追って走り出す。

 フィジカルでは比べるべくもないほどのウルマロとトマホーク──その距離は瞬く間に詰められていく。

 ノウズとダークアームの攻撃をかわしながらでも、追いつくのにそう時間はかからなかった。

 背後に迫ったトマホークが斧を振りかぶる。

 その瞬間。


「っ……!!」


 トマホークの体に電撃が走る。

「"雷地雷(サンダーマイン)"……無事か?サクちゃん」

 校舎の方からこちらへ杖を向けて立っていたのは、男性教師──ラオだった。

「ラオ先生、助かります!」

「そらこっちのセリフや。まだ若いのに、任せてもうてすまんの。こんくらいは手伝わせてくれ」

 二人がそう言葉をかわしているうちに、痙攣して動きを封じられたトマホークの背後に巨大な脚の一つが迫り。

 そして容赦なく振り下ろされた脚に、トマホークは叩き潰された。

「ヒャハハッ、死んでやんの」

 と、マリスはそれを見て嘲笑するが。

「え」

 気を抜いたその一瞬のうちに斜め上から振り下ろされた脚によってマリスも叩き潰される。

 はみ出た腕がピクピクと痙攣する。

「……終わったみたいやな」

 ラオと呼ばれる教師は、胸を撫で下ろすように呟く。

「いや、まだじゃ。息があるうちは油断できん……完全にトドメを刺す」

 そう言うとノウズは杖を掲げ、その先に巨大な光を集積し始めた。

「おーこわ……戦争知ってる世代はそらそうか……」

「……ヤツらには自爆能力があるんです」

「自爆ぅ!?」

「魔法生物科のラオ先生なら当然ご存知と思いますが、本来生物に備わっているはずの、一度に発せられる魔力を制限するリミッター……ムレファ先生からの報告によれば、どうやら魔族にはそれがない」

「リミッターがない!?んなアホな!そんなもん、自分の魔力に焼き尽くされて死んでまうやろ!……いや、だからこその自爆ってわけかい……!」

「恐らく。全ての魔力を一斉に放出し、自身の肉体も棄てた特攻……それがヤツらの最終手段なんだと思います」

「……そら厄介やな……」

 ラオは心底ぞっとしたような顔でぼやいた。

 話しているうちに、ノウズの杖には光が溜まり切ったようだ。


「二人とも離れておれ。"灰燼光(インシネレイター)"」


 ノウズが唱える。

 すると光は二つの球状の弾となって、脚の下敷きになっているトマホークとマリスの方へそれぞれ撃ち下ろされた。

 光は脚を貫いてその下の魔族に命中する。

「ぐあああああああっ!!」

 やはりまだ息があったようで、トマホークは絶叫するとともに、"灰燼光(インシネレイター)"の影響かその体が少しずつ灰となって崩壊していく。

 しかし、マリスは違った。

「む……?」

 違和感を感じたノウズが、マリスの方に放った光を解くと。

「え……マリスがいない……!?」

 ダークアームの脚に潰されたはずのマリスの姿が消えていた。

 はみ出ていた左腕だけがそこに残り、灰燼光(インシネレイター)によって灰になりかけている。

 ウルマロは思わず周囲を見回す──が、どこにも姿は見えず魔力すらも感じない。

「そんな……一体どこに……!」

「ア、アレよう見てみい!」

 とラオが何かに気付き、マリスがいたはずの場所を指差す。

「穴!?」

 そこには人一人がギリギリ入れる程度の小さな穴があった。

「"(ゲート)"か……!ダークアームに潰される直前、腕を棄てて魔獄に逃げ帰ったんだ……!」

 そこへふわりとノウズが着地し、穴を観察する。

「ふむ……確かにあの一瞬、魔力の揺らぎを感じた気がしたが……あれは(ゲート)を開いておったのか……自ら腕を斬り落とすことでそれを悟らせぬとは、何たる豪胆……」

 長い白髭を触りながら、神妙な顔で言う。

「感心しとる場合とちゃうで学園長。早よう(ゲート)塞ぎ」

「おっと、そうじゃな」

 はっとしてノウズは穴に杖頭を向けると、その周りの地面が渦を巻くようにして中心へ集まり穴を塞いだ。

 時を同じくして灰燼光(インシネレイター)に焼かれていたトマホークの体が完全に灰と化し、役目を終えた光も徐々に小さくなって消えた。

「ふう……マリスも今の魔力じゃすぐには戻ってこれないでしょうし、これで幹部連中はなんとかなりましたかね……」

 ウルマロはそう言うと緊張の糸が切れたのか、どさりと尻餅をつく。

 同時に"使い魔(ファミリア)"であるダークアームも霧のように消滅した。

「お疲れさん。ほな俺は魔獣退治に戻るわ。二人とももう魔力だいぶ減ってもうとるし、しばらくここで休んどき」

 ラオは校舎へと戻っていく。


「はあ……これから世界はどうなっていくんでしょうね……これほど大規模な攻撃……もはや魔族は周知の存在になってしまった……僕たち魔導士も、十勇も、もう隠れてはいられないでしょう」

 ウルマロはぼやく。

 学園長も髭を撫でながら、考えるように天を仰いで答える。

「そうじゃのう……じゃがきっと大丈夫じゃよ。儂も長年生きてきて、いろんな戦いを見てきた。戦いはいずれ終わる。儂らは魔導士の名の下に、ただ全力を賭して抗うのみじゃ」



 こうしてマジポリア魔法学園への進撃はなんとか食い止められた。

 とは言え、魔族の世界侵略が終わったわけではない。

 いずれ魔導士たちも再び戦禍に巻き込まれていくことになる。

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