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十五章 †名を刻まれし魔導士†

 † † †



 夕方。

 終業の鐘が鳴り、マジポリア学園の生徒たちは続々と教室を後にしていく。

 初等部一年の担任教師であるウルマロは、ドアの前に立って彼らを見送っていた。

「また明日ね、ウルマロ先生!」「先生さよなら~」

 キルトとミノアが仲良く並んで歩きながら、小さく手を振りながら挨拶する。

「はい、また明日」

 とウルマロも笑顔で手を振り返し。

「……ふう……みんな帰ったかな」

 教室をぐるりと見渡す。

 誰もいないことを確認すると。

「──さて、修復の時間だ」

 そう言って、愛用の黒い鞄から透明なガムテープらしきものを取り出す。

 そして何やら、教室のあちこちにそのテープを貼り始めた。


「あれ?先生、何してるんですか?」


 振り返ると、開いたままのドアからショウが顔を覗かせていた。

「ショウ君こそ、どうかしたの?」

「あ、いえ、忘れ物しちゃって……」

「そうか。これはね、"自動修復(オートリペア)テープ"っていう魔道具だよ。壊れた物に貼ると勝手に直してくれる。今朝、いろいろ壊れたでしょ?それを直してるんだ。少し時間は掛かるけど、明日には間に合うよ」

 せっせとテープを壁に貼りながらウルマロは説明する。

「えっ?でも先生、魔法でちゃちゃっと元通りにしてたじゃないですか」

「あれは応急処置さ。魔法はそこまで万能じゃない」

「そうなんですか……じゃ、じゃあもしかして今までもずっと、僕たちが帰った後でこうして修復作業を?」

「ハハ、まあね」

「ぼ……僕も手伝います!」

「いいよ、遅くなるとお家の人が心配するでしょ」

「大丈夫ですよ、うちは迎えが来てくれますから」

 ──ああ、この子、スパイラル家だもんな……。

 ウルマロは、ショウが世界連盟とも繋がりの深い良家の出身であることを思い出す。

「それに僕も使ってみたいんです、魔道具!」

 ショウはねだるようにウルマロの持つテープへと熱い視線を送った。

「そう言えばショウ君は魔道具に興味があるんだったね」

「はい!いつかはムレファ先生のような偉大な魔道具技師になりたいと思っています!」

 ──あの人のようにはならないでほしいけど……。

 つい出そうになる本音を飲み込みつつ。

「……仕方ないな。先生も少し疲れちゃったし、じゃあ手伝ってもらおうかな」

「本当ですか!?」

「今日だけ、特別だよ?」

「はいっ!ありがとうございますっ!」

 ショウは目を輝かせて満面の笑みを見せた。


 † † †


 数十分後。

「ふう、ありがとうショウ君。助かったよ。一人ならもっと時間掛かってたとこだ」

「いえ!何かあったらいつでも頼ってください!それでは先生、また!」

「うん、さようなら。気を付けてお帰り」

 修復作業を終えてショウを見送ったウルマロは、あのハードカバーの本を開いて、学園内の一室を映し出した。

 ──ちゃんとお風呂入ったかなあの人……。

 映し出されたのは例の"第一開発室"。

 しかし映像は真っ暗で、何が映っているのかはほとんど分からなかった。

 ──あーもう、また電気消してる!なんで暗くするんだ!見えないだろ!というかこの暗闇の中でよく魔道具なんか作れるな!

 一人で頭を抱えてイライラしながら、仕方なくウルマロは自ら足を運ぼうと廊下を早足で歩き始める。

 と、後ろから。


「おわぁ~!待って待って!ごめんサクちゃんそいつ止めて!」


「!?」

 その訛った口調に振り返ると、ネコともイヌともつかない長い耳の小動物がウルマロに飛びついてきた。

 ウルマロは咄嗟に魔法を使ったのか、その小動物はぴたりと空中で動きを止める。

 身を捩らせ脚をパタパタと動かして暴れるも(くう)を切り、そこへ追いついてきた男性教師によって脇腹を抱き抱えられ確保された。

「いやぁすまんすまん。研究中に手ぇ噛まれた隙に逃げられてもうて」

 綺麗に形を整えられた口髭を生やし黒いローブを纏う格式高い雰囲気の中年男性教師は、その妙な小動物の顎を優しく撫でながら、あまり思ってなさそうな謝罪を口にする。

「まったく、しっかりしてくださいよラオ先生」

「えぇ、僕への心配は無し?」

「要らないでしょ。ラオ先生"ヴァンプ族"じゃないですか。噛まれた傷なんて一時間もあれば完治するでしょう」

「まあそうやけど……痛いもんは痛いねんで?」

 ラオと呼ばれた教師は苦笑する。

「それより、気を付けてくださいよ本当に。ただの"カーバンクル"だから良かったものの、魔法動物なんて危険な力を持ってるものばかりなんですから」

「はぁ~い……ていうかただのカーバンクルとちゃうよ。世にも珍しい青い宝石のカーバンクルや!」

 と、その小動物のでこを指差す。

 そこには青く輝く宝石が埋め込まれていた。

「……だったら尚更ですよ」

「はい、気を付けます……」

 ムレファへの苛立ちのせいかやたら気が立っているウルマロの冷たい反応に落ち込み、ラオはトボトボと去っていった。


 † † †


 数分後。

「入りますよ!」

 と言い切る前に開発室のドアを力強くスライドさせ、バチンと叩きつけるように電気をつけ、ウルマロはずかずかと部屋の奥へ入り込む。

 と。


「おおウルマロ、よく来たね」


 ムレファはニヤニヤとドヤ顔で胸を張って、自分の姿を見せつけた。

 ウルマロと同じく魔導士らしい黒マントを羽織り、その下には白いブラウスとベージュ色のフレアスカートを着用している。

「ふっふーん。どうだ、見てくれ、三週間ぶりに綺麗になったこのムレファ・ベルジェーンの美貌を」

「まだ臭いますよ。洗い直してください」

 ウルマロは眉間に皺を寄せ鼻を摘みながら冷徹に言い渡した。

「そんなっ!?ちゃんと洗ったのに!」

「……洗ってませんよね」

「えっ!?」

「魔法で表面の垢を落としてちょっと見た目整えただけですよね」

「な、何故それをっ!?」

「やっぱりな!そんなことだろうと思いましたよ!臭いが染み付いちゃってんですよ!特にその髪!なんだそれ!伸ばしすぎだろ!」

「そ、それは私の自由だろっ」

「ちゃんと面倒見切れるならな!持て余してるだろどう見ても!引きずってんじゃねーか!ただただ不潔だよ!」

「ぐすん……酷いよウルマロ。ここまで伸ばすのにどれだけ時間が掛かると……」

「だったらもっと大切にしてあげろ!傷み切ってんでしょうが!」

 怒鳴りすぎてゼエゼエと息を切らすウルマロに。

「……だ、大丈夫か……?」

 とムレファは心配の声を掛ける。

「誰のせいだ誰の……!……もういいですよ……分かりました。こうなったら強硬手段です」

「へっ?」

 すると突如、二人の足元に光の魔法陣が浮かび上がった。


「"召喚(サモン)"」


 ウルマロが唱えると、魔法陣の上に乗っている二人を光が包み──二人の姿が消えた。


 † † †


 次の瞬間、ムレファの視界にはとても見覚えのある景色が飛び込んできた。

「こ、ここは……」

 どこかの一軒家のリビングだった。

 いつのものかも分からない飲みかけのコップや食べ残しの皿がテーブルに放置され、床のそこかしこに書類や本が雑に高く積まれている他、洗っていない大量の服も脱ぎ散らかされている。掃除などしているはずもなく天井には蜘蛛の巣が張り、床や家具の上には埃がたっぷりと溜まっている。

「分かるでしょ、あなたの家ですよ」

 どうやらウルマロの魔法によって二人はムレファの家に瞬間移動したらしかった。

「な、なんで私の家"召喚先(サモンさき)"に登録してるんだウルマロ!ストーカーか!?」

「いや弟子なんだから家くらい登録しますよそりゃ。先生、家に篭ってると講義の日にも平気でバックれるし」

 呆れたように大きな溜め息を()きながらウルマロはムレファの手首を力強く掴むと、どこかへ向かう。

「ちょ、何だ、どこ行くんだウルマロ」

「庭ですよ。ここじゃ切れないでしょ、髪」

「ええっ!?やっぱり切るの!?切っちゃうの!?」

「当然です」

 そうしてムレファを雑草の生い茂る庭に引きずり出すと。

 ウルマロは魔法を使っていくつものハサミを浮かせて操り、ムレファの背後を取り囲むように配列する。

「ま、待てウルマロ、早まるな!髪は女の命だぞ!?」

 チョキチョキとハサミが開閉する音にビビったのか涙目になりながらムレファは訴えるも。

「その命を適当に扱ってるのはあなたでしょうが!」

 と問答無用で髪を切り落としていく。

「いやあああ!!たーすーけーてー!!」

 叫び声が家の周りの野山にこだまする。

「うるさいですよ、来るわけないでしょ助けなんて。なんでエルフ族って歳取ると誰もいない辺境に住みたがるんでしょうね」

「ああ……さようなら私の命たち……」

「はいはい」


「……そう言えば、彼らはどんな感じ?」

 と、なんだかんだ大人しく切られながらムレファが口を開いた。

「彼ら?」

「ウルマロのクラスの問題児たち」

「ああ……まあ言動には難ありですが、才能は頭抜(ずぬ)けてますね。僕の世代以上だと思います」

「へえ、そりゃ将来有望だね。あの子はどうだ?チノイの末裔の」

「キルト・ランゼルさんですね。彼女は魔力操作はかなり大雑把ですが、魔力量でカバーしてます。魔法もだいぶ扱えるようになってきましたし」

「そうか、ふふふ……私もあの子には期待してるんだよ。竜人族とエルフのハーフなんて聞いたこともないし」

「そうですね。彼女が魔導士免許を取るとなれば歴史的快挙だと思いますよ」

「成長が楽しみだね。ドレッドノート家のお嬢様はどう?」

「ドゥーズさんは肉体派ですからね……他の四人に比べたら魔力操作は劣りますが、魔力そのものの量はキルトさんにも引けをとりません。いずれは魔法も使えるようになるでしょう」

「ほうほう、それじゃああの悪ガキは?」

「フシオ君は……まあ認めたくないですが天才ですね…… 十勇"シナン・デッドリー"の血の影響か、魔導士の家系でもないのに入学から一ヶ月で魔力をコントロールし、今では無詠唱での魔法も会得してます。人体の半分だけに"浮遊(フロート)"をかけてバランスを崩させるような繊細な技も使ってましたし」

「ふふ、いいねぇ」

「笑い事じゃないですよ!今日も朝からそれで喧嘩になって大変だったんですから……」

「子供なんてのは喧嘩して成長するもんだよ」

「限度があるでしょ限度が。一歩間違えれば死人出てるとこでしたよ、まったく……」

「まーまー、そうカリカリしなさんな。それで?あとの二人は?」

「他人事だと思って……ショウ君もスパイラル家だけあって優秀ですよ、真面目ですし。ですが、中でも別格なのはミノアさんです」

「ミノア・ジャーキス──スパイラルとセレーネの末裔か」

「ええ。すでに"浮遊移動(フロートムーヴ)"を完全に使いこなしてます。教えた魔法は一瞬で覚えますし、飛び級は確実ですね。数年以内にA級レベルには間違いなく達するでしょう」

「はは、そりゃあ化け物だね。大人になる頃には私たちも越されちゃうかな」

「でしょうね」


 そう話しているうちに。

「──終わりましたよ。どうですか?」

 ウルマロは手鏡を持って、切り終えた髪をムレファに確認させる。

「おお!」

「別に丸坊主にしてやってもよかったんですが、さすがに生徒たちを驚かせちゃうので、とりあえず腰の辺りで切り揃えました。前髪も邪魔にならない程度に軽くしましたけど、どうです?」

「いい感じだぞ!お前美容師の才能があるな!」

 満足げにムレファは親指を立てる。

「世辞は結構です。というか先生に美容師の才能なんて分かるわけないでしょ」

 使い終わったハサミと切り落とした髪の毛の束を"浮遊移動"させて家の中へと運びつつ、ヘアブラシを掛けながらウルマロは淡々と言う。

「さて、次はお風呂に──」

 その時。


「来たか」


 ムレファが呟く。

 ウルマロも少し遅れて何かに気付いたようで、二人して神妙な顔つきに変わった。

「はあ……なんでこのタイミングで……」

「なんだウルマロ、そんなに私とのお風呂が惜しいのか。なあに、心配しなくても後で──」

「あんたから先にあの世に送ってやろうか」

「おい、いいから飛べウルマロ」

「っ……!分かってますよ言われなくても!」

 ムレファに軽い殺意を抱きつつウルマロはここへ来た時と同じように、足元に魔法陣を出現させる。


「"召喚(サモン)"!」


 † † †


 次の瞬間、二人はマジポリア学園へと戻ってきていた──と言っても元の第一開発室ではなく、現れたのは学園の正門前だ。

 二人の目の前には、巨大な竜巻が出現していた。

 その竜巻は地面に開いた大穴から発生し、天へと立ち昇っている。

「間違いない……魔族だね」

 大穴の奥から魔力を感じ取り、ムレファは確信する。

「はい。これまでの情報からして、恐らく竜巻が収まったら雑兵の魔獣が雪崩れ込んできます。速攻で片付けるので、先生は"(ゲート)"を閉じてください」

 ウルマロはそう言うと、杖を構えて戦闘態勢に入る。

「はいよー。幹部クラスは相当手強いらしいからねぇ。奴らが出てくる前に終わらせるに越したことはないね」

 軽いノリで答えるムレファは、特に構えもしない。

 戦闘は完全に任せるという意思表示だろう。

 二人が大穴を注視しながら待機していると、徐々に竜巻は細くなっていき。

「──来るよ」

 ムレファが察知すると同時に、大穴から途轍もないスピードで一つの影が高く飛び上がった。


「ヒャッハァ!!地上来たああああ!!」


 上空で嬉しそうに叫ぶその影の正体は、剣と盾を持った魔族の男。

 赤い瞳の鋭い三白眼に、後ろで一纏めにした金髪ロン毛、長く尖った耳。そして額には水牛のように湾曲したツノを生やしている。

 そしてその背後に。


「!!」


 ウルマロが一瞬で近付き、その背に杖を突き付ける。

 杖から何らかの魔法を放ったのだろうが、しかし魔族は即座に反応してそれを盾で弾いた。

 二人の間に小さな爆発が発生するとともに、二人はそれぞれ反対の方向へ吹き飛ばされ、土煙を上げながら着地する。

「すみません先生、読みが外れました。まさかいきなり魔人が単騎で来るとは」

「いいよ。もう(ゲート)は閉じた。あとはアレを処理するだけだ」

 気付けば大穴は消えていた。

「流石ですね……」

 ウルマロは少し驚きつつもすぐに気を取り直し、侵入を許してしまった魔族へと注意を向ける。

「オイオイ、この一瞬で穴を閉じれるのかよ!?ヒャハハッ!やるじゃねえかよ地上の魔導士!だが──」

 魔族の男が狂気的な笑みを浮かべてそう言った瞬間──突如、学園を大きな地響きが襲った。

「!!」

 咄嗟にウルマロたちはそれぞれ北方と西方を見る。

 学園の北方には天へと昇るように雷が発生しているのが見えた。

 西方には何も見えないが、鳥が一斉に飛び立ち逃げていく様から、異様な雰囲気が感じられる。

「……こうなったらどうするよ?」

 魔族の男はしたり顔で不敵に笑う。

「三方向から同時に攻めてくるか……魔力的には西の方がヤバそうだね。ここは任せるぞウルマロ」

「はい」

 ウルマロの返事を聞くと同時にムレファは足元に魔法陣を展開し、先程のように瞬間移動をしようと試みたが。


「行かせると思うかよ?」


 魔族は剣を勢いよく振り上げ、その太刀筋から風の刃のようなものを放った。

 刃は地面を抉りながらムレファへと一直線に飛んでいく。

 が、寸前でその刃は同じような風の刃によって相殺され、消滅した。


「邪魔させると思うのかい?」


 杖を構えてウルマロが言う。

「"召喚(サモン)"」

 そしてその隙にムレファは魔法を詠唱し、姿を消した。

「へえ、面白えな。一瞬で俺の技を真似たのかよ?」

「"斬空(エアブレード)"──似たような魔法があるだけさ」

「ヒャハハッ!いいねえ、思ったより楽しめそうだ!俺は"三牙鬼(トライデント)"のマリス!名ァ名乗れ魔導士!」

「僕はウルマロ・サク──ただの新米魔法教師だよ」


 † † †


 時を同じくして、異変のあった学園北方では。

「アナタ……ちょっと臭うわね」

 デコに一本ヅノを生やした白ネコ獣人の女が、嫌な顔をしながら言う。

 艶がかった白い毛並みはよく手入れされており、黒髪に黒い衣装を身に纏うムレファとは真逆といった印象である。

「デリカシーがないな……どこぞの弟子みたいだ」

 対峙するムレファは少しムッとしながら、敵を観察している。

 女は余程体に自信があるのか、下着のような格好で胸の谷間や引き締まったお腹、豊満な下半身を露出させている。

 そしてその手には、鎖鎌を携えていた。

「珍しい武器だね」

「そうでしょ?ウフフ、でも珍しいだけじゃないのよ。強いの。これでアタシは"七落閻(ドミネイトセヴン)"にまで上り詰めたんだから」

 魔族は見せつけるように、長い鎖の両端についた鎌を両手に構えて怪しい笑みを浮かべる。

「……それより、良いの?マリスのところみたいに穴を塞がなくて。うちの部下たちがどんどん出てきちゃってるわよ?」

 魔族の言う通り、その後ろに開いている"(ゲート)"からは続々と獣型や猛禽類型の魔族が飛び出し、学園の敷地内へと侵入していた。

「マリス?あの剣士のことか。さっきはウルマロがいたからいいけど、お前たちほどの使い手を前にそんな隙は晒せないよ」

「あら、嬉しいこと言うじゃないの」

「何、心配無用だ。この程度の魔獣なら他の先生方や上級生たちでもまだ対処できる。分かってるはずだろ?魔法学園の戦力を脅威と見たからこそ、幹部を三人も寄越したんじゃないのか?」

「ウフフ……どうやら馬鹿じゃないようね」


「私の仕事は、お前を仕留めることだ」


 ムレファはウルマロとの日常を過ごしていた時が嘘のように、冷静かつ自信に満ちた声で言い放つ。

「あら……そう。まあ確かにアナタの魔力も相当なモノだけど……このアタシを倒せるっていうのはどうかしら、ねぇ!」

 と、魔族は鎖鎌を高速回転させながら投げつけた。

 その鎌はムレファに当たる直前、キン、と甲高い音を立てて弾かれる。

「見えない防壁か何か張ってるわね。良いわ、全部削り取ってあげる」

 ──強いな。"甲空(エアシールド)"が一撃で砕けた。

 ムレファは冷静に敵の力を分析する。

 魔族はすぐに鎖で鎌を手繰り寄せると、再び回転鎌を繰り出す。

 二撃、三撃、四撃と、両端の鎌を鎖によって上手く操り、多彩な動きで絶え間なく攻め続ける。

 ムレファは棒立ちのまま甲空(エアシールド)を張って耐え続ける。

「ウフフ、防戦一方ね!反撃の隙がないでしょう?」

 ──うーん、確かに。これはウルマロの方が戦いやすい相手だったかも。ミスったな……。

「でも、アタシ一人に構ってて良いのかしら?向こうにも来てるのよ、アタシと同じ──"七落閻(ドミネイトセヴン)"がもう一人ね」

 魔族は攻撃の手を緩めることなく、煽るように言う。

 が、ムレファはやはり冷静に。

「問題ないよ。あっちにはすでに"もう一人の私"を送ってる」

「……?何言ってるのかしら」

「"分裂(ダブル)"という魔法だよ。文字通り対象を二人に分裂させる。魔力も半分になるけどね」

「ウフフ……半分の力で七落閻二人と戦うつもり?」

 ──待って……半分の力……?

 と、魔族は先程自分が口にしたセリフを思い出す。

 ──半分になった魔力を、アタシは"相当なモノ"だと感じてたって言うの……?

「まあ、それも問題ないよ。半分になった私でも、お前たち程度に負けはしないから」


 † † †


 正門前では。

「ヒャハッ!どうしたよウルマロ・サク、動きが鈍くなってんぞ!仲間が心配か?」

 一瞬の隙に背後を取られたウルマロが、マリスの斬撃をかわしきれずに右頬を刃が掠めていた。

 すぐさま距離を取り杖を構え直したウルマロの頬を、どろり、と血が伝う。

「心配?僕が?あの人を?プッ……あり得ないね」

 息を切らしながら、ウルマロは言う。


「あの人はA級のさらに上──歴史に名を刻まれた"刻銘(ネームド)魔導士"だよ」


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