九章 †狂いし変態†
† † †
クリンゴ共和国。
ヴァリアール王国の東北に隣接する新興国。
明るく親しみやすい国民性ながら治安が最悪なことで知られるが、その治安も二十年ほど前から行われている政策によってかなり改善され、歴史ある建築物や絶景スポットを目当てに観光客や移住者は年々増加傾向にある。
とは言え、やはりまだ治安の悪い街も存在していた。
それがここ──ワルチアだ。
クリンゴの南東部に位置する地方中核都市。
ずらりと肩を並べるかのように、真新しいものから少し年季の入ったものまで、様々な表情を見せる小型ビル群が建ち並ぶ。一棟一棟が密度高くひしめき合い、都会のような活気と機能性を感じさせる。
が、夜になればその街の様相は一変する。
地元の人々は皆、口々に言う──この街で安全に過ごしたければ、夜の帳が降りる時、決して一人で外を出歩いてはいけないと。
「ハァ……ハァ……ちくしょう、何だってんだよ……!」
ある雑居ビルの路地裏を一人の男が駆け抜ける。
男はそのまま広い通りへ抜けると、そこにちょうど一台のミニバンが急ブレーキをかけて停まった。
その後部座席のドアが開き。
「こっちだ!乗れ!」
とドアから顔を出した強面の男が叫び、走っていた男は一直線に飛び乗る。
バンッ、と勢いよくドアが閉められ。
「早く出せ!アイツが来る……!」
飛び乗った男は運転席を叩いて指示するが、その瞬間車体が大きく揺れ。
「やだなぁ逃げないでくださいよぉ~」
そう言いながら、どこからか跳躍してきた黒いフードの男がボンネットの上に着地した。
青い瞳に細身で長身のモデル体型、フードの隙間から鎖骨の辺りまで、髪染めに失敗したような黒と金が混じった髪の毛を垂らしている。
「なっ!?」
と運転手の男が驚愕を声に出した頃にはすでに、フロントガラスを貫通した剣がその心臓を貫いていた。
「え……?」
自分の胸部から体内へ異物が入ってきていることに気付いた時には、口からゴボゴボと大量の血が溢れ出す。
その剣を抜き取って横に薙ぎフロントガラスを破壊すると、フードの男は車内へ侵入する。
「くそっ!逃げるぞ!」
後部座席に逃げ込んだ男はミニバンを捨てて逃げようとドアに手を伸ばすが、一瞬でその両手首が斬り落とされた。
「ぎっ……ぎゃああああああああっ!!」
車内一面に鮮血が飛び散る。
「あららぁ、これじゃドア開けれませんねぇ~。ケケケッ……」
楽しそうに顔を歪めて笑いながらフードの男はその男の胸ぐらを掴み上げた。
「くっ!」
後部座席にいたもう一人の強面の男は、懐に隠していた拳銃を取り出してフード男に銃口を向ける。
が、フード男はそれを見もせず、音もなく、その拳銃ごと強面の男を袈裟斬りにした。
最後の言葉を発することもできぬままその上半身がずるりとずれ落ちる。
「ぐ……くそっ……何なんだよてめえはっ!なんでこんなことしやがる!俺がてめえに何したんだよ!」
手首を落とされ仲間も全滅し、完全に逃げ場を失った男は涙を浮かべて喚き立てる。
「え、別に何もされてないですよぉ~?でもアナタたちってアレでしょ?"ヤクザ"でしょぉ?社会のゴミじゃないですかぁ~。だからお掃除してあげてるだけですよぉ社会のためにぃ」
「ふ……ふざけんな!てめえっ、ど、どう見ても快楽殺人鬼だろうが!」
「ケケッ、バレちゃいましたぁ?」
狂気的な笑みを浮かべつつ、その首元に切先を突きつける。
この状況に興奮しているのか口からは唾液が垂れ、それをじゅるりと舌舐めずりする。
「はあっ……はあっ……このイカれた変態野郎が……殺せよ……殺すなら殺せ!」
血を失い意識が朦朧としてきていよいよ死を覚悟した男は、睨みを利かせて前のめりになり、自らその切先を首にめり込ませる。
「えぇ~もうちょっと楽しませてくださいよぉ」
そう言いつつも、切先は動かさずに剣を握り続ける。その刃が少しずつ肉を裂いて首の中へと侵入していく感覚を味わうかのように。
「……てめえはもう終わりだ……てめえが喧嘩売ったのは……この国のトップに君臨する……最大最強の組織……"絶殺会"だ…………てめえ一人が……どんだけ強かろうが──」
ズバン、と。
捨て台詞を言い終える前に、フード男は剣を振り抜いて首を刎ねた。
「話長えよ。粘んな。死ぬなら潔くとっとと死ね」
先程までの気味の悪い敬語をやめ、冷たい笑顔でそう言い残すと。
返り血塗れのフード男はドアを開けて車を降り、凄惨な殺害現場を放置したまま真っ暗な路地裏へと去っていく。
「おうおう、随分とハデに殺りやがったなぁ」
「あ?」
その路地裏に、黒いスーツと黒い中折れ帽を着用したライオンの獣人が、フード男を待ち構えるかのように立っていた。
二百五十センチはあろうかという大男で、並べばこのフード男など子供に見えるサイズ感だ。
「誰ですかぁ~?邪魔なんですけどぉ」
フード男はまたへらへらと笑みを浮かべる。
「気色悪い敬語はやめろ、サイガ・ジャーキス」
「あ?テメェ……なんで俺ん名前知ってんだぁ?」
不意に名前を呼ばれ一瞬笑みが消えたが、フード男──サイガはやはり再び薄ら笑いを浮かべて尋ねた。
「俺様は"娑卍那組"若頭、レオザーク・キング。今し方お前がブチ殺した"絶殺会"とはバチバチの敵対関係にある」
「そりゃどうもぉ。謝礼でもくれるってのかぁ?」
サイガはそう言いながら、ライオン獣人──レオザークの元へふらふらと近付く。
レオザークはそのサイガの手元にある血に塗れた剣を警戒しつつ、話を続ける。
「お前が殺らなきゃ俺様が殺ってたさ。先日ウチの部下がそこの三人と揉めて殺されたんだ。その報復に出向いてみりゃ、ちょうどお前が鬼ゴッコしてる場面に出くわしたってわけだ」
「へぇ、そりゃご愁傷様ぁ。部下のカタキ討てなくて残念だったなぁ~」
「フン、まあそんなこたぁどうでもいい。それより、俺様はお前にも用があってな」
「はぁ?」
「そりゃそうだろう。じゃなきゃ何故お前の名前を知ってる」
「あぁ~そりゃ確かに。何だよ、過去に俺が殺したヤクザん中にテメェの部下でもいたかぁ?」
「いや、幸運にもウチの組の連中はまだお前に狙われたことはねえよ。お前が何人殺してきたかまでは知らねえが……お前のことはこちらでもある程度調べてある。サイガ・ジャーキス、二十歳。マジポリア出身。マジポリア学園を卒業後、行方を眩ませた友人を捜すため旅に出た」
どうやらその調べは正確だったようで、サイガは僅かに眉間に皺を寄せて口を結ぶ。
「そのお前が何故、こんなところでヤクザ狩りなんかしてるのか……なんて訊くつもりはねえ。誰にだって色々あるもんだ。ただ……俺様たちはお前のその力が欲しいだけだ」
「あぁ?」
「娑卍那組に来る気はねえか?」
「死ね。ヤクザとつるむぐれえなら死んだ方がマシだ」
心底イヤそうな顔で拒絶しながら、サイガは斬りかかった。
「そうか、そりゃ残念だ。諦める気はねえがな」
と、レオザークは右腕でその剣を受け止めた。
「!」
明らかに生身の腕ではない、硬質の物を打ちつけた感触──サイガは違和感を感じてすぐに剣を引き距離を取る。
斬り裂かれたスーツの内側には、金属質の手甲のようなものが見えた。
「チッ、何だよそりゃ?服の下にヨロイでも着てんのかぁ?」
「そう驚くな。お前が刃物使うと分かってて、何の対処も施さず来ると思うか?」
「ケケケッ、用心深いこった」
笑みを見せつつも、サイガの頬には一筋の汗が伝っていた。
サイガの感じた違和感とは手甲のことではなかったのだ。
──コイツ……俺の斬撃に反応しやがった……!
二人はその距離を保ったまましばらく見合ったのち、レオザークはコキコキと首を鳴らし。
「どうした?一撃止められたくらいで様子見か」
「うるせぇよ!」
レオザークの煽りに乗ってサイガは再び地面を蹴り、今度は確実に仕留めるべく頭部を狙って剣を振り抜く。
が、やはりその剣をレオザークは手甲を使って弾いた。
「なっ……」
さらにその隙を突いてサイガの胸ぐらを掴み、力強く壁に押さえつけた。
「分からねえってツラだな。たかがヤクザに"十勇"の剣技が何故止められたのか」
「……チッ……」
激しく打ち合った反動でフードが脱げ、その長く尖った耳が露わになる。
エルフ族の剣士──それは即ち、ヴァリアール王国で剣術指南役を務めるカルナと同じく、十勇"セレーネ・ディメンザン"の末裔であることを意味する。
勿論セレーネの末裔でなくともエルフ族の剣士など捜せばどこかにいるかもしれないが、これほどの剣術を扱っていることを考えれば、レオザークの情報に間違いは無さそうである。
サイガはすぐさま剣を回転させて逆手に持ち替え、横から首筋を貫こうと試みるも、その手をあっさりと押さえつけられた挙句、剣を弾き飛ばされる。
武器を失い、獣人の強力なフィジカルによって完全に押さえ込まれながらも、サイガは臆さず睨み続ける。
「出身や経歴を調べといて、血筋が知られてねえわけねえだろう。つうか、その血筋だからこそスカウトに来てんだ」
「十勇ってのは勇者の家系だぜぇ?ヤクザなんかの仲間になると本気で思ってんのかよ」
「フン、殺人鬼がよく言う。だが確かに、俺様たちの情報をまだ教えてなかったな。そりゃあ信用できねえはずだ。俺様たち娑卍那組は一言で言やあ──"優しいヤクザ"だ」
自分は無害だと言わんばかりにできる限りの優しい笑みを浮かべて、レオザークはそう自称する。
「何言ってんだテメェ」
至って冷静にツッコまれ、レオザークは真顔になる。
そして何事もなかったように説明を続ける。
「勿論カタギにゃ手は出さねえし、ヤクの売買やその他諸々、悪どい商売もしねえ。表でのシノギはいくつかやってるが、どれも普通の商売だ。だがそれだけじゃあ稼ぎは大して出ねえんでな、裏での仕事がある」
と、今度はニヤリと悪い笑みを浮かべ。
「ヤクザどもの撲滅だ」
「は?ヤクザはテメェらだろうが。勝手に死んどけよ」
「ここだけの話だが……俺様たちはワルチア警察の上層部と繋がって賄賂を貰ってんだ」
「……貰う側かよ。腐ってんな警察も」
「ああ、俺様もそう思うぜ。だが分かってんだろ?この街じゃ警察は力を持たねえ。ヤクザが強すぎるんだ。無理に動けば報復で滅ぼされかねないほどにな」
「ケッ、腰抜どもがよ……」
「だが悪くねえ話だろ?娑卍那組ならお前の望み通りにヤクザを滅ぼせる。もしウチ以外の全てが滅んだ暁にゃぁ、お前と俺様たちで決着つけりゃいい」
「…………」
サイガは答えを迷っているのだろうか、睨み続けていた目を下へ逸らし、黙り込む。
そこへ。
「キングの兄貴!こんなトコにいたんスか!」
と、似合わないグラサンを掛けて黒スーツを着たチワワとウサギの獣人二人が、ゼエゼエと息を切らしながら駆けつけた。
「オウ、随分遅かったなチウス、ラビオ」
「あ、兄貴が速すぎるんスよ!」
「ってもうサイガの野郎捕まえてんじゃないスか!」
甲高い声でリアクションを取る舎弟と思しき二人の方へ、レオザークが僅かに顔を向ける。
その隙をサイガは見逃さなかった。
押さえられていない左手の人差し指と薬指をピンと立て、レオザークの右眼へと突き出したのだ。
しかし。
「馬鹿、んなことしてると指が折れるぞ」
レオザークは軽く顔を動かしてデコで目突きを受け止める。
「くっ……」
指は折れはしていなかったものの、本気で目玉を抉ろうとする勢いだったため、恐らく突き指程度にはなっているだろう──サイガは痛みから僅かに顔を歪めた。
「てんめー良い根性してやがんなオイ!キングの兄貴に不意打ちたあ!」
チワワ獣人・チウスは声を荒げ、牙を剥き出してグルルと唸り声を上げる。
「黙ってろチウス。……見ての通り、ウチは獣人がかなり多くてな。愉快だろ?アットホームなヤクザだぜ」
「チッ、獣臭ぇんだよ……鼻が曲がるわボケ」
「オイオイ威勢だけは良いなコラ!状況分かってんのかぁ!?」
今度はウサギ獣人・ラビオが眉間に皺を寄せて凄むが、可愛らしい顔のせいで迫力は全く感じられない。
「まあいい。とりあえず事務所に連れて帰るぞ。お前ら、縛れ」
「へい兄貴!」
レオザークが指示すると舎弟二人はすぐにロープを取り出し、押さえつけられたサイガの体に手際良く巻き付けていく。恐らく何度もこうしてレオザークのアシストを務めてきたのだろう。
「ったく羨ましいぜ!生まれた時から才能を約束されてるんだからな、十勇の末裔ってのは!どうせ大したトレーニングもせずにここまで来たんだろ、オマエもよ!」
巻き付けながら、皮肉混じりにチウスは言い。
「だがキングの兄貴はな、文字通り死ぬほどの修羅場を何度も潜り抜けてきたんだ!才能だけで生きてきたヤツらが敵うはずねえのさ!」
誇らしげにラビオは語る。
「なんでお前らが威張ってんだ……」
レオザークは舎弟たちの言動に呆れつつ、視線をサイガに戻し。
「だが、知らなかったろ?──獣人のフィジカルで、本気で鍛えたヤツの強さを」
「……チッ……」
それを受けてサイガはただ舌打ちすることしかできなかった。
レオザークの言う通り、サイガは完全に十勇の力に溺れ、特別な血を持たない一般人などに負けるはずがないと高を括っていたのだ。
それからサイガを完全に縛り終えた頃、近くの通りに黒のワンボックスカーが停車する。
「お待たせしました兄貴」
と、助手席側の窓を開けて、鋭い目付きの黒ネコ獣人が顔を覗かせる。
「おう。お前らそいつ積んどけ。あまり雑に扱うんじゃねえぞ、ウチの同胞になるんだからな」
「へい!」
レオザークの指示に従いチウスとラビオは協力してサイガを担ぎ上げると、車へ積み込もうと歩を進める。
突如。
街は激しい地響きに見舞われた。
「な、なんだぁ!?」
チウスたちは狼狽し、レオザークも周囲を見回してその声の元を探る。
その瞬間、レオザークたちのいた路地を囲っていたビルの一つが、地面から噴き出した巨大な火柱に包まれた。
「ふ、噴火したぁ!?」
眼球が飛び出さんばかりに目を見開くチウスたち。
周囲には大量の火の粉が降り掛かり、街路樹など燃えやすいものから次々に燃え移っていく。
「に、逃げやしょう兄貴!」
「ああ!」
全員全力で走り出し、そのままワンボックスへ飛び込むようにして乗り込んだ。
「出せ!」
「へい!」
黒ネコ獣人はすぐにアクセルをベタ踏みしてその場を離脱する。
「あちちちっ!クソッ、何が起きたってんだ!?」
逃げている途中で耳に燃え移った火をラビオは必死に叩いて消す。
ミラーで後方を確認すると、先程サイガによって殺されたヤクザたちが火の海に飲み込まれているのが見える。
「逃げる判断が少しでも遅れてたら、俺様たちもあの世行きだったな……一体何なんだありゃあ」
「兄貴、もしかしてアレかもしれません」
と黒ネコ獣人が運転しながら推測を口にする。
「アレ?」
「ヴァリアールを侵略したという……」
「──魔族か」
「はい。勿論自然現象や事故の可能性もありますが……魔族が出てくる時、地面に大穴開けて這い出てくるらしいんですよ。その大穴が開く時に、爆発しただの、雷が落ちただの、竜巻が発生しただの、ただ単純に地面が崩落しただの、場所によっていろんな目撃証言があったんです」
「あの火柱もその一種ってわけか」
「恐らく。あの穴は魔族の持つ特殊な力で開けているものと思われます。だとすればそれに伴って発生する現象は、穴を開けた魔族それぞれの個性が反映されているのかもしれません」
「なるほどな。ヴァリアールの侵略が終わったんなら、いよいよコッチに攻めてきてもおかしかねえか」
火の粉の及ばない数百メートルの地点まで離れると、レオザークたちは窓から顔を出して火柱の様子を伺う。
すると。
「兄貴!火が消えていきますよ!」
火柱が徐々に細くなって消えていくと、そこにあったはずのビルは跡形も無く消し飛び。
黒ネコの推測通り、その跡には大穴が開いていた。
そして次の瞬間、大穴から吐き出される白い煙の内側から、獣型や小鬼型、翼竜型などの魔族の大軍が勢いよく飛び出す。
「な、何か出てきましたぜ兄貴!」
「アレが魔族か……!」
チウスとラビオはごくりと息を呑む。
「イエーーーーイ☆いっくよーーーっ☆」
と、穴の奥から若い女の声が響いた。
「なんだぁ?」
チウスたちはあまりにもその場に似つかわしくないキャピキャピとした声に戸惑う。
その中心に浮上したのは、パンクアイドルのような黒いヘソ出し衣装を身に纏う女の魔族だった。
コウモリの羽のようなデザインの髪飾りでツインテールに結び、デコの左右からはツンと反った短めのツノを生やしている。
「さあ"魔ーきゅん"たち☆この街の人間、ぜぇーんぶ君たちのエサだよっ☆」
髪飾りと同じくコウモリのような装飾を施されたマイクを片手に、その声を拡散させているようだ。
「ア、アイドルか……!?舐めたカッコしやがって……!」
それを見つけたチウスはグルルと喉を唸らせるが。
「でもちょっと可愛いぜちくしょう……!」
ラビオはグラサンをズラしてその女の顔を観察し、悔しそうにぽっと頬を赤らめる。
「アレがこの大軍を率いてる幹部格か」
とレオザーク。
「ええっ!?」「あんなのが!?」
「はぁ、ニュースとか見ないんですか兄貴たち」
驚愕するチウスとラビオに呆れつつ、黒ネコ獣人が説明する。
「ヴァリアールの各地に現れた幹部格はほとんどが人間の姿をしていたらしいですよ。ここから見える限りじゃ、人間はアイツだけでしょう」
「お、おう、そうか、そうだったわ」
「俺もそうかなーとは思ってたんだよ」
有能な弟分に負けじと誤魔化すチウスたちに、レオザークもやれやれと溜め息を吐く。
そう話している間にも魔族は街中に解き放たれ、気付けばレオザークたちの乗るワンボックスも取り囲まれていた。
「……って囲まれちまいましたぜ兄貴!どうするんスか!?」
慌てふためくチウスとラビオ。
「雑兵程度なら轢き殺せばいい」
黒ネコは躊躇なく再びアクセルをベタ踏みし、正面の魔族を跳ね飛ばして突破する。
しかし次々に魔族は車体に纏わりつき、徐々にその重量によって速度も落ちてくると、さらに窓を割って内側へ入り込もうとしてくる。
「──が、こうなると降りて戦うしかなさそうだな」
レオザークはそう言って勢いよくドアを開け、纏わりついた魔族の数体を両腕で薙ぎ払う。
「こらーっ!うちの魔ーきゅんたちをいじめちゃダメだぞっ!」
「あ?」
わざとらしく頬を膨らませた怒り顔で、幹部格と思しき女が遠くからマイクを使って口を挟んだ。
「…………」
しかしそれどころではない状況なので、レオザークは女を無視して魔族を弾き飛ばしていく。
「わ、わたしを無視……!?許せない……!君みたいな悪い子には……」
「"七落閻"のスーパーアイドル──キュートちゃんが、直々にお仕置きしちゃうんだからっ☆」




