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読んでいただいてありがとうございます。ブクマ、ポイント、ありがとうございます。

「おはようございます、ラフィーネさん。トーゴさんと逢い引きしていたって本当ですか?」


 可愛い後輩が、朝一番に真剣な顔でそう聞いてきた。


「どこでそんな話を聞いたの?」

「噂で」

「噂?……流れてくるのが早くない?」

「私も今朝、聞きました」


 ちらりとリディアーヌが後ろの方を見ると、慌ててメイドたちが顔を逸らした。

 ラフィーネがトーゴと食事をしたのは、ほんの三日ほど前のことだ。

 それですでにリディアーヌにまで噂話が流れてきているとは、恐るべしだ。

 正確には三日前の夜の出来事なので、実質一日で皇宮に噂が流れたことになる。

 まぁ、リディアーヌが恋人と出かけた時もすぐに噂は広まっていたのだけれど。

 ただあの時は隠す気なんて一切なく、昼間に堂々と帝都でデートしていたので、当たり前といえば当たり前だった。

 その時と違って、こっちはこそっと食事をしたつもりだったのだが、さすがに裏門での待ち合わせはまずかったかもしれない。

 ラフィーネのことを気にしている人はいなくても、トーゴのことを気にしている人は多そうだ。

 トーゴがセオリツ国でどのような家に生まれたのかは知らないけれど、ここではあくまでも商人だ。

 裕福な商人は、女性陣にとっては十分、狙い目になる。


「夕食を一緒に食べただけよ。あのね、トーゴとは同級生で元々知り合いなの」


 とっても面倒くさいことになる前に、トーゴと考えた事実を織り交ぜた設定を披露していく。


「久しぶりに会えたから、お互い懐かしくてね。それで盛り上がったの」


 間違っても、同級生と気が付かなかったラフィーネが変なナンパをした話をするわけにはいかないのだ。

 トーゴも笑って秘密にすると言っていた。


「というか、リディアーヌもトーゴのことを知ってるの?」

「はい。オルフェ様に紹介していただきました。トーゴさんのお店で、緑茶を飲ませてもらったんです」

「トーゴとマークス子爵は仲が良かったものね。すでに紹介済みとはやるわね」

「気さくな方ですよね。ぱっと見、軽そうな感じを受けますが、話していると真面目な感じを受けました」


 リディアーヌから見ても、やはりトーゴはチャラ男っぽく見えたらしい。

 

「学生時代は真面目な外見をしてたのよ。あまりの外見の変わりように、驚いたわ」


 あまりにラフィーネの理想通りの外見っぷりに、再会した時には気が付かなかったほどだ。

 気が付けていたら、さすがにあんな変な口説き文句のナンパはしなかった。


「でも、マークス子爵とは今でも交流があるのね」


 お互い皇宮に関わりのある仕事をしているのだ。当然と言えば当然だ。

 これから先、トーゴと会っていたら、その内、再会した経緯くらいは聞かれるかもしれない。

 

「オルフェ様はお店の方にも行っているそうです」

「あら、そうなの。今度、連れて行ってもらおうかしら」

「ラフィーネさんは、行ったことはないんですか?」

「えぇ、実は皇宮に出入りしているのも知らなかったのよ。一昨日、たまたま話をする機会があって、それで、ね」


 少し含みを持たせておけば、後は勝手に膨らみまくった噂が流れるだろう。

 リディアーヌは無責任に他人の噂話をするような人間ではないが、周りで聞き耳を立てている人間は違う。他人の噂話が大好きな人間というのは、どこにでもいるものだ。

 さすがに女官や侍女はそこまで悪辣な噂話はしないが、トーゴのことを狙っている女性がいたら、きっと悪意に満ちた噂が流れそうだ。

 ラフィーネが嫌がらせされたり、危険な目に遭うかもしれないとトーゴは心配していたが、少なくとも侍女の中でそんなことをやったらすぐに女官長の耳に入ってクビになるだけだ。

 皇宮に勤めていたけれど、同僚に嫌がらせをして危険な目に遭わせたのでクビになりました、なんていう女性を妻にほしいと願う男性はいない。

 女官や侍女はその辺はわきまえているので、心配はない。

 やってくるとしたら庶民も交じっているメイドたちだが、そこはラフィーネの肩書きが役に立つ。

 貧乏だろうが、名門伯爵家の令嬢という地位は不敬を許さない。

 多少のやっかみには目を瞑るつもりだが、さすがにひどい暴言や身体を傷つけられたりしたら、迷わず訴えるつもりだ。

 我慢するつもりもない。むしろ、そんな人間を皇宮においておくわけにはいかない。

 実は、トーゴにしつこく言い寄ってきている女性がいるらしく、ラフィーネとの噂が耳に入って諦めてくれればいいな、とため息を吐きながら言われた。

 

「トーゴといると何か楽なのよねぇ」


 それは、相手を特別に思えないからだ。

 特別じゃないから、自分を良く思ってほしいとか、知ってほしいとか思わない。

 気ままに何をしゃべっても、その場だけで消えて行く話ばかりだ。

 そして、お互いじっくり話し合った結果、友情以外のどんな感情も浮かびそうにないということで落ち着いた。

 ひょっとしたらそう思っていても、実は……ってことが、なんて言った瞬間に二人して吹き出した。

 今のところ変化する予定はないのだが、万が一、変化した場合は速やかに報告するということで落ち着いた。


「今のところ、楽な相手とゆるーく食事をする仲よ」

「ゆるーく、ですか。でも、何かそれもいいですね」

「でしょう?」


 時々壁になってもらう予定だが、それだって時と場合によっては変更ありという契約だ。

 約束じゃなくて、契約っていいわよねー、とラフィーネは軽く考えていたのだった。

 

 


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