⑤
読んでいただいてありがとうございます。ランクインのお知らせ機能が付いてから、過去の作品が動いていることに気が付きました。読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
突然のラフィーネの告白(?)に、青年は空を仰いで何か考えてから、ふーと息を吐いた。
「恋人未満の付き合いって?」
面白そうな顔をした青年に、ラフィーネはあれ?ちょっとマズったかも?と思ったが、すでに勢いで告白済みなので誤魔化しようがない。
「えーっと、その恋人みたいにべったりな関係じゃなくて、割り切った大人の関係といいますか……」
「それも面白そうだけど……んー、やっぱりそうだ。君、ラフィーネ・リンゼイル伯爵令嬢だよな?」
「え?……どこかで会ったことが……?」
今までの人生で、こんなチャラっぽい男性に会ったことなんてないはずなのだが、青年はラフィーネのことを知っているようだった。
もしや、すでに父が借金した相手とか?
兄が迷惑をかけているとか?
マイナス要素しか、ラフィーネの頭には浮かばなかった。
「知ってるさ。一緒のクラスになったことはないが、同級生だよ」
「……はい?同級生?」
同級生にこんなセオリツ国の人なんていただろうか?
いや、そういえば、一人いた。
話したことは当然ないが、たしかマークス子爵と仲が良くて、でも当時はすごく大人しい感じの成績優秀な少年が。
たしか、名前は……。
「……トーゴ・ロクオンさま……?」
「お、正解。覚えてたか」
にやっと笑った青年に、あの頃の面影は全くない。
「うそ、ロクオン様って、こんなチャラい感じじゃなかったじゃない!」
「当然だろ?あの頃はまだ親の金で学園に通ってるだけの世間知らずのおぼっちゃんよ、俺。遠く離れた故郷にいる母を安心させるために、目立たず真面目に大人しく、問題なんて一切起こさずに学園生活を乗り切ったんだよ。すごいだろ。褒めてくれていいんだよ」
「えーっと、よく頑張りました?でも、違い過ぎる」
「ははは。もう自分の稼ぎで生きていける大人ですから」
「……そうね。大人だものね、好きなように生きていいのよね」
父親の借金に売られそうになった身としては、トーゴのそんな生き方が眩しい。
ラフィーネだって、もっと派手な服装をして夜遊びをして……なんて思ってみても、性格的にそんなことは出来そうにない。
「それで、何で割り切った大人の関係とやらの相手が必要なんだ?」
同級生の変化の大きさに驚いてラフィーネが忘れかけていたことを、トーゴは忘れていなかった。
「えー、あー、んー……なかったことに」
「するわけないだろ。事と場合によっては同級生が悪の道に堕ちようとしているのを止めないといけないからな。だけど、今はお互い仕事中の身だ。というわけで、ラフィーネ嬢、今夜空いてる?夕飯でもどう?」
「空いてるからいいけど……」
流れるように誘われて、ラフィーネは戸惑いながらも頷いた。
「んじゃ、夕方、裏門に迎えに来るよ。あ、貴族が行くような店じゃなくて、庶民が行くような店だから、普通の格好で来いよ」
「分かったわ」
「夜もそんなに遅くなることはないから、その点は安心してくれ」
「えぇ、ロクオン様を信じるわ」
「トーゴだよ、ラフィーネ嬢、今はただの商人だし、呼び捨てにしてくれ」
「なら私も呼び捨てでいいわよ。何かちょっと変なこと言っちゃったし」
「あはは、共犯にもなりそうだしな。んじゃ、後でな、ラフィーネ」
「ふふ、よろしくね、トーゴ」
さっそうと去って行く姿に、学生時代の面影はやっぱりなかった。