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読んでいただいてありがとうございます。頭の中で、ずっとラフィーネさんが泣いていました。
ヴァッシュの言葉の意味を理解したラフィーネは、大混乱に陥っていた。
だって、言い逃げ、ではなくて、気持ちだけ知って、拒否されること前提で旅行に行こうと考えていたのだ。
それが、ヴァッシュから先に告白されて……。
ヴァッシュはきっと、ラフィーネみたいにちょっと卑怯なことなんか考えていない。
逃げることもなく、どんな言葉も真正面から受け止める気満々だ。
たとえそれが拒絶の言葉でも、ヴァッシュはきっときちんと受け止めてくれる。
あぁ、何て、私と違う人なの……!
「そうじゃなくて、違うけど違わなくて!あぁ、どうしよう。私が先に告白するはずだったのに!ヴァッシュ様に先に言われて!私から約束をしたかったのに……!言い逃げが……!」
混乱したラフィーネの言葉に、ヴァッシュは軽く目を見開いた。
聞き間違いでなければ、ラフィーネはヴァッシュに告白するつもりだったようだ。
告白、ということは、ラフィーネもヴァッシュのことを好きでいてくれるということ。
ラフィーネが、どんな約束をして、何を言い逃げするつもりだったのかは知らないが、ヴァッシュはふっと笑った。
「ラフィーネ、落ち着け」
「落ち着けないです。だって、だって」
「ラフィーネ」
ヴァッシュは、ソファーに座るラフィーネの前に片膝を突いて、両手を優しく握った。
混乱する頭でラフィーネは、その行動がまるで物語の主人公みたいだな、とぼんやりと思った。
こういう姿がとても様になるのが、ちょっとうらやましい。
「俺の身分とかラフィーネの過去とか、そういうことは、一度、全て忘れてくれ。今ここにいるラフィーネの本当の心を知りたい。俺に対する想いを知りたいんだ」
「全部……?」
「そうだ」
「……でも、私から約束しないと……」
「ラフィーネ、すまないが、俺はどうしてラフィーネがそんなに約束という言葉にこだわるのか分からない。けれど、そのこだわりも全部、忘れてくれ」
「……忘れていいの……?」
「あぁ、真っ白なラフィーネの心に残る、俺への気持ちを聞かせてくれ」
ヴァッシュの言葉に、ラフィーネの瞳から涙がこぼれた。
約束をしたら絶対に守られないから、せめて自分から言いたかった。
だって、そこにこだわらなかったら、自分の心が不安で壊れしまいそうになるから。
けれどヴァッシュは、それさえも全部忘れろと言う。
忘れたら、残るのは一つの感情だけだと自分でも分かっていたから、意地でこだわっていたのに。
でも、もうどうなってもいい。
また自分が傷つくことになっても、それでも、この瞬間に言わなくちゃ、絶対に後悔する。
そしてラフィーネは、ヴァッシュにがばりと抱きついた。
「好き」
抱きついてきたラフィーネを受け止めたヴァッシュの耳に、その言葉はしっかりと届いた。
ちょっと涙声で、飾ることもなく真っ直ぐに言われたその言葉が、とても彼女らしくて愛おしい。
「好きなんです。ヴァッシュ様が一番、好き」
「俺もラフィーネが一番好きだよ」
「愛してます」
「あぁ、俺も愛してる」
ラフィーネの言葉をそのまま彼女に返している状態になってしまったが、同じ言葉だけにラフィーネにも間違いなく伝わる言葉だ。
「ラフィーネ」
名前を呼んでぎゅっと抱きしめると、ラフィーネもヴァッシュを強く抱きしめた。
「ヴァッシュさま……すき」
「あぁ」
涙を流すラフィーネの頭を優しく撫でながら、ヴァッシュは彼女がここにいてくれる奇跡に感謝した。
ラフィーネの今までの人生は、父と兄に振り回されてばかりだった。
だが、その過去があったからこそ、ラフィーネは皇宮で働いていたのだ。
そしてあの時、ラフィーネは後輩を助けるためにヴァッシュの腕を掴んだ。
けれど、掴まれたのは腕だけではなかった。
震えながらラフィーネは、ヴァッシュの心ごと掴んでいった。
「ラフィーネ」
「……ヴァッシュさま……」
花がたくさん咲いているような場所でもなく、ロマンティックの欠片さえもない仕事場の応接間で、しかもソファーがあるのに床に直で座って抱きしめ合っていて、何処で何をしているんだとヴァッシュは一瞬思ったが、これもまた、自分たちらしくていい。
ラフィーネと初めて交わしたキスは、予想通り涙の味がした。
大人なのでこれくらいは……。




