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読んでいただいてありがとうございます。
ラフィーネにはトーゴおかん、ヴァッシュにはバーナードおかん。
両おかんが、がんばった作品になりました。
ラフィーネは、心の中でトーゴに言われたことを思い出して、確認した。
時間帯は、夜じゃなくて昼間なので大丈夫。
場所は、相手のテリトリーだけれど、皇宮内だし副官さんもいるから大丈夫。
あとは、自分の感情を間違いなくきちんと伝わるように、はっきり伝えること。
これくらいで何となく伝わるよね、はダメ。
「トーゴに言われたことは、これくらいだったわよね?」
実の兄より兄っぽい……いや、あれはもはや、母親の域にまで行っている気がする。
父親じゃなくて、あれは絶対に母親の方だ。
同じ年齢なのに、トーゴは年齢より年上に感じる。
「ヴァッシュ様に、私の気持ちをはっきり伝えて……」
伝えたいのは、自分が彼のことを好きだという気持ち。
そう思っていたのだけれど、ここに来て、緊張からか不安が増してきた。
トーゴには、私が手綱を握るんだって言ったけれど、だんだん告白するだけでいい気がしてきた。
「……言い逃げ?」
いや、告白の言い逃げって、さすがにどうだろう。
そもそも何らかの決着を付けたいがためにするのが告白であって、返事が要らないならそもそも言う必要がない気はする。
「あ、でも、自分の気持ちを知ってもらいたいっていう気持ちはあるから、言い逃げもあり?」
違う。そうじゃない。
……怖い、のだ。
ヴァッシュに告白して、断られるだけならまだしも、気まずさから、その姿さえも見られなくなってしまうかもしれなくて。
そしていつか、ヴァッシュが愛する女性と結婚する姿を見ることになるかもしれなくて。
「……ふふ、私、やっぱり弱いのよね……」
でも、その時は、笑顔で祝福しよう。
幸いラフィーネは伯爵になったので、贅沢さえしなければ、それなりに生きていけるだけの俸給がある。
「……どこかに行こうかな……」
ヴァッシュが愛する女性と結婚したら、皇宮勤めを辞めて、どこか旅にでも行こう。
そして、そこで心を落ち着かせたら、皇都に戻って来て静かに暮らす。
それが、一番いいのかもしれない。
「ラフィーネ嬢、旅行にでも行くのか?」
ラフィーネのつぶやきは、ちょうど入って来たヴァッシュの耳に届いていた。
「え?あ、今じゃないです」
「そうか。だが、一段落したら、休暇を取ってどこかに行くのも悪くない」
「ご安心ください、団長。団長の休暇はたっぷり残っていますし、いざとなれば、他の騎士団の方々を巻き込みましょう。団長の休暇は、騎士団の総力を挙げて確保いたします」
バーナードが紅茶を淹れながら、力強く宣言した。
けれど、成り行きとはいえ、旅行に行く宣言をしたのはラフィーネだ。
ヴァッシュ様、関係なくない?
そう思ったけれど、有能な副官のバーナードは、ヴァッシュに休暇が取れる時期を伝えていた。
「ヴァッシュ様の休暇は、これくらいの時期なら取れますね。後はお二人で話し合ってください」
誤解をしたままのバーナードの言葉に、慌てたのはラフィーネの方だ。
何でラフィーネの個人旅行の日程を、騎士団長と話し合う必要があるのか、意味が分からない。
「あの、バーナード様」
「それでは、失礼いたします」
訂正しようとしたラフィーネの言葉を笑顔で遮って、バーナードは素早く部屋から出て行った。
「ご、誤解を……」
「ラフィーネ嬢、どうかしたのか?」
「……申し訳ありません。バーナード様に、誤解をさせたままになってしまいました」
「誤解?どのことだ?」
「旅行のことです。個人的な旅行のことなのに、ヴァッシュ様の休暇のことをおっしゃっていたので、少々誤解が生じているかと……」
「あぁ、そのことか。別に誤解じゃない」
「え?」
ヴァッシュが訂正してくれるのかと思ったら、誤解じゃないと言い出したので、ラフィーネは驚いた。
「正確に言えば、誤解でなくなればいい」
「……あの、それだと私と一緒に旅行に行くという意味になってしまいますが」
混乱したが、まとめるとそういうことになってしまう。
……そんな風に言われたら、ラフィーネだって夢見てしまう。
頭の中で、ヴァッシュと仲良く、二人っきりの旅行を楽しむ自分の姿を思い浮かべた。
それはとても幸せそうで、幼い頃に思い浮かべていた将来の自分の姿は、きっとそんな感じだったと思う。
絶対に、自分には訪れることのない未来だと思っていた光景。
ヴァッシュの言葉一つで、そんなことさえも思い出してしまう。
ラフィーネの中で、ヴァッシュという存在が与える影響が強くなっている証拠。
ラフィーネは、そんな風に夢見る自分に少しだけ笑った。
「その通りだ」
「へ?」
思いもかけないヴァッシュの言葉に、ラフィーネは彼の方を見た。
そこには、真剣な目をしてこちらを見ているヴァッシュの姿があった。
「ラフィーネ嬢、話があると言っていたが、先に俺の話を聞いてほしい」
「は、はい」
断ってはいけない。
ラフィーネは、何故かそう思った。ヴァッシュの表情が、いつになく真剣だったからだろうか。
「ラフィーネ嬢、俺は公爵という立場だし、皇帝陛下の従兄弟でもある。それは、この先も変わることはない。俺の血筋には、どうしても皇位継承権が絡んで来て、数が少ない皇家の血を残したいと思っている人間がいることも確かだ。だが、俺の感情は俺だけのものだ。誰に強要されたものでもない、俺自身の心だ」
「はい」
「ラフィーネ嬢、俺はあなたのことが好きだ」
「…………」
「震えながらでもやるべきことをする姿も、突拍子もないことを言い出すところも、一生懸命、何かと戦っている姿も、全てが愛おしい」
ヴァッシュに何を言われたのかすぐに理解が出来なくて、でもその言葉の意味が理解出来た時、ラフィーネの顔は一瞬にして赤く染まったのだった。




