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読んでいただいてありがとうございます。斜め上の方向に飛び立とうとしていたラフィーネさんです。
トーゴから、告白するのなら時間と場所を選べ、と忠告されたラフィーネは、真剣に悩んでいた。
「夜はダメだから、昼間、それも皇宮が理想よね。でも、仕事中はちょっと……?うーん、同じ皇宮に勤めているとはいえ、たかが一介の侍女ごときが騎士団長様にそうそう簡単に会えるものではないのよねぇ」
ラフィーネはそう考えていたが、実際には、ヴァッシュ自身が、周囲の人間にラフィーネが来たらすぐに通すように命令していたので、ラフィーネが願えばすぐに会うことは出来た。
けれど、今までラフィーネが個人的な用事で父や兄、それに元婚約者に会いに行っても、連絡がしてあったとしてもいつも会えなかったので、ラフィーネは無意識のうちに私用では会えないものだと思い込んでいた。
ちなみに、仕事の場合は予め大まかな事柄を伝えていたせいか、ちゃんと会えた。
何気ないことでも会えたのは、ヌークス子爵だけだ。
「やっぱりいけないことかしら?でも、ちょっと私が告白するだけだし、そんなに時間はかからないようにするつもりだし、それくらいなら……」
確かに皇宮内の秩序は厳しく保たれているが、ちょっと話をしているくらいで咎められることなどない。まして、相手が騎士団長なら、余計に何か言う度胸のある者はいない。
けれど、根が真面目なラフィーネは、どうしようかと悩んでいた。
こう考えると、護衛としてヴァッシュがずっと傍にいてくれたことは、本当に希有なことだったと思う。
普段、関わることのない騎士団長が、あんなに身近にいたのだ。
その時に気が付いていれば、最終日とかに告白したのに。
でも、あの時は兄が来たから色々と面倒くさかったし……。
何となく、違う気もしていたし……。
「ラフィーネさん、さっきからどうしたんですか?」
軽く唸りながら悩んでいたラフィーネに、リディアーヌが声をかけた。
「あのね、リディアーヌ、どうしようか悩んでいるの」
「何をですか?」
「ヴァッシュ様に、どうやったら会えるのかしら?」
「普通に会いに行けばいいと思いますが」
「でも、個人的な用事じゃない。お忙しい騎士団長様の仕事時間を奪うのはちょっと……」
本当に困った顔で悩むラフィーネを、リディアーヌは優しい目で見た。
もう!本当にこの先輩は、可愛らしい……!
見た目は大人っぽいのに、こうして悩む姿はとても可愛らしい。
騎士団長が見られない姿をこうして見られているのは、とても役得に思えた。
「トーゴに、告白するのなら時間と場所を選べって言われたの。夜はダメだって」
「トーゴ様が正しいです。夜はダメです」
「リディアーヌもそう思う?でも、そうしたら昼間しかないじゃない。昼間は皇宮で仕事をしているから、仕事中に告白するしかないと思うと、ちょっと悩むのよね」
「ラフィーネさん、それこそオルフェ様の言っていた言葉を思い出しましょう。騎士団長様のご結婚は、国家の大事です。つまり、仕事中でも問題ありません!」
リディアーヌもオルフェから多少、その話は聞いていた。
どうなるか分からない二人だったけれど、皇位継承者問題も絡むことなので、出来れば上手くいってほしいとオルフェは願っていた。
「結婚って、まだ、そこまで考えてないんだけど」
「でも、始まってもないですよね。ラフィーネさんは、始まりを告げようとしているんですよ」
「そ、そうかしら……?」
「はい。もし、面倒な事態が起こったら、それこそオルフェ様たちに相談すればいいと思います。私も、微力ながら力をお貸しします」
「そうね。で、どうやって会えばいいと思う?」
そもそも始まりを告げようにも、会えないことで悩んでいるのだ。
「普通に会いに行くのもあれですよね。たまたま歩いているところを捕まえるのが、理想でしょうか……?」
リディアーヌだってお年頃の女性だ。
劇的、とまではいかなくても、多少、乙女的な夢の光景を見たい。
「そう思って、今日はヴァッシュ様を探してるんだけど、なかなか見つからなくて」
「あ、そういえば私、さっきお見かけしました。陛下の執務室のある方に向かっていたので、陛下に呼び出されていたのかもしれません」
「陛下の?なら、今日は難しいかしら」
さすがに皇帝の命令は、何よりも優先される。
「ですが、こういうことは後回しにすると、余計なことを考えてしまうのではありませんか?」
「そうなのよね。決意した日にやらないと、気持ちが鈍っちゃうのよ」
「ですよね」
そんなことを話していたら、誰かがここに近付いてくる気配を察して、二人はそちらを向いた。
「あぁ、ここにいいたのか。ちょうどよかった」
そう言って現れたのは、今の今までどうやって会おうか悩んでいたヴァッシュだった。
「……ヴァッシュ様」
告白するなら、今?
でも、何か用事があるっぽいし。
「陛下がお呼びだ。一緒に来てくれ」
「陛下が?はい、かしこまりました」
皇帝陛下の用事ならば、告白はやっぱり後だ。
勢いのままに告白しそうになっているラフィーネにだって、それくらいは理解出来る。
「ラフィーネさん」
リディアーヌが名前を呼んだので見ると、目だけで、がんばって、と応援してくれている。
こくりと頷くと、ラフィーネはヴァッシュの方を見た。
「ヴァッシュ様、後で少々、お時間をよろしいでしょうか?」
「……あぁ。俺も話したいことがある」
「では、陛下のもとへ参りましょう」
決意を胸に秘めて堂々と歩き出したラフィーネの隣を歩き始めたヴァッシュが、チラリとリディアーヌの方を見た。
ヴァッシュと目が合ったリディアーヌの微笑みが、ラフィーネさんを泣かせたら許しません、と言っているのは、きっと気のせいではない。
ヴァッシュは、ラフィーネに気付かれないように小さく微笑んだ。
彼の愛する女性は、後輩に慕われるような優しい女性だと思って。




