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読んでいただいてありがとうございます。年越ししちゃいましたー。今年もよろしくお願いいたします。
リンゼイル伯爵家の処分についてはこれから皇帝の判断待ちになり、ラフィーネの護衛に就いていたヴァッシュは通常業務に戻り、これからヴァッシュがラフィーネに対してどういう風な行動を起こすのか見守ってやろうと思って勝手にラフィーネの兄気分でいたトーゴは、ラフィーネの言葉に目を丸くして驚いていた。
「……すまん、もう一回言ってくれ」
「だから、練習台になって」
「何の?」
「ヴァッシュ様に対するアレコレの」
聞き間違いかと思ったら、ラフィーネはちゃんと言っていた。
「何でそうなるんだ?」
「自分から言い出した約束の方が、破られてもちゃんと関わっていた感があるじゃない」
「親が決めた勝手な婚約じゃなくて、自分で決めたいってことか?」
「そうよ。私からヴァッシュ様に告白しようと思って」
「だからって、何で俺?」
「ヴァッシュ様に言うのに、ヴァッシュ様を練習台には出来ないじゃない」
「それはもう告白してるだろうが。っつーか、万が一、そんな場面をトリアテール公爵に見られたら、俺の命が危うくないか?」
「練習よ?」
「練習でもだ。それに、向こうはそれが練習か本番かなんて区別が付かないだろう?どう考えても、ラフィーネが俺に告白しているようにしか見えないって」
「えー?そうかしら?」
久しぶりに二人でのんびりと夕飯を食べている時にラフィーネがトーゴにお願いをしたのだが、トーゴの方は、どう考えてもヴァッシュに睨まれる未来しか見えない。
こんなことで、まだあの世とやらを見たくない。
そもそもラフィーネと二人でこうして夕飯を食べていることだって、ちょっと危ないかな?と思っていたのだ。
ラフィーネがどうしても相談したいことがあるからと言わなかったら、断っていたかもしれない。
内容がぶっ飛んでいたけど。
どうしてラフィーネは、こう斜め横に勢いよく飛んでいくのだろう。
誰も止められないじゃないか。
「一応、確認しておくが、告白するってことは、ラフィーネはトリアテール公爵のことが好きなんだよな?」
「……そうね。私、ヴァッシュ様のことが好きなんだと思う」
「思う、なのか?」
「うん。オルフェに皇家の事情込みの話を聞いた時は、私では無理だって思ったの。だって私ってば、婚約破棄一回、結婚式当日破棄一回という、おかしな経験の持ち主よ?しかも、こっちが捨てられて。普通に考えたら、そんな女が公爵という地位にある方に相応しいとは思えないわよ」
「ラフィーネの場合は、相手の方が悪いだろう?」
「それでも、私の方に問題があったって見なされることはあるのよ。事情を知っている方やヌークス子爵は味方になってくれるけど、私の方が悪いって思う方もいるのは事実よ」
「それは、まぁ、どこでも変わりはないのか」
相手の心変わりや遊んだ結果なのだが、相手の心を引き止められなかった方が悪いと言う人間も一定数はいる。
自分が当事者になった時には相手が悪いと言うくせに、それが他人事だと、相手の心など何も配慮せずに好き勝手言うものだ。
「だから、このままヴァッシュ様からそっと離れて行こうと思ってたんだけど、ずっと護衛として傍にいてくれたでしょう?父や兄とは全然違って、私に文句や嫌みっぽいことを言うこともなくて、傍にいるのがすごく自然で……」
「惚れたのか」
「たぶんね。でも、やっぱり信じることが怖いから、私から告白しようと思って。約束を私からするのなら、捨てられてもちょっとはましかなって。どうせ同じ結果になるのなら、やられる前にやっておこうという気持ちが湧いて来たの」
「わりと勢いじゃねーか」
仕方ないとばかりにため息を吐いたトーゴがラフィーネの方を見ると、ラフィーネはうんうんと唸っていた。
そんなラフィーネの姿を見て、トーゴは、フッと笑った。
トーゴはヴァッシュ本人にラフィーネへの気持ちを確認しているから知っているし、おそらくこれからどういう風にラフィーネに近寄って行くかを考えているだろうことも想像出来る。
ヴァッシュの誤算は、ラフィーネのこの斜め上へ行く性格だろう。
だが、昨今は女性が色々な場所で活躍しているし、こうして女性から告白するのも有りだ。
「ま、だが、時には勢いに任せてもいーんじゃねーか?放っておくと、ラフィーネはもっと変な方向に行きそうだしなぁ。ここら辺で、正式にトリアテール公爵が手綱を握るのも有りだろ」
「人を暴れ馬みたいに言わないでしょ」
「思いもよらない方向に行くのは一緒じゃねーか。ラフィーネは、素直にトリアテール公爵に手綱を握られておけ」
「私が握るの」
「ならお互いに握っておけばいい。で、それで、どうして俺が練習台なんだ?」
「他にやってくれそうな男の方を知らないから」
「おいおい」
「だって、オルフェは外見的に私がいけないことをしてるっぽく見えちゃうし、ちょっと話したことのある程度の騎士とかは論外でしょう?」
「見られた瞬間に、その騎士が可哀想なことになるな。あと、オルフェは止めろ」
「オルフェは、リディアーヌだから婚約が成立してるようなものよね」
「見た目がなー、あの二人はあれでちょうどいい」
実年齢と外見年齢が合わない二人だから、ちょうど釣り合っている。
「私だとギリギリかしら?自分で言うのも何だけど、どちらかと言うと、私は大人の女性よね」
「外見だけはな」
「ひどい」
「大人の女性は、俺にそんな面倒な話を持ってきません。いいか、ラフィーネ、俺は練習台にはなりません。ラフィーネが初めて自分から言う「好き」って言葉は、トリアテール公爵のために取っておけ」
トーゴにそう言われて、ラフィーネはワインの入ったグラスを持ったまま固まった。
「…………そっか、私、初めて他の人に「好き」って言うんだ…………」
初めてそのことに気が付いたラフィーネは、固まったままぽつりと言った。
「違うのか?」
「……ううん、違わない」
「だろう?なら、ちゃんと本命に取っておけよ。練習台に言っていい言葉じゃない。大切な、ラフィーネが伝える初めての言葉なんだから」
「うん、変なこと頼もうとして、ごめんね」
「いいさ、これくらい。練習なしでいけるだろう?」
ラフィーネはふわりと微笑むと、しっかり頷いた。
「えぇ、大丈夫。女は度胸!当たって砕けろよ!次にヴァッシュ様に会ったら、そこがどんな場所でも告白して見せるわ!」
「それは度胸がありすぎるだろ!それに、当たっても砕けないし、何ならそのまま持ち帰られる可能性もあるから、場所と時間は選べ!」
ふわりとした微笑みと言ってることが、全く合っていない。
だが、生き生きとした表情のラフィーネを見るのは楽しい。
「私、いける」
「おぅ、いってこい」
後は全てトリアテール公爵に引き取ってもらおう。
そう思ったトーゴは、思いっきり笑って酒を飲んだのだった。




