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読んでいただいてありがとうございます。
デリックは、コホンとわざとらしく咳をした。
護衛の騎士なら、どこかの貴族の三男とかそういった身分の者だろう。
さすがに隊長クラスになると大貴族の出だったり爵位を持っていたりするので厄介だが、ラフィーネに付いている護衛ならあっても男爵位くらいだ。
それなら、伯爵家であるこっちの方が上だ。
騎士だけあって威圧感はすごいが、しょせん上の爵位の者には逆らえないはずだ。
皇帝陛下だって、たかが侍女の内の一人のことなど見ていないだろうし、この騎士にしても伯爵家の名前を出せば大人しくしているはずだ。
デリックは、まだこの場では自分の方が優勢だと信じていた。
「ラフィーネ、我が家に監査が入ったことは知ってるか?」
「もちろん、知ってるわ」
何でもないようにさらっと言われて、デリックは一瞬、怒鳴りつけてしまいそうになった。
知っているのなら、どうして我が家に有利になるように動かないんだ!
そもそも、どの時点で知っていたんだ?
もっと前に知っていたなら、なぜ役人が来る前にこちらに知らせなかったんだ!
言わないと理解出来ないのか!
やはりラフィーネは、出来が悪い!
言いたいことが色々と渦巻いたが、護衛の騎士に睨まれたので、かろうじてその言葉たちを呑み込んだ。
「知っているのなら話が早い。我が家には何の汚点もないのに監査が入ったんだ。このままでは仕事が出来ないから、お前の方でどなたかに……いや、お前では話にならんな。俺が会うからどなたかに取り次げ。なるべく高位の方がいいな」
デリックの言い様に、ラフィーネはあきれるしかなかった。
……汚点がないとか、どの口で言ってるの?
それにどなたかって、誰でもいいの?
もうちょっと具体的に、どういったことに影響力がある人がいいとか、どの部署の人がいいとか、そういうのはないの?
なら、オルフェを…………それよりもノア・フェレメイン様の方がいいかしら。
今回の監査の責任者の一人だし。
紹介したらしたで、ぐうの音も出ないように言い負かされそうだけど。
それに……。
ラフィーネは、ちらりと隣の男性を見た。
なるべく、どころか貴族の中では現状最高位の爵位をお持ちの方が、すぐ隣にいらっしゃるんですけど……。
当の本人は、デリックの言い様にラフィーネ同様、あきれているようだった。
「お兄様、お兄様の同級生やお知り合いの方が、皇宮で働いていらっしゃいますよ。そちらの伝手の方がいいと思いますが」
「だめだ!あいつらは役に立たない」
ラフィーネには言えないが、デリックだって何とか自分の伝手を頼ろうとしたのだ。
皇宮に勤めている知り合いや爵位持ちの友人たちを訪ねてみたのだが、留守だったり、諦めろと言われたり、何もやっていないなら別に監査くらいかまわないだろう、とも言われた。
それともお前の家は不正でもしているのか?そう問われて、デリックは慌てて否定した。
監査が入っても何も出て来ないから、無駄な時間をなくしたいだけだ。
そう説得しようとして、鼻で笑われた。
さっきだってラフィーネに会う前に、同級生の一人と皇宮内で遭遇した。
財務局の役人になってると聞いたので手紙を書いたのだが、その返事は素っ気ないものだった。
たまたま遇ったので再度、止めさせるように頼んだが、深いため息と共に、お前は何も分かっていない、たかが同級生にまで余計な手紙を書くな、と言われて冷たく突き放された。
どうやらこっちは友人だと思っていたのに、アイツの方はただの同級生だと思っていたようだ。
「それに他国に留学していた俺より、ここでずっと働いているお前の方が知り合いは多いだろう?一人くらい、高位の方はいないのか?」
だから、目の前に一人いるんですけど。
そう言いたいのをラフィーネはぐっと堪えた。
もういっそ皇帝陛下その人に会わせた方が早いのではないだろうか?
そんな馬鹿なことを考える余裕がラフィーネにはあったのだった。




