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読んでいただいてありがとうございます。誤字脱字報告、助かります。
「助けて、トーゴ!」
契約通り夕飯を一緒に食べるためにラフィーネを迎えに来たら、泣きそうなラフィーネと笑顔のオルフェが待っていた。
「どうした?ラフィーネ、何だかどこかに売られていきそうな顔をしているが……オルフェに売られたのか?」
「失礼だね、トーゴ。僕はどちらかというと、売られそうなラフィーネを先に引き取ろうとしただけだよ」
「そっちも嫌ー。でも、もっとピンチなの!」
そうか、オルフェに引き取られるのは嫌か。気持ちは分かる。
そこはトーゴも共感出来る。
それ以上のピンチって何だろう。
「一応、個室のあるところを予約したから、そこでじっくり聞こうか。ここだと、ちょっと目立つ……」
泣きそうな侍女と笑顔の文官と巻き込まれたっぽい商人の組み合わせは、大変目立つ。
いくらここが使用人が使う出入り口とはいえ、門番もいるし他の人も出入りしているので何だか視線が突き刺さっていたい。
トーゴがラフィーネを泣かせたわけでもないのに、何か責められている気がする。
「ご、ごめんね、トーゴ」
「いいよ、ラフィーネは俺の数少ない友人だからね」
「その友人枠に、当然僕も入ってるよね?」
「はいはい、入ってる入ってる。お前も来るんだろう?」
「うん。じゃないと後で荒れそうだし」
「嫌ー、これ以上、荒れたくない!」
「……おい、オルフェ」
「ごめん、ラフィーネ」
何だかわっと泣き出しそうなラフィーネを宥めてその場を後にすると、トーゴは皇城から少し離れた場所に隠れるようにひっそりとある食事処に二人を案内した。
「ここは、誰かの紹介がないと入れない店なんだ。食事も美味しいし、置いてある酒の種類も豊富だが、暴れるような人間はお断りっていう店だな。大人のデートにはちょうどいい店だな」
「へぇー。こんな店があるなんて知らなかった。どうして僕に内緒にしてたの?」
「その顔でこの店に入れるとでも?」
「成人はしてるじゃん」
「学生がデートする場所じゃないからなぁ。リディアーヌ嬢とここに入られると、店にも悪い」
「童顔なだけなんだけど」
いくら何でも学生(外見だけ)が出入りする店ではないし、変な評判が立つのも悪いと思ってオルフェに紹介しなかっただけだ。
「まぁ、確かにここで僕とリディがお酒を飲んでいたら、他の人もびっくりしてしまうかもしれないしね」
この国に住んでいる全員がオルフェとリディアーヌのことを知っているわけではないので、外見詐欺二人がお酒を飲んでいたらそれはそれで驚かれそうだ。
中に入ると、上品そうな店員に導かれて個室に案内された。
ラフィーネでも飲める軽めのワインを頼む。オルフェの意見は特に聞かない。オルフェはどうせ何飲ませても変わらないんだから、出てきた物を飲んでおけばいい。
「それで、どうしたんだ?」
ワインとそれに合わせた食事がお腹に入ったことで落ち着きを取り戻したラフィーネは、ようやく今日一日の出来事を頭の中で整理することが出来るようになった。
「実家が、色々とやらかしたらしくて、何かしらないけど私が狙われる可能性が出てきたらしくて」
「……本当に売られそうになってたのか?」
「かもしれない。でも、それを宰相補佐のノア・フェレメレン様から聞かされて、その対策でオルフェに引き取られそうになるし」
「いーじゃねーか。オルフェをお父様と呼んでやれ」
「そう言ったら、じゃあリディアーヌがお母様ねって返されたわよ!」
「リディアーヌ嬢はちょっと……」
オルフェならまだしも、リディアーヌをお母様と呼ぶのはさすがに抵抗がある。
「二人とも、僕に対してひどくない?」
「お前なら笑顔で、どうしたの?可愛い娘よ、くらいは余裕で返すから別にいいだろう」
「変な信頼感はあるわね」
「やだなぁ、二人とも」
「で?ラフィーネ、まだ続きがあるんだろう?」
笑顔のオルフェは放置して、トーゴはラフィーネに続きを話すように促した。
「それで、護衛を付けるって言われて」
「護衛?なら皇城の騎士か?」
「父がどの爵位持ちを連れて来てもいいように、ノア様が最上級の爵位持ちの方にお願いしたら、快く引き受けてくださったんですって!」
最後の方にヤケクソ感があったが、今の帝国で最上級の爵位を持つ騎士といえば……。
「……騎士団長、ヴァッシュ・トリアテール公爵か」
「そうよ。だから、助けてトーゴ」
泣きそうな顔のラフィーネには悪いが、トーゴが返せる答えは一つだけだった。
「悪い、無理だ」
「……ですよねー」
ラフィーネは、手に持っていたワイングラスの中身を一気に飲み干したのだった。