表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

読んでいただいてありがとうございます。「それは当たり前じゃないから」の電子書籍が8/25にシーモアさんで先行販売されます。他社は9/15です。書き下ろしでトーゴが出てきますので、よろしくお願いします。

 兄がラフィーネを睨みつけながら帰って行くと、ラフィーネは自分の肩を軽く揉んだ。


「あぁ、疲れた……」


 心の底からの声は、どこかオヤジめいた声になったが、兄と話すのは疲れる。


「トーゴ、ありがとうね」


 ちょうどいいタイミングで声をかけてくれたトーゴに微笑むと、トーゴもデリックがいた時と違って、柔らかい表情になった。


「いや、あれが噂の兄君か」

「えぇ、そうよ。父と兄は、何と言うか……二人で一組のような存在ね。長男だから何でもやってあげるという態度の父と、父が言うことに間違いはないって勝手に思っている兄。留学して少しは父の言うことを真に受けない人間になって帰ってくるかと思っていたのに、自分がいない間の出来事は父にしか聞いていないようね」

「ラフィーネが言ってもだめなの?」

「無駄よ、無駄。私の言うことは信じないっていう前提がある人たちだから。自分より下だと見下している人間の言うことは、何を言っても信じないのよ。たとえば、私があの人たちの話を否定したら、ものすごい勢いでそんなことはないって言い張るのよ。でも、あの人たちの友人が同じように否定したら、そうだよね、ってあっさり信じるのよ。しかもそれを自慢そうに、おかしいと思っていたとか私に言ってくるの。だから言ったのに、って最初の頃は言っていたんだけど、言った言わないでさらに一悶着起こるから、何も言わないことにしたの」

「……何と言うか、自分に都合のいい記憶にすり替えるのが上手いのか。しかも、それが真実だと思い込んでいる。いや、彼らの中ではそれが真実なのか。だが、友人の言葉は素直に聞くんだな」

「自分と同等だと思っているの。基準が自分なのよね。自分より下だと思っている人間の言葉なんて一切聞かないから、だんだんとこっちも何も言わなくなって……。言っても否定されるだけなら、言わないわよね」

「そうだな。下と決めつけた人間に、はい、そうですね、という言葉しか求めていないんだろうな。そういう人間は、いずれ見捨てられる」

「そうかもね。でも、きっと本人たちは裏切られたって思うのよ。裏切るも何も、最初から信頼なんてしてないのにね」


 くすくすと笑うラフィーネからは、先ほどまでの疲れた表情は消えていた。


「しかし、留学してからずっと帰って来ていなかったんだろう?どうして今頃になって帰って来たんだ?」

「兄曰く、爵位を継がなくちゃいけないから、らしいけど、うちなんて家系が古いだけで潰れても何の影響もないけどね。一応、伯爵位にあるからかしらね」

「……ふーん」


 トーゴは、先ほど聞いた話を思い出していた。

 皇帝が、どうも爵位関係に手を入れるようだ、というような噂が流れ始めているそうだ。

 先祖が功績を挙げただけで、今は何の役にも立っていなそうな爵位持ちを整理する。

 貴族の中で、そんな噂話が少し前から流れているらしく、心当りがある貴族たちが戦々恐々としているらしい。

 まぁ、オルフェがくすりと笑いながら教えてくれたから、半分くらいは当たっているのだろう。

 確かに商売をしていると、領地の運営さえまともに出来ていない貴族に会うことがある。

 そういう人は、たいてい先祖の自慢ばかりする。

 すごいのは先祖であってお前じゃねーよ、と心の中で思っているが、口には出さずにおだててさらに商品を売りつけるのがトーゴの仕事だ。 


「しかも、私に結婚話を持ってきたのよ!信じらんない!」

「は?マジか?何だ、またどこかで借金でもしたのか?」

「知らないわよ。でも、あの父が何の見返りもなく私の結婚を決めるとは思えないわ」

「……するのか?」

「するわけないでしょう?もう、あの人たちに振り回されるのは嫌」

「そうか。だが、ラフィーネ、その話はオルフェに伝えておけよ」

「え?オルフェに?」

「そう。友人が不幸になりそうなのを、黙って見過ごすことなんて出来ない。皇宮で働いていたいんだろう?」

「もちろんよ」

「なら、友人を頼っておけよ。皇宮にコネがなく小さな領地しか持たない貧乏伯爵と、豊かな領地を持っていて、さらに宰相室に勤務して皇帝からの信頼もある子爵、どっちが上かは馬鹿でも分かるだろう?」


 爵位は一つ下だが、オルフェには皇宮内での人脈もある。

 

「そ、そうね……」


 戸惑うラフィーネに、トーゴは微笑んだ。


「ラフィーネを守るって契約しただろう?」

「あれ?契約にそこまで含めたっけ?」

「含んでるだろ?だって、契約はまだ終了してないから、俺はラフィーネを夕食に誘う権利を有している。つまり、ラフィーネがいなくならないように守らないといけないってことだろう?」

「すごい屁理屈に聞こえるのは何故かしら?でも、ありがとう」

「そうだ。他にも頼りになりそうな人には伝えておけよ」


 トーゴにそう言われて頭に浮かんだのは、爵位もばっちり上の騎士団長だ。

 ヴァッシュに言えば、すぐに解決してもらえそうな気がする。

 主に、物理で。

 リンゼイル伯爵家攻略のための作戦とか考えそうで怖い。

 そうなった場合、リンゼイル伯爵家がなくなってしまいそうだ。


「か、考えておくわ」


 今のところ、父と兄には色々と思うところはあるが、さすがに伯爵家終了のお知らせまでは望んでいないラフィーネは、動揺しながらそう言ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
・伯爵家 綺麗さっぱり、無くして良いと思いますよ。 そんくらいは無いと目が覚めないかと。
というか、消滅確定だ。
失くなると言うか降格くらいは在るかも?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ