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13 野蛮な王者と輝く星

弱い虫達を投げ飛ばす腕力だけで生きとると野蛮虫になる

本当のチャンピオンとは言えないと気づきます。

 カーコが畑を目指して飛び立った後、カブマサは林の中を飛びまわりました。

♪ 僕らは強いぞ力持ちー

  ひとたび角をふるならばー

  どーんな虫も退散するのさー

  僕らは甲虫一万のー

  一万種類のチャンピオン―

カブマサのハリのある歌声が飛び行く緑の木立に響いて行きます。

のどの(かわ)きをおぼえて近くの木を探して、三匹のクワガタ虫と一匹のカブト虫がいるコナラの幹に止まりました。

歌声を聞いていたクワガタ虫達は

「チ、おもろない」

互いに目を合わせました。

美味しく樹液を飲みながら、カブマサは身の幸福を感じていました。

生まれる子はどんな子になるやろ。

かわいい幼虫の子を思い、成長して逞しい子を思いました。

強くて良い子に育ってほしい。

けれども、と弱い虫が強い虫に投げ飛ばされる光景が浮かびました。

もし、弱い子やったら……。

争いのときを思って、ふいに心がゆれました。

可哀そうな思いはさせたくない、不幸になってはならんのや。

子の行く末を案じてしまいました。

子が成虫になったとき、自分はこの世にいない。

どんなに護ってやりたくても手も足もだせやんのや。

と、胸がつかえてしまいました。

ほんなら、どうしたらええんや。

闇の中で気をもみ、じっと(なげ)いていましたが、心配は突如(とつじょ)、素晴らしい名案と(せつ)なる願いになりました。

「ほうとも!周りの虫が兄弟のように思て子達を導いてやってくれますよぅに。悪しき者は去れ!!」

カブマサは天に向かってつぶやくと、同時に愕然(がくぜん)となりました。

ぼ、ぼくは、僕は投げ飛ばしてきた。

あの時、この時のの虫の姿、その光景が目の中に(よみがえ)ると後悔の(ねん)が激しくわき出して息苦しくなってしまいました。

樹液を飲もうとして投げ飛ばされた悲しい胸の内や、地面に落ちたときの身体の痛みはどんなに苦しいものやったか、そんなこんなを今更のように思いやると、たまらなくなって涙があふれだしました。

ごめん、ごめんの、あの時、この時の一匹一匹の虫を思っては、どんなに辛かったやろかと詫びました。

しばらく詫びて反省しているうちにいくらか心も慰められ、涙が塩辛いと知り、今しがたまで考えもしなかった両親を思いました。

会ったことのない父母、父母の一生は幸福やったやろか、周りの虫達は親切で良い虫やったやろか、親とも子達とも同じ夏を生きられない僕ら、大切な親と子に何もしてあげられやんのや。

そんな思いを巡らしたこの時、愛しい父母と子達の姿が投げ飛ばした悲しい虫達の姿と重なり一つになりました。

僕らには今この夏を生きてる虫達、周りの虫達こそ血を分けたような深い(えにし)があるんや。

カブマサは深く息を()きました。

大事な一生に取返しのつかん罪を残してしもた。

必死に追い求めた僕の幸福は、自分と周りを傷つけ不幸に追いやっただけなんか。

所詮、周りを(ないがし)ろにして自分一匹の幸福を求めるのは、品性の(いや)しい目先にとらわれた(おろ)かな生き方と思い知ったのでした。

カブマサはカーコと暮らしているクヌギに帰りました。

 カーコの笑顔を見たらきっと心が明るく晴れると思ったのに、カーコは帰っていませんでした。

ほうや、こんなときは大空を見るんや。


 たまらなく(みじ)めで(みにく)い自分が嫌になり、新しい自分に会いたくて林を飛びぬけて広い田畑の上にでました。

地平まで続く田畑の上の空は無限に青く広く、星々が無数に白い光を放ち連なっています。

その大空を(なが)めながら飛んでいると重い心はしだいに澄んで解放されていきました。

稲田の中に裸の(はん)の木がチョコン、チョコンと離れては立っています。

あの太い榛の木で休もう。

夏草の生える畦道に立つ榛の木には一匹のカブト虫が休んでいました。

身体がいびつにへこんでいます。

もしや……カブマサは近づいて静かに声をかけました。

「カブキチ」

星を見ていた無心な目が、こちらを向きました。

「ーーーあ、ああ、お久しぶりです」

カブキチは一瞬知らない虫かと思ったのです。

気弱で何か悲し気な優しさを(ふく)んだカブマサの顔。

「あの時、追い払って悪かった」

申し訳なさそうに()びました。

カブキチは頭を横にふりました。

「こちらこそ、こめんの、何もされてないのに飛び去って心配かけたの。悪いのは僕の方や」

カブキチも詫びました。

「ふふふ」

「ははは」

心と心がとけ合って互いがテレました。

「あの光ってる星たち」

静かなカブキチの声に、カブマサは星をながめました。

「あの星たち、僕らの仲間の姿や、あそこに光ってるのがカブマサの星や」

カブマサは、大きな光を放って瞬いている星を見つめました。

「僕、長い事考えてた。皆、輝いてる、僕は何で自分を輝かせたらええのかって」

カブマサは話すカブキチを見ました。

悲しみも淋しさも無い顔、むしろ喜びに輝いて見えました。

「けど、やっとわかったのや。身体はこんなんでも心は自由やて、心で輝けばええのやって」

カブキチは笑顔を(たた)えて語ります。

「僕、心の優しさのチャンピオン目指すな」

「ほれ、素敵なことやの」

カブマサはにっこり美しい目でうなずき言いました。

「僕も心を磨かんとな。腕力だけで生きとると、ただの野蛮虫(やばんむし)になってしまうからな。甲虫一万の本当のチャンピオンとは言えないんや」

語るカブマサの身体に生き生きと力がみなぎってきました。

カブキチは目を輝かせてうなずきました。

今夜はカブキチに会えて良かった。前へ進むのみ。

カブマサは、周りの虫に罪を作った以上の何倍も幸福をつくり、護っていける真のチャンピオンに生まれ変わろうと、夜空の澄んだ大きな光に誓ったのでした。

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