1 誕生 母子の別れ
この地球に生まれて親に育てられる哺乳類と、おギャーと生まれた時には親がいなくて一人ボッチで生きて行かねばならない生き物が数多くいるのですね。
去年の夏の夜でした。
芋畑の堆肥の中に、お母さんカブト虫が白くてつやつやした米粒よりも小さな卵を五個産みました。
「どの子も大切な子やでな皆仲良よう元気でな。母さんはいつでも、どこにおっても、皆の無事成長と幸福を祈ってるでな」
お母さんカブト虫は優しく話しかけて、いつまでもなごり惜しそうにしていましたが心を決めると飛び立って行きました。
五匹の子達は白い殻の中ですくすく育ち、十日目にはその殻を次々と破って真っ白なけなげな赤ちゃん幼虫にかえったのでした。
幼虫達は土の中で誰と争うこともなくのんびりと腐葉土をたっぷり食べて過ごしました。
父母については幼虫の誰もが会ったこともなく何も知らないのでした。
秋の初めに食べ物の樹液が涸れて他界されたことも。
いつしか秋は冬となり春となり今年も暑い夏が来ました。
丸々太って大きく育った幼虫達は蛹になり、三週間目に蛹の皮を破り脱いだのです。
それから三日目、四日目には、黒褐色の姿も立派な成虫となりました。
この日まで身体にきのこが生える病にかかることもなく、天敵のモグラに食われることもなく。