うちに待望の子供が産まれた…けど
うちに待望の子供が生まれる!我がウェーリキン侯爵家に子供が!!
しかも、お腹の大きさから双子だと主治医から聞いている。何という幸運!
私は妻の出産を心待ちにしていた。
「旦那様、こちらが長女となります子でございます。」
なんてことだ。このセント・ルミヌア王国において『不幸の象徴』とされる黒髪の子ではないか?目はまだひらいてないが、黒目?なんて不幸なんだ!
いやいや、もう一人私にはいる!その子に賭けよう!
「旦那様、こちらは次女になりますお子様でございます。まぁ金髪が美しい。目鼻立ちもしっかりとして。さぞかし美人になるでしょうね!」
私もそう思う。そうだなぁ。王家と姻戚関係ができるといいな。長女は…。死なない程度に育てよう。
「愛しい我妻、ミルカよ。頑張ってくれて感謝する。可愛い娘ができた」
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
「長女なんだが…言いにくいが…黒髪なんだ」
「そうなの?なんてことでしょう?私はなんてことをしたの?侯爵様に謝らなければ!」
「出産直後にそんなに興奮しないで欲しい。もう一人は金髪美しい、顔立ちの整った子だ。君ににているかな?」
「まぁ、お上手。おほほ」
「黒髪の子にはアリサ。金髪の美しい子にはカリナと名付けようと思うが?」
「侯爵様に従いますわ」
そんなやり取りから、4年が経ったある日。
「お姉さま、お姉さまは『不幸の象徴』らしいじゃない?仕方ないから私が侍女にしてあげる。これからは私に従うのよ?」
そう言われた。
それからというもの、何でも面倒事は私に押し付けて、カリナは楽しく過ごしていた。何故か父様も母様も便乗して、私はこの家の家令のようなことまでするようになった。4才にして、領地経営やら経理などを執事や他の使用人と共にするようになった。
それから12年が経った。
「デビュタントねぇ。お姉さまには関係ないかわよね。確か皇太子様も参加されるとか。彼の目に留まるように私を飾り付けなさい?出来るわよね?あぁ、忙しいわ、ドレスの採寸やら、アクセサリーの選定。やることはいっぱいよ。さぁ、侍女として頑張りなさい?」
「…」
私はデビュタントには参加できないようだ。別に興味はない。カリナを飾り付ける。面倒事が増えた。領地経営もしなきゃならないし、出費を考えると頭が痛い…。
デビュタント…確か白を基調としたドレスよね?とにかく採寸。あと、国一番の仕立て屋にデザインの依頼をして…。
デビュタント当日。
「なんで、皇太子に見てもらえなかったの?」
そんなの私のせいじゃないし。
「私は全力で取り組みました」
母様の浪費の中で経費のやりくりをし、ドレスを仕立て、アクセサリーを選定しました。
「私よりも地味な子が皇太子に声かけられてたじゃないの?」
そんなの知らない。
「まぁ、そんな事があったの?何て役に立たない子でしょう?」
多分そんな母様の浪費がなければもっといいアクセサリーを選べた。
「役立たずに食わせるような食事はうちにはない。出ていきなさい」
「そうよ。姉さまなんて必要ないわ!」
「…」
「国外永久追放だな。そうだな、あの馬車で隣国テールス帝国に行くがよい。お前のような黒髪が多いと聞く。さぞや、重宝されるだろう」
「…」
「そうね、この子は産まれた時から私たちを不幸にしてきたもの。丁度いいわ」
こうして私は隣国テールス国にボロ馬車(他のより)で運ばれた。
御者は「お嬢様のいないあの家に未練はありません。このまま私も隣国に亡命します」
と隣国までついてきてくれた。
御者の方曰く「あの家はお嬢様で守っていたようなものです。お嬢様がいなくなっては潰れるでしょう?今きっと退職者続出ですよ?」
そうなのか?私は言われるがままに生きてきたけど、そうなのかな?
その頃のウェーリキン侯爵家。
「何故だ?辞職願がこんなに。執事まで?給金ははずむと言っているのに?」
辞職願を出さなかった(勇気ある)侍従が言った。
「では、その給金はどこから発生しますか?」
「領地から」
「正解ですが、旦那様はお嬢様よりも上手く領地を経営できますか?」
「なんて侍従の分際で生意気な!お前など解雇だ!!」
「嬉しゅうございます。これで思う存分実家に戻って親孝行をしたいと思います。失礼します」
そう言って去っていった。
「そういえば…領地経営などあの黒髪に丸投げしていたな。最近の様子など知らない。内政についてもよく知らないし…。どれ、久しぶりに帳簿を見るか…」
そこにはキレイに書かれた文字で、妻の浪費っぷりが明らかになった。
「おい、ミルカ?この帳簿に書かれているようにお前はこの10年近く浪費を続けていたのか?」
「まさか?旦那様、その帳簿を信じるのですか?それはアリサが書いたもの。正しく書かれているとは限りませんよ?」
「まぁ、そうだな。でもなぁ、ミルカが持ってる宝石の類と一致するんだよなぁ。社交界の時期とも」
「旦那様に疑われるなんて!」
とミルカは泣きながら(泣いたふり)部屋を出ていった。
「あの小娘(←自分の娘なのに)、帳簿をキレイに残していたのね。キレイにまめに書きすぎなのよ」
そう思いながら、顔を覆う手の奥で唇を嚙んでいた。
侯爵はこう思う。
あーあ、ミルカの浪費がなければデビュタントでもっとカリナを飾り立てることが出来たな。
というか、今後の生活はどうしたらいいんだ?
使用人がぞくぞくと退職。きっとこの家の状況を噂話のように言っているから、新しく使用人を雇うのも難しいだろう。
これではどうしたらいいんだ?
テールス帝国には黒髪の人がたくさんいた。書物で読んだことがある。テールス帝国では黒髪が『幸福の象徴』である。と。セント・ルミヌア王国と逆だなぁ。
これからどうやって生きていこう?
「お嬢様は領地経営・内政人事・経理と培ったものが沢山あるので自信を持ってください!あ、あの店などいかがでしょうか?はじめは短期で働いていてもいずれ正式に雇っていただけるかもです!頑張ってください!俺ですか?俺は馬車を操るしか能がないですから、今後もその方向で働く場所を探します!では」
そう言って、御者は消えてしまった。
あの店かぁ。飲食店?お昼だし、言ってみる?
「スイマセン」
「あー、今忙しい。4番テーブルからオーダー」
なんか戦争みたい。戦争知らないけど。
「突っ立てるなら手伝っておくれ!」
そう言われて、私はエプロンをした。
「4番テーブル上がり」
「ほら、運んで。私は会計やるから」
会計?
「経理とか得意です」
「得意でもねぇ、いきなり会った人間にここの会計は任せられないよ!ほら、オーダーとったとった!」
うん、確かにその通りだな。信用がないと、会計なんて任せられないよね。
信用のためにも接客頑張ろう!
「お嬢ちゃん、今日から?」
「はい、臨時ですが」
「こりゃあ、いい看板娘だ。女将、いい娘を拾ったな!」
「まだ雇うと決まったわけじゃないよ!」
「そうなのです。私の働き次第です。ですので、ご注文をお聞きします」
この人は昼間から酒臭い。何軒目だろう?ハシゴして飲むというやつかなぁ?
「とりあえず、酒。とつまみ」
「それと胃にいいものがいいですね。飲み過ぎは胃に悪いですよ?」
「あ、こんな可愛い子に言われたら、仕方ねえな。じゃ、その通り頼む」
「3番テーブル。オーダー入ります。酒とつまみと何か胃にいいものをお願いします!」
「お嬢ちゃん、なかなか威勢がいいねぇ」
「恐れ入ります」
そんな感じで、昼のラッシュを乗り切った。
「女将さん、私をここで雇ってくれませんか?最初は短期で構いません」
「私はもう採用したつもりでいたけどネェ」
そういって女将は去っていった。皿洗いをするそうだ。
女将は思う。
やけに丁寧な口調で接客をする子だね。ありゃあワケアリの貴族の子と見た!黒髪…うーん、セント・ルミヌア王国出身だろうか?まぁ、人には聞かれたくない事の一つや二つあるもんだし、聞かないでおこう。
翌日元気にアリサは出勤した。
「おはようございます!本日もよろしくお願いします!」
「さて、接客は昨日でマスターしただろう?見る限り合格だ。今日からは会計を頼む」
ああ、信頼された。よかったぁ。会計頑張ろう?
「えーと、この機械は?」
「お前さんはレジスターを見たことないのかい?まさか暗算しようとしてたんじゃ…」
「え?違うんですか?」
私はレジの使い方を教わった。世の中には便利なものがあるものだと思った。私があんなに苦労して計算していたのに、数字を打ち込むだけで計算できるなんて…。昔の自分に教えてあげたい。
そしてその日は一日会計をしていたのですが、どうやら私がこの店の『看板娘』ということがひろまっているらしく、非常に繁盛したと同時に、私に接客を!という声が多く聞かれたらしい。
「アリサ、お前さんは明日からはホール勤務」
「ホール?」
「接客するように。お客さんからの要望だ。『看板娘』に接客させろって」
そんな事になっていたとは。
ある日、帝国の皇帝の使者が店に来た。
「この店の『看板娘』に皇帝は会いたいと仰っている」
はぁ?あまりに突然すぎる。私はまだ数日しか働いてないのに、もう皇帝が知ってるの?
「皇帝の使者様が仰ってるんだから仕方ない、アリサ行っておいで」
皇帝かぁ。また貴族。面倒だなぁ。
「皇帝陛下に申し上げます。アリサなる『看板娘』を連れてきました」
「では皆の者下がれ」
ん?聞いたことのある声。
「アリサお嬢様、元気でしたか?」
「あ、御者の人!テールス帝国の皇帝陛下だったんですか?なんでセント・ルミヌア王国の我が家(勘当されたけど)に?」
「ちょっと影武者を置いて、隣国の偵察に。ウェーリキン侯爵家は偶然。侯爵家はアリサお嬢様を失って没落の一途を辿っているらしいです」
そうでしょうね。私がほぼ全部やってたし、母様は浪費癖あるし。
「偵察ならば、他の人にやらせればよかったでしょうに」
「いやぁ、実際に見てみたくて」
「感想は?」
「良くもないし悪くもない。かな?興味ない」
なんかわかる。
「でも俺は黒髪を『不幸の象徴』とかの言い伝えはやめた方がいいと思うな」
「こちらでは『幸福の象徴』でしたっけ?見た目でそういうのはやめた方がいいと思いますね」
「そうだな。今の興味の対象はお嬢様」
「は?私ですか?」
「そう。聡明だし、美人だ」
私は美人と言われたことないけど?
「それはないですね。私は美人じゃないでしょう?」
「いやぁ『看板娘』になるのは美人だよ。だから美人だ。自信を持ってくださいお嬢様。あの家で刷り込みのように「あんたは大したことない」みたいに言われたからそう思うだけですよ!」
皇帝陛下から敬語で話されるもの変な感じ。
「百歩譲って美人だとしましょう。私を帝国の役に立つように使うのですか?」
「ちょっと違う!宰相とかも出来ると言えば出来ますよねぇ。お嬢様の知力をもってすれば可能ですけど、そうではなくて…私の伴侶になってほしい」
「国母ですか?他国出身だけどいいんでしょうか?」
「この国にそんな事にこだわるような人間はいない。知力が重要だ」
へぇー。
こうして私は隣国テールス帝国の皇妃となった。
なんか実家、ウェーリキン侯爵家から金銭的援助して欲しいというような文が届いたが、そのまま暖炉に捨てた。私を勘当した家に今更金銭的援助をするわけないじゃない?
それでもしつこくセント・ルミヌア王国で「娘が隣国テールス帝国の皇妃になった」と自慢しているらしい。そっちから縁を切ったクセに。面の皮が厚いというか、図々しい。
皇妃としてわかったのだが、あの店は皇帝陛下の息のかかった店のようです。なんでも行き倒れそうな店主と女将を皇帝陛下が援助したとか。陛下らしいけど、騙されたような感じです。
皇妃としての重要な仕事は世継ぎを産むこと!それはクリアしました。
既に3人も男の子がいます。3人みんな仲良くしてください。くれぐれも跡継ぎ争いしないように!
長男には帝王学を。次男には文官としての勉学を。3男(まだ小さいけど)は武官ができればと思っています。いえ、好きなことすればいいんですけどね。
陛下が「女の子欲しいー」と夜な夜な迫ってきます♡
ま、それもアリです。仲良しでいまのところ5人家族です!