表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ふれんず

走れ! ──ふれんず

作者: 家紋 武範

 放課後、椅子ではなく机に腰をおろして、友人の茜音(あかね)の告白に驚いていた。付き合っている恋人とついに一線を越えたらしい。


「へー……、そーなんだぁ。すごーい」

「はいはい。人のことはどうでもいいでしょ? そっちは?」


「そっち、って?」

「山田と、よ」


「な、なに言ってんのよ。海斗(かいと)とは友達だよ?」

「もう、そーゆーのいいから。あんなにベタベタしてんのに、なにもないわけないでしょ?」


「いや、ホント、なにもない、よ?」

「マジで未だにそんな感じなワケ? お互いに好きなの見え見えなのに。片方から歩み寄ろうって思わない?」


「だって、別に……」

「じゃあ誰かに山田を取られてもいいのね?」


「そんな、取るとか、取られるとか」

「あり得るでしょ? その時になって後悔しても遅いよ? 山田は何も言ってこないわけ?」


「いやぁ、ウチたちそんな恋愛とかの間柄じゃないし」

「じゃあ何もないのね?」


「それは……」


 私は冷静を装ってはいたが、顔が熱いことに気付いた。おそらく真っ赤な顔をしていたのだと思う。


「──将来、お互いに独り身だったら、気が合うもの同士結婚してもいいなぁ、って」


 最後のほうは恥ずかしくて声が小さくなってしまっていた。だが茜音を見ると眉を吊り上げていたのだ。


「ナニソレ!? 遠回し過ぎるし、聞いてるこっちが恥ずかしいわ。付き合おうって言えないから、そんな変な約束してくるんじゃん。ちっちぇーわー」

「ちょっと、そんなヒドイこと……」


 その時、教室の後ろのドアが開いて、渦中の海斗が入ってきた。


「ういーす。麗衣(れい)帰ろーぜー」

「お、おす」


 少しうろたえた声を出したので、海斗は顔を上げた。その時、茜音が海斗を睨んでいたようで、海斗も慌てていた。


「うお! おっかねぇ顔。生野、俺なんか悪いこと、した?」


 姓で呼ばれた茜音はそれに答えず、歯軋りして睨み続けていた。私は机から飛び降りて鞄を取って海斗へと近付いた。


「大丈夫。なんでもないよ! 帰ろ」

「お、おう」


 まだ怯えている海斗の手を引いて、私たちは教室を出た。校門を出ると海斗はいつものように大きく伸びをしてから言う。


「俺ン家寄ってけよ。テスト勉強しようぜ」

「またまた~。そう言ってゲームするだけでしょ」


「まあまあ、一狩りだけですって。その後勉強。ね?」

「その一狩りが長いんだって。まあいいけど」


 いつもの調子。でも茜音が言ったことを思い出した。自身の恋人と一線を越えたこと。

 私は海斗の部屋に行っても、当然体を密着することもないし、キスだってしたことない。ただの友だち。

 よく言う友だち以上恋人未満みたいなものでもない。ただ近くにいて、ゲームして、勉強して、笑いあっているだけ。そんな雰囲気になったりしない。


『将来、お互いに独り身だったら、気が合うもの同士結婚してもいいなぁ』


 ある時、海斗は冗談混じりにそんなことを言った。私はその約束に期待しているが、それはなんの補償もない。冗談と言われれば冗談になってしまう、他愛もない口約束なのだから。


 少しだけ悲しくなる。私は、海斗が好き──。でも海斗はどうなんだろうか? 部屋に連れてきてもなにもしないなんて。私、そんなに魅力ない?


「あの……」

「ん?」


 つい声が漏れた。海斗はそれに聞き直す。内心焦ったし、その後に続く言葉を、私は持ち合わせていなかったのだ。


「あのぅ、さ……」

「ど、どうした?」


 私の調子が今までと違うので、海斗は少しばかりうろたえている。そして私も勇気ある一言が言えず、数秒固まっていた。


「今年で卒業、じゃん」

「ああ、だなー」


「まあお互いに近くにはいるし、会えるときは会うって約束はしてるけど、さ」

「そーだよ。今と変わらんよなー。俺たち、いつになったら彼氏彼女できるんだろーな」


 海斗は、そう言っていつものように余裕気に大きな伸びをした。


 彼氏、彼女、か。もしも私に彼氏が出来てもいいのかな……? 海斗にも彼女が……。そしたら、二人で遊ぶ時間なんて無くなるよね。二人で会うことなんてお互いのパートナーに許して貰える分けないし。


「はあー」

「お、溜め息。幸せ逃げるぞ?」


「なにそれ古くさ」

「で? 卒業だからなに?」


「あー……」

「うん」


「海斗の制服のボタン。予約しててもいい?」

「え!?」


 途端に海斗は真っ赤な顔をした。そして固まる。私も恥ずかしさを消すように続けて言った。


「別にいいでしょ? 他に仲良い男子なんていないし。それとも他にあげたい人いるの?」

「い、いや、おらんけど……」


「ならいいね。予約。約束だよ」

「う、うん」


 私たちは黙りながら歩みを進める。私は恥ずかしがって、鞄を大きく振っていた。

 海斗のほうを見てみると、彼は口を真一文字に結んで一方向だけを見ていた。なんかそれ見てたら笑えてきた。そしたら海斗は視線を私に落として言ってきた。


「あの、俺も卒業ン時、麗衣に言いたいことある、かも……」

「え?」


「うん、ある。言いたいこと……」


 私たちは立ち止まって、お互いの顔を見つめ合った。赤い顔をしながら……。


「卒業の時じゃなきゃダメ?」

「いや、いつでもいいっつーか……」


「じゃここでは?」

「いや、さすがにここでは……」


「じゃ、海斗の部屋に行ってから。それなら?」

「えー、まー……、それなら……」


「じゃ約束。行こ!」

「お、おう……急だな……」


「全然急じゃないよ。ほら走って」

「走るのかよぉ」


 私たちは、走り出した。海斗の部屋へと。その日はゲームや勉強どころじゃなかった。明日茜音に報告することが出来た。彼女の驚く顔が楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おやまあ、よかったですね。 これまでの分まとめて、二人はすてきな関係になるのでしょう。
[良い点] 家紋お師匠さまの青春もの、いつも大好きなのですが、これも可愛いし甘酸っぱいしで良かったです(n*´ω`*n) 走れ!というタイトルが、駆けだしたの姿だったんですね。この場面もこのタイトルも…
[良い点] ち、チクショー! 青春しやがって。 おめでとうと言うべきか? それともモゲてしまえと言うべきか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ