発端
日中が辛い。朝日が嫌いで、家の電灯さえも眩しく感じる。
今日も今日とて求人応募をポチる。
合否は就業日近くまでわからない。たとえ落ちたとしてももう慣れたもんで、次いこ次の精神だが、それが高を括っていたところだと落ち込む。
こういうのってプライドが高いってことなのかな。
猫たちはこちらの事情なんてお構いなしに布団に潜ったり遊んだり飯を催促したり。
動物かつ家族だと思っているから許されるのだ。
今の俺とは真逆。
きっとこの猫たちが人間だったら迷わず追い出しているだろう。
いや、そもそも勝手に拾ってきて育てている俺はもう自分勝手なのかもしれない。
猫たちはなにも悪くない。
心の余裕の無さをこいつらにぶつけるなんてアホか俺は…。
金もないが食料もそろそろ尽きてきたので買い出しにでかけることにした。今はネットスーパーなんてものもある。人混みや外出が嫌いな俺にとってはありがたいものだったが当日中は無理らしいので諦める。
支度をして玄関のドアを開け、一歩外へ。
今日も近所の家のうまそうなご飯の匂いが鼻を……鼻を……
違う
見慣れない風景、知らない空気のにおい。何分たっただろう。何秒かもしれないが、俺はしばらくぼうっとしていた。
ハッと目の前の光景が鮮やかに見えた瞬間、鼓動が徐々に速くなっていく。
「どこだ!?」
やっとの思いで出た言葉だ。そう、本当にここはどこなんだ。
そして急いで家に引っ込む。ドアを乱暴に閉め、鍵もかける。
自室に戻り、猫を見ると少し安心する。猫は俺の様子を見て不思議そうな顔をしたがまた寝た。
とうとう精神がいかれたか。
冷静になり真っ先に思いついた考えだ。いろんな不安からくる精神異常が俺に幻覚を見せた。
そう考えるのが妥当だ。
夢かもしれない。
世の中には夢だと自覚しながら自由に動き回れる夢が存在するらしい。もしかしたらこんなこともあるかも…。
いろんな可能性を考えた結果、俺はまた眠ることにした。
スマホで好きな動画を見たりゲームをしながら眠気がくるのを待っている。その間にも頭の中でぐるぐると考え事が暴れる。
頼む、はやく寝落ちしてくれ…そう思いながら目を閉じ、いつの間にか本当に眠っていた。