第10回(最終シリーズ)・257名を葬った17歳の少女 第5部
わたし達の部隊はその後も闘い続けました。
勇敢な少女ジーナは機関銃で敵を薙ぎ倒し、わたしも狙撃銃で手あたり次第に撃ち殺していきました。
敵の戦意は著しく低下していましたが、抵抗も激しく味方の兵士が次々と負傷していきました。
わたしとジーナとで負傷兵の手当をしなければなりませんでした。
わたしが抱き起した若い兵士は腹部が完全にえぐれていて腸がクワス(茶色い飲み物)のようにドロドロになって飛び出していました。
また、ジーナが駆け寄った負傷兵は内臓が完全に見えていて彼女の手を握りしめたまま息絶えました。
わたし達はもはや怒りや復讐心も沸かず、ただただやるせない気持ちでいっぱいでした。
その後わたし達はポーランド領内に居る事に気づきました。
わたし達は一旦レニングラード戦線に移送され、その後バルト海の戦線に向かいました。
バルト海では汽船が長い間炎上し、ドイツ軍守備隊の陣地を攻撃したわたし達は敵を一掃することができたのです。
わたしは毎日1人、また1人と撃ち殺してスコアを伸ばしていきました。
そして1945年に入ると、わたし達はケーニヒスベルクを攻撃し占領します。
わたしは占領地の守備を担当することになり、防御戦に入りました。
わたし達狙撃兵はもはや攻撃に参加することはなく、進撃する味方部隊と一緒に行動することは無くなりました。
ある日のことです、わたしはジーナと一緒に市街地に行ってみることにしました。
破壊された建物に煙がくすぶる市内。
わたし達はある一軒の家を見つけました。
破壊を免れたこの家の中が見たくなったわたし達は玄関に駆け寄ります。
幸い玄関のドアには鍵も掛かっていなくて難なく家の中に入ることができたました。
マシンガンを構えたまま中の様子を伺うジーナ。
わたしは狙撃銃を構えてジーナの後に続きます。
奥の部屋に入ろうとジーナが思いっきりドアを蹴り開けます。
“バコッ!”
身長170cm以上の彼女が本気で蹴ると凄まじい音が邸内に響き渡りました。
ドアには彼女のブーツの靴跡がクッキリと残り、ドアノブ側は完全に蹴破られていました。
後に続いたわたしはジーナが少し固まっているのに驚きました。
部屋の隅に30歳位の女性がいて震えています。
その傍らで金髪の5歳位の男の子がシクシクと泣いていました。
きっといきなり現れたわたし達に驚いたのでしょう。
まだ16歳のジーナはすっかり戸惑ってしまい、どうしたら良いのか分からない様子でした。
危険がなさそうなのでわたしも銃を下ろして親子の方に向かってゆっくりと歩いていきます。
身長157cmの小柄なわたしが彼らに近づいていき、少しかがんで男の事の手を取りました。
すっかり怯えてうつ向いている女性には安心するように身振りで伝えようとするわたし。
「大丈夫よ!」(わたし)
「わたし達はあなた達に決して危害は加えません。」
今まで対峙するドイツ人は全てが敵でした。
余程わたし達に降伏してくる相手以外は殺す事が前提でした。
でもドイツ領内に入るとそうはいかなくなってきたのです。
わたしは今まで殺してきた大勢の敵はドイツ人ではなくファシスト(ナチス)だと考えていました。
ジーナもわたしと全く同じ考えでした。
やっと落ち着いたジーナは歩み寄って来て男の子の頭を優しく撫でて抱き寄せます。
「ほらァ、可愛い子だわ。」(ジーナ)
「大丈夫よ、わたし達は恐くないから、」
「安心して。」
「ほらほら、これあげるわ。」
そういうとジーナはポケットからチョコを取り出して男の子に手渡しました。
わたしは女性の肩にそっと手を置いて優しくさすってあげました。
今までドイツ人を心底憎んできたわたし達。
でもこの女性と男の子に何の罪があるというのでしょう。
ジーナからチョコをもらって泣き止んだ男の子を今度はわたしが抱き上げてあげました。
その瞬間でした。
色々な事が頭をよぎりました。
もしかしたら、この子の父親がわたしの戦友を殺したのかもしれない。
でも、逆にわたし達がこの子の父親を撃ち殺したのかもしれない・・。
そんな風に考えると複雑な心境になりました。
でもわたしもジーナもこのドイツ人を傷つける気持ちは全くありませんでした。
ジーナが男の子を再び抱き上げて、わたしが母親を抱き起してあげると2人はやっとホッとした表情になって、わたし達の手を握り返してくれました。
後で分かった事ですが、ドイツの民間人達もわたし達赤軍の兵士が略奪や暴行を平気で犯す集団だと本気で信じていたのです。
そしてわたし達が街に到着すると自殺してしまう民間人が後を絶たなかったのです。
わたし達が自国に居た時に当局から教え込まれていたドイツ軍兵士のイメージと重なっていました。
「わたし達もそんな風に思われいたのね・・。」(わたし)
「何だか、悲しい気持ちになるわね。」(ジーナ)
わたし達が戦ってきた敵にも様々な人がいました。
残忍なドイツ兵、戦意を失って弱々しく降伏してきたドイツ兵。
わたし達が殺してきた大勢のドイツ兵も殆どはわたし達と変わらない普通の招集された人達だったのです。
でもわたしはわたしが殺してきた大勢の敵に対して同情する気持ちはありません。
そして殺してきた事を後悔することもありません。
それはいつもわたし自身が生き残る事に精一杯だったからです。
きっと相手も同じだったのでしょう。
戦争とはそういうものだと、戦争が終わって初めて気づかされました。
わたし達は運よくこの酷い戦争を生き抜くことができました。
第6部(インタビュー集)に続く・・。
次回の更新は1月28日(0:00)になります。




