第9回・死体の山を築いた機関銃少女・前編
本シリーズ第9回はドイツ軍を相手に多大な損害を与えたヒロイン、機関銃手のニーナ・オニロワさんの物語です。彼女の大活躍は当時のオデッサの街では語り草になっていて、彼女の名にちなんでオニロワ通りというストリートが現在もあります。
ウクライナのオデッサやセヴァストポリはソ連軍とドイツ軍の間で熾烈な戦闘があった場所です。
ソ連側にとっては撤退させられた負け戦なのですが、そんな中で女性狙撃手として世界最高記録を持つリュドミラ・パブリチェンコは500名以上の(未確認含む)ドイツ兵を殺害し一躍有名になりました。
今回ご紹介するのは、そんな名狙撃手のパブリチェンコさんに負けないどころか、彼女以上の損害をドイツ軍に与えた20歳の少女機関銃射手ニーナ・オニロワさんです。
1921年4月10日、ニーナはオデッサ州の素朴なウクライナの農民の家に生まれました。
幼い頃、父親を亡くしたニーナは孤児院で育ちます。
そして、オデッサの夜間中学と職業訓練校を出てオソアヴィアキムの射撃クラブで勉強しました。
クラブの代表である元赤軍の指揮官は彼女の武器選びに驚くばかりでした。
「ライフルじゃなくて、わたしは機関銃が撃ちたいのよ!」(ニーナ)
しかし、機関銃兵は大きな機銃本体や弾薬、銃身に冷却用の水などを運ばなければならず、とても女子には無理だったのです。
「わたしにはできる!」
ニーナはそう確信していました。
「それに、“チャパーエフ”という映画に出てくるマシンガンのアンカはどうなの?」(ニーナ)
「彼女も女の子じゃない?」
実は、彼女は1934年に作られたロシアの内戦を描いた映画作品のヒロインにとても憧れていたのです。
このアンカというヒロインの少女は赤軍の機関銃手で、隊列を組んで進軍してくる白軍の兵士をマキシム機関銃でバタバタと薙ぎ倒して大活躍するという描写が出てきます。
ニーナはそんなアンカのような機関銃手に自分もなりたいと強く感じていたのです。
しかし、劇中のアンカのように撃てば、戦闘開始5分でマシンガンが使えなくなります。
オーバーヒートしてジャムる・・・、という訳です。
所詮は映画なのですから現実とは程遠い設定になっているのです。
ところが、ニーナは本物の機関銃の撃ち方を教えてほしい、と軍事教官にしつこく懇願するのでした。
このシリーズに登場してきた多くの女子兵士達はナチスへの恨みや憎しみ、怒りを抱えて従軍していましたが、ニーナはそんな女子達とは違って、ヒロインへの願望が非常に強かったのです。
1940年に戦争が始まると彼女は早速赤軍への入隊を志願しました。
1941年の8月にニーナは前線に赴きます。
元々彼女は第25狙撃兵師団の第54砲兵連隊で衛生兵として配属されていました。
「わたしは、機関銃が操作できます!」(ニーナ)
「わたしはナチスを大勢撃ち殺したいんです!」
上官に懇願する彼女でした。
指揮官にオソアヴィアキムでの訓練の事を伝えると、試しに機関銃射手として初任務に就くことになったのです。
これでニーナは映画の中でアンカが所属していたチャパーエフ師団の機関銃手として敵と実際に闘う念願が叶ったのです。
オデッサでの防衛ラインでの塹壕戦での事です。
彼女の初戦は夜でした。
《ニーナの戦記メモより》
“ヴォーン!”
“ヴォーン!”
「敵の迫撃砲が着弾し始めたわ。」(わたし)
「きっと、やつらの攻撃はすぐに始まるはず。」
「いよいよわたしの出番だわ!」
「今日は思いっきり暴れてやるんだから。」
わたしが胸に秘めた闘志は並々ならぬものがありました。
暗闇の中、ドイツ軍歩兵部隊が隊列を組んで前進してきます。
「まだよ、まだまだ・・。」(わたし)
「もっと近づいてきなさいよ!」
指揮官からはとっくに射撃命令が出ていました。
ところが、わたしは射撃を始めようとはせずに、じっと待っているのでした。
「もっと、引き付けなきゃ。」(わたし)
「ニーナ!早く撃て!」(男性兵士)
同僚で初老の男性兵士がわたしに怒鳴ります。
しかし、全く動じないわたし。
たまりかねた老兵の1人がわたしの所に向かってやって来るところでした。
ドイツ兵達との距離が数十メートルに近づいた瞬間でした。
「今だわ!」(わたし)
「それ~!」
“ドドドドドドドドドドドドドッ!”
火を噴くニーナのマキシム機関銃
凄まじい勢いでわたしのマキシム機関銃が火を噴きます。
「え~い!」
“ドドドドドドドドドドドドドッ!”
ニーナによって次々と薙ぎ倒されるドイツ兵達
成す術も無く撃ち殺されていくドイツ兵
少女に狙い撃ちされる哀れなドイツ兵
漆黒の闇にオレンジ色の鋭いラインが切れ目なく突き抜け、すぐ前方の一団に向かって吸い込まれていきます。
いきなり始まったわたしの射撃ショーに逃げ場のないドイツ兵達は折り重なるようにバタバタと倒れていきました。
「それ、それ~、皆殺しよ!」(わたし)
“ドドドドドドドドドドドドドッ!”
わたしの掃射は実際には数分だったかもしれません、ドイツ軍部隊を全滅させるのに要した時間は僅かでした。
沈黙と共に夜が明けると、そこは累々と横たわるドイツ軍兵士達の死体で埋め尽くされていました。
わたしは満足そうな笑みを浮かべながら戦友達に言いました。
「これはわたしにとって、ほんの始まりだわ。」(わたし)
「こんなの、まだ序の口よ!」
わたしの射線の中に散らばっているドイツ兵の死体の数は48名でした。
初めての戦闘でドイツ兵を山のように殺したわたしはすぐにオデッサの街で一躍有名になりました。
その後もわたしは・・・。
「まとめて撃ち殺してやる!」(わたし)
「それ~!」
“ドドドドドドドドドドドドドッ!”
翌々日の戦闘でもわたしはドイツ軍の進撃を撃退します。
この時は約50名の敵がわたしの放った弾丸の犠牲になりました。
中編に続く・・。
まだ幼さの残る表情のニーナ
切手に描かれたニーナと機関銃
次回の更新は12月3日(日)の0:00になります。




