第7回・少女看護兵の活躍・第3部(前編)
第7回シリーズ3人目の看護兵少女戦士はマリア・カルポヴナ・バイダさんです。
彼女は1922年2月1日、クリミアの農家で生まれました。
19歳の彼女は積極的に赤軍に志願し、まずは医療の勉強をして看護コースを卒業しました。
そして1941年12月マリアはセヴァストポリの防衛戦に参加していました。
彼女は看護兵として数十人の赤軍兵士や将校の命を救いました。
そして上級軍曹になった彼女は偵察部隊への異動を申請します。
彼女がこの特殊な任務に志願したのは、ロマンスからではなくナチスをとても憎んでいたからなのです。
彼女は強く俊敏で射撃の腕前も良かったのです。
特務隊に入ったマリアは敵の背後に回って様々な情報を司令部に伝えます。
以下はマリアによる回顧録より
1942年6月わたしは3名の兵士を連れて偵察に出かけました。
わたしに同行したのは中年男性のアナトリーと若い男性兵士のミハエル、そして18歳の女子短機関銃手のリアでした。
わたし達の任務は敵の勢力の偵察と捕虜を確保する事でした。
わたし達は市街地を慎重に進んでいました。
すると、リアが1人のドイツ兵に気付きました。
「マーシャ、あれって敵じゃないかしら?」(リア)
「間違いないわ、それに下士官クラスだわ。」(わたし)
「ちょうど良かった、捕まえてやるのよ!」
このドイツ兵はどうやら部隊から1人はぐれた伍長だったのです。
1人でとぼとぼと歩いているこの男は大柄で中年の兵士でした。
わたし達は物陰に隠れて彼を待ち、この男の脇から突然飛び出しました。
「ヘンデホッホ!(手を挙げなさい)」(わたし)
ふいに物陰から現れたわたし達偵察隊に成す術もなく降伏する伍長。
わたし達は彼を司令部まで連行しなければなりませんでした。
でもこれはわたし達にとっては大きな収穫でした。
すぐさまミハイルが伍長を後ろ手にして縛り上げます。
「おとなしくしなさいよねぇ!」(リア)
勝気なリアが捕虜を睨み付けています。
ところが後ろ手に縛られた彼は指揮官がまだ若い女性兵士のわたしだと理解すると激しく抵抗し始めたのです。
大柄なこの捕虜を引きずっていくのはかなり厄介でした。
更にドイツ語で何かわめき始める始末でした。
すると若い女子のリアがたまりかねて激しい口調で怒鳴ります。
「うるさい!」(リア)
「いい加減、黙りなさい!」
そんな伍長の襟首をしっかりと掴みながら引きずっていくわたし。
抵抗を続ける捕虜はまた叫びます。
その瞬間でした。
“バシュッ!”
若いミハエルが喉元から血が噴き出して倒れました。
狙撃されたのです。
「伏せて!」(わたし)
“バシュッ!”
更にもう1発が今度はアナトリーの足を貫通します。
撃ってきたのはわたし達のいた道路の反対側に放置されていた焼け焦げた車両の物陰からでした。
ちょうどわたし達の少し後方を歩いていたリアからは、この一瞬の光景が狙撃したドイツ兵と共に丸見えだったのです。
「ザケンジャネ~!」(リア)
“ババババババババッ!”
怒りに任せてサブマシンガンを2人のドイツ兵に向かって乱射するリア。
わたし達を狙っていた彼らは、左方向からいきなりリアの銃撃を受けてあっさりと制圧されました。
「ざま~みろ!」(リア)
「コノヤロ~!」
ドイツ兵2名を撃ち殺したリアはたった今戦死したミハエルの元に駆け寄ります。
「ミーシャ!」(リア)
泣き叫ぶ彼女。
そしてすぐに凄まじい形相で立ち上がると、座り込んでいた捕虜の顔面に泥で汚れたブーツの靴底をヒットさせて蹴り倒したのです。
“ヴァスッ!”
「全部アンタのせいよ!」(リア)
“ドスッ!”
“ドスッ!”
“ヴァスッ!”
リアに蹴り倒された男は仰向けの状態でひっくり返りヘルメットが吹っ飛びます。
完全に無防備な状態の彼の横腹にリアは激しくブーツで蹴りを打ち込み始めました。
リアのブーツのつま先が男の脇腹に食い込みます。
情け容赦のない強烈な蹴りを打ち込む彼女。
「コノヤロ~!」
“ドスッ!”
4発ほど強烈な蹴りを浴びせると、今度はサブマシンガンの銃口を彼の胸元に向ける彼女。
「わたしに、殺させて下さい!」(リア)
いきり立つリアの肩にそっと手を載せるわたし。
「あなたの気持ちはよく分かるわ、リア。」(わたし)
「でも本部では彼の情報を待ってるの。」
「解るわね。」
優しくささやきかけるわたしの言葉に渋々銃口を下げるリアでした。
銃をゆっくり下ろした彼女。
やっとのことで起き上がったドイツ兵。
リアは自分の口元を彼の顔に近づけます。
“ペッ!”
男の顔面に口に溜めたツバを吐き掛けるリア。
「いい気味だわ!」(リア)
そうつぶやくと18歳の少女は勝ち誇ったように立ち上がりました。
みじめな姿で座り込むドイツ兵の伍長。
彼の顔はリアの靴跡でどす黒く汚れ、額からは白く濁ったリアのツバが滴り落ちていました。
後ろ手に縛られた彼は汚れた顔を拭う事もできず、うつむいたままでした。
わたしはそんな彼に近づくと、ポケットから白いハンカチを取り出して泥と唾で汚れた彼の顔を優しく拭き取ってあげました。
「これで綺麗になったでしょ。」(わたし)
「わたしの部下がやり過ぎたわ。」
「ごめんなさいね。」
わたしの優しい口調に男は小さな声で、
「ダンケ(ありがとう)」と答えました。
その後、この捕虜はおとなしくなり素直にわたしに従いました。
本部に戻ったわたしは捕虜の抵抗に起因する味方兵士2名の死傷の責任を追及され営倉3日(禁固刑)を言い渡されます。
しかし、その1時間後に本部に呼び出されたわたし。
ガンとして口を割らない捕虜の尋問に手を焼いた情報将校は、試しに捕まえたわたしに尋問させることにしたのです。
先程18歳の女子に殺さるそうになったところを救われた彼は、わたしの顔を見るとホッとした表情になり、わたしに対して情報を素直に話し始めました。
この伍長の情報は貴重なものでドイツ軍の防衛ラインに関するものでした。
捕虜を完全に掌握したわたしに司令部は感謝の意を表しました。
もちろん禁固刑は撤回されました。
そしてその後、わたしにとって大きな試練となる出来事が待ち受けていました。
軍服姿のマリア
第3部・中編に続く・・。
次回の更新は10月22日(0:00)になります。




