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ソビエト軍少女兵戦記  作者: Kateryna Sheremska
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第7回・少女看護兵の活躍・第1部(後編)

 ヘルメットを脱いで水を汲み始めるドイツ兵。

わたしのコートのポケットには拳銃が忍ばせてありました。

だから、わたしがその気になれば彼をこの場で撃ち殺す事は簡単でした。

でも、わたしにはできませんでした。

男性兵士の間では戦闘中であっても敵との間に暗黙の了解があって、例えば水を汲みに来た者は決して撃たないとか、それはお互い様なので互いに首を絞め合うような行為は避けていたんだと思います。でも女性兵士にはそういう感覚がありませんでしたから、平気で撃ち殺す事ができました。

その時のわたしにはそれが出来なかったのです。


「わたしの名前はエカテリーナです。」(わたし)

「仲間はわたしの事をカーチャって呼ぶの。」


「カチューシャ?」(ドイツ兵)


確かに言葉の壁はありました。

でも彼とは何となく意思疎通は出来たんです。

彼はカチューシャ?と聞くと胸ポケットから小さなハーモニカを取り出しました。

そしてわたし達の歌“カチューシャ”のメロディーを演奏し始めたんです。

体で少しリズムを取りながら陽気に演奏する彼。

戦争中でもなければ友達になっていたかもしれない・・。

わたしも水を汲んで彼の方を見ながらゆっくりと歩き始めました。

彼は相変わらず微笑みながら演奏を続けてわたしを見送ってくれたのです。

彼はわたしを撃とうとする素振りすらありませんでした。


その後、静まり返ったドイツ軍の陣地から叫び声が聞こえてきました。


「ロシアの水兵諸君!」(ドイツ兵)

「カチューシャはいるかい?」

「僕たちは決して彼女を撃ったりなんてしないから!」


どうやら敵の陣地でもわたしの事が噂になっていたみたいでした。


1944年の夏の終わり頃、わたし達はドニエストル川河口での戦闘に参加していました。

わたし達の部隊は海岸付近で低い木の根や枝にしがみつき敵の猛攻に耐えていました。

最前線での戦闘経験が豊富だったわたし。

まだ18歳のわたしでしたが、動きの止まった味方の兵士を鼓舞しながら敵の陣地のある丘に向かってよじ登っていったのです。


「いいこと、みんなわたしについて来て!」(わたし)


わたしの体はずぶ濡れで軍服もブーツも泥まみれでした。

ちょうどわたしの前方に敵の機関銃陣地がありました。


「よ~し、まずあいつを潰さなきゃ。」(わたし)

「え~い!」


“ズヴォーン!”


わたしは迷わず敵の陣地に手榴弾を投げつけました。

爆発と共に躍り出たわたしはそのまま突っ走って敵の陣地の土のうに足を掛けて、

陣地内に居たドイツ兵に向かってサブマシンガンを撃ちまくってやりました。


“ババババババババッ!”


先ほどの爆発ですでに2人ほど死んでいて残った3人もたった今わたしが葬り去ったのです。

わたしはそのままドイツ兵の遺体を踏み越えて前進しました。

わたしが潰した機関銃陣地の更に奥には敵の掩蔽壕がありました。

まだわたしの急襲に気付いていないのか沈黙したままの敵。

わたしが壕のそばまで近づくと機関銃が火を噴いて銃撃を始めたんです。


“ズドドドドドドッ!”


わたしの後に続いて突進して来た味方の兵士が数名薙ぎ倒されました。


「許さない!」(わたし)

「これでも喰らいなさい!」

「ソレッ!」


“ヴォーン!”

“ヴォーン!”

“ヴォーン!”


わたしは持っていた手榴弾を立て続けに3つ壕の中に投げ込みました。

凄まじい爆発が壕の中で起こり敵はすぐに沈黙しました。

そのまま壕の入り口まで行くと扉を開けて中に乱入したわたし。


「いるなら出て来なさい!」(わたし)


“ババババババババッ!”


煙が充満して視界ゼロの壕内でした。

わたしは気配の感じる方向に向かって機関銃を乱射したのです。

煙が徐々に収まって周囲の状況が見え始めるとわたしの思っていた以上に敵兵が大勢いました。

銃眼付近には先ほどの爆発で死んだらしい遺体が8体ほど転がっていました。

わたしの今の銃撃で更に5人が倒れていて、その奥に咳き込みながら銃を取ろうとしている奴らを見たわたし。


「こうしてやる!」(わたし)


“バババババババババッ!”


「ソレッ!」


“ヴォーン!”


今度ははっきりと視認できたドイツ兵に向かって容赦なく引き金を引くわたし。

わたしの銃撃に次々と薙ぎ倒されていく彼ら。

最後にもう1つ手榴弾を投げつけてやりました。

この爆発がトドメになったのか、たった今わたしに殺された6人の死体が無残な姿を晒していたのです。


「まだいるのかしら?」(わたし)


壕内は予想以上に広く、わたしがひと暴れした場所の更に奥に通路がありました。

注意深く進んでいくとまた敵の気配を感じました。

もうすでに20人以上殺していたわたし。

わたしにはもうこれ以上殺したくない気持ちがありました。


「ヘンデホッホ!!」(手を挙げなさい)(わたし)


怒鳴りつけるように叫ぶわたし。

すると奥の方から次々と両手を挙げたドイツ兵達が姿を見せたのです。


「こっちに来なさい!」(わたし)

「わたしに顔を見せて!」


さっきわたしが殺した大勢のドイツ兵達の遺体を見た途端に縮み上がってしまったのか、

すっかり戦意を失った彼ら。

無言のまま両手を挙げてわたしの銃口の前に並びました。

その数総勢で14名でした。

壕内から彼らに銃を突き付けたまま外に出ると味方の兵士がすでに周囲を鎮圧していました。

わたしは後日、この並外れた勇敢な行為に赤旗勲章が授与されたのです。


この年の12月には、わたし達はドナウ川での作戦に参加していました。

わたし達の部隊52名は敵の要塞への攻撃の支援部隊としてドナウ川の真ん中にある島に上陸しました。ところがこの日は洪水に見舞われてわたし達は木に登って応戦するしかなかったのです。


「もう、どうにもならないわ。」(わたし)

「とにかく、耐えるしかないないわ!」

ドイツ軍はボートに乗って繰り返し銃撃してきたんです。


“ズドドドドドドドドッ!”


次々と戦死していく仲間達。

気付けば生き残ったのはわたしを含めて13名だけでした。

そしてわたしも含めて全員が負傷していたんです。

そんなわたし達にお構いなしに攻撃してくるドイツ軍。


「かかって来なさい!」(わたし)

「わたしが相手だ!」


“ババババババババッ!”


わたしも負けじと撃ち返し、ボート上にいたドイツ兵を5人撃ち殺してやったんです。


「やったね!」(わたし)

「思い知ったか!」


わたしは敵を撃退した後で味方の兵士を手当しながら救援隊が来るのを待ちました。

最終的に生き残ったのはわたしを含めて7人でした。

そしてわたし自身も負傷による失血と肺炎で病院に搬送されてしまったのです。

わたしが前線に復帰したのは翌年になってからでした。

わたしにとっての最後の戦闘はウィーンの帝国橋急襲作戦でした。

ここでもひと暴れし、12人のドイツ兵を撃ち殺したわたし。

1945年5月9日の戦勝記念日はウィーンで迎えました。


わたしはこの戦争に15歳の頃から従軍しました。

戦争が終わった時、わたしは19歳になっていました。

そんなわたしは戦場で150名以上の仲間を救い出したのです。

でも、わたしは多くの命を救ったのと同時に59人の命をこの手で奪いました。

本来命を救うべきわたしが、敵とは言え大勢の人を殺してしまった事を、

わたしは決して忘れません。


挿絵(By みてみん)

海兵隊の戦友と

挿絵(By みてみん)

18歳の頃のカチューシャ

挿絵(By みてみん)

海兵隊の頃のカチューシャ。

挿絵(By みてみん)

大戦中彼女は150名にも及ぶ味方の兵士を救い出し、そして59名のドイツ兵を自らの手で殺害しました。

大戦を生き抜いた彼女は戦後は医師としてモスクワで勤務し93歳でその生涯を閉じました。


第2部前編に続く・・。

次回の更新は9月24日(0:00)になります。

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