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ソビエト軍少女兵戦記  作者: Kateryna Sheremska
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第6回・女子飛行連隊の少女達・第8部(最終)

いよいよこの女子飛行連隊の物語も最終話となりました。

この最終第8部では女子飛行連隊隊員の地上での体験記をご紹介します。  

 女子夜間爆撃機隊は敵の部隊を近距離から攻撃するため、ドイツ軍陣営と味方陣営の間を行ったり来たりする毎日でした。

運悪く撃墜されると敵側の領域内に不時着することもしばしばで、そうなると自分の身を守るのは携帯用の拳銃が1丁だけでした。

彼女達はドイツ軍に捕まると酷い拷問を受けると上官から教え込まれていました。

(実際には女性専用の収容所に移送され、そこから脱出して原隊に復帰した少女兵もいました。) 

女子夜間爆撃機隊のイリーナ・カシュリナもある時、地上でとても恐ろしい体験をすることになります。

1942年8月,スタヴロポリ郊外で戦闘任務に就いていた時の事です。

ドイツ軍の急速な進撃により撤退しなければならなくなった連隊。

イーラ(イリーナ)と整備士のソフィヤ・オゼルコワの2人は修理が必要な機体があったので飛行場に残ることになりました。

ところが敵の戦車が接近してきた為に、やむなく機体を焼却して本隊合流の為徒歩で退避することになってしまいました。

2人は味方の陣営に戻る途中で避難民と退却中の友軍の隊列と出会います。


イリーナ・カシュリナの回想より


「ソーニャ、わたし達かなり敵に押されてるんだわ。」(わたし)


「味方もひどい状態ね。」(ソフィヤ)


すると上空からストゥーカ急降下爆撃機が襲ってきました。


「ソーニャ、伏せて!」(わたし)


“ヴォーン!”


“ヴォーン!”


“ドドドドドドドドッ!”


避難民も友軍の兵士も爆弾に吹き飛ばされて、機銃掃射でバタバタと打ち倒されていきます。

幸い2人は土手に伏せていて無事でした。

わずか数分の間に敵機によって引き起こされた地獄のような光景でした。

わたし達は空から敵に襲われるのは初めての経験でした。


「これって、わたし達がいつもドイツ軍相手にやっている事と同じなんだよね?」(わたし)


「わたし達もこうやって、毎日大勢殺してきたんだわ。」(ソフィヤ)


目の前で撃ち殺されていく人達を見て、わたし達はショックを受けました。

そして、空襲を経験した後、わたし達は隊列と別れて味方の飛行場のある方向に進みます。

軍服姿のわたし達。

ソ連軍の女性兵士は敵に捕まると大変な目に遭う、と聞かされていたわたし達はだんだん不安になっていきます。

地上での白兵戦など想像したくもありませんし、ドイツ軍兵士と闘う自信もありませんでした。


「わたし達、軍服のまま敵兵に出くわすとマズいかも。」(わたし)

「そうよねえ、ソ―ニャ。」


「確かにそうよ、絶対にマズいわね。」(ソフィヤ)


わたし達は途中で見つけた農家に立ち寄りました。

わたし達のような若い女の子が軍服姿でいきなり現れて驚いた様子の農婦たちでした。

でも彼らはわたし達の事を歓迎してくれて、実の娘のように抱きしめ、そしてもてなしてくれました。

そんな彼らに服を分けてもらえないか頼んでみたわたし達。

快く一番見栄えの良い服を用意してくれました。

でも貧しい彼らの服なので、敵に怪しまれる事は無さそうでした。

ただし、まだ先が長いのでブーツだけは履いたままでした。

貧しい農婦の服と軍の黒いブーツはとても不釣り合いでしたが、悪路の中を歩いてきたので、わたし達のブーツは泥々に汚れていて、はた目には分からないと思いました。


しばらく歩いていると、サイドカーのドイツ兵2名とばったり出くわしてしまいます。

彼らはバイクの修理中で、最初は民間人の服装のわたし達に全く無関心でした。


“よかったわ、このまま・・。”


そう思った瞬間でした。

何を思ったのかわたしの方にやって来るドイツ兵。

1人のドイツ兵がわたしの顔にいきなり手を掛けてきました。

ドイツ語で何やらもう1人の男に叫んでいます。

その兵士は辺りに誰もいないか確かめているようでした。


“わたし達、ヤバいかも?”


わたしの顔を覗き込んできたドイツ兵が、わたしを道路の溝に追いやり、もう1人も戻ってきました。

汚れたスカーフで顔を隠していたわたし、でも強引にスカーフをはぎ取ってわたしの顔をまじまじと見つめる青い瞳のこの男。

ブロンドヘアの若い女の子だと分かるとにっこりとわたしに向かって微笑んできました。

もう1人の男に何か言うと彼もクスクスと笑っています。

性的な危険が迫っているのは明らかでした。


「今だわ!」(わたし)


「撃つのよ、ソーニャ、撃ちなさい!」


わたしは、ソーニャに叫んだけど・・。

彼女は慌ててしまって・・。

その時、わたしの手はコートのポケットの拳銃に伸びていました。

拳銃を引っ張り出したわたしは目の前のドイツ兵に銃口を向けて安全装置を外したんです。

そして、彼の顔に向かって1発射ち込みました。


“パン!”


彼は声も立てずにのけぞって、眼の辺りから血を噴き出して倒れました。


「やった!」(わたし)


ソーニャの銃はポケットの中で引っかかっていたみたいでした。

もう1人のドイツ兵は恐怖で引きつった顔になって背中のマシンガンのバンドに手をかけていました。

わたしは振り向きざまにこの男にも1m程の距離から胃袋の辺りに2発撃ち込んでやりました。


「コイツめ!」(わたし)


“パン!”


“パン!”


彼は何かを叫んで倒れ、ヘルメットが脱げて綺麗な金髪と整った顔立ちが現れました。

やっと銃を取り出したソーニャが、もがき苦しむ彼の頭に1発撃ち込みました。


「死になさい!」(ソフィヤ)


“パン!”


2人のドイツ兵は手足を広げて道端に転がっていました。

たった今、わたし達はこの手で人を殺したんです。

わたし達はひどい吐き気をこらえられませんでした。

ドイツ兵にトドメの1発を撃ち込んだソーニャは少し呆然としていました。

わたしは、彼らが死んだか確認するために彼らの脇腹の辺り、そして顔の頬の辺りを優しくブーツのつま先で突ついてみました。


「ちょっとごめんなさい。」(わたし)


「コイツら死んでるわ。」


「コイツらの死体とバイクを隠さなきゃ。」(ソーニャ)


わたし達は草むらに2人の死体を引きずっていき、サイドカーも分からないように隠しました。

わたし達はお互いにうつ向いたまま、重い足取りで歩き始めました。

わたしの方から重い口を開きました。


「わたし達、今まで夜間爆撃で大勢の人を殺してきたけど・・。」(わたし)


「こんな近い距離で、」


「わたし達の目の前で・・」


「相手のあごひげが見えて、汗の臭いを感じる程の距離で人を殺しちゃったんだ。」


うつ向いたままのソ-ニャは無言のままでした。

普段機体の整備をしているソ-ニャも人殺しの手伝いをしている事はよくわかっていました。

そんな彼女もたった今、1人の命を奪った重圧に押し潰されそうになっていました。

わたし達が射殺したドイツ兵は2人共わたし達と同じ20歳位の若者でした。

しばらく、ショックで喋れないわたし達でした。


そんな恐ろしい経験をしたわたし達でしたが、無事に自軍の飛行場に3週間かかって戻る事ができました。


挿絵(By みてみん)

ドイツ兵2名を射殺したイリーナ・カシュリナさん

挿絵(By みてみん)

ドイツ兵と出くわし射殺したソフィヤ・オゼルコワさん


イリーナ・カシュリナさんはその後1943年8月1日、タマン半島のドイツ軍要塞の対空砲火によって撃墜され戦死しました。彼女がまだ若干23歳の時のことです。

当時31歳だったソフィヤさんはその後大戦を生き抜き、退役して結婚し3人の子供がいました。



第588女子爆撃機連隊の最終戦果は23672回出撃し3000トンの爆弾を投下し、26000発の焼夷弾を投下しました。

そして17か所のドイツ軍集結地点を破壊し、軍需貨物列車9編成、2ヶ所の駅、26ヶ所の軍需倉庫、12ヶ所の燃料タンク、176両の戦車、数百両に及ぶ装甲車、兵員輸送トラック、86ヶ所の砲兵陣地、11ヶ所のサーチライト施設を破壊しました。

またドイツ地上軍部隊やその陣地に対しては811ヶ所の火災と1092ヶ所の爆発を発生させました。

これらの爆撃によって殺害されたドイツ軍兵士は推定で1万人以上に達していました。

これらの戦果に対して連隊の被った損失は28機撃墜され、23人の女子が戦死しました。


以下に女子飛行連隊の女子達のユニフォームの写真もご紹介します。

挿絵(By みてみん)

普段の服装は青い制帽にカーキ色のジャケット、赤いストライプの入った青い幅広パンツにロングブーツスタイルです。

挿絵(By みてみん)

搭乗時には飛行帽に制服の上からツナギの飛行服を着て、手には黒い革製のロングタイプの手袋をはめていました。

挿絵(By みてみん)

第588女子夜間爆撃機連隊で多くのドイツ軍陣地を破壊し活躍したナディア・ポポワさん。

彼女は大戦を生き抜き、その後もソ連空軍で勤務し2013年にその生涯を閉じました。

挿絵(By みてみん)

Po-2の前でポーズを取るポポワさん



次回はシリーズ第7回・ソビエト軍女子看護兵の活躍です。

(次回の更新は9月10日0:00になります。)

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