第5回・ドイツ精鋭装甲師団を壊滅させた少女達・第6部(最終話)
トラクター工場での2日間の戦闘で壊滅した女子高射砲連隊。
生き残ったわずかな少女達はスターリングラードの市街戦に身を投じていきました。
ヴォルガ川西岸に布陣していた第62軍に合流することができたわたし達6人。
もはや高射砲部隊要員としてではなく、サブマシンガンを手に市街に突入を開始したドイツ軍と闘うように指示されました。
9月に入るとドイツ軍の装甲部隊が市内に大挙して侵入を開始しました。
わたし達は火炎瓶で敵の戦車や装甲車を破壊するように命じられたのです。
トラクター工場での戦いと違い、今度は廃墟と化した建物の上階に潜んで接近してくる敵の戦車にモロトフのカクテル(火炎瓶)を投げ付けるという戦法でした。
「わたし、ナチの戦車を燃やしてやるんだから!」(タイシア)
「わたしも、思い知らせてやるわ。」(リリー)
あの時とは違って今度はわたし達が幾分優位に攻撃できるのです。
戦車や装甲車は市街地では死角が多くその速度や機動力が使えない事から、わたし達のような戦闘経験の少ない女子にでも十分闘える状況だったのです。
「ホラッ、あそこ、敵の戦車だわ!」(マリア)
「わたしに任せて!」(ニコラエフナ)
「ソレッ!」
“ジュヴォッ!”
「やったね、ざまァ見ろ!」
彼女の投げつけた火炎瓶は見事に敵戦車の砲塔の後ろに命中し、破裂して炎上し始めました。
戦車の砲塔に上半身を出していた敵戦車兵は炎に包まれ、サイドハッチからは乗員が逃げ出そうと這い出してきました。
「待って、全部出てからよ。」(マリア)
「今だ!」
“バババババババッ!”
マリアの合図と共に戦車兵どもにサブマシンガンで銃撃を加えるニコラエフナ。
燃える戦車から這い出してきた奴らは3人共彼女によって無残に撃ち殺されました。
マリア達が破壊した戦車の後方には歩兵を乗せたハーフトラックが現れました。
「今度はわたし達の番よ。」(タイシア)
「わたしもやってやるわ!」(リリー)
「エイッ!」
“ジュヴォ~ン!”
ハーフトラック目掛けて火炎瓶を投げつた2人。
あっという間に燃え上がった装甲車から火だるまのドイツ兵が4~5人転げ落ちて地面をのたうち回っています。
「アッハッハッ!」(リリー)
「ほらっ、トドメだ!」
“ババババババババッ!”
「これでも喰らえ!」(タイシア)
“バババババババッ!”
燃える装甲車の周辺でもがいているドイツ兵に向かって乱射するリリーとタイシア。
車内に残された2~3名と共に全員が燃えながら撃ち殺されるという酷い死に様でした。
そんな光景を笑いながら見つめる彼女達。
今日のわたし達の戦果は、戦車1両と装甲車1両を破壊しドイツ兵を12人殺害した事でした。
わたし達がこんな風にゲリラ戦を日々繰り返している頃、男性兵士達は過酷な白兵戦を展開していました。建物の一部屋づつを奪い合う戦いです。
手榴弾を投げ込んで爆発と同時に粉塵の舞う中を機関銃を乱射しながら乱入し、敵を制圧するという近接戦法でドイツ兵を追い詰めていったのです。
ある夜、わたしとリリーとタイシアの3人で、激しい戦闘のあったアパートに行ってみる事にしたのです。若い17歳の2人が現場を見てみたいという好奇心によるものだったので、わたしは上官に申告する事なく、こっそりと2人を連れて建物に向かいました。
もちろんわたしも白兵戦のあった場所を見てみたかったのです。
サブマシンガンを手に出発したわたし達。
17歳の2人もすでにサブマシンガンでドイツ兵を何人も撃ち殺していたので、わたしも少し安心していました。
それでもどこで敵と出くわすか分からないので、わたし達はそれぞれ予備の弾倉と手榴弾を持てるだけ袋に詰めて持っていきました。
わたし達はこのアパートが味方によって既に占領されていると思っていたのです。
ところが現場に着いてみると、味方の兵士はおらずひと気も無い有り様でした。
現場一帯には敵味方双方の遺体が数多く放置されている状態で戦闘の激しさを物語っていました。
「ひどい、ひど過ぎる。」(タイシア)
「敵も味方も大勢死んでるね。」(リリー)
累々と横たわる遺体の中で呆然とする2人。
「こっちに行ってみようよ。」(わたし)
2人を手招きして地下室に通じる階段を降りていくわたし。
地下に降りると奥の部屋の方から人の気配が感じられたのです。
「わたしが様子を見てくるわ。」(わたし)
ゆっくりと壁伝いに身を潜めながら壊れた扉から中を覗き見るわたし。
「敵だわ!」(わたし)
中には十数人のドイツ兵がいたのです。
でも様子が変でした。
薄汚れた軍服に銃火器も手に持たず床に置きっぱなしでした。
みんなやつれた顔をしていて完全に戦意を失っているように見えました。
するとリリーがわたしの背中越しに近づいてきてつぶやきました。
「伏せて下さい。」(リリー)
“カッツ~ン!”
“ヴォ~ン!”
部屋の中に手榴弾を投げ込んだ彼女。
わたしをかばって一緒に爆風を避けるようにかがみます。
“ババババババババッ!”
爆風がまだ残る中、リリーとタイシアがサブマシンガンを乱射しながら部屋に乱入したのです。
「死ね~!」(タイシア)
“バババババババババッ!”
「このケダモノどもめ~!」(リリー)
“ババババババババッ!”
爆発で4~5名が爆死、残りの兵士達は2人の浴びせ掛けた銃撃で次々と倒されていきました。
粉塵でむせ返りそうになる2人。
2人が一瞬撃つのを止めると、生き残りの2人のドイツ兵が両手を挙げているのが見えました。
すると・・。
「コノヤロ~!」(リリー)
“バババババババッ!”
降伏している彼らを容赦なく撃ち殺すリリー。
わたしはただただ彼女の殺戮を見ているだけでした。
「こっちにもいるわ!」(タイシア)
隣の部屋を覗き見たタイシアがわたし達に向かって叫びます。
急いで隣の部屋に向かうわたし達。
すると中には30人ほどのドイツ兵がいました。
一見して今殺された敵と同じような有り様だと分かりました。
彼らの中には下士官や将校もいました。
どうやら、彼らには食料も水もなく弾薬もありませんでした。
皆、戦意を完全に喪失しているのは明らかでした。
彼らは若い女の子のわたしを見ると全員が少しホッとしたような表情になりました。
わたしは彼らに向かって叫びます。
「ヘンデ、ホッホ!」(手を挙げなさい!)
全員がわたしの声に従って両手を挙げたのです。
すると・・。
「わたしは許さないわ!」(タイシア)
“バババババッ!”
彼らに向かって銃撃するタイシア。
3人が薙ぎ倒されます。
「わたしも・・!」(リリー)
“ババババババババババッ!”
リリーの無慈悲な乱射で更に6人が撃ち殺されました。
「2人とも、もうやめなさい!」(わたし)
わたしの金切り声に一瞬たじろいで銃を下すリリーとタイシア。
「見てみなさい、彼らの有り様を。」(わたし)
「もう戦う気力なんか無いのよ。」
わたしの声に少しうつむき加減に目をそらす2人。
「ごめんなさい、わたし達・・。」(タイシア)
「いいのよ、この事は黙ってなさい。」(わたし)
トラクター工場で彼らを全滅させた時の心境なら、わたしも迷わず何人か見せしめに撃ち殺していたのかもしれません。
でも、もはや降伏している彼らに危害を加えようとは思わなかったのです。
わたし自身、憎むべき相手に対しても優しい気持ちでいられた事にホッとしました。
わたし達は彼らを引き連れて本部に戻りました。
上官には勝手に危険な場所に行ったことを注意されましたが、大勢の捕虜を捕えてきたので放免になりました。
その後、わたし達は11月19日に始まった味方の反転攻勢もあってスターリングラードでの闘いを生き抜く事ができました。
そしてわたしは1943年9月9日まで中央戦線で闘い、1944年12月31日までウクライナ戦線で闘いました。
そしてポーランド・チェコスロバキア解放戦争にも参加し1945年に帰国しました。
わたしは祖国から“勇気の勲章”と“大祖国戦争におけるドイツへの勝利の勲章”を授与されました。
《トラクター工場の戦いに於けるコムソモールの少女達の上げた最終的な戦果》
コムソモールの少女達の闘いぶりは凄まじく、丸2日間に渡ってドイツ軍精鋭部隊の進撃を食い止めたのです。そして彼らに甚大な損害を与えました。
最も手薄だったこの地域での彼女達の頑強な抵抗によって、ソ連軍のエレメンコ将軍によるスターリングラード防衛の為の組織編制に2日間という貴重な時間が提供されたのです。
この結果ドイツ軍はスターリングラード占領に初期の段階でつまづき、やがて第6軍が包囲殲滅されることに繋がっていったのです。
この第1077高射砲連隊の少女達が挙げた戦果はドイツ空軍機14機撃墜。
第16装甲師団の戦車83両撃破、トラックや装甲車などの車両15両撃破、
タンク車2台破壊、ドイツ軍兵士約1200名(3個大隊分)の殺害でした。
これに対する高射砲連隊の損害は高射砲全37門壊滅。
総勢75名の女子砲兵隊員の内戦死または行方不明になった者は46名でした。
この中で志願兵女子として徴用された56名の17歳~18歳の少女達の内42名が戦死または行方不明となりました。また、支援に回っていた工場労働者の民兵大隊も391名が戦死しました。
この高射砲陣地を占領したドイツ軍部隊の将兵達は陣地内で戦死していた少女達の遺体を目の当たりにして、自分達に大損害を与えたのが、この若い十代の少女達だった事に大変驚きひどく憂鬱な気持ちになりました。
スターリングラード攻略の初日から大きな損害を出して足踏み状態に陥った事に激怒したヒトラー総統は、第14装甲軍団司令官のヴィータースハイム大将をその後解任しました。
次回はシリーズ第6回・ソビエト女子飛行連隊の少女達の活躍です。
(次回の更新は7月16日0:00になります。)
トラクター工場で少女達を率いてドイツ軍を全滅させたバレンティナ・ネシュポル。
彼女はこの闘いを生き延びて終戦まで闘い続けました。
女子高射砲連隊の集合写真
女子高射砲連隊の集合写真
ヴォルガ川周辺で見張りをする10代の少女兵達
37mm対空機関砲の女子隊員
南東部戦線の司令官エレメンコ将軍はコムソモールの女子達が奮戦して稼いだ2日間を利用して、コバレンコ少将の指揮下、第35、第27衛兵師団、第298歩兵師団、第28戦車軍団、第169戦車旅団からなる作戦集団を創設しました。スターリングラード郊外に進撃した第14装甲軍団を撃破するよう指示された第62軍と反撃を調整するためだったのです。反撃の結果ヴォルガ川を突破した第14装甲軍団は第6軍の主力から切り離され、全方位防御に向かうことを余儀なくされました。 長い期間、これらの部隊は第6軍の攻撃作戦を支援することができませんでした。 一言で言えば、17歳から18歳の女子志願兵を含む防空第1077女子高射砲連隊は、エレメンコ将軍が防衛ラインを組織する事ができるように最も貴重な時間を提供したと言えるでしょう。彼らは激しい防衛戦の間に都市の一部を占領しました。その結果、ドイツ軍はスターリングラード市を占領することができませんでした




