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2話 回想~いざ、舞踏会~

ながいなぁ・・・

 私の意欲に感化されて、ついつい指導が熱くなるマナー夫人と共に熱意の汗を流していたら、あっという間にパーティーの日になった。

 私はあの水色ドレスを選んでくれたセンスの塊メイドことフアナにまたドレスを選んでもらい、一緒に髪も結ってもらった。今回選んでくれたのは白のリボンが多くあしらわれた紫のドレスだった。自分の濃い茶髪によく合っていて、その髪も後ろにボリュームを持たせて1つの白いリボンでまとめられ、アクセサリーは控えめに金の2連ブレスレットを片腕にだけはめてある。

 その手際とセンスの良さに、ルイーズは思わず息を飲んだ。

「フアナの手は魔法でもかかってるの?」

「まぁ、嬉しい事を言ってくださいますね。こんなの誰でも出来ます」

 フアナが照れくさそうに微笑むと、私は鏡越しに彼女の瞳を見つめた。

「そんな事ないわ!少なくとも私には出来ないし、こんなに綺麗な髪も作れないし、ドレスだってどれも同じに見えるもの。私、フアナがこのお屋敷にいてくれて本当に嬉しいわ」

 言葉にする度に興奮してしまって、ついつい熱く語ってしまった。ふと我に返るとフアナは可哀想なくらい真っ赤になって、恐縮です、と呟いて俯いていた。私を誉めそやかす父の片鱗が感じられた。


 準備が整った私は、両親が待つ馬車に乗り込んだ。すると、待ってましたと言わんばかりに、2人からドレス、髪型、アクセサリー、ついには顔まで含めて褒めちぎられた。ようやく出発した馬車に私は揺られながら、覚えている設定を再度思い返した。私が暮らすエスペンロッサ皇国が直接ゲーム本編に関わる事は無かったが、有料チケットを買った人だけがプレイ出来るおまけがあり、そこでエスペンロッサ皇太子フェリペを攻略出来る様になっていた。

 私は元々無課金勢だったのと、ストーリーがすでに本編での攻略対象と結婚間近なのに横恋慕してきたフェリペと南下良い感じになったので、彼に権力をフルに行使してもらって、結婚するという事になっており、逆ハーレムや二股などがあまり好きではなかったので、プレイはしなかった。

 一応ネタバレサイトでスチルは見たが、顔は若干好みではあった。健康的な小麦色の肌にプラチナブロンドの髪、エメラルドグリーンのたれ目が官能的で確か23歳設定だったと思うが、あんなにエロい23歳がいてたまるか、と思う。23歳なんて、まだ会社の新人歓迎会でビールに不慣れなばかりにうっかり潰れてしまった所を先輩方に全力でイジられる側だ。イジる側ではない。

 ちょっと思考がズレてしまったが、私がランズバードに行く為だけに今回のパーティーに出席した訳ではない。この皇太子フェリペに会う事で、まず私のいるこの時にヒロイン、アリスが何歳かをランズバードに行く前に知れるかもしれない。ストーリーで端折れる所があったら、全部端折る。私だって万能じゃないのだ。

「やってやるわ!」

 私はまたも令嬢らしく両方の握り拳を胸の前で掲げると、気合を入れた。両親がその手をそっと膝の上に戻した。

「……失礼いたしました」


 馬車に揺られて15分くらい経った頃、馬車は宮殿に到着した。ルイーズとしてこの宮殿を見るのは2回目だが、やはり大きい。都市部から少し離れた屋敷からでも、宮殿の頭頂部は見えていたので、大きい事は分かっていたが、いざ目の前にすると圧倒される。

 エスペンロッサ皇国は軍事力、文化共に近隣の国でも随一だ。その権威をこれでもかと主張してくる宮殿は壁一面に精緻な彫像や文様が刻まれている。金ぴかに輝いている訳でもないが眩しく感じる。

「さぁルイーズ、行くよ」

 父に呼びかけられ、私はゆっくりとその後ろをついて歩いた。大広間までの廊下にも等間隔に美術品が飾られている。それらに目移りしていると、奥の中庭で何か人影が動いた気がした。侍従かメイドだろうか。

 気付けばもう大広間まであと少しの所まで来ていた。両親に前に来る様促されると、私は近くにいた侍従に目配せをした。すると、それを受けて侍従がコホンと咳ばらいをした。

「ルイーズ・ミシェル・オルテガ伯爵令嬢、及びオルテガ伯爵、伯爵夫人!!」

 入り口で名前を呼ばれるなんて漫画みたいだなと思いながら、ゆっくりと歩みを進めると何人かの貴族子息や令嬢と目が合った。そしてその親と思われる人達から値踏みする様な視線が送られた。

 真っすぐ、背筋を伸ばして、頭の上には3冊の本、落とさない落とさない。私はマナー夫人の言葉を心の中で繰り返しながら、正面にいる皇帝夫妻の元へ向かった。挨拶の場所まで来ると、私は何度も練習したカーテシーを披露した。

「皇帝陛下、並びに皇后陛下、ご機嫌麗しゅうございます。本日は第2皇子殿下のお誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、可愛らしいレディ。顔を上げなさい」

私はゆっくりと顔を上げると、1段高い所で赤いベルベットの椅子に座る皇帝の顔を見た。皇帝の名前もフェリペだ。スチルで見たのと同じエメラルドグリーンのたれ目は同じだが、髪は真っ黒で肌も陶器の様に真っ白だ。彼はゲームのフェリペとは違うらしい。というか、皇帝、皇太子、第2皇子に至るまで全員フェリペってややこしい事この上ない。皇帝一族の男性名は全員がフェリペと定められており、一応ミドルネームは全員違うが、ゲーム内ではミドルネームに対する言及は本編、おまけ共に一切無いので何の役にも立たない。フェリペなんて名前大嫌いだ。

「レディオルテガ、今日はパーティーを楽しんでおくれ。シェフにとびっきり美味しいごちそうを用意させているからね」

前言撤回、フェリペ最高。フェリペ以上に良い名前なんて無いです。

「お心遣いありがとうございます……ところで第2皇子殿下はどちらに?」

 今回の主役であるなら皇帝夫妻と並んで挨拶をしていると思っていたが、第2皇子の姿は見当たらない。

 すると、皇后が不快そうに眉をひそめた。

「あの子は開会の挨拶もせずに部屋に引きこもっています。全く恥さらしも良い所です」

 「皇后」

「何ですか?私の言ってる事が間違っているとでも?さすがは母親が母親なだけありますわ。礼儀も何もなってない」

 扇を広げ、顔の前でゆっくりと仰ぎながら皇后は皇帝を睨みつけた。こういうゲームあるあるだが、何で子供の目の前で堂々と喧嘩合戦とか嫌味合戦をするんだろうか。すっごい居心地悪い。

「あの……その……失礼致します」

 とりあえず軽く一礼をして、怒られない範囲でそそくさとその場を離れた。少し離れた所で見ていた両親の元へ帰ると、口元をそっと手で隠して父に尋ねた。

「お父様、第2皇子殿下と皇后陛下って仲悪いの?」

 父は物凄く複雑そうな苦虫を圧し潰した様な顔をして、こっそり教えてくれた。

「第2皇子殿下のお母様はロマの民の血を引くご令嬢でね、皇帝陛下の公妾だったんだけど第2皇子を生んですぐに亡くなってしまったんだよ。彼女の最期の願いが息子を皇子にする事だったから、特別に皇子なんだけど、皇后陛下は今もお認めになってないんだ」

「わぁ、ドロドロしてるぅ……実は私にも妹がいたり?」

「そんな訳ないだろ!お父様はお母様一筋だよ!!本当だよ、マルガリータ!!」

 父が慌てて涙目で母に訴えるが、逆に必死過ぎて怪しい。だが、父が他に女性を作れる程器用でも無いので、本当にいないとは思う。

 だがさっきの一瞬でも一気に気疲れしてしまった。

「お父様、私ちょっと外で休んできます。戻ってからご挨拶周りしますね」

「え?この状態でお父様とお母様置いていくのかい?ルイーズ?ルイーズ!?」

 母の顔がからかって楽しんでる表情だ。心配ないだろうと私は中庭に向かった。

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