1.停電
それはただ、そこにあった
いつからかは、わからない
きづいたときには、もうそこにあった
きづいたときには、もうおそかった
何故そこにあるのか、誰も気にしてない
知ろうともしない
それが我々の、命を守っているとも知らずに
バンザール制御塔
それは、人々の心臓
世界の守護者
〈第11シェルター〉外殻、清掃隊1班
午前、Bブロック清掃中、40%終了
「未だに信じられねぇぜ、この薄っぺらなマスクの外は、ウイルス塗れの死の世界なんてよぉ」
「なぁ!」
「うん」
「こんなに澄んでて、綺麗なのにね」
〈同シェルター〉行政施設、国長室
「で?状況はどうなっている?」
直立不動で国長と対峙している、防衛長官ダン
「全く不明です…何も問題ないかも知れませんが…」
「昨夜の提示連絡を最後に、今朝まで通信がありません、こちらからの呼び掛けにも反応なし…システムの故障か、それとも…」
右手を顎に当てて、考えている。
「よもや、“アレ”を破壊しようとする人間がいるとは思わんが…」
「適当な人間で、調査隊を組織しろ」
慌てる防衛長官。
「国長!?何も…そこまでしなくても…」
窓の方に向き、防衛長官に背を向ける。
「それと、武器の携帯を許可する」
防衛長官は、反論するのを止めた。
「何か…とても悪い予感がする…」
〈再び外殻〉
円錐がたの、直径8m程度の、清掃用ポッド
両端に一門ずつ、大砲型の水の噴射装置が付いている、そこで一人づつ操作して、けたたましい音を立てて外殻を洗っていく、その外殻寄りの真ん中に、コンソールがありそこで、ポッドを上下させるパワーベルトを操作する一人、計3人のチームである。
「いつまで水洗いなんだよ?もっと…こう…何か新しいやり方ねぇのかよ?」
「いつも同じ文句言ってるね、豊ちゃん」
身長が低く小太りの昇が、[お立ち台]に登って噴射装置を扱っている
「ちゃん付けは、やめてくれって…」
豊は噴射装置を扱いながら、後ろを思い切り振り返って、抗議の声を上げる…完全に背中合わせなので、振り返っても手が離せない以上、絶対見えないのだが…。
「僕は、結構好きだよコレ、時々虹出来たりして」
ニコニコして、目が線になる昇、鼻歌まで出てきた。
「面倒な分いい給料を貰っている、手を動かせ」
コンソールを操作している男が、無感情で言う。
「へいへい、りょーかいです!」
豊は辟易しながら、答えた。
〈バンザール研究所〉病院棟
2つの影が、真っ暗な部屋から外を見ている。
「停電?」
「このシェルターがか?ありえねぇ話だな」
「正、副、予備、予備の4系統あるんだぞ?それが同時に?」
「だが、現にこうして…」
「おっ、戻ったな」
時間にして、2分ほどだった。
だが、電気のパワーベルトで支えていたポッドが、落ちるには充分な時間だった。
〈バンザール研究所〉病院棟、医療部
1階手術室前、ドクターが出てきた。
「一応、命は取り留めた…」
「…?先生?」
「彼は、感染している…」
3人の内二人は軽症だったが、一人は背骨を折る重症だった、その時にマスクがズレていたらしい。
「そんな…昇が…」
シェルターの外は、致死率98%の死のウイルスで満たされている、生き残った2%も、いずれ意識なくなり、研究者のモルモットとなっている、もっともそのお陰で研究が進み、薬を打ち続ければ死ぬ事も、意識を失ったり、脳死になったりはしなくなった。
〈バンザール研究所〉病院棟
「さっきの停電、気になるな…あれは事故や故障じゃない」
「ああ、確実に“ヒト”が起こしたものだな」
〈行政施設〉国長室
電話が鳴り響く。
スピーカーで出る国長。
「……バンザール制御塔は、我々が占拠した!」
ゆっくりゆっくり書いていきます。