ボルトアクション式小銃
各種項目は代表的なものを記載した。
重量・全長・銃身長は改修や騎兵銃型などの型式によって変動する。
弾薬の初速・エネルギーについても、弾頭重量・装薬量によって変動する。
第1次大戦時における各国の代表的小銃を載せる。
国名:ロシア帝国
名称:モシンナガンM1891
制式年:1891年
弾薬:7.62㎜×54R
初速:810m/s(3600J)
装弾数:5発(箱型弾倉クリップ装弾)
銃身長:80.2㎝
全長:130.5㎝
質量:4,370g
・評
通常、銃剣は突撃時や歩哨時など際に付けるが、ロシア帝国陸軍では着剣状態が基本らしい。
つまりロシア帝国陸軍には『着け剣』の号令は無いわけだ。
130.5㎝の全長と相まって、白兵戦を強く意識したと見える。
また4,370gの重さは行軍携行時の負担だったろうが、その分射撃時の反動は軽いものとなったと推測され、初速も速いことから、射撃精度は高かったと思われる。
国名:ドイツ帝国
名称:Gew98
制式年:1898年
弾薬:7.92㎜×57
初速:820m/s(4000J)
装弾数:5発(箱型弾倉クリップ装弾)
銃身長:74.0㎝
全長:125.0㎝
質量:4,090g
・評
GewとはGewehr(小銃)の略である。
第二次大戦時に著名なKar98kはGew98の短(Kurtz)騎兵銃(Karabiner)型という意味である。
Gew98の特徴は何といっても、その安全機構の確実性であろう。
代表的なのが旗安全器と呼ばれる物で、ボルト後端にあり左、上、右に切り替える事により、ボルトと撃針の固定解除を切り替えることができ、安全面で優れるが銃操作に劣る面がある。
機関の頑丈さもさることならが、二重三重の安全機構により暴発事故を防ごうとする意志が垣間見える。
国名:イギリス王国
名称:リー・エンフィールド
制式年:1902年
弾薬:7.7㎜×56R
初速:740m/s(4000J)
装弾数:10発(箱型弾倉クリップ装弾)
銃身長:64.0㎝
全長:113.0㎝
質量:3,900g
・評
リー・エンフィールド銃の特徴は何といっても、その装弾数と発射速度であろう。
他国が5発程度であったころに10発入りの弾倉を備え、また独自の装填機構によりボルトアクションとしては異例の発射速度を有する。
『マッドミニット』(狂気の1分間)と称されるその速射は、イギリス陸軍の訓練に取り入れられており、平均25発/分の発射速度を誇り、熟練の兵ともなると40発/分にも及んだという。
なお、一般的なボルトアクションの発射速度は15発/分程度と言われるから1.8倍〜2.6倍の発射速度である。
代償として機構に緩みが生じやすく、定期的な部品の交換や再調整が必要となる。
他、箱型弾倉が脱着可能だったりするが、弾倉交換よりも清掃を考慮してと言われる。
国名:イタリア王国
名称:カルカノM1891
制式年:1891年
弾薬:6.5㎜×52
初速:700m/s(2400J)
装弾数:6発(箱型弾倉エンブロック・クリップ装弾)
銃身長:78.0㎝
全長:129.5㎝
質量:3,800g
・評
独自の安全機構と装弾方式を有する。
安全機構を作動させると撃針バネのテンションが抜け、ボルトハンドルは固定されるのである。
これにより再コッキングも不可能となり、安全機構作動中の暴発事故は起こらなくなる。
しかし、再度撃発位置に戻すのに一手間かかるのが難点で、咄嗟時の対応に劣る。
また、装弾はエンブロック・クリップでこれはGew98の前身、Gew88で採用されていた装弾方式で、弾を纏めたクリップをそのまま弾倉に挿入する。
通常のクリップ装填よりも早い装填が可能であるが、エンブロッククリップが無いと弾を撃てなくなる。
他、銃身内に刻むライフリングの角度を銃口に向かって変化させており、弾丸の角速度が一定になることにより、弾丸に安定したジャイロ効果を生じさせ、弾道精度向上に寄与している。
小口径弾ゆえの低反動、特徴的なライフリングと相まって、射撃精度は高かったと思われる。
国名:フランス共和国
名称:ルベルM1886
制式年:1886年
弾薬:8.0㎜×50R
初速:700m/s(3400J)
装弾数:8発(筒型弾倉)
銃身長:80.0㎝
全長:130.0㎝
質量:4,410g
・評
世界初のボルトアクション小銃はドイツのドライゼ銃だが、世界初の無煙火薬実包を用いた小銃は何を隠そうこのルベルM1886である。
必定、どこか旧式の感があるのはやむを得ないのである。
その特徴たる筒型弾倉は、黒色火薬から無煙火薬への過渡期の仇花であり、実は各国も検討や採用した弾倉である。
筒型弾倉は実包を縦列させる事で、前床や銃床などを利用しての省スペース設置が可能で、多装填が可能な弾倉であり、黒色火薬実包なら運用に支障は無かった。
しかし、実包の無煙火薬化により、弾は超高速での射出が可能となり、それまでの弾頭形状(円形弾頭)では空気抵抗によって弾道が乱れやすくなることが判明した。
その問題は尖頭弾頭により解決することが判明したが、筒型弾倉に装填すると前の実包の雷管を後ろの実包の先端が突き、暴発する危険性があった。
うっかり筒型弾倉を採用してしまった各国は改装や新型小銃を開発することにしたが、フランスは実包雷管の位置調整や保護材の使用などの安全対策を施し使い続けたのである。
国名:フランス共和国
名称:ベルティエM1916
制式年:1916年
弾薬:8.0㎜×50R
初速:700m/s(3400J)
装弾数:5発(箱型弾倉エンブロック・クリップ装弾)
銃身長:80.0㎝
全長:130.6㎝
質量:4,200g
・評
フランスが憐れなので、後継銃を紹介する。
フランスも流石に筒型弾倉の問題点(安全性は元より、筒型弾倉は装填が手間で時間がかかるし、撃つごとに重心が動いて命中率が悪くなる)は理解しており、ルベルM1886の生産と並列でその改良版を開発し、出来たのがベルティエ銃である。
基本的にはルベルM1886の改良版なのだが、何を考えたのか初期型の装弾数は3発であった。
さらに排莢口が底面にあり、伏射時に汚損しやすいというのも問題であった。
そのため、装弾方式をエンブロック・クリップに改め、他国並みの5発装填にしたのが後期型のベルティエM1916である。
だが、このエンブロック・クリップもこれが無いと装填できないという問題がある。
それでも一応、平均的な小銃を得たフランスであったが、ここに至って重大な問題がある。
なんとこのベルティエM1916、安全装置が無いのである。
通常は撃針なり、引き金なり、ボルトなりを固定する安全機構あるものなのだがそれが無い。
これはさらに後継のMAS36にも引き継がれているから、実は祖たるルベルにも無いのかもしれない。
火砲なら良いのが揃っているのに、小火器がパッとしない。
ルベルも登場時は世界最先端だったのに、どうしてこうなった?
安全第一のドイツと安全度外視のフランス、実に両極端な国である。
国名:大日本帝国
名称:三八式歩兵銃
制式年:1905年
弾薬:6.5㎜×50SR
初速:760m/s(2600J)
装弾数:5発(箱型弾倉クリップ装弾)
銃身長:79.7㎝
全長:127.6㎝
質量:3,730g
・評
三八式歩兵銃の特徴は銃身にある。
まずライフリングがメトフォード型である。
メトフォード型ライフリングは、曲率の異なる曲線を組み合わせたライフリングで、隙間が少なくガスの漏出が抑えられるため、弾道性能が向上するが、摩耗が早いという欠点がある。
その対処として、銃身にタングステン鋼を採用とクロムメッキを施し耐久性を高めたのだと推測する。
これがいわゆる、クロムメッキで銃身命数を長くしていると言われる所以だろう。
しかし、銃身が硬いタングステン鋼だと、腔内事故時に異常高圧が機関部やボルトかかり、それらの破損時に射手の死傷に繋がる。
その対処として薬室に小孔を開け、異常高圧時にガスが抜けるよう設計されている。
小口径弾ゆえの低反動、しなり難く硬い銃身、特徴的なライフリングと相まって、射撃精度は高かったと思われるが、安全性よりも実用性を重んじた感がある。
国名:アメリカ合衆国
名称:スプリングフィールドM1903
制式年:1903年
弾薬:7.62㎜×63
初速:820m/s(3900J)
装弾数:5発(箱型弾倉クリップ装弾)
銃身長:61.0㎝
全長:111.5㎝
質量:3,900g
・評
無理のない設計というべきか、各国兵器設計者の苦慮を合理的判断で取捨選択し、バランスの良さが特徴といえば特徴。
間違いなく良い銃なんだろうけど、クセが無くて面白みに欠けるというのが正直な所。
こうして一覧にすると、各国でそれなりの違いがあるものである。