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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
番外編

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腹痛黙示録 ケント 個室奮闘編

『頼むから悪夢であって欲しいっ……! そう思える程の出来事がっ、衝撃が、全てが終わったと思っていたケントを襲ったっ……!』


 なんでっ……! なんでなんでなんでっ! なんで俺は気付かなかったっ! ここの個室に紙がっ! トイレットペーパーが無いって事にっ!

 からっ! 何度見てもからっぽっ! からだけにカラカラ回る芯だけがあるとかふざけてんのかっ……!


『天国から地獄への急転直下っ! 最後の最後の最後にっ! 死神がケントを突き落とすっ! まるでここぞとばかりに待ち構えていたかのようにっ!」


 さっき油断しないと言ったばかりじゃねぇかっ……! なのにっ! どうしてここぞという時に俺はやらかしちまうっ……!


──いや、違う。 油断しないと言っている時点でもう俺は油断していたんだっ……!

 さっきのは自分にそう言い聞かせていただけっ……! フリっ……ただのやったフリっ……! 愚かな口だけ野郎っ……!


『後悔っ! 怠慢っ! 悔恨かいこんっ! 悔やんでも悔やんでも悔やみきれないっ……! そのあまりの不甲斐なさに自分を恨むっ……!』


 あの時っ……! 個室に入った時にちゃんと見ていればっ! ていうか最後に使った奴は誰だよっ! くそっ! くそっ!──ん? あぁっ!?  


『後悔し、怒りに震えた後、我に返ったケントは大事な事を思い出すっ! そして顔がっ、視界がっ、ゆがむっ! いびつに歪むっ!』


 そうだっ、俺だったんだっ……! 一回目の時っ……スッキリして空の状態を気にもせずっ……! そのまま放置したんだっ……!

 ちょうど使い切った、ギリギリだったぐらいにしか思わなかった自分が憎いっ……! 後に使う人の事を考えなかった自分が憎いっ……!


『身から出た錆っ! 自業自得っ! 自責の念が更にケントを追い詰めるっ! 奈落っ! 深淵っ! 底の底、更なる底へと引きずり込まれるっ!』


 うぅぅぅっ……! ぐぅぅぅっ……! やっぱりっ……やっぱり魔物はいたんだっ!

 トイレという閉鎖空間っ、個室という安心感っ、俺自身の焦り……! 全てが上手い具合に合わさって生み出された注意不足という名の魔物っ!

 その魔物がっ! 油断しないと誓った心の中にある過信という僅かな隙間に入り込んできやがったっ……!


 自惚れていた自分が情けないっ……! そして悔しいっ……!


『悔しいっ!』


 悔しいっ……!


『悔しいっ!』


 悔しいっ!!


『悔しいっ!……が、それでいいっ! この時っ! この悔しさをバネにケントの中で何かが覚醒したっ!』


 ふざけるな馬鹿野郎っ! 何で簡単に諦めてんだ俺はっ! 諦めない限りっ! 生きている限りっ! ここからでもきっとある筈だっ、打開策がっ! 突破口がっ!

 考えろ考えろ考えろっ! 捻り出せっ、何か変わりになる物っ……拭ければいいっ、拭ければ……これか?


『ケントが見つめるは紙の無いトイレットペーパーの芯。 硬い材質や形状を除けば、確かに周りにある物の中では唯一使えそうではある』 


 確かにこれなら拭けない事も無いが……後始末はどうする? トイレに流せねぇしゴミ箱に捨てれば異臭騒ぎでシャレになんねぇ……これは駄目だ。


 隣の個室まで取りに行くか? 授業が終わるまで二十分を切ったこのタイミングでっ、他の生徒がここへ来る可能性なんて低そうな気もするが……。

 いやいやこの身動き出来ない状態で隣に移動だなんて無謀っ……! 自殺行為っ……! なんとか移動出来たとしても隣にも無かったらどうするっ……!


『この絶望をっ、危機的状況をどうにかしようと抗うっ! 抗い続けるっ! 決して思考を途切れさせないっ!』


 たとえ九回裏ツーアウトで三点差開いていたとしてもっ……! まだ試合終了ゲームセットと言われてない限り、終わっちゃいねぇっ!

 確かに今の俺は追い詰められて圧倒的不利っ……! 崖っぷちっ……! どん底っ……! だがここから逆転満塁サヨナラホームラン打ってやるっ! 絶対にっ!


『ケントは自分自身に喝を入れる。 だが逆転に導く為の決定打が見つからず、時間だけが過ぎていく』


 ぐっ! 焦るな、落ち着け、今一番やったらいけないのはせっかく点いた火を消してしまう事っ……! 不安や恐怖といった負の感情という名の水を掛けられての意気消沈っ……!


 そんな事が起こったら流石に闘志、やる気といった士気が下がっちまうっ……これだけは避けないといけないっ……!

 今の俺に必要なのは灯油、ガソリンといった辺り一面全てを焼き尽くす勢いの気迫や覇気だというのに……ってまた痛くなってきやがった。


『極限のストレスにより再び腹痛が始まるケント。 冷や汗が溢れ出る程の痛みに思わず下を向くと、そこに見えるのは制服のスラックスだけである』


 うっ……くそっ、せっかくこっちがいい具合にやる気に満ち溢れている時に邪魔ばかりしやがってっ……! 何なんだこのしつこい腹痛はっ!──いやっ、待てよっ……あっ!


『この時、腹痛が消し去る程の凄まじい衝撃がケントの全身に走るっ!』


 なっ、なんでこんな簡単な事に気が付かなかったんだっ……! そうだっ! ポケットの中っ! この窮地を脱する答えはこんな身近にあったじゃないかっ……!

──だが本当に入っているのかは分からねぇっ……あったとしてもトイレでは使えないかもしれない……それでも俺はこの方法しかねぇんだっ! 


『ようやく見つけた突破口に、水を得た魚のように活き活きとし始めるケント。 下ろしたスラックスの右側にあるポケットの中に手を入れる動きは、まるでババ抜きでカードを相手の手札から引き抜くかのようだ。 果たして引くのはアタリか、ジョーカーかっ……!』


 頼むから来いっ……! 来いっ……! 最後の最後におこなうは、俺の学生生活を賭けた運否天賦の博打っ! 負ければ俺は一生笑い者にされちまうっ……!


『そしてついにっ、ポケットというパンドラの箱に手を差し込むっ! この瞬間、何があるのか分かっているのはケントだけっ! 未来はケントの手の中っ!』


 こ、この袋のクシャクシャした感触っ……! 膨らみっ……! 分厚さっ……! 間違いねぇっ……! これは……これはっ……!


『自分の求めている物があると確信したケントは、ポケットから手を一気に引き抜くっ!』


──あっ、あった……っ! あったあったあったっ! くっ、くぅぅ……! うっ、嬉しすぎて涙が出るっ! 


『ケントがスラックスから取り出したのはポケットティッシュっ……! 今のケントにはこれが封筒に入った一万円の札束よりも価値がっ! ありがたみがっ! 重みがあるっ!』


 しかもこれは水に溶けるティッシュだからトイレでも可能っ……! 使用が可能っ……! 

 不撓ふとうっ! 不屈っ! 忍耐っ! そして奇跡っ! どれかの要素が一つでも欠けていたらっ! こうやって勝利の高揚を味わう事が出来なかったっ!


 やはりこのトイレという個室において、紙は命よりも重いっ……! 改めてそれを実感したっ……! 


『脱出っ! 絶体絶命の危機を乗り越え、命からがら密室からの脱出っ! 個室から流れる水の音は、勝利を祝うファンファーレっ! 気持ちを安らげるせせらぎの音っ! そしてっ! この長きに渡る戦いに終わりを知らせるかのように学校のチャイムが鳴り響くっ!』


 はぁ~、ようやく終わったぁ……しかも狙いすましたかのように丁度いいタイミングで授業終わってくれたし、腹も気持ちもスッキリした状態で教室へゴーホーム出来るなんて最高だぜ──あれ? 何か忘れてるような気がするけどまぁいいか。


 手を洗ったら何しよっかな~、昼飯は……流石に食欲は無いから食べるのは止めとくか──だが喉が渇いてしょうがねぇし、自動販売機で飲み物でも買うかぁ、うんうんそうしようそうしよう。


『ついに手に入れた平穏な日常をあらゆる感覚を用いてここぞとばかりに堪能するケントは、そのまま校舎を出て、校内にある自動販売機に向かおうとした』


 しかし何なんだこの胸のざわめきは──そうだっ! 腹痛が治まった今の俺なら買えるっ……! 買えるんだっ! 焼きそばパンっ……! カレーパンっ……! スポーツ飲料水っ……! フルーツジュースっ……! それに炭酸ジュースもっ! あぁ……クソッ!


『だがっ! 昼食の誘惑に負けてしまったケントは自動販売機の近くにある購買で様々な菓子パンをっ! そして販売機で炭酸ジュースを購入っ! しめて六百円の豪遊っ!』


 くぅぅっ! 持った缶がキンッキンに冷えてやがるっ……! 我慢できねぇっ、もう食べながら帰っちまおうっ!


『暴飲暴食っ! 食べ始めたら止まらないっ! 抑えきれないっ! 己の欲をっ! 満たすまで止まらない暴走特急っ!』


 んぐんぐんぐんぐっ! ぷはぁっ! はっ、犯罪的だぁっ! うっ、美味すぎるっ! うしうしうし……。 はむっ! ムシャムシャ……ふぅ~! 最っ高っ!


『完食っ! 結局、道中で全てを食べ尽くすっ! 幸福っ! 至福っ! 満たされるっ! 腹も心もっ!』


 食った食った~、飲んだ飲んだ~、やっぱり食べれるって幸せだな~。 さてと、ゴミを捨てたら教室へ戻る──うっ!?


『この時、ケントの中に眠っていた不発弾がっ! 忘れた頃に爆発したっ!』


 ぐっ! ぐぅぅぅぅっ! また腹が痛てぇっ……! さっき済ましたのに何で──と思ったらそうだった……あの時はティッシュがあるかも……という方に意識が完全に行ってて忘れた……けど、三回目の腹痛が……来てたんだった……! 最悪だっ、最悪過ぎるっ……!


『三度始まる腹痛地獄っ! 食料、飲料という名の燃料を注いでしまい、火力は更に増しているっ!』


 あろうことかっ……! 食べてしまったっ……! 何も考えずっ……! 腹痛は辛いと骨身に染みて知っていた筈なのにっ……!


『この後、何とか三度目のトイレに間に合ったが下痢は結局治まらず、ケントは昼から授業を受けず家に帰る事になる』


 うっ……うぅ……俺は本当に駄目なっ、クソヒーローっ……!


           腹痛黙示録 ケント 完 

次からは本編に戻ります。

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