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日常 その4

 公立神越(みのこし)高等学校。


 教見津太郎(きょうみ しんたろう)の家から徒歩で大体二十五分ぐらいの所にある学校で、一クラス約二十五人。

 一学年五クラスずつの為、全校生徒は三七五人前後である。


 何十年も前は一学年ごとに九、または十クラスにしないと人が溢れかえる程に生徒もいた。


 しかし、時間が経つにつれ子供の数も減少する一方で、更に追い打ちを掛けるかのように、ここよりも設備や環境が整っている優れた高校へ進学する生徒が増えてしまい、生徒の数は昔に比べて激減してしまう。


 その結果、誰も使わない空き教室が至る所で見られるようになり、昔から知っている教師にとっては心に穴が空く気持ちだろう。


 学校の外見は全体的に白く、コンクリートで作られた全三階の校舎は学年毎(ごと)に建てられている。


 職員室や校長室、客室に保健室といった主に先生達がいる校舎は学校の校門から一番近くに建てられているのは訪問客にすぐ対応出来るからだろう。


 他にも体育館や運動場にプール等、授業や部活に必要な設備は大体揃っているが、やはり生徒数減少に伴い使われる頻度もまた減っていた。


 学年ごとの校舎の中心部分には数少ない自動販売機が設置。

 ただし、売られているのは主にスポーツ飲料水やコーヒー牛乳、フルーツジュースで炭酸ジュース系は少ない。


 津太郎と清水栄子(しみず えいこ)は学校付近まで来ると、この時間帯が一番生徒が密集するタイミングなだけに周りには学生服を着た人達で溢れかえっていた。


 黙々と歩いている生徒が大半だが、中には数人で雑談しながら楽しそうにしている生徒達も少なからずいる。


 他には家から学校までの距離が遠く、自転車やバスで通学する生徒。

 遅刻しそうだったのか親に車で学校の近くまで送ってもらってる者もいた。


 周りの生徒達が長期休暇の悲しみを胸に秘めつつ校舎へ向かっている中、津太郎と栄子は校門付近の混雑した人の流れから少し離れた所にいた。


「──はぁ……もう疲れてきた……」


 まだ学校の近くに着いただけなのに、思わずため息をついてしまう。

 このまま立っているだけでもフラフラする程に辛い津太郎は、昨日の夜遅くまで起きていたのを後悔していた。


 気を抜けば深い欠伸(あくび)をしそうになるが歯を噛み締めて耐える。


「どうしたの?──ってよく見たら目の下に酷いクマが出来てる……昨日はあまり眠れなかった?」


 津太郎は栄子に心配そうな表情で見つめられてしまう──先程とは立場が逆転してしまった。


「……実はいうとゴールデンウィークの合間は、なかなかゲームする時間無くて……だから昨日少しだけ寝る時間削ろうとしたら、気付けば深夜三時に──」


 津太郎はこんな小学生みたいな理由を朝から言っている自分が少し情けなくなる。


「そっか……えっと、夜遅くまでゲームするのは良くないけど、あまり無理はしないでね……寝不足や疲れから体調を崩すなんてよく聞くし、眠たくなったら保健室にでも──」


 津太郎の自業自得な理由にも栄子は懸命に助言をしてくれる。


「いやいや行かないって。 本当に用がある人に迷惑かけたくないしさ」


「あっ、そうだよね……ごめんね、余計なこと言って……」


 今度は申し訳なさそうに謝ってくる栄子に対して津太郎も何か申し訳ない気持ちになってしまう。


「ま、まぁ! とにかく教室に行こう。 ここでじっとしてても仕方ないし」


この気まずい空気を少しでも紛らわせようと津太郎は話題を変えると同時に、この場所から離れる事にする。


「う、うん……」


 栄子が軽く頷いた後、津太郎は再び歩き出す──とはいえ二年校舎のニ階にある自分達の教室、ニー三に着くまで五分も掛からなかった。


 HRが始まる前だけあって教室の中は既に暇を持て余した生徒で賑わっている。

 GW明けの再会に話すネタが満載なのだろうか、別のクラスの生徒も何人かこの教室に入っていた。


「何か人が沢山いるな……しかも盛り上がり過ぎだろ、どんだけテンション高いんだ」


 二人は教室の中の人だかりや耳を塞ぎたくなる程の五月蠅(うるさ)さで、廊下に立ち往生していた。


「やっぱり皆……! 久しぶりに会えたから嬉しいんだよ……!」


 栄子は教室の外から中にいる生徒達を見ながら騒音に負けない音量で言う。


「……まぁ、その気持ちは分かるけど限度ってもんがあるぞ」


 津太郎としても賑やかなら全然良かったが、五月蝿いのは本当に勘弁して欲しかった。

 特に今日は寝不足なせいで頭に響く。


「私も教見君と久しぶりに会えて嬉しい……な」


 栄子なりに津太郎に会えた喜びを恥ずかしさを堪えながら伝えた──が。


「え?……悪い、教室の中が騒がしくて聞こえなかったからさっきの音量でもう一回いいか?」


 緊張で声が小さくなって津太郎には聞こえていなかった。


「えっとね……! 私も皆と会えて嬉しいって言ったんだ……!」


 本当は違うが、もう二度目を言う勇気は持てなかった栄子はこれで妥協してしまう。


「そうか、じゃあうるさいけど我慢して教室に入るか」


「うん、そうだね……!」


 二人は後ろの入り口から教室に入ると、座席はお互い離れている為すぐ別れる。

 

 栄子が教室の前側の入り口付近にある席に着いて周りの女子生徒と話し始めるのを見た津太郎は、一番後ろの窓際にある自分の席に他の男子生徒へ挨拶をしながら向かう。

 椅子に座ると深いため息をつきながら全身を脱力させつつ机の上に頭から倒れ込むようにしてうつ伏せになる。


 周りの生徒達が盛り上がる中で寝るのは不可能と分かっているが、とりあえず目を瞑らせ脳を少しでも休ませる。


(自業自得と分かっていても寝不足は辛いな……)


 周りからはいきなり寝るんかいという声も聞こえるが、そんなのも気にせずとにかく休ませる事に集中しようとしていた──が、生徒達の声に混ざって大きい靴の音が前方から聞こえてくる。


(こんな朝から空気も読まず向かってくるのはあいつしかいないな……面倒くさい)


 寝不足で相手をするのは本気で嫌だったが仕方なく今だけ構ってやる事にした。


「ヘイヘイヘーイ! 朝からどうしたんだYO! もっと盛り上がっていこうぜ、相棒!」


 津太郎の状態をお構いなしに目覚まし時計のアラームみたく大きい声を出したのは、頭を撫でまわしたくなるぐらいツルツルな丸坊主で鍛え上げられた大きな身体が特徴の(つじ) 健斗(けんと)だった。

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