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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
三章

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遭遇 その32

───時は遡って一時間前。


 公園から転移した東仙一輝とうせん いっきは無事に誰も近寄らない名も無き野山へ帰って来た。

 もはや見慣れたこの山の光景を目にした後、ふと疑問に思った事がある。


「なんでここへの転移は毎回成功するんだろ……ただ単に運が良かっただけっていう可能性もあるけど、他に何か理由でもあるのかな」


 一輝はドアの中へ入る前にその場で少し考える。


「──もしかして……僕の記憶の中で結びつきが強い所ほど成功率が高い──っていう可能性もあり得る……?」


 出来るものなら色々と試してみたい気持ちはあるが、現状では危険過ぎる上に仲間に言えば間違いなく怒られるだろう。

 気にはなる──だがここでずっと考えても仕方ないと思った一輝はとりあえずドアをくぐり、白の異空間の中にある赤レンガで作られた家の前まで来る。


 そしてドアノブに手を掛け、家の扉を開けると金髪の小さな女の子が一輝に向かって駆け寄って来た。


「あっ! おにぃちゃんおかえり~~っ! ねぇねぇっ! シンタローって人に会えた会えたっ!?」


 女の子は何の躊躇ためらいもなく一輝へ抱きつき、顔を上に向けたら興味津々に質問をする。


「ただいまカナリア。 ちゃんと会えたよ」


 この一輝の目の前にいる少女の名前はカナリア・ヒラソール。


 年齢は十二歳で身長は百四十二センチメートル。

 髪の色は光を照らすと輝きそうなほどに美しい金色をしており、髪型は左右の髪を少しだけ束ねたツーサイドアップで後ろ髪は腰辺りまで伸びている。

 髪留めとして黄色い布を使い、リボン結びの状態で固定しているのが確認出来る。


 十一歳ということもあってまだまだ幼さの残る顔付きに、目を輝かせても違和感の無さそうな金色の瞳。

 そして一目で分かる柔らかそうな頬、そして小さい唇。 身体付きは全体的に細く、見た目通り体重も軽そうだ。


 服装は麻の素材で作られたノースリーブのワンピースで色柄は全面的に黄色い。

 スカートの丈は膝を隠す程度の長さで足元は白の靴下を着用し、その上に茶色の革靴を履いている。

 そして自身の身長に明らかに合っていない革製の大きなショルダーバッグを左肩から斜めに掛けており、袋には何が入っているか分からないが膨らんでいるようにも見える。


「よかったねー!──ってこれ前にもってかえってきたガサガサ音がするふくろだ~! どこで拾ってきたのこれ!?」


 カナリアは一輝が右手に持っているビニール袋の方へ興味津々そうに顔を向けた。


「この袋はその津太郎君から別れ際に貰ったんだ」


「なにこの入れものー? こんなの見たことないなぁ」


 一輝から離れたカナリアが袋の中を手で触って覗くと、黒い液体であるジュースよりも容器の方が気になっているようだ。


「これはペットボトルといってね、まぁ見ての通り飲み物を入れる事が出来る蓋付きの容器だよ」


「わたしたちが回復くすりとかに使ってたビンの入れものとは色々とちがうんだね。 あれ? ひとつだけ空っぽのがあるよ? もう飲んだの?」


 一輝が教見津太郎きょうみ しんたろうと一緒に飲んでいたペットボトルをカナリアは袋から取り出す。


「うん、さっきね。 でもポイ捨てとか出来ないからそのまま持って帰ってきたんだ」


「捨てようとしたってことはもういらないってこと? ねぇねぇ、もらってもいいこれ?」


 右手でペットボトルを持ったまま、左手の指で一輝のジャケットを軽く摘まみながらお願いをする。


「えっ、いやでも口付けてるから汚いし……中も水でしか洗えないから衛生的にもあまり良くないような……」


 流石にあまり綺麗ではないものを渡したくないと思った一輝は、すぐにいいよとは言えず困ってしまう。


「えっへへー、ちょっとまってて!」


 そう言うとカナリアはペットボトルを床に置いた後、バッグの中から透明の液体が入っている細長いフラスコの瓶を取り出した。

 蓋としてのコルクを引っ張って抜くと、ペットボトルの周りの床へ円の形になるよう液体を垂らす。

 そして次にしゃがみ込むと床に落ちた液体へ向かって息を優しく吹きかけた。

 

「だ、駄目だって! そんな事したらコルトに怒られ──」


 一体何をしているのか分からず焦った一輝が注意しようとしたその時、液体で描いた円の部分に沿った大きな一つのシャボン玉が床から現れた。

 するとシャボン玉はそのまま宙に浮き始め丁度カナリアの顔の辺りまで到達すると、そこで停滞する。

 シャボン玉の中に入っているペットボトルを見ていると、僅かに残っていたジュースが瞬く間に消えていき容器全体が綺麗になっていくのを確認出来た。


 その後、ゆっくりと床に落ちたシャボン玉は音も無く割れ、美しく輝くペットボトルだけがそこに置かれてあった。


「ねぇカナリア、これって……僕の浄化魔法をイメージして作ったの?」


「そうだよ♪」


 笑顔でそう言いつつカナリアはフラスコをバッグの中へ片付けるとそのままペットボトルを拾う。


「これならおにいちゃんも魔法つかわなくて済むとおもって作ったんだー♪」


 言葉自体は軽く感じるが、カナリアなりに気にしてくれている事を一輝には伝わった。


「ありがとう、凄く助かるよ」


「えへへー♪ 錬金術師としておにいちゃんの役にたててうれしいなぁ♪」


 褒められて相当嬉しいらしく、ニコニコしながら一輝の周りをぐるぐる回っている。


「これからもおにいちゃんのためにどんっどんっ! がんばっちゃうからっ!」


 満足するだけ回った後に一輝の前へ立つと、やる気を見せるアピールとしてウインクをしながら右手でピースサインをしてきた。


「あはは、頑張ってくれるのは嬉しいけど自分のペースでいいからね」


 張り切ってくれてるのは良い事だが、気負い過ぎて無理だけはしてほしくないと一輝は思う。


「はーい! じゃあわたしはアトリエにいこーっと!」


 カナリアは手を挙げて元気よく返事をした後、台所や食堂のある右側とは真逆の方向へ走っていく。

 あれだけはしゃいで動き回ったのにまだまだ体力が有り余っている様子を見た一輝は、何だか自分も元気になった気がした。




   ◇ ◇ ◇




 カナリアと別れた後、ペットボトルを冷やそうと台所まで行こうと食堂へ入るが誰もいない。

 ただ、台所からは包丁で何かを切っている音やフライパンで炒めている音が聞こえてくるので行ってみる。

 するとそこにはクリム・クレンゾンとコルトルト・ブルーイズが一輝に背を向けた状態で台所に立っていた。


 どうやら二人で夕食の準備をしているらしいが、集中していて背後にいる一輝に気付いていないようにも思える。

 帰って来た時に二人が玄関にまで来なかったのも恐らく料理していたのが原因だろう。


 声を掛けて料理の邪魔をしては悪いと思い、何も言わずこっそりと台所を抜け出す。

 本当なら食料や飲料を魔力を使って冷蔵保存可能にした鉄の箱にジュースを入れようとしたが、別にすぐ腐るわけでもなく、そこまで焦る必要はないと考えて自分の部屋に持っていこうと決めた。


 廊下に出た後、木製の階段を上がって二階へ行くと縦三列それぞれ向かい合わせに部屋がある。

 一輝の部屋は一番奥の左側にある為、向かっていると二列目の右側にあるリノウ・ショウカの部屋から何かバタバタと物が散らかるような音や口喧嘩している声が聞こえてきた。


「おチビちゃんのせいでコルちゃんに怒られちゃったじゃーん!」


「あなたが私をいつまでもそうやっておチビちゃんと言うから……! 私にはちゃんと──」


「もう名前とかどうでもいいから早く掃除済ませないとご飯抜きになっちゃうよっ! 急いで急いで!」


「全く……普段から掃除していればこうやって慌てずに済むというのに何であなたの部屋はこんなに散らかってるの……! 後これは何?」


「あっ! それは鉄の棒二つの間にある鎖を利用してこうやってビュンビュンヒュンヒュン振り回すんだよっ。 アチョーッ!」


「ちょっと遊ばないで! さっき時間が無いと言ってたのはあなたじゃない!」


「なんで掃除中に他の事して遊ぶのってこんなに楽しいんだろうね~」


「知らないわよっ!」


 二人はそれからも部屋の中で色々と言い合いをしている。

 一輝は扉越しに二人の会話が聞こえてしまったが、それが原因でどうしてこのような事態になっているのか大体の内容は把握出来た。


 何だか部屋の中が大変そうだと思った一輝は自分も手伝おうと考えたが、そうするとリノウがサボって遊ぶ姿が目に浮かび、更に言い合いがエスカレートしかねないと感じた。


(僕がいたら逆効果の可能性ありそうだ……今は余計な事をしない方がいいかも)


 それから一輝はバレないようゆっくり歩いて部屋の前を通過し、自分の部屋の中へと入る。

 ずっと手に持っていた袋を素材を保管する鉄の箱の上に置いてからジャケットをクローゼットに掛けた後、ひと段落して溜まった疲れが急に来た一輝はベッドへ横になる。


「はぁ、少しは仲良くなれた……のかな? でも振り返ってみると津太郎君に凄い迷惑掛けたような気がする……」


 いきなり目の前に現れて驚かせ、全く知らない知識を延々と語って疲れさせ、ジュースをあげたりと色々と気を遣わせ──急に罪悪感のようなものが一輝に押し寄せてくる。


「また津太郎君の所に行って迷惑を掛けるぐらいなら、約束はしたけど行かない方が向こうも幸せかも……母さんの行方について調べる方法は何か……別の──」


 津太郎に頼るのは止めて、これからどうしようか考えている内に一輝は寝てしまう。


──それからどれくらい時間が経ったかは分からないが、ふと意識が戻った一輝は目を開けるとそこには仲間の五人がすぐ近くにいた。


「ようやく起きたか。 疲れてるのは分かるが帰ってきて挨拶もせず部屋に戻るとは何事だ」


「おはようございます、イッキ様。 部屋に無断で押しかけてしまい申し訳ございません」


「きもちよさそうにねてたねー!」


「はぁ~……イッキ君も大変だったかもだけど、ボクもすっごく大変だったよ……あーつかれたぁ」


「お兄さまの寝顔を見れたからさっきまでの不満や怒りがどこかへいっちゃった」


 まだ少し寝ぼけている一輝はどうして皆がここにいるのか理解出来ていなかった。


「あれ? どうしたの?」


 そう聞くと、どうやら一輝がいつまでも帰って来ない事に対してカナリアが他の仲間にもう家の中にいる事を説明したら急いで部屋に向かって今に至るらしい。


「あー、そうだったんだ……皆ごめんね。 何も言わなかったせいで心配させたのは反省するよ」


 この瞬間にある事に気付く。


(あれ? 行かなかったら津太郎君にも心配させるんじゃ……それに僕から言っといて勝手に約束破るなんて最低じゃないか)


 二つの意味で目が覚めた一輝は迷惑を掛けない為にも、もう一度だけ津太郎に会いに行こうと決めた。

 それからはリノウが作り立てのご飯が冷めてしまうから早く下に降りようと言ってきたので、全員で食堂へ向かうとする。


(もう一度だけ、それで本当に向こうが迷惑と思っていたらもう津太郎君を頼るのは止めよう)


 腹を括った一輝はその日の為に備えて魔力を回復させる事にした。

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