表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/260

遭遇 その29

 教見津太郎きょうみ しんたろう東仙一輝とうせん いっきと家に向かっている途中、無駄話は一切せず今の内に聞ける事を聞いていた。


 津太郎が運動場で一緒にいた人達について聞くと、どうやら五人の女の子は一輝と異世界でずっと旅をしていた大事な仲間らしい。

 向こうにいる時、この世界に来たら二度と戻れない可能性もあると伝えても何の迷いも無く行く事を決めた時は、一輝も驚きを隠せなかったそうだ。


 それもそのはず──ほとんどの人が一度行けば二度と戻ってこれないと言われたら、すぐには『行く』と選べない。

 しかしその事を実際に言われてすぐに決断出来た彼女達の覚悟はとても普通の人には真似出来ない事だ。

 恐らく彼女達にとっても一輝は大事な仲間なのだろう──もしかしたら仲間以上の意識を持っているかもしれないが。


 次に運動場に出来た黒い穴の正体を聞いたら、アレは異世界とここの世界を繋ぐ空洞のようなもので、一輝が向こうの世界から特別な武器を使って開けたという。

 そして出来上がった空洞の上に青と白の渦巻き状の異空間を一輝の仲間が作り、その中に入ってここの世界へ来たらしい。


 異世界側の方が入り口で、津太郎のいる現実世界の方が出入口と考えたら、あの時に見た光景と話は繋がる。

 ただ、運動場へ降り立った時に砂塵さじんが起こる程の衝撃が起こったのは完全に想定外だったようで、あの時は胃が痛かったそうだ。


 あの日から今日まで分からない事が増える一方で、答えが出ずモヤモヤしていた時が続いていた。

 だがこうやって話を聞く事で少しずつ色々と分かり始めた津太郎は、胸のつかえが取れてスッキリとした気持ちになっていた。


──二人が歩き始めてから五分後、津太郎は自分の家の手前にある電信柱の所で足を止め、遠い空を見つめる。

 それは、津太郎にとって全ての始まりかもしれないあの光景を一輝にも見せ、そして最後にもう一つだけ聞きたい事があったからだ。


「俺、ちょっと前にここで空に浮かぶ赤い円盤みたいなの見掛けたんだよ」


 津太郎はそう言いながら遥か先にある何も無い空へ指を差す。


「え? それってまさかUFO?」


 不思議そうに聞く一輝だが、津太郎の言い方と動きではそう思われても仕方ない。


「UFOじゃない……いや、いきなり現れてはいきなり消えてたからUFOみたいな存在……かも。 まぁそれが出てくるのを色々な人に見られたせいで少し騒がれてた時期があってさ」


「確かにそんな物が急に目の前に見えたらビックリするよね……」


 思わず一輝も空を見上げる。津太郎の言う赤い円盤が空に出てきた時の想像をしているのかもしれない。


「──でも俺がここで見た後ぐらいから一回も出なくなったんだ」


「えっ、何でそんな事が分かるの?」


 一輝は津太郎の方へ顔を向ける。どうしてそれが分かるのか不思議なのだろう。


「あー、それはネットニュースで何度も記事になってたのに、俺が見た次の日から全く載らなくなったから勝手に判断しただけなんだけど」


「ネット……ニュース……」


 津太郎の口から出たこの言葉に一輝は反応し、右手の人差し指でこめかみを軽く押す。


「ん? ネットニュースがどうかした?」


「……あっ、ごめん!──その、久しぶりに『ネット』という単語を聞いたからちょっとピクっと反応しちゃって……話の続きをお願いします」


 やはり一輝のいた世界ではスマートフォンやタブレットといった電子機器は存在しないのだろう。

 今となっては全世界の国民が当たり前のように使っていて、手元に置いてないと生活すら成り立たない程に便利な物が無い世界など、津太郎には考えられなかった。


 ネットの無い世界で過ごすのは大変だったとかも聞いてみたかったが、話が相当脱線しそうだから止めておく事にし、一輝の言う通り話を続ける事にする。


「──そして一輝達がここへ来る前の日……学校の真上に現れたんだよ、赤い円盤が」


(学校の真上に赤い円盤って──そっか、そういうことなんだ)


 一輝は何かを察する。


「最後にもう一つ聞きたいんだけど……一輝はそれについて思い当たる事とかないか?」


 魔法陣が最後に出てきたのは一輝達が現れる前の日で、場所は学校の上空──タイミング的にも位置的にも一輝と魔法陣が無関係とはとても思えなかった。


「──その赤い円盤の事なんだけどね、名前は『魔障壁ましょうへき』って言うんだ」


「マ、マショウ……ヘキ?」


 津太郎の質問に対して一輝の口から出た言葉は、今まで聞いた事の無い単語だった。


「えーっと、魔法の『魔』に障害物の『障』、それに『壁』──これらの文字を合わせて魔障壁と向こうの世界では呼ばれてて……簡単に説明すると、この世界と僕らがいた世界の間に存在する魔力によって作られた壁──と言えばいいのかな。 まぁ大体名前通りと思ってくれれば大丈夫かと」


 一輝は淡々と説明する──しかし津太郎にとって毎日のように見ている空に見えない壁のようなものがあるなんていうのは相当の衝撃であった。


「えっ、じゃっ、じゃあ……魔障壁っていうのは今も……この上にあったりする?」


 動揺を隠せない津太郎は真上に指を差しながら一輝に聞く。


「うん……いきなり言われても信じられないかもしれないけど。 あ、でも危険性とかは無いから安心して」


「危険性が……無い?」


 学校中が大騒ぎになる程の騒動に巻き込まれた津太郎にはとてもそうとは思えなかったが、ああいう現象が起こったのにも何か理由があるのかもしれない。


「魔障壁は魔力にしか反応しないから、魔力の存在しないこの世界では何も無いのと変わりないんだ。 物理的に何かが当たったりもしないし」


「なるほど……多分、理解出来た」


 しかし津太郎はもう限界寸前だった。

 何故なら一輝と出会って今に至るまで色々な事を聞きすぎてもう頭の中で整理出来ていないからだ。

 その証拠に口数が最初と比べて露骨に減っており、反応も薄くなっている。


 だが、一輝の説明は止まらない。


「だから津太郎君がここで見えたっていうのは僕らが向こうの世界から干渉してたのが原因……なんだと思う。 ただ、まさかこっちからも見えてるのは予想外だったなぁ……」


「そ、そうなんだ……」


 津太郎はそう言った後に腕を組んで目を瞑り、首を傾げる。


(えっと、なんだ? この空には魔障壁という見えないバリアがあるんだよな? それを一輝は向こうの世界から何かしらの方法でこっちの世界に魔力を使ってきたからバリアが反応して、偶然にも見えたって事で合ってる……のか?)


 津太郎は必死で自分にとって分かりやすく把握出来るように考えていた。


(ど、どうしよう。 聞かれたからってつい勢いに任せてペラペラと説明しちゃった……津太郎君にとって知らない事だらけなのにまとめて説明しても混乱するだけだよね……)


 もうここまでにしようと決めた一輝は思考中の津太郎に向かって声を掛ける。


「あ、あの~、きっと津太郎君のお母さんも家でずっと待ってると思うし、もうそろそろ帰った方がいいんじゃないかな」


 ずっと思考中だった津太郎は一輝の声で我に返った。


「──へっ? あー、そうした方がいいかもしれない……うん」


 もっと余裕があれば他にも聞く事も出来ただろうが、今はもう体力的に限界だった。

 最初は気になる事を全部知るつもりでいたのに、いざとなるとこの時点で頭が若干ボーっとしており脳の処理が追い付いていないのが嫌でも分かってしまう。


(我ながら情けねぇ……)


 ただ、未知の領域の世界、それも異世界という現実離れし過ぎた話をいきなり全て理解しようというのがそもそもの間違いなのかもしれない。

 こうして一輝と再び会えただけでも津太郎にとっては奇跡なのだ。これ以上の更なる知識を求めるのは贅沢、または欲張りだろう。

 今はもうこれで満足にしよう──津太郎はそう考える事にする。


 学校を出てからずっと立ちっぱなしで足を支える筋肉も疲れが溜まっているように感じた津太郎は、その場で軽く屈伸運動をして少しでも負担を減らす努力をし、疲れで緩んだ気持ちそのものをリセットさせる。


 それから歩いて一分も掛からない内に津太郎は立ち止まった。


「まぁ……知ってるとは思うけど、ここが俺の家だよ」


 津太郎はそう言いながら自分の家に指を差す。


 二階建ての何処にでもある正方形のマイホームで、壁は全面的に灰色だが屋根は黒色。

 家の周りは通り過ぎる人の視線を遮る為の壁が玄関の所以外を囲んでいて、小さいながらも手入れされた庭もある。

 門扉の所にはちゃんと『教見』と書かれた表札があり、その上には明かりを照らす西洋風の門灯が置かれている。


「──うん、ちゃんと記憶通りで安心した。 もしかしたら別の人の家かもとか少しだけ思ってたから」


 一輝は津太郎の家を見回した後に反応する。


「あはは、なんか初めて来たのに家を知ってるとか変な感じだ」


 その後、二人の間に沈黙が訪れる。

 出会った時は何度も起こっていた沈黙の間も今となっては起こる方が珍しくなっており、津太郎もこの感覚が何か懐かしい気がしていた。


「──じゃあ、僕はそろそろ行くね」


 意外にも沈黙を破ったのは一輝の方だった。


「本当にここまでで大丈夫? 魔法使うのにもっと人の少ない所まで付いていった方がいいんじゃ……」


「いや、もうこれ以上は津太郎君に迷惑を掛けられないよ。 それにせっかくだし、この辺りをのんびり見て回りながら人の少ない所を探そうと思ってるから気にしないで」


 一輝がそう言うなら津太郎は諦めるしかなかった。


「……そっか、分かった──あ、でもちょっと待っててくれ!」


 津太郎は急に慌てた様子で家の中に入ってしまうが、一分も掛からない内に出てくる──その手には何かが入った白のビニール袋を掴んでいた。


「これっ、持って行ってよ。 一輝の仲間の人達にも飲んで欲しいからさ」


 少し息切れしている津太郎が差し出した袋の中には二人が飲んだジュースが六本も入っている。


「でもさっきも貰ったのに……しかもこれって津太郎君のお母さんが買った物じゃ……」


「えっ!?……あー、半分は俺が買い溜めしといた物だからっ! あははは……!」


 津太郎はバレてしまった事を何とか誤魔化そうと笑いながら一輝に渡そうと手を伸ばす。


「あっ……ありがとう。 『家』にいる仲間もきっと喜ぶよ」


 せっかくの好意を無駄にしない為にも一輝は素直に受け取る事にし、深々と頭を下げる。


──それから二人はいつかまた会う約束をして軽く別れの挨拶を済ませると、お互いに手を振って津太郎はその場に立ち止まり、一輝はその場から立ち去る。


(冷静になって考えてみると、とんでもないことを沢山聞いたよな……)


 津太郎は玄関先で路上を歩く一輝の後ろ姿を見ながら思う。


(でもまぁ、色々と気になってた事も知れたし良かった)


 満足した津太郎は一輝の姿が見えなくなるまで見送った後に、家の中へ入るのに玄関のドアを開けようとした──その時だった。


(あれ? でも一輝はどうやって異世界に行けたんだ?)


 一つの疑問が再び生まれると、連鎖するように疑問が次々と浮かんでくる。


 今は何処に住んでいるのか。どういう異世界に居たのか。仲間の五人は何者なのか。特別な武器とは何なのか──そして何よりも、


「どうしてこの世界に戻ってきたんだ……?」


 一輝と出会い、ようやく気になっていた事が明らかになった筈なのに知れば知る程、更に謎が増えていく。

 スッキリしたと思っていた気持ちに再びもやが懸ったような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ