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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
三章

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遭遇 その21

 沢山の思い出が詰まっていた家は確かに跡形も無い。それは東仙一輝とうせん いっきがその目で見て知っている。

 しかし、母親の方はまだ分からない。ファミレスで考えた最悪の予想も否定は出来ないが、そう決めつけるにはまだ早すぎる。


 この時点で諦めるのが一輝にとって一番あり得ない選択だった。

 今出来る事を全てやってみて、見つからなかった時は──苦痛の決断をするかもしれないが、そうならない事を一輝はただ願う。 


「でもどうするの~? お母さんについての情報は一切無いのに~。 流石のボクも諦めたら~? なんて言わないけどさ、すっごく難しくない?」


 リノウ・ショウカは沢山クッキーを食べて満足したのか、のんびり紅茶を飲んでくつろいでいた。

 ただ、言っている事はクッキーのように甘くなく、現実という名の苦味を突き付けている。


 確かに広大な砂漠の中、あるかどうかも分からないとても小さな落とし物を拾うようなもので困難を極めるのは間違いなかった。

 

「……調べる方法は一応あるんだ。 それでも見つかるか──情報が手に入るかどうかも分からないけど」


「ほう、それはどのような手段だ?」


 堂々と言う一輝が珍しいのか、クリム・クレンゾンは興味ありげに聞いてくる。


「えっ!? えーっと……」


 ただ、いざ聞かれると一輝は困ってしまう。


(インターネット……なんて皆には分からないだろうし──どうしよう)


 この方法を思いついたのは新田浩二にった こうじが使っていたスマートフォンがきっかけだった。

 インターネットの検索サイトやSNSを使って何か母親に関する、もしくは自分がいなくなってから家の近辺で何が起こったのか情報を得られるかもしれない──楽観的な上に可能性は非常に低いが、この方法をまずは試してみたい気持ちが強い。

 

 だが、三人にこのインターネット関連の事を説明しても意味不明なのは間違いないだろう。


「説明するのはちょっと……難しいかな~。 まず、この世界の文明について説明する所から始めないといけないし」


 一輝は素直に言うしかなかった。


「こっちの世界の文明ってなになに~! もしかしてこの袋よりもすっごく面白い物とかいっぱいあるの!? 美味しい食べ物は!? すっごい武器とかあったりする!?」


 ここの世界の人達にとっては当たり前のビニール袋も、リノウにとっては物珍しさ満載らしい。

 色々な事に興味を持ってくれるのは一輝としても嬉しいが、この世界の文明については小学一年生が算数を足し算から習うように、順序を追って少しずつ説明する必要がある。


「駄目ですよリノウ。 イッキ様はお疲れなのですから、あまり質問ばかりしてはいけません」


 コルトルト・ブルーイズはよほど一輝の身体の心配をしているのか、放置しているといつまでも質問し続けそうなリノウに対し注意をする。


「ちぇ~、あーでもでもっ! この袋の中に入ってる物はなに~? これぐらいなら別にいいでしょ?」


 クリムに注意されるまで触っていた時、中に入っていた物が袋越しに当たっていたのだろう。


「あ、これはね──」


 一輝は閉じ込めるように軽く結んでいたビニール袋をほどき、中の物を取り出す。


 フライドポテトの入った黒い容器。浩二から貰った五千円札と千円札。電話番号の書かれた白い紙。


 どれもこれも一輝以外の三人には未知の物であり、リノウは勿論だがクリムとコルトも物珍しそうに見つめている。


「わぁ~! この中に入ってるのすっごい美味しそうっ! 食べていい!?」


 クッキーを沢山食べた筈なのにリノウはまた食べたがっている。


「先程クッキーを頂いたというのに……就寝前にそこまでお腹に入れるのは身体にも良くありませんよ、リノウ。 しかしこれは──芋をどのように調理しているのでしょうか……?」


 どうやらコルトも料理をする者としての血が騒ぐのか、個人的には気になるらしく一輝の方をチラッと見つめてくる。


「この紙はなんだ? 人の顔らしき物まで描かれて──そうかっ、凶悪犯の似顔絵だなっ! だがこの二枚──それぞれ似顔絵がここまでハッキリと描写されているとは……こちらの世界も侮れん……!」


 クリムの方は紙幣を指名手配書と勘違いしており、偉大な功績を上げた人の事を凶悪犯罪者と思っていた。


 とりあえず一輝は三人に持ち帰った物について説明をしたが、頭の中が食べたい事でいっぱいのリノウを除き、他の二人は頭が混乱しているように見える。


「芋をこんな細長く切った後に大量の油を使って加熱させた食べ物……? なかなかどうしてこう面白い発想が出来るんでしょう?……芋といえば茹でる、またはすり潰して調理するぐらいしか出来ないと思っていましたが、こういう方法もあるのですね……」


 コルトは頬に手を当て、首をかしげると少し悔しそうな表情をする。


「こ、これがこの世界の通貨だと……!? 重みも無くなんとも頼りないというか、こんなの風の吹く所に置いていたら吹き飛ばされるぞ……! それにどうして王族でも無さそうな者の顔が描かれているんだ?」


 自分の中の常識を覆されたような気がしたクリムは、必死に理解しようとしていた──が、考えれば考える程に疑問の方が増えていく。


「二人とも色々と考えすぎだってば~! まだこっちに来てちょっとしか時間も経ってないんだしさ、そんな一気に学習できるわけないじゃ~んっ! だからこのえーっと、ふらいんぐ……ぽてっと? はやく食べようよ、ねっ!」


 悩んだり考えたりしている二人に比べ、リノウはいつも通りである──だからこそこうやって違う見方が出来たのだろうか。


「むぅ……珍しくショウカに正論を言われた気がするぞ……」


「全くです……少し考えれば分かる事でしたのに……」


 リノウに言われたのがショックだったのか、二人は同時に溜め息を吐く。


「あはは……僕だって向こうでは少しずつ学習していって知識や常識を身に付けたんだから、皆もきっと出来るよ」


 一輝なりに何とか二人を励まそうとする。

 その後に容器のフタを開けて少し触ってみたが、やはり出来たての時とは全然違いすっかり冷たくなってしまい、完全にふやけてしまっていた。


「あー、ごめん……。 この状態で食べてもあまり美味しくはないかも。 今日はもう遅いし、明日にでも揚げ直して食べた方がいいと思う。 それに今寝てる二人にも食べさせてあげたいし」


「えー! じゃあボク達が食べる分だけイッキ君が言った通りにしようよー!」


 今すぐ食べれないショックに思わずリノウは席を立ちあがる。


「イッキ様がこうおっしゃっておられるので今日はもういけません。 それに大量の油を使うという事は後始末も大変でしょう。 リノウが使った調理器具や皿を洗ってくれるのですか?」


「ハッハッハッ! 今から準備して、それから後片付けなんてしていたら寝る時間が遅くなる──それに誰もこっそり食べはしないのだから明日にした方が良いぞ」


 コルトとクリムの説得力のある言葉にリノウも仕方なく従う事にする。


「うぅ……分かったよぉ……」


 ただ、あまり納得していないのか頬を膨らませて少々拗ねていた。


 その後、残ったクッキーと紅茶を余すことなく召し上がってからクリムとコルトは使った食器を洗う為にキッチンへと向かう。

 一輝も手伝おうとしたが二人に休むよう強要されてしまい、今日のところは甘える事にする。


 リノウはというと、少しでも早く明日を迎える為に食べ終わったらすぐ自分の部屋に戻ってしまっていた。


 何もする事が無くなってしまった一輝は部屋へ戻ろうとも考えたが、その前に少しだけ外へ出て夜風に当たる事にした。

 今回は前と違って二人に外へ少し行ってくる、と伝えており急にいなくなったと思われる可能性は無い。


 一輝が食堂から移動した後、コルトが使った食器を洗い、クリムが綺麗になった食器を拭くという流れで作業をおこなう。


「……イッキ様、大丈夫でしょうか。 わたくし達の前では何事も無かったかのような顔をしていましたが……」


「まぁ、大丈夫ではないだろうな。 母親と会う事を目標でここまでやってこれたというのに、我が家すら無くなっていたんだから」


 クリムの言葉にコルトの食器を洗う手が止まる。

 少しの沈黙の間、聞こえるのは蛇口から流れる水の音だけだった。


「──だが、アイツはまだ諦めていない。 ならば我も全力で出来る事をするまでだ……後、イッキはいないのだから昔のような話し方をしてくれ」


(わたし)もあの(かた)の心の負担を少しでも減らせるように頑張らないといけないわね──それと昔から知ってる貴方からすれば敬語なんて堅苦しいかしら」


 コルトの手が再び動き出す。

 一輝に対してより少し低めの声で対応するが、どうやらクリムはこちらの方が落ち着くらしい。


「あぁ、やはり我はこういう話し方をするお前が一番しっくりくるぞ」


「フフッ、何よそれ。 まるで私がイッキ様の前では色々と偽ってるみたいじゃない」


 食器自体が少ないのと手際の良さのおかげであっという間に洗う作業が終わり、コルトはキッチンに掛けてある白のタオルで手を拭いている。


「なにっ、違うのか?」


 クリムも拭く作業が完了し、洗濯場へ持っていく為にコルトから使ったタオルを渡してもらう。


「全っ然、違うわよ」


 それからも二人の会話がしばらく途切れる事は無かった。


──外に来た一輝は次やるべき事について考えていた。


 インターネットを利用したくても、勿論ここにはネット環境やタブレット端末のような物は無い。

 ネットカフェがどこにあるか分かれば貰ったお金を使って利用出来たが、今の一輝には探せる自信も無く、そもそも自分の住んでいる町にあるかどうかすら分からない。


 だが、一輝の中で一人だけネット環境に心当たりがある者がいた──とはいえ確信ではなく一種の賭けではあるが。


「あの人なら、教見津太郎きょうみ しんたろうさんなら……もしかするとパソコンとか持ってるかもしれない──今度、会いに行こう」


 そう決めた一輝は空を見上げ、月を見つめる。

 津太郎も見つめている、同じ月を。

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