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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
三章

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遭遇 その14

「うわっ!? ちょっ!? こ、これ何……な、なんで草まみれなの……!?」


 野山から転移魔法で自分の家まで移動したと思っていた東仙一輝とうせん いっきが今いる場所は何故か前後左右、どの方向を見ても薄っすらと草しか見えない場所であり、転移した直後から全身に草が当たり続けてあまり良い居心地ではない。

 特に皮膚に直接当たる顔や手は痒くなり、早くここから出たい気持ちが強くなる。

 

 伸びに伸びた茎の太い草は一輝の身長よりも高く、地面を埋め尽くす程に生えて束になった草が目の前を立ち塞がるこの感覚は、まるでちょっとした密林にいるようだ。


 夜ということもあって視界も良くはないが、月の光のおかげで全く見えないわけではない──しかし不便には変わりないので、ライト代わりに指の先に火の魔法を使ってライターのように照らそうともしたが、間違って大火事になったらまずいと思って使えずにいる。


 立ち止まって周りを見渡すだけでは何も始まらないと思った一輝は、とりあえず草を手で掻きわけながら慎重に進み続ける。


(魔力を思い通りに使えないだけでこんなに不便だなんて……)


 失敗すると全く関係のない所へ飛ぶ──その覚悟はしていたつもりだったが、いざ実際に起こるとやはり幸先が思いやられる気持ちにどうしてもなってしまう。


──が、その気持ちはすぐ落ち着く事になる。


「──って、あれ?」


 何故なら、少しずつ前へ歩き続けて三十秒も経たない内に草むらを抜け出していたからだ。


「な、なんか思ってたよりあっさり抜けれた……」


 気を張っていた分、拍子抜けしてしまった一輝だが無駄な体力や魔力を消費する事無く済んだだけ良しとする。


──気持ちを切り替えて目の前にある囲いのロープをくぐると、暗闇に目が慣れてきたおかげでセメントの固まった黒い地面が横一直線に広がっているのと、電信柱が一定の間隔おきに立てられているのが分かる。

 

 そして左右を見渡すと一輝のいる位置から少し離れた場所には幾つも家が並んでいる事から、住宅街にいる事は理解できた。


「あっ、ここって空き地だったんだ」


 抜けた場所のすぐ横には大きな看板があるのが見える。

 半分より上は背景を赤色、文字を白色で『売地』と書かれていて、半分より下は背景が白く、文字は『デンプレ不動産』と電話番号が黒で書かれている。

 土地の持ち主が定期的に手入れをしなかったのが原因で、ここまで好き放題に伸びた可能性が高い。


 後ろを振り返ってみると、等間隔で地面に打ち込まれている鉄の杭が何本もあった。

 その鉄の杭に黄色と黒のロープが張った状態で結ばれて固定し、空き地全体を囲っているように見え、辺りをうろつくと広さはどこにでもある一軒家ぐらいに感じる。


 空き地の周りも全体は暗くて見えないが、見える範囲は雑草で埋め尽くされていて、囲いが無ければ何処から何処までが空き地が把握できなくなりそうな程だ。


「でもここはどこ……なんだろ」


 転移した場所が人が普通に暮らしている所なのは安心した。

 だが一輝は母親が住んでいる、そして自分が過去に住んでいた家を頭の中で想像して転移したつもりだったのに、実際は放置された空き地だったのは失敗の証だろう。


 失敗したとはいえ、今すぐ転移魔法を使うのも勿体ないと思って情報収集をしようと考えた一輝は、通りすがりの人にここはどこなのか聞こうとも思ったが、まず人の気配が全く無い上に出来るだけ遠くを見つめても誰かが歩いている様子もない。


 一輝は人を見つけるのに夢中だったが、ふと冷静に考え始める。


(こんな夜中に男一人ポツンといるだけで不気味なのに、声なんて掛けたら危険人物と思われて通報される可能性だってあり得るんじゃ……)


 通報されて警察が来たらそれこそ母親との再会どころではなくなってしまう。それだけは絶対に避けなければならなかった。


(仕方ないけど……もう一回だけ魔法を使おう)


 時間だけがどんどん過ぎてしまい、このまま八方塞がりの状況を打開するには二度目の転移しかないと一輝は思った。

 それに魔法を発動させるなら今しかない。

 一輝は、()()()()()()()を逆に利用する事にした。


 ただ、念には念をと姿を隠す為に再び『売地』の看板の隣から草むらの中に入っていく。


(せっかく抜け出せたのに、すぐ入り直すとは思わなかった……でも魔物とかいないだけ気は楽かな)


 抜け出す時とは違い、恐怖心や不安といった負の感情はいだいていない一輝は迷いなく突き進む。


 ある程度歩いた所で立ち止まり、一輝は右膝を立てるようにしゃがみ込む動作をすると、押し潰れていく茎の太い草の音がパキパキと鳴る。

 頬や耳に草が当たりながらも気にする事無く右手を地面に草ごと押し込み、発動させるのに集中する。


──数秒後、一輝を中心に白線で描かれた円が地面に映し出された後に立ち上がり、魔法の名前を唱える。


「転移魔法! シュイド!」


 その直後、草を寛通する勢いで地面が光りだすと白線から半透明の緑白色りょくはくしょくの円柱が現れ、全身が歪んだような現象が起こると同時に一輝はその場から姿を消す。




   ◇ ◇ ◇




「えっ!? えっ!?……なんでまた!?」


 一輝が転移した先に見た光景は、する前と全く同じ光景だった。

 目の前は重なった草で見えづらく、前へ進むのも一苦労する程に生えた雑草の高さは一輝の頭上を越える勢いで伸びている。


 一輝は再び自分が通れるよう、草の束がしなるぐらい力強く押し込みながら前へ進み始めた。

 少し歩くと、一輝の目の前には茎の太い草がへし折れていたり、踏み潰されてクシャクシャに荒れている場所を見つける。


(何かいるのかな……?)


 よく分からないが、少しでも手が省けて運が良いと思った一輝はそこまで気にせず先へ行く──そして体感的には三十秒程度で草むらを脱出する事に成功した。


「ふぅ……でもどうしよう、すごい疲れてきた──えっ……」


 安心と疲れで肩を下ろしそうになった一輝の隣にあったのは、背景が赤で文字を白で書かれた『売地』の看板だった。

 最初は何処の空き地にでもある看板かと思っていたのだが、下に書かれている『デンプレ不動産』の文字と電話番号の数字まで一緒である。


 更に目の前には数本の地面に打ち込んだ杭と黄色と黒のロープによる囲いが設置されていて、一輝が急いで範囲を確認すると、数分前に見たのと同じ一軒家同等の広さだった。


「な、なにこれ……?」


 それ以外にも横一直線に伸びるアスファルトや電信柱の並び方、少し離れた所に建てられている家の並び方まで全く一緒で一輝は頭が混乱しそうになる。


「もう一回だけやってみ──いや駄目だ……でもどうしたら……」


 魔力には限度があり、自然回復量も非常に遅く連続で使うのは下手すると帰れなくなる可能性も出てくる為、三回目は躊躇してしまう。


「数年ぶりだから記憶がゴチャゴチャになって……? ここでは仕様そのものが違う……?──分からないけど、これ以上はやっぱり危険過ぎる……」

 

 母とはまだ今度会えるからと頭の中で必死に自分を説得した後、手遅れになる前に今日の所は野山にある家に帰ろうとした。


「──でも久しぶりに人のいる場所へ来たんだし──何か少しでもこっちの世界について把握しときたいな」


 一呼吸おいて何とか落ち着きを取り戻し、手ぶらで帰るのも勿体ないと感じ始めた一輝は、人気ひとけのある場所へ行き、何か情報を手に入れて帰る事に決める。


「コンビニとかスーパーへ行けば今日が何月何日とか分かると思うし……本当は久しぶりに炭酸ジュース飲みたいけどお金無いしなぁ……」


 母と会えないのは残念であった一輝だが、今は気持ちを切り替えて家が並んでいる住宅街の方へと向かう事にする。


 一輝が歩く為に足を乗せたアスファルトで出来た道は真ん中に白線は引いていないものの、両端には白線が引かれている。横の幅は車二台が横に並んでも大丈夫そうだ。

 

 空き地の反対側は整地せいちされた完全に真っ平になっている土地で、そこにあるのは地面に広がっている茶色の土だけであり、改めてここ一帯が酷い殺風景さっぷうけいだと認識する。


 少し疲れた一輝は住宅街へ向かう前に軽く休憩しようと、先程まで眺めていた何も無い土地の目の前にある電信柱に背中を預けるよう体重を乗せ、あまり身体を冷やしすぎないようにする為に腕を組む。

 冷えたコンクリートが衣越しに肌へと伝わるこの感触はあまり気持ち良くはないが、背もたれが無い状態で立ち尽くすよりはマシだった。


(まさかこんな事になるなんて──でも次こそは……)


 そう心に決め、休憩を終えた一輝は背中を預けていた電信柱の反対側へ回って白線の内側を歩こうとした時だった。


「ん? 何か書いてある……?」


 電信柱の空き地側から見て内側の低い所に黒い文字が何か書いてある事に気付くも、月の光だけではハッキリと見えない。

 単純に何を書いているのか気になった一輝は、周りを見て人がいない事を確認すると左手の人差し指を伸ばし、そして指先に意識を集中させて火を着ける。


 火の大きさは百均ライターぐらいだろうか──とはいえ辺りを照らすには十分の明るさで、誰かが来る前に電信柱の文字を見てみる。


「───え?」


 そこに黒のスプレーで書かれていたのは『いっき さんじょう』という文字だった。  

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