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一話 日常

 二〇XX年五月 GWが終わりを迎え学生や社会人が絶望を感じながら訪れた月曜日の朝。


 地方都市の住宅街にある二階建ての家で彼は寝ていたがスマホのアラームが鳴り響く。

 朦朧とした意識の中なんとか止める事は出来たが、休み気分が抜けてないせいで身体が重たく感じていた。


(後五分だけ……五分だけ寝よう……)


 今日から学校だというのに調子に乗って深夜までゲームをしてしまった事を心底後悔しながら再び重たい瞼を閉じる。


「津太郎!! さっさと起きなさい!! 今日から学校でしょ!!」


 しかし母親には息子の考える事なんてバレているのか先手必勝と言わんばかりに容赦ない怒声が家中に響き渡る。


「はぁ……起きるか──」


 重たい身体に喝を入れて起きると同時に身支度を整えて下に降り、歯磨きと洗顔を済ませてようやく目が覚めた。


「──おはよう2人とも……今日は朝から憂鬱だね」


 スッキリした姿でリビングで親に挨拶したのは教見津太郎(きょうみ しんたろう)というどこにでもいる高校二年生。

 ただ頭は茶髪に染めて少しツリ目のその風貌は不良のようにも感じるが本人は全くそのつもりはない。

 身長は百七十台と高くもなく低くもなく標準的であり、父親と時々山籠りに行くからか多少筋肉質である。


「おはよう津太郎。 早く食べないと遅刻してしまうぞ──それと母さんご飯おかわりお願いします」


 津太郎の父でありサラリーマンである教見厳男(きょうみ いわお)はもうすぐ40だというのに息子よりも食欲旺盛である。


「お父さんったら別にそこまで急かさなくても大丈夫よ──あ、おはよう津太郎。 今日はちゃんと起きれて偉いじゃない」


 ジーパンに白の長袖、その上にエプロンを身に付けた津太郎の母。年齢は言えないが教見美咲(きょうみ みさき)が台所で巌男の茶碗に白飯を注いでいた。


「連休明けだから辛いけどね、あはは……それじゃいただきます」


 ホカホカにふっくら炊き上げた白飯。熱々の味噌汁。中身は半熟トロトロの目玉焼き。肉汁溢れるウインナーがテーブルの上には置かれていた。男なら誰しもが満足する品揃えである。


 どこの家庭でも行われている日常的な会話をしつつ朝食を取っていると、ラジオ感覚で点けていたテレビからは先程までの明るい雰囲気から一転──突如として重苦しい雰囲気に包まれていた。

 さっきまでニコニコしていた男性アナウンサーの顔から笑みは消え、真面目な顔になっている。


「速報です──午前六時五〇分頃に中高年と思われる男性が、近くのマンションの外で倒れているという情報が入ってきました。 駆けつけた救急隊員によると見つけた時には既に心肺停止の状態だったとのことです。 詳しい事はまた情報が入り次第お伝えします」


 速報が終わるとそれからは何事もなかったかのように番組は進行していく。ここまでアッサリ終わると三〇分後にはもうほとんどの人がこのニュースを忘れているだろう。


「最近こういうの多いわねぇ。 一体どうしちゃったのかしら」


「不景気が続いているから将来の不安に耐えられず、そういう行為に走ってる人が増えてるかもしれないな」


「とは言ってもねぇ……命を絶ったら将来も何もないじゃないの」


「こういうのは色々難しいもんさ──おっと」


 巌男は家の壁に設置してある飾り気のない単純な構造の時計を見る。どうやらもう家を出る時間らしい。 


「少しのんびりし過ぎたか──それじゃ行ってきます」


 食後のコーヒーの残りを一気に飲み干して立ち上がるとそのまま外に出て会社へ向かった。美咲は巌男が出ていくのを見送ると台所へ戻る。


「アンタもそろそろ準備しないと待ち合わせに間に合わなくなるんじゃないの? 栄子ちゃんがまだ来ないって心配するわよ?」


「栄子ならのんびり待ってるんじゃないの?……いつもの事だし」


「女の子を不安にさせるなんて男として論外よ。 それに待たせる方は大した事なくても待つ方は辛いのよ……色々と考えちゃうからね」


「えぇ……何か大袈裟な気がするんだけど……まぁ分かったよ」


 母親に逆らうのは色々な意味で命取りと分かっている津太郎はとりあえず納得したような態度を取り、素早く準備を済ませる。


「よし……それじゃあ行ってきます」


「気をつけていってらっしゃい」


 台所の方から玄関に向かって発する母親の声を聞いた後、津太郎は家を出る。 

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