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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
三章

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遭遇 その3

 全校集会があった次の日。

 再び天気は大雨に逆戻りとなり、昼を過ぎても朝と景色が全く変わっていないように感じる。

 屋根に当たる数え切れない程の雨音は止んでも頭の中で聞こえていそうなほどだ。

 

 そんな悪天候の中、学校も週明けまでは休みなので教見津太郎きょうみ しんたろうは自分の部屋のベッドで横になっていた。

 

 夏用に変更した触るとヒンヤリする青色のシーツや、厚さがタオルのように薄く肌が当たる裏面が冷たい掛け布団。 頭から首元までの熱を冷ましてくれる枕カバーはジメジメするこの季節にはとても快適である。


 津太郎もただベッドでボーっとしてるわけではなく、スマートフォンを使って昨日の女子生徒の件についてネットを通じて色々と調べていた。


(やっぱりこうなるよな……)


 公立神越高校で女子生徒(17)が自殺。後悔の念に耐えられなかった事が原因か。 


「生きていて欲しかった……」 命を絶った公立神越高校の生徒の親、心の叫び……!


 今話題の神越高校でSNSに動画を上げた張本人の女子生徒が死亡!? どうして……。


【悲報】 神越高校の女子生徒、逝く……。


 等々、あっという間に色んなインターネットニュースサイトで記事になっていた。

 やはり未来ある若者の死というのはアクセス数を稼げると知っているのだろう。

 コメントの数も他と比べて圧倒的に多いのがそれを物語っている。

 

 情報量が少ないせいで内容の文章はどれも似たようなものであるが、『ハンドルネーム』と呼ばれる仮名を使ってコメントしてる人達は良くも悪くも自分の思っている事を書いている。


「亡くなった生徒さん、まだ若いのに本当に残念です。 もっと親と相談していれば違う道が開けたかもしれないのに。 ご冥福をお祈りします」


「どんなに苦しくても勝手に死ぬなんて絶対間違ってる。 それは逃げただけだ。 生きる事の苦しみから逃げただけ。 本当に償いたいなら生きて迷惑を掛けた人に全身全霊で謝る所から始めないといけなかったのに」


「私にも同じ年頃の娘がいますので親御様の気持ちを考えると心がとても痛みます……きっと心に穴が空いているのでしょう……涙も枯れ果ててるかもしれません……でも頑張ってください。 娘さんは天国からあなた方を見守っていてくれてますよ」


「いやいやそんな動画を上げたぐらいで普通そんなに責任感なんて負うかなぁ? だったら最初からそんなのすんなよって思っちゃったよ厳しいかもしれんけど。 まぁ今更言っても遅いけどさぁ」


「神越高校の先生も心労で同じ道辿りそうwww クソワロタww」


──と津太郎が流し読みしてるだけでも一時の感情に身を任せて書いてそうな怒涛の長文や読む人に不快感を与えるような幼稚な文章が目に映る。


(よくもまぁこんな文が思い浮かぶな……)


 匿名性が高いだけあって、ある事ない事や面と向かってでは言えないようなコメントもずらりと並んでいるのも一つの特徴だろう。

 ただ、中には誹謗中傷としか思えないコメントもいくつかあって、自分の通ってる学校や生徒に対して根も葉もない事を書かれたのを目撃した時にはインターネットの恐怖というのを感じざるにはいられなかった。


「ふぅ……流石に色々と疲れてきた……」


──調べ始めてから一時間。

 文字をひたすら読み続けていたせいか文章がただの文字の羅列にしか見えなくなった津太郎は、休憩する前に一階にある冷蔵庫から飲み物を取り出そうとベッドから降りた。

 少し歩いて部屋のドアの前まで行くとベッドの上に置いていたスマートフォンから電話の着信音が鳴る。


「……? 誰だろ?」


 再びベッドに近付いて立ったままスマートフォンを取ると液晶画面には『月下小織つきした こおり』と表示されていて、津太郎は特に何とも思うことなく電話に出た。


「もしもし、どうした月下」


「あーもしもし。 えーっと……どう?……大丈夫?」


 電話越しに聞こえる小織の声は普段と変わらない。ただ話し方はいつもより遠慮しているように思える。


「大丈夫って……何が?」


「何がって……昨日の事を引きずってるんじゃないかと思って電話したんだけど……」


 すると津太郎のスマートフォンから急に耳元へゆっくりと長い溜め息のような音が聞こえてくる。

 まるで顔の真横から耳に向かって心地良い、そよ風のような吐息を吹きかけられたみたいだ。


「のわっ!!」


 津太郎は耳からそのまま脳にまで吐息の振動を響かせられたような現象に襲われてしまい、咄嗟に驚いたような声を出す。


「キャアッ!──な、ななななに!?」


 小織もまた耳元で不意打ちの大声に慌てふためき、つい甲高くも可愛げのある叫び声を出してしまう。


「──ックリしたあ! 教……前で──んな声……出す──ずかしい……!」


 その後に小織は取り乱しながら色々と言っているがスマートフォンを顔から離しているらしく、なかなか言葉が聞き取れない。


──数秒後、最初に口を開いたのは小織だった。


「久しぶりに肩が跳ね上がるぐらい驚いたわ……」


 とりあえず冷静さは取り戻しているものの、若干の疲れが声から滲み出ている。


「わ、悪い……なんかこう──全身が震えるというかゾワゾワした感じが急に来たと思ったら声が勝手に出ちゃってさ──でも月下が慌てるなんてなんか新鮮だな。 お化け屋敷に行っても全く動じないタイプかと思ってたぞ」


「……アタシを一体なんだと思ってるのかしら──まぁいいわ、次からは気を付けてよね」


「分かった、気を付けるよ」


「でもその調子だと特に問題はなさそうだし、週明けに学校で会いましょ」


「え? 本当に用はないのか?」


 普段なら用がある時以外は連絡してこない小織が今日に限って用もないのに連絡するとは思えなかった。


「ホントにないわよ……けど、強いて言えば教見の声を聞きにきたのが用──かしらね」


「へ? お、おう……」


 小織の予想外の答えにどう返せばいいか分からずつまらない反応をしてしまった後、お互い黙り込んでしまい軽く気まずくなる。


「──って、ちょっとっ! 冗談よ冗談! 真に受け過ぎっ!」


「月下の場合は声が全然冗談を言ってるようには思えないから困るぞ……」


「……まぁ声が聞けて嬉──かったのは──じゃないけど……」


 小織の声が何故か途中で籠ってしまって全てを聞き取る事が出来なかった為、津太郎は小織が何を伝えたかったのかよく分からなかった。


「ん? 雨のせいで電波が悪くなったか? 何か急に聞こえにくくなったぞ」


「フフッ、そうかもね──満足したし、じゃあ今度こそ本当に切るわよ」


「分かった。 じゃあ学校でな」


 津太郎がそう言うと小織側が電話を切ったらしく通話が終了する。

 コメント欄をひたすら眺めて溜まっていた精神的な疲れが小織と話した事で解消された気がする。


「……? そういや結局なんで俺に電話してきたんだ?」


 津太郎の場合、電波よりも勘が悪いのかもしれない。



   

   ◇ ◇ ◇



 

 今度こそ一階から赤いラベルに白い文字で商品名の書かれた黒い液体の炭酸飲料が入ったペットボトルを部屋にまで持ってきた。

 

 再びベッドに座ると津太郎は赤いキャップを炭酸が溢れないように丁寧に開け、容器に口に付けた後に軽く斜め上に顔を持ち上げる。

 

 すると容器の中にたっぷり入っている黒い液体が、津太郎の口から喉を通して砂糖がたっぷり詰まった唯一無二の味が身体全体に巡っていき、炭酸の心地よい刺激が顔全体に容赦なく襲い掛かってくる。

 

 中身が三分の二ぐらいまで減った所でお腹の中が水分と炭酸で張ってしまった為、飲むのを止めるとようやく一息つく。

 そしてカーテンを開けた窓から雨が降る外を眺めつつこれから何をしようか悩んでいたその時、またまたベッドに置かれてあるスマートフォンから着信音が鳴る。


「えぇ……今度は誰だよ」


 ベッドの上から覗き込むように液晶画面を確認したら『つじ 健斗けんと』と表示されていた。

 久しぶりにオンラインゲームのお誘いかと思ってとりあえず出てみる事にする。


「もしもし、どうし──」


「問題です! 人間の部位で一番硬い所はどーこだ!」


「は?」


 何の前置きもなく唐突にクイズを出してくる健斗に津太郎の頭は『?』状態であった。最初に出てくる言葉もこうなるのは無理もないだろう。


 しかし──


「……正解でーす! よく分かったなおい!」


「いやまだ俺は何も言ってねえぞ」


「さっき言ったじゃん。 『歯』って」


 偶然にも考えなしに口から出た言葉が正解だったが津太郎は特に嬉しくもなんともない。


「正解したご褒美にぃ! なんとぉ! 俺とゲームする権利をぉ──」


「切るぞ」


 相手するのが面倒くさくなり、そう言って津太郎は電話を本当に切ったがすぐに電話が鳴り始める──相手はやはり健斗だった。

 このまま無視してもしつこく電話掛けてきそうなので仕方なくもう一度出る。


「鬼! 悪魔! オーガデビル! 普通あのタイミングで切るかよ!」


「普通切るだろ」


「血も涙ねぇな!──まぁそんなことよりゲームしようぜゲーム! どうせ暇だろ?」


 暇なのは図星である為に否定は出来なかった。

 それに津太郎も昨日は流石にゲームをする気が起きず、丸一日以上遊んでいなかったのでリラックスするには丁度いいかもしれないと思った。


「あぁ、いいぜ。 この前もやったエイートナイトでいいか」


 『エイートナイト』とは三人一組のチームで他のプレイヤー数十人と戦い、最後の一組になるまで勝ち抜くのが目標のゲームである。

 日本だけでなく世界で今一番盛り上がっているゲームといっても過言ではなく津太郎も割とハマっている。


「OK! じゃあゲーム機を起動させるから電話切るぜ切るぜ~。 超切るぜ~」


 津太郎は健斗が切るのを確認すると自分も早速ベッドから降りてテレビとゲーム機が置いてある所まで移動し、安物の茶色い座椅子へ座り込む。


 ゲーム機を二つぐらいなら収納できる黒色を主体としたオープンタイプのテレビ台の一番上には三十二型の薄型テレビが置かれている。

 その下の段には正方形で厚みのある黒い箱の形をしたゲーム機が設置されていて、津太郎が起動をさせるとゲーム機のロゴが表記されている面の一部に、青く細い横長のラインが浮かび上がる。


 黒のヘッドフォンを装着し、フレンド登録している健斗がログインしているのが分かると早速エイートナイトを始めた。


──それから二時間後、なんやかんや二人で盛り上がってあっという間に時間が過ぎてしまう。

 先程の試合で優勝して一区切りついたのか津太郎は残っていたジュースを飲みながら雑談休憩をしていた。


「いやーさっきの試合のラスト! もう激アツだったな激アツ! 俺のラストシューティングが見事に敵の頭にシュゥゥゥーッ! 超ッ! エキサイティンッ! って感じでもう最高だったわ! ハッハッハ!」


 健斗はよほど嬉しかったのかいつもよりも更に饒舌に熱く語っている。


「ははっ、確かに最後はお前の手柄だったから何も言いようがねえや。 はー疲れた」


 津太郎も白熱した試合に興奮したのか普段よりもテンションが高い。


「フォッフォッフォ。 もっと褒めてくれたまえ」


「ワースゴイスゴイ──これでいいか? じゃあまたもう一試合──」


「ちょっ! 家のインターホン鳴ったからちょっと待ってくれ!」


 健斗が珍しく慌てた風な声を出すと既にヘッドフォンを外して離席したのか何も聞こえなくなっていた。


(まぁどうせすぐ戻ってくるだろ)


 津太郎はそう思ってのんびり待っていたら二分も経たずに再びヘッドフォンから健斗の声が聞こえ始める。


「ねんがんの しんさくゲームをてにいれたぞ!」


 どうやら先程インターホンを鳴らしたのは健斗が頼んでいた品物を持ってきた配達員の人らしい。


「え? 今日って何か発売されたか?」


 最近は色々な事が起きすぎてゲームの事から離れていた津太郎は新作ゲームの日付をあまり把握していなかったり忘れていたりした。


「バッカモーン! 今日は『Re:LV一から始めるありきたりな職業で世界最強へ成り上がり』の発売日じゃろがい!」


「これ今日発売だったのか……ってお前まさかそのゲームが届くまで暇だから俺を──」


「えっ?……うーん何のことかなぁ──アリーヴェデルチッ!」


「おいっ!」


 健斗はそう言った後、マイクのスイッチをOFFにした上にエイートナイトのチームから抜けていた。

 恐らく電話をしても無視するか既に電源を切っているかもしれない──が、津太郎も特にそこまで追求する気は無いのでやろうとはしなかった。


 一区切りついたという事でゲーム機の電源を切り、健斗が言っていた新作の公式サイトを開く。

 

 読み込みが完了すると画面全体に主人公と思われる高校生ぐらいの青年やヒロインの女の子、他に仲間らしき六人のイラストが表示されている。

 肝心のゲームタイトルはイラストの邪魔にならないよう一番下に書かれていて、隣に『NOW ON SALE』の文字がある。


「うわ、マジで発売してやがる」


 少々へこみながらもサイトを下へスクロールしていくと作品のあらすじが載っている。津太郎も既に知ってはいるが、数か月ぶりに読んでみる。


「あれ……もしかして俺──異世界へ飛ばされちゃいました!?」


 どこにでもいる平凡な高校生、伊瀬いせ 界人かいとは目が覚めるとそこに広がっていたのは見たことのない草原。

 辺りを見渡していると頭の中に誰かが語りかけてくる。


「選ばれし者よ、お主こそ滅亡に向かっているこの世界を救うに相応しい! さぁ勇気を出して旅立つのだ!」


「はぁ!? 意味わかんねぇよ!」


 こうして自分の意志とは関係なく異世界転移してしまった伊瀬 界人の冒険が始まる!


(そうそう、こんな感じだったな──ん? 異世界……転移……?)


 津太郎はあらすじの中の『異世界転移』という文字を見た瞬間、東仙一輝とうせん いっきの顔が思い浮かぶ。


(確か見た目も名前も日本人だったし、歳も俺とそんなには変わらなさそうだった──何かまんまこのゲームみたいだけど──いやまさか……ね)


 確固たる証拠もなく、創作の中の出来事が実際に起きるなんて流石に非現実的すぎると思った。


(せめてもう一回会えたらって……無理か。 何処かで見たなんて情報も全くないし)


 考えながら残っていた炭酸飲料を飲み干すも、最初と比べてスッキリした気にはならなかった。 

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